破天荒で真面目な面白ガール bómiインタビュー

海外のインディロック/エレクトロポップに通じる、カラフルでキャッチーな楽曲を詰め込んだミニアルバム『Gyao! Gyappy!! Gyapping!!!』で昨年より活動をスタートさせた期待の新星、bómi。しかし、彼女はつい一昨年前まで本名の「宝美」名義で活動し、シンプルで力強いメロディに乗せて、自らの悲しみや寂しさを歌っていた。その姿は、現在の彼女からはとても想像できないものだったと言っていいだろう。果たして、この1年で彼女に何が起こったのか? 前作からの連作のような意味合いのあるミニアルバム『OH MY POOKY!!!』の発表に合わせ、彼女にその変化の経緯と、現在のスタンスについてじっくりと話をしてもらった。そこから見えたのは、自分の感情をそのまま吐き出していた1人の少女が、それを表現として昇華する道を選び取るまでの、とても軽やかな成長の物語だった。

「この寂しさみたいなものは歌にしなくても、みんなが持ってるものだ」って思ったんです。

― bómiさんは以前「宝美」という名義で活動されていて、その頃は「私を必要として!」と訴える音楽だったそうですね。そこから、どのように今のbómiへと変わっていったのでしょう?

bómi:「いつまでも尾崎豊じゃいられない」みたいな感じが近いと思うんですけど、当時の叫びって、10〜20年って持続するものではなかったと思うんです。どこかで無理が生じるというか、嘘が生まれてきちゃうと思って。もちろん、そのときは自分の中に切実な思いがあったんだと思うんですけど、それを人前で歌っていくうちに、寂しさとかが消化されていったんですね。最終的には、「この寂しさみたいなものは歌にしなくても、みんなが持ってるものだ」って思ったんです。だったら、もっと楽しいことがしたいなって思ったのが、bómiを始めるきっかけですね。

―今振り返ると、当時はどうして「宝美」としての表現が必要だったんだと思いますか?

bómi:難しい質問ですね…ただそれを訴えたかったんじゃないですか? 自分は人間ってだけで全然何者でもないんですけど、「何者かだ」って自分を確かにしたい時期で、それが極端な形で出たのが以前の自分の音楽だったのかなって。

bómi
bómi

―アメリカ生まれの日本育ちで、ご両親が韓国の方という出自による、アイデンティティの揺らぎみたいなものがあったのでしょうか?

bómi:埋まらない寂しさみたいなものはあったんだと思うんですけど、今思うと何ってわけじゃないんですよね。幸せな家庭に育ったら幸せな人かっていうとそれも違うと思うし、別に誰でも同じだなって。だったら、悲しいことを「悲しい」って表現するよりも、それをどれだけプラスに転換できるか考えて…よりひねた方向に行ったというか(笑)。悲しいことを「悲しい」と言わずにどう表現するかって、表現の本質的な部分だと思うんですよね。

―でも、それまでの「宝美」を好きでいてくれる人もたくさんいたでしょうから、そこを大きく切り替えるっていうのはやっぱり不安や迷いもあったと思うんですけど。

bómi:ありましたね。「宝美」として2年間ぐらいライブ活動をしてて、そのときの音源をせめてライブに来てる人だけにでもあげたいと思ったんですけど、結局いろんな都合で出せなかったんです。でも、だったら前転びに、もし離れていく人がいたとしてもそれはそれで仕方ないって思うようにして。新しいことをやるんだったら、しっかりやり切った方がいいなって。

―どっちつかずになるよりは。

bómi:そうそう。それに、プロデューサーのwtfと出会って、曲を聴いたときに、直感的に「あ、いいかも」って思ったんです。だから、紹介されてすぐに「一緒にやりたい」って話になって。

―即決だったんですね。

bómi:結構ノリで決まったんです(笑)。でも、「(真顔で)やります!」とかいうんじゃなくて、「楽しいことやんない?」「あ、いいですよ」で始められた感じがいいなと思って。その気軽な感じは忘れないでいたい感覚です。

2/3ページ:どうしても主義・主張を追いがちだけど、もっとそういうのを取っ払って、ただ楽しいだけでいいんじゃないかって。

どこか連作をイメージして最初から作っていたので、つなげて一緒に聴いてもらえたら、それが一番嬉しいですね。

―音楽性も以前とはガラリと変わりましたが、元々海外のインディロックとかってお好きだったんですか?

bómi:いや、ロックは全く聴いて育ってないんです。wtfとやることになって、「こういう感じ面白そうじゃない?」ってCSSの曲が送られてきて、「あ、こんなロックがあるんだ」って初めて知って。私の中のロックのイメージって、レッチリみたいな、筋肉ムキムキの感じだったから、私には無理かなって思ってたんですけど(笑)。でも、やるんだったら知らないことの方が面白そうだと思って、そこからインディロックをたくさん聴くようになったのは、ホントこの1年ですね。

―元々の音楽のルーツはどのあたりなんですか?

bómi:私の世代で小学校のときに聴いてたのって、SPEEDさんだったり、テレビにでていてキラキラしている人でした。「マーヴィン・ゲイが家で流れてました」とか、本当は言いたいんですけど(笑)。でも、大学生ぐらいになるとFAIRGROUND ATTRACTIONとかジョニ・ミッチェル、ニール・ヤングとかを聴くようになりました。ニール・ヤングが全く無言で、1人でギターを弾き語ってる映像に心酔して、私もそうなりたいと思ったから、ライブを始めて半年ぐらいはMCを全くしてなかったんです(笑)。

―それをニール・ヤングだと思う人はいなかったでしょうね(笑)。

bómi:すんごい緊張感でしたよ(笑)。

―じゃあ、wtfさんと出会って、ホント新しい世界が開けたって感じなんですね。

bómi:私の声質とか元々の性格をすごく引き出してくれたっていうか、前はちょっと自分の本来の感じと離れてる部分があったんですけど、今はすごく近くて、そういう意味でもやりやすいですね。9割5分はポカンと明るい感じなんです。前は残りの5分を音楽としてやってきたんですけど、wtfと出会ってからは、作る曲もどんどん明るくなってきていると思います。

―じゃあ、急に切り替わったというよりは、徐々に本来の自分に近づいてきているわけですね。でも、今の音楽性は昔と違ってカラフルでポップなんだけど、サビのメロディはすごくきれいだったりして、そういう部分は以前までと地続きな部分なのかなって。

bómi:そうですね。トラックはwtfが作ってるんですけど、サビとかは私が書き換えたりもしてます。私はインディロックのメロディは1個も思い浮かばないんですけど、キャッチーな鼻歌とかはバンバン浮かぶので、それを上手く混ぜたらよりキャッチーな曲になるんじゃないかなって。

―基本はwtfさんが作るけど、すごくフレキシブルに作ってるわけですね。

bómi:“Willy Wonka”とかも一緒に作ってて、wtfが何となく弾いて捨ててたフレーズを拾って、そこから広げて「ゆるいラップみたいな曲にしよう」とか。

―“Willy Wonka”みたいな曲が入ることですごく幅が広がってて、『Gyao! Gyappy!! Gyapping!!!』と『OH MY POOKY!!!』の10曲でフルアルバムみたいなボリュームがありますね。

bómi:嬉しいです! どこか連作をイメージして最初から作っていたので、つなげて一緒に聴いてもらえたら、それが一番嬉しいですね。

どうしても主義・主張を追いがちだけど、もっとそういうのを取っ払って、ただ楽しいだけでいいんじゃないかって。

―歌詞を書くにあたっての今のポイントはどんな部分ですか?

bómi"

bómi:そうですね、例えば相対性理論を聴いて面白いと思ったのは、感動的な歌詞をつけたからどうこうっていうよりも、1行の共感性が重要なんだなって。1つあげるなら、前のアルバムに入ってる“泣きっ面リリー”って曲の「タイ米 腹いっぱい 食べたいな」とか、そういう1行の共感性、言葉のポップさとかキャッチーさは意識してますね。だから、あんまり意味を追って、感動大曲にしようとは思ってないんです。


―ああ、その感じよくわかります。最近歌詞で悩んでいるアーティストも多くて、インタビューでも悩み相談みたいになってるのをよく見るけど、「音楽ってもっと楽しいものじゃない?」っていうことを指摘する人もいて。さっき「ノリで始めたってくらいがいいな」って話もありましたけど、そういうのがむしろ大事なんじゃないかって思います。

bómi:まさにそれです! 子供のとき初めて楽器を触って、「音が出た! 楽しい!」みたいな、そういうのが音楽の根本なんだと思うんですよね。どうしても主義・主張を追いがちだけど、もっとそういうのを取っ払って、ただ楽しいだけでいいんじゃないかって。ホントはそれが上手く体現できればよくて、言葉にすると熱が逃げちゃう部分もあるんですよね。だから、インタビューもこんな真面目に答えない方がいいんじゃないかって最近思ったりもするんですけど、根が真面目なんで、どうしても真面目に答えちゃうんですよ(笑)。

bómi

―そこは真面目な部分と、ゆるい部分と、上手く切り替えてもらえると嬉しいかな(笑)。

bómi:奥田民生さんのインタビューとか読んでると、適当過ぎて笑えるじゃないですか? まあ、自分と違うことやっても仕方ないし…いいんです。真面目なんです、私(笑)。

―でも“麹町のスネーク”とかやっぱり面白いなって思いましたよ。さっき言ってた、1行の共感性すごくあるし。

bómi:ホントですか? 嬉しいです! それこそノリで作った曲だから、すごいエッジーっていうか、下手すると嫌われそうなぐらいの曲なんですけど、これぐらいやってやっと人が面白いっていってくれるんだとも思って、それはびっくりですね。

―自分の中では振り切ってやったつもりでも、意外とすんなり受け入れられちゃったって話はよく聞きますからね。

bómi:この曲は実際自分がOLになったらみたいな感じで、「麹町勤めの干物女子OL」 をテーマにしているんですけど、私が干物女子なんです(笑)。でも女の人はみんなそうだと思うんですよ。外で超バリバリきれいな人でも、多分家ではジャージだと思うので、そういう意味でも共感性高いんじゃないかと思ってて…反感買うか、共感高いか、どっちかだと思います(笑)。

―一方で“Mu・Zi・Q”とか、前作の“Voyage”とかの歌詞を見ると、最初の方に言っていた自分を探してる感じっていうのは今もあるのかなって思うんですよね。

bómi:根底の部分では絶対あると思います。アウトプットの仕方はだいぶ変わってきましたけど、奥の奥の奥にある感情っていうのはきっと変わらないんでしょうね。でも、やっぱりそれはみんな持ってるものだと思うんです。人間って誰かと完全に同じにはなれないし、100%の共有はできないから、その孤独は絶対ありますよね。だからこそ面白いんだけど、でも寂しいみたいな、それはずっと続くんだろうなって。

3/3ページ:客観の人、確かに私の中にいますね。この人がいなくなったら、私はどれだけ楽かっていつも思うんです。

客観の人、確かに私の中にいますね。この人がいなくなったら、私はどれだけ楽かっていつも思うんです。

― bómiさんは最近ではアーティストとしてモデルをやられたり、グッズのデザインをされたり、音楽以外の活動も色々されていますが、今後もいろんなことにチャレンジしていきたいとお考えですか?

bómi:正直特には考えてないんですけど、誘っていただければ。最終的にたどり着く先が音楽なら、それ以外で間口を広げるのは何でもいいと思ってるので、「私でよければ」ってやらせてもらっている感じですね。だから、すごく楽しいんですよ。音楽は現実的に向き合うことがたくさんあるから、楽しくないこともあったりするんですけど、モデルとかはホントにただ楽しい(笑)。

―音楽が核にあるっていうのは前提で、その上だったらなんでもいいと。

bómi:最終的に「この人、歌ってるんだ」ってなって、音楽に来たときに、ちゃんと芯のある、かっこいいことをやっていれば、みんな聴いてくれるようになるんじゃないかなって。「どうやったら自分の曲をたくさんの人が聴いてくれるのかな」っていうところから発想が始まってるんです。

―その考え方ってすごく大事で、今ってやっぱり自己プロデュース能力のある人が活躍してる時代だと思うんですね。その点bómiさんは、音にしろ言葉にしろ、「どう見られているか」「どう見せるか」っていうのを客観的に見てる人だなって、今日話していて思いました。

bómi"

bómi:客観の人、確かに私の中にいますね。それが真面目さを引っ張ってくる人なんですけど、この人がいなくなったら、私はどれだけ楽かっていつも思うんです。海外の人とかホント適当な人が多いから、超楽しそうだなって。


―でも、結果を出してる人は真面目な部分も絶対持ってると思いますよ。あとは切り替えで、普段はめっちゃ適当でも、ここぞっていうときは一気に集中するっていう。

bómi:ライブだと一線を越えられるんですよね。それは自分の中でアドレナリンがブワーって出るときなんですけど。自分が最近好んで行くライブはアドレナリンを引き出してくれるようなライブで、向こうも出てるし、こっちも出る、あのエネルギーってハンパないと思って。自分もそういうライブをしたいと思ってて、のっけからパーンって行けると楽なんですけど、まだちょっと緊張しちゃうところはありますね(笑)。

―そこはお客さんとの関係性もありますよね。自分が解放すれば、きっとお客さんも解放してくれるっていう。

bómi:そうなんですよね、ホントにそう。自分がまず開かないとお客さんは開いてくれないですよね。最近はちょこちょこきてる実感があるので、それをもっと広げていきたいですね。

―では最後に、2012年の展望を聞かせてください。

bómi:今年は色んなことに挑戦していく年なんだと思うんですけど…とにかく来たことを楽しむ、どんなことが来ても楽しんでやろうと思います。この間シンディ・ローパーの“Girls Just Want to Have Fun”をひさびさに聴いたんですけど、まさにそんな感じなんですよね(笑)。

bómi

リリース情報
bómi
『OH MY POOKY!!!』

2012年2月8日からタワーレコード、ライブ会場限定発売
価格:1,050円(税込)
TWCP-17

1. iYo-Yo
2. 麹町のスネーク
3. PPP…
4. Mu・Zi・Q
5. Willy Wonka

イベント情報
『「OH MY POOKY!!!」Release Party 〜OH MY DANCING MEEEEEN!!!〜』

2012年2月10日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 CHELSEA HOTEL
出演:
bómi
QUATTRO
The Flickers
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

プロフィール
bómi

ハロー まいどー アニョハセヨ〜。1987年、アメリカ生まれ、大阪育ちのK系ガール。早大中退。デモ音源をMySpaceにて公開したところわずか1年間で10万アクセスを突破し話題に。2011年、新鋭プロデューサー"wtf"と出会い、bomi始動。両者の起こす超キケンな化学反応は、ただの「はなうた」をブッ飛びのロックンロールに昇華させる。2011年7月6日にはTOWER RECORDS限定ミニアルバム『Gyao!Gyappy!!Gyapping!!!』をリリース。2012年2月8日にはTOWER RECORDS限定ミニアルバム『OH MY POOKY!!!』をリリースし、2月10日(金)にリリースパーティーを渋谷CHELSEA HOTELで開催。ガーリーロックのニューフェイスに要注目!



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 破天荒で真面目な面白ガール bómiインタビュー

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて