「起きてほしくない未来」を描く映画 岩井俊二×鈴木敏夫対談

東日本大震災の被災地である仙台出身の映画監督・岩井俊二の呼びかけで、「映画は世界に警鐘を鳴らし続ける」という映画特集が、日本映画専門チャンネルにて放送される。岩井が選んだ『生きものの記録』『日本沈没』『風が吹くとき』『ヒバクシャ HIBAKUSHA 世界の終わりに』『原子力戦争Lost Love』など、原発事故、原爆投下、地殻変動などの危機的状況をモチーフにした作品が1~2月に渡り放送される予定だ。震災を経たいま、これらの「警鐘を投げかけている作品」を観ると、これまでとは違った印象を受けるという岩井。このたび、岩井監督と、スタジオジブリを牽引してきた映画プロデューサーの鈴木敏夫による、対談番組収録時のトークを紹介する。ふたりは震災後に、過去の映画をどう解釈したのか。該博な知識に裏付けられたディープなトークをレポートする。

1970年代は、ものが自由に言えた時代(鈴木)

岩井:日本映画専門チャンネルで「映画は世界に警鐘を鳴らし続ける」という特集を組むことになりました。今回は黒澤明監督の映画『生きものの記録』などさまざまな作品を放映します。今回の作品ラインナップはいかがでしょうか?

鈴木:放映される作品の中で一番印象に残ったのは、『生きものの記録』ですね。震災後に改めて観ると、以前にくらべて「受け取る印象がこうも違うのか」と思いましたし、すごくリアリティがあった。黒澤っていう人は面白いなと、つくづく思いましたね。

岩井:確か『七人の侍』の翌年に製作され、脚本陣も同じチームで自信を持って作ったそうですが、お客さんは全然入らなかったそうですよ。

鈴木:たぶんそうでしょうね、三船敏郎は良かったけれど(笑)。メークアップも撮影も漫画っぽくしてあったりするけれど、今観ると言いたいこともはっきりしているからすごくリアリティがあって。多くの人に、今観てほしい作品です。

『生きものの記録』スチール ©1955 TOHO CO.,LTD.
『生きものの記録』スチール ©1955 TOHO CO.,LTD.

岩井:三船敏郎の芝居も黒澤作品の中では突出していて、『生きる』の志村喬もすごいですが、同じ老人でも全然違う。クライマックスなんて『乱』の仲代達矢を彷彿とさせる芝居を見せますよね。

鈴木:本来、黒澤監督は活劇ものやアクションものが得意ですが、突然に『羅生門』『わが青春に悔なし』のような毛色の違ったものを挟んでくる。例えば『羅生門』以前の映画は、ひたむきで一途な主人公がどのように成長していくのかを基本的に描いていたはずなのに、海外で賞をとってからは、本来得意だったモチーフに何か異質なものを混ぜて作るようになって。『生きものの記録』もその中の一本だったのかと思い知らされました。しかし、放射能を題材にした映画っていろいろあるんですね、今回の企画に触れて初めて知りました。

鈴木敏夫
鈴木敏夫

岩井:特に田原総一朗さん原作の映画『原子力戦争Lost Love』というのは、原子力村について真っ向から突っ込んで作られたものだと思いますが、1970年代は現代に比べて、起こった事件・事故などを映画化するときに、タブー感みたいなものはなかったのでしょうか?

鈴木:現代に比べると表現の自由があったと思います。例えば高倉健主演で『山口組三代目』という映画が1973年に製作されましたが、モデルは当時の現役の山口組組長・田岡一雄で、彼の自伝を映画化したわけです。新聞などでは公序良俗に反するのではないかと大騒ぎになりましたが、結局映画は製作され、公開直前には「話題騒然!」なんて新聞広告が出たりして(笑)。そう考えると、当時はあまりタブーがなかったのではないかと思うし、今に比べると自由にものが言えた時代だったんだと思います。『原子力戦争Lost Love』も実にストレートで、映画が政治的武器になるというか、ひとつの機能としてそういった側面があるということを理解しているように思いますし、それに乗っ取って作られたような作品ですね。

3.11以降に自分の中で反省があった(岩井)

鈴木:震災を扱った岩井さんのドキュメンタリー『friends after 3.11』ではいろいろな人が発言をされていますね。僕らも『コクリコ坂から』を持って、宮崎駿と僕と庵野秀明さん、ニコニコ動画の川上量生さんと一緒に、仙台の気仙沼から大船と陸前高田の方をまわったんですが、「大変なことが起きたな」と思いました。岩井さんご自身、仙台出身ということもありますが、この作品を作ろうと思ったのは、岩井さんが無関心ではいられなかったからですよね?

岩井:ただ、5月3日に個人的に被災地へ行ったときカメラは回していましたが、その素材を使って何かを作ろうとは、その時点ではまったく思えなかったんです。しかし徐々に原発を無視して作家活動をやっていることに対して我慢ができなくなってきて、原発反対という立場から、自分にとって分かることを表現しようと思っただけなんですね。

鈴木:なるほど。

岩井:これは今回の番組テーマにもつながる話ですが、これまで映画界は「未来に起きてしまったら嫌だと思うもの」を作ってきましたよね。『風の谷のナウシカ』もそうですし、『ゴジラ』は第五福竜丸の影響がある中で、原爆がなくなってほしいという思いのもとに作られたと思います。しかしそれは徐々にエンターテインメントの波に飲み込まれてしまって、シリーズを重ねるごとに本来の要素が薄まってしまってきた。

鈴木:エンターテインメント要素が強くなってね(笑)。

岩井:ですから僕らの世代では、「核戦争後の未来」などをひとつの場面設定として利用しているだけで、前提である本来のメッセージを忘れて作っているのではないかと、3.11以降に自分の中で反省が生まれたんです。こういう状況になったときに、そうした場面設定を利用して映画を作ってきた立場として、沈黙してしまえば「ただ利用してきただけ」というスタンスになってしまう。こんなときだからこそ、誤魔化さずストレートに、自分の思っていることを言うべきなのではないかと考えたんです。

岩井俊二
岩井俊二

80パーセントの人が原発の安全を信じていた(鈴木)

鈴木:ラインナップの中にある『風が吹くとき』を、僕は約40年ぶりに改めて観ました。僕がアニメーション雑誌『アニメージュ』をやっていたときに、配給会社からこの作品を扱ってくれないかと言われたことがあって拝見し、それがきっかけで「原発を扱ってみよう」と思ったんです。当時は評論家の広瀬隆さんが「原発が怖い」と言い始めたくらいでしたが、大々的にやってみようと考えました。まずは、原発がどこにどのように作られているのか、その本質とはいったい何なのかを調べました。また、『アニメージュ』は中高生が読む雑誌なので、評論家の鎌田慧さんと中学生3人くらいを集めて、原発とは何か、日本にどれほど設置されているのか、原発の長所や短所などについての座談会もしました。会社の上層部からは、政治的問題に首を突っ込むなと言われたけれど、その号がものすごく売れたんです。大衆紙が原発を扱うことはタブーだったけれど、それに先んじてやったら、とても読者の興味を惹くものだったわけですね。

岩井:原発について座談会をした中学生は、重い気持ちのまま家に帰ったんでしょうね(笑)。

『風が吹くとき』スチール ©Channel Four Television Corporation 2001
『風が吹くとき』スチール ©Channel Four Television Corporation 2001

鈴木:僕としては原発に対して「こんな危険なものは良くないし、それを推進するべきではない」と当時から思っていました。去年の夏くらいのことですが、実は福島の原発の中にトトロのお店があったんですよ。これは僕の不徳のいたすところで全然知らずにいて、即刻撤去するように話し合いを持ちました。揉めに揉めた末にお店を撤去させると、そのことを朝日新聞が反対でも賛成でもない姿勢で、社会面で取り上げたんです。するとスタジオジブリに「原発は安全だ」、「東京の電力がどこから供給されているか知らないのか?」といった抗議がたくさんあって、一時期大変だったんですよ。

岩井:そんなことがあったとは知りませんでした。震災前は、原発の安全を信じている人がそれだけいたということですか?

鈴木:調査をすると、80パーセントの人が原発の安全を信じていましたよ。僕は逆に反対派が80パーセントはいると思い込んでいたんですが。そういったこともありましたから、どこかで原発問題は自分とは無関係ではないと感じていたし、いつか嫌なことが起きるのではないかという思いが強くありました。それが予想以上に早く来た。

岩井:危険は承知でも、今すぐに訪れることはない、と距離を置いていたというのならば分かりますが、原発の安全を信じている人がそこまでいたということには驚きました。

鈴木:うちの社内の人間にもいましたよ。やっぱり、時間ってすごいですよね。いろんな記憶を風化させてしまい、原発が安全だと思うようになってしまうんですから。

岩井:アニメに携わっている人は、だいたい原発安全神話を信じていなくて、『AKIRA』的な終末世界を迎えさせるものだと信じている人が多いのかと思っていました(笑)。

自分たちの見てきた景色が一掃されることなんてなかった(岩井)

鈴木:メッセージ性というところでは、『空飛ぶゆうれい船』は久しぶりに観てビックリした作品です。前に観た時は少年の活劇ものとしか捉えておらず、設定の方をあまり聞いていなかったんですね。でも今回改めて観たときに、セリフの中でとんでもないことを言っていることに気づかされました。

岩井:僕も思っていた以上にメッセージ性が強くて驚かされました。子どもが聞いても分からない内容ですし、現在のいろいろな物事をさりげなく言い当てていますよね。「踊らされる消費者」という構図には、あの時代(映画は1969年公開)ならではのメッセージが強く込められていたのかもしれませんね。

鈴木敏夫と岩井俊二

鈴木:池田宏監督とは親しいんですが、今まで『空飛ぶゆうれい船』について語り合うことがなかったので、今度会ったらきちんと話そうと思います。震災後の視点で見ると、面白い作品ってたくさんありますね。

岩井:『日本沈没』もそうで、3.11以降に観ると後半部分には「日本はこれからどうなるのか」というテーマが切実に描かれていると思ったし、思想的にも哲学的にも考えさせられる内容ですよね。いわゆるパニック映画とはちょっと違うテイストで。しかも「御用学者」なんて言葉も登場しているし、真実をぼかして報道するメディアに対する批判もある。

驚くのは、映画と同じ状況になったとき、現実は映画をそのままなぞっているかのように見えることです。現実に起こる前は、映画で描かれるようなことにはならないと思っているけれど、そうではない。僕らの世代は戦争もなかったし、映画で描かれてきたような、自分たちが暮らしていた景色が一掃されるようなことなどなかったわけです。しかし震災によって、部分的ではあるけれど日本で実際にそれが起きました。放射能汚染が、よりによって僕たちの国で起きたわけです。今回放送されるラインナップは、震災前に観るとピンとこなかった作品もありますよね。『生きものの記録』なんて、出てくるセリフの単語のひとつひとつが、震災後に耳にする言葉だったりしますし。

『日本沈没』スチール ©東宝
『日本沈没』スチール ©東宝

鈴木:黒澤監督は、関東大震災を目の当たりにしているそうなんですね。たくさんの瓦礫と人の死が自分の記憶の底に残った、と著書に書いていて、そういう意味でも戦争や核の問題に対して敏感だったんでしょう。昔観たときは、『生きものの記録』はむしろ「喜劇映画かよ」っていう印象でしたが、震災を経ることによって、黒澤監督が作品に込めた考えが、やっと伝わってきたような気がしています。

番組情報
日本映画専門チャンネル×岩井俊二映画祭
『映画は世界に警鐘を鳴らし続ける』

2012年1月5日(木)から2月23日(木)毎週木曜日23:00から放送

1月放送作品
『生きものの記録』
『日本沈没』
『風が吹くとき』
『ヒバクシャ HIBAKUSHA 世界の終わりに』
『特別番組「岩井俊二×鈴木敏夫 特別対談(仮)」』
2月放送作品
『夢』
『空飛ぶゆうれい船』
『六ヶ所村ラプソディー』
『原子力戦争 Lost Love』
『特別番組「岩井俊二×坂本龍一 特別対談(仮)」』

プロフィール
岩井俊二

1963年生まれ。宮城県仙台市出身。1988年より、音楽ビデオとCATVの仕事からスタート。1993年、テレビドラマ『ifもしも~打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で日本映画監督協会新人賞を映画監督デビュー前に受賞。その後映画へ進出し、1995年に『Love Letter』、1996年には長篇第2作目として、架空都市「円都」(イェンタウン)を舞台にしたサクセスストーリー『スワロウテイル』を発表。2001年には、2000年4月から7月にかけてインターネット上で、BBS(電子掲示板)のスタイルを使い、一般の人たちの対話の中から物語を展開していくインターネット小説『リリイ・シュシュのすべて』を自ら映画化。2003年ショートフィルム『花とアリス』をインターネット上で発表し翌年には長編映画『花とアリス』を劇場公開。2011年10月には東日本大震災を題材に、著名人のインタビューで構成したドキュメンタリー『friends after 3.11』を発表した。

鈴木敏夫

1948年生まれ。愛知県名古屋市出身。1972年に徳間書店に入社し、記者として「週刊アサヒ芸能」で執筆。児童少年編集部配属後に画期的なアニメ専門誌『アニメージュ』を創刊する。このとき宮崎駿と出会い、後に宮崎、高畑勲とアニメーション制作会社スタジオジブリを設立する。映画『おもひでぽろぽろ』『もののけ姫』など数々のヒット作をプロデュースし、映画『千と千尋の神隠し』は第75回アカデミー賞最優秀長編アニメ映画賞を受賞。2000年には『新世紀エヴァンゲリオン』などで知られる庵野秀明監督、岩井主演の実写映画『式日』を製作した。これまで鈴木が発表した文章や対談をまとめたドキュメントエッセイ『ジブリの哲学 変わるものと変わらないもの』が発売中。



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