『F/T』はなぜ大変革した? 芸術祭と行政の舞台裏を探る

日本最大の舞台芸術の祭典『フェスティバル/トーキョー』(以下『F/T』)が、今秋も11月1日から開催される。今年から大々的なリニューアルを行い、ビジュアルやラインナップのみならず、フェスティバルを運営するディレクターも一新。『F/T』の立ち上げから5年間にわたって、独自のコンセプトによるプログラムを作り続けてきた相馬千秋プログラムディレクター体制から、ディレクターズコミッティという集団体制に変更。その代表として就任したのが、ベテランプロデューサーの市村作知雄だ。

舞踏カンパニー「山海塾」の制作としてキャリアを開始し、世界でのアートのあり方を研究してきた市村。また、1998年からは『F/T』の前身となる『東京国際芸術祭』のディレクターとして、世界中のアバンギャルドな舞台作品を日本に紹介。近年も韓国最大の「多元芸術」の祭典『Festival Bo:m』の日本初上陸をサポートするなど、過去から現在にわたって最先端の舞台芸術シーンを作り上げてきた人物だ。

一見、これまでの相馬プログラムディレクターによる、ヨーロッパスタイルの「大統領制」から、ベテランを代表としたディレクターズコミッティという集団体制への変化は、フェスティバルの「退化」にも受け取られかねないものである。しかし、そこには日本における舞台芸術やアートシーンの未来を見据えたラジカルな哲学が潜んでいた。『東京オリンピック』の開催が決定し、行政から割り当てられる文化予算が拡充されようとしている今、芸術はどのように社会と関係を結べばいいのだろうか? 市村との対話は、リニューアルした『F/T』の葛藤から、アートと政治の関係を見据えたディープな社会論へと発展していった。

30人30通りの答えがあることを「多様性」と呼ぶことがありますが、それはただの相対主義にすぎません。30人それぞれが違う意見をぶつけ合い、別の何かが生まれることが多様性の良いところなんです。

―まず、やはり最初に聞かなければいけないと思うのですが、今年の『F/T14』では大幅なリニューアルが行われました。演劇・アート界の一部では、さまざまな憶測も飛び交うくらいの事件でもあったわけですが、いったい、なぜこのタイミングで大幅なリニューアルが行われたのでしょうか?

市村:まず、制度面での大きな変化として、今年から東京都が主催から外れました。これまでは『F/T』の運営において、こちらも行政の立場を考えなければならず、彼らも行政としての立場を守らなければなりませんでした。東京都もこの状況に気を使ってくれて、なるべく口を出さずに済む方法を考えてくれたのが、主催の立場を降りるということ。その代わり、東京都の文化に関する基本方針を定め、また芸術への助成事業を行う機関「アーツカウンシル東京」を通じて助成を受けています。

『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』 総合ディレクション:大友良英・プロジェクトFUKUSHIMA! ©地引雄一
『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』 総合ディレクション:大友良英・プロジェクトFUKUSHIMA! ©地引雄一

―東京都としては、「お金を出すが、口は出さない」というスタンスになった。つまり、フェスティバルとしては一人立ちして、より自由度が増したということですね。では、なぜそこで『F/T』の立ち上げ当初からプログラムディレクターを務めた相馬千秋さんからディレクターズコミッティという集団体制に移行して、さらに大ベテランの市村さんが代表に就任したのでしょうか?

市村:ディレクターズコミッティを形成したとはいえ、今年のプログラムは結果的にほとんど僕が組んでいます(苦笑)。昨年の10月頃からプログラムを組み始めなければいけないのですが、まさに『F/T13』の開催時期。結局、僕一人で進めるしかない状況でした。昨年の『F/T13』が終わった段階で、一人のディレクターが意思決定するシステムについての是非や、世代交代をさせたいという自分の意向について内部で話し合いを持ちました。そこで、今年からディレクターズコミッティという組織を作ることで、このコミッティにさらに若い人を引きこもうと決めたんです。

―コミッティは言わば「若手育成の場」ということでしょうか?

市村:それが理由の1つです。もう1つは、多様な人間が集まっている社会を前提として、ディレクターがどういう存在であるべきかを再考するというものでした。ヨーロッパのフェスティバルでは、1人のディレクターとドラマトゥルク(美術・文学などの専門知識から、演出家をサポートする役職)が並ぶやり方が一般的です。僕はずっとドラマトゥルクという役職を日本で確立させる仕事をしてきましたが、『F/T14』からはディレクターとサポート役のドラマトゥルクというやり方ではなく、ディレクターズコミッティ全員が決定権を握るかたちにしたんです。でも、そんなことがはたして上手く機能するのか? 誰もが疑問に思いますよね。

『透明な隣人 ~8 -エイト-によせて~』 作・演出:西尾佳織 ©宮田篤
『透明な隣人 ~8 -エイト-によせて~』 作・演出:西尾佳織 ©宮田篤

―「みんなで決定する」というと、責任の所在が曖昧になって上手く機能しないような印象があります。

市村:けれども、ポストモダンの時代においては、1人の人間に責任や決定権を集約させて物事を決めていくことに、疑問が生じ始めているとも思います。多少時間がかかっても、それぞれの意見を出し合い、対立したら話し合うという方法もある。また決定にあたっては多数決ではなく、とことん議論して決定します。この方法が上手くいけば、1人のディレクターよりも絶対に面白いものが生まれると思っています。

―目指すのは、「1+1」が3にも4にもなっていくシステム、ということですね。しかし、これまで『F/T』が推し進めてきたヨーロッパのスタンダードであるディレクター制から、共同ディレクター制への移行は、良くも悪くも「日本的なシステム」へと逆戻りしているように見えなくもありません。

市村:合議することが「日本的」なのではありません。むしろ、それが成立していないのが悪しき「日本的」ではないかと思います。ネゴシエーションによって事前に結論が出ていて、それを承認するための会議だから、意見をぶつけあうことがない。いくら何でもそんな合議はやりたくはありません。日本に比べて、ヨーロッパはエリート社会です。エリート教育を施された人々に社会を任せようという発想だから、ディレクター制が通用する。けれども、日本はエリート社会を作り上げてきたわけじゃありません。この日本の特色を活かせないかと考えて、今回の体制に至りました。

市村作知雄
市村作知雄

―エリート社会ではないからこその、多様性を活かしたいということでしょうか。

市村:「多様性」というのも誤解されている部分が多い言葉です。たとえば学校で、30人30通りの答えがあることを「多様性」と呼ぶことがありますが、それはただの相対主義にすぎません。30人それぞれが違う意見をぶつけ合い、別の何かが生まれることが多様性の良いところなんです。

―つまり、ディレクターズコミッティは、最大公約数を探るためのものではなく、ある意味「日本なもの作りのあり方を再考しよう」という意味を含んでいるのですね。

市村:急激にハンドルを切ることは、1人のディレクターによる体制が向いています。僕は『F/T』が始まった当初、ディレクター制を無理矢理でも日本に作って「相馬千秋をプログラムディレクターにします」と宣言しました。日本社会的な「誰が決めているのかわからない」状況はとても良くないと思っており、当時はそれで良かったんです。しかし、5年間やってきて、だんだん時代も変化していきますし、ずっと同じ体制でやっていれば軋轢も出てくる。理想的な組織というのはありませんから、そのときに合わせて変えていけばいいんです。

1人の個性が作品として展開されることが当たり前だとされてきましたが、これは歴史的に見ても近年200年くらいのもの。近代的な個人という概念が発生してからの話であって、普遍的なものではありません。

―市村さんがディレクターとしてフェスティバルを開催するのは、2008年まで開催されていた『F/T』の前身となる『東京国際芸術祭』以来になります。結果的にではありますが、久しぶりにディレクションを行った感想はいかがでしたか?

市村:この5年間に、ずっとやりたいことをためていたんです(笑)。今回はそのためていたことを、一気に放出したという感じですね。

『羅生門|藪の中』(アーティスティックディレクター:ジョージ・イブラヒム、演出:坂田ゆかり、美術:目、ドラマトゥルク:長島確) ©目
『羅生門|藪の中』(アーティスティックディレクター:ジョージ・イブラヒム、演出:坂田ゆかり、美術:目、ドラマトゥルク:長島確) ©目

―具体的にどのような部分が「やりたいこと」だったのでしょうか?

市村:今年は『春の祭典』(演出・振付:白神ももこ、美術:毛利悠子、音楽:宮内康乃)、『羅生門|藪の中』(アーティスティックディレクター:ジョージ・イブラヒム、演出:坂田ゆかり、美術:目、ドラマトゥルク:長島確)、『動物紳士』(振付・出演:森川弘和、美術・衣裳デザイン:杉山至)といった作品で、劇作家・振付家とともに、美術家、音楽家、ドラマトゥルクのクレジットを並列に入れています。つまりこれも、これまでの作品制作のように、1人のアーティストによるトップダウンの作り方から距離を置くという意味なんです。たとえば『春の祭典』なら、演出・振付家の白神ももこさんだけでなく、美術家の毛利悠子さんもコンセプトの段階から一緒に入って作っています。

―白神さんは振付家として、『横浜トリエンナーレ2008』で作品を発表していますし、毛利さんは美術家として、世界的なメディアアートの祭典『アルス・エレクトロニカ』で受賞するなど、二人ともそれぞれの分野で注目を浴びているアーティストです。あえて彼女たちをコラボレーションさせた作品作りに市村さんが期待しているのは、どういった部分なんでしょうか。

市村:これまでの芸術の世界では、振付家や演出家、美術家、指揮者など、1人の個性や表現が作品として展開されることが当たり前だとされてきましたが、これは歴史的に見ても近年200年くらいのもの。近代的な個人という概念が発生してからの話であって、普遍的なものではありません。今回、実験的な方法論をとることによって、未来の創作方法がこうなっていけば、という方向性を示せればと思います。『春の祭典』は、ダンスから見れば白神さんの作品、美術から見れば毛利さんの作品というようになれば理想ですね。ただ、この作り方は、上手く成功すれば素晴らしい作品が生まれるけども、失敗したら目も当てられないことになります(笑)。

『春の祭典』演出・振付:白神ももこ、美術:毛利悠子、音楽:宮内康乃 ©川村麻純
『春の祭典』演出・振付:白神ももこ、美術:毛利悠子、音楽:宮内康乃 ©川村麻純

―現場のアーティストや制作の方たちは大変そうですね(笑)。

市村:ええ、今まさに現場は大変なことになっているみたいです(笑)。

東日本大震災に対して、アートがどのように取り組んでいくかということではなく、その過酷な状況に置かれたからこそ生まれた作品、新しい方法を見つけた作品を上演しようと試みています。

―『F/T14』では、こういった数々のコラボレーションとともに「アジアシリーズ」として、韓国の「多元(ダウォン)芸術」(ダンス、演劇、美術など、ジャンルを横断した表現・作品)の特集も大きな柱となっています。アジアへの視線は、これまでの『F/T』との共通点でもあると思いますが、市村さんにとってアジアの作品を上演する意義はどこにあるのでしょうか?

市村:フェスティバルのプログラムを作ることって、やり方次第ではものすごく簡単なことなんですよ。フランスの『アヴィニヨン演劇祭』やイギリスの『エディンバラ国際フェスティバル』、劇場で言えばパリ市立劇場なんかのプログラムを定点観測して、そこで上演されているものを輸入すれば完成する。これまで、日本にも数多くのアジアのアーティストが紹介されましたが、ほとんどヨーロッパ経由で輸入されたアジアのアーティストでした。でも、私たちはそのようなやり方をとりたくないので、自分たちで調べていきたいと思っています。

アジアシリーズ vol.1 韓国特集 多元(ダウォン)芸術 『1分の中の10年』 構成・振付:イム・ジエ ©Karin Dürr
アジアシリーズ vol.1 韓国特集 多元(ダウォン)芸術 『1分の中の10年』 構成・振付:イム・ジエ ©Karin Dürr

―ヨーロッパの視点でアジアを見るのではなく、アジア内部の視点からアーティストを発見しようという試みである。

市村:そうですね。ヨーロッパを経由せずに、一つひとつの国の文化を実際に調査して日本に紹介しようという狙いです。今年の頭に韓国最大の多元芸術の祭典『Festival Bo:m』のお手伝いをしたのですが、その繋がりもあって、韓国のアーティストを調べることができたため、今回は韓国の特集になりました。現在はミャンマーを調べており、『F/T14』では、モ・サというミャンマーの若いアーティストの作品『彼は言った/彼女は言った』を上演します。来年度は「アジアシリーズ」の枠組みで、複数のミャンマー人アーティストの作品を上演する予定です。

―そもそも、ミャンマーに現代演劇シーンが存在するということも知りませんでした。2011年に軍事政権が崩壊して自由化が推し進められ、経済的に上向きだという状況は耳に入ってきますが、ミャンマーの現代演劇シーンはどのような状況なのでしょうか?

市村:どういうアーティストがいるのか、いないのか、どういう文化政策を持っているのかという実態を、日本ではまだ誰も知らないんです。今年は、ミャンマーで開催されている『ビヨンド・プレッシャー』という国際舞台芸術フェスティバルに『F/T』から人材を派遣して、その実態をリサーチする予定です。今後は、ミャンマーの他にもマレーシア、ベトナムなど各国を特集して、フェスティバルとしてアジアの情報を集積していきます。

『彼は言った/彼女は言った』構成・出演:モ・サ
『彼は言った/彼女は言った』構成・出演:モ・サ

―また、これまでの『F/T』では、ノーベル文学賞作家エルフリーデ・イェリネクが福島の原発事故にインスパイアされて書いた戯曲『光のない。』シリーズに、宮沢章夫さんや美術家の小沢剛さん、Port Bや地点といった、さまざまなアーティストがコラボレーションした作品を上演してきました。今年はオープニングイベントとして行なわれる、大友良英・プロジェクトFUKUSHIAMA!の『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』がそれにあたるのでしょうか。

市村:『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』とともに、『全国高等学校演劇大会』で最優秀賞を受賞した、畑澤聖悟さんの『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』が震災に関連しています。ただ、昨年までのような「震災」という現象に対して、芸術がどのように取り組んでいくかというアプローチではなく、震災というとても過酷な状況に置かれたことで生まれた作品、それによって新しい方法を見つけた作品を上演しようと試みています。

―「震災を描く」のではなく、「震災から生み出された表現」を上演する。震災から一歩進んでいくというイメージなんですね。

市村:震災に限らず、生きていると必ず過酷な状況に直面します。そこで自分の限界を乗り越えて、新しい方法を見つけ出すアーティストは少なくありません。これらの作品を通じて、東日本大震災をどう捉えるのかではなく、震災からどう変わっていったのかを捉えたいと考えています。

10年ほど前まで、現代美術を観る人の数はそれほど多くはなかったのに、今ではさまざまなアートプロジェクトに数十万人といった来場者がある。それは相当すごいことなんです。

―長年にわたってアートマネジメントに携わってきた経験の中で、市村さんは現在の日本のアートの状況をどのように考えていますか?

市村:10年ほど前まで、現代美術を観る人の数はそれほど多くはなかったのに、今ではさまざまなアートプロジェクトに数十万人といった来場者がある。それは相当すごいことなんです。じつは『F/T14』で、美術家とのコラボレーションが多いのは、それらに足を運ぶお客さんにも舞台芸術フェスティバルの面白さに気付いてもらえないかという思いもあったりします(笑)。

『動物紳士』振付・出演:森川弘和、美術・衣裳デザイン:杉山至 ©須藤崇規
『動物紳士』振付・出演:森川弘和、美術・衣裳デザイン:杉山至 ©須藤崇規

―たしかに、ここ10年で『瀬戸内国際芸術祭』や『横浜トリエンナーレ』など、大規模に集客するアートフェスティバルが目立ってきました。集客面ではなく、作品内容についてはどう捉えていますか?

市村:現代美術の世界においては、もはや「作品を作らない」アーティストが少なくありません。僕が教えている東京藝術大学でも白いキャンバスに絵を描いている人なんてほとんどいないんです。でも、そのキャンバスに当たるのが、舞台芸術で言えば劇場ですよね。そのように現代美術で起こっている現象が、舞台芸術にも起こるのではないかと。美術では作家がクリエイティビティーを高めることで、一般世間の人たちと関係のない世界へ行ってしまうのではなく、それによって人々の創造性を触発するのがアートの役割という考え方が普及してきましたが、この先、舞台芸術でも同様の事例がもっと生まれてくるんじゃないかと考えています。

アジアシリーズ vol.1 韓国特集 多元(ダウォン)芸術 『From the Sea』 コンセプト・演出:ソ・ヒョンソク
アジアシリーズ vol.1 韓国特集 多元(ダウォン)芸術 『From the Sea』 コンセプト・演出:ソ・ヒョンソク

―舞台芸術と社会の人々という意味では、ツアーパフォーマンス形式の作品が近年注目を集めていますね。これまでの『F/T』でも、高山明さんを中心としたPort Bが山手線の各駅に設えられた「避難所」をめぐる『完全避難マニュアル』を上演したり、ドイツの演出家リミニ・プロトコルが品川から横浜までの物流をバスに乗って体験する『Cargo Tokyo-Yokohama』を発表し、それぞれ「劇場」からの距離を置こうとしていました。

市村:『F/T14』では韓国の演出家、ソ・ヒョンソクが品川区内の某所で『From the Sea』というツアーパフォーマンスを行います。彼は多元芸術の括りでも活動するアーティストで、まだ作品の詳細はわかりませんが、かなり興味深い内容になりそうです。

行政に対して「表現の自由」という言葉を使わないで議論していく方法を僕は見つけたいと考えているんです。

―アートをめぐる社会状況についてはいかがでしょうか? 新しくなった『F/T』のウェブサイトには、ディレクターズコミッティ代表として市村さんのメッセージが掲載されていますが、そこには「多様性」や「アートと権力」「自主規制」がキーワードとして登場します。これは、現在のアート界が置かれている状況を指している言葉のように思いました。これまで実行委員長として『F/T』などを運営してきた中で、何か具体的な問題にも直面してきたのでしょうか?

市村:じつは『F/T』開催の裏では、毎年さまざまな問題が起こっていました。たとえば、ある公演について上演直前に「中止してほしい」と言われたこともあります。けれども、そこで中止を決断したら世界中に情報が飛び回り、良くない状況に追い込まれるのは明らかです。だから、私たちは懸命にその作品を上演するための論理を見つけなければなりませんでした。もしそこでダメだと言われたら、『F/T』自体が存続できなくなってしまう可能性すらもあったわけです。

『鴉(からす)よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる』さいたまゴールド・シアター 作:清水邦夫、演出:蜷川幸雄 ©宮川舞子
『鴉(からす)よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる』さいたまゴールド・シアター 作:清水邦夫、演出:蜷川幸雄 ©宮川舞子

―難しい問題ですよね。アーティスト側からすれば「表現の自由」という権利も当然あるわけで……。

市村:それを言ってしまったら喧嘩別れに終わって、互いの接点は見つけられません。これまで行政からのいろいろな規制に対して、アート界は「表現の自由」という憲法の1行を盾に反論してきました。でも、相手の立場を無視して、そんな主張をしたところで、それでは議論にすらならない。だから行政に対して「表現の自由」という言葉を使わずに議論していく方法を僕は見つけたいと考えているんです。

―行政側の立場の人に「表現の自由」を振りかざしても、一方的なコミュニケーションでしかないわけですね。今後、2020年の『東京オリンピック』に向けて、行政による文化予算は増大していくことが予想されます。その中で、アートは自主規制をすることなく、どのように行政と恊働していけばいいのでしょうか?

市村:行政を始めとするいろいろな担当者と同じテーブルに着きながら、いかに味方を増やし、コミュニケーションを取りながら物事を進めていくのかが鍵ではないかと思います。「NO」と言われかねない尖ったプログラムを諦めるのではなく、かといってストレートに「表現の自由」を主張するのでもなく、どのように「上手いやり方」をするのか。

取材当日は『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』出演アーティスト・珍しいキノコ舞踊団による振付動画の撮影が行なわれた
取材当日は『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』出演アーティスト・珍しいキノコ舞踊団による振付動画の撮影が行なわれた

―さまざまな経験をされてきた市村さんだからこそ、編み出された戦略ですね。ある意味、正面から激しくぶつかるよりも、非常に狡猾でラジカルな方法です。

市村:『F/T』を続けていくのは、生半可なことではないんです。ですから、これからもいろんな方とコミュニケーションを取っていきたいと思います。そうやって一見、別の世界の人々が共通の土壌を持ちながら対話をすることで、健全な社会が生まれていくと思うのです。

イベント情報
『フェスティバル/トーキョー14』

2014年11月1日(土)~11月30日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 吾妻橋 アサヒ・アートスクエア
ほか

『フェスティバルFUKUSHIMA! @池袋西口公園』
2014年11月1日(土)~11月2日(日)
総合ディレクション:大友良英・プロジェクトFUKUSHIMA!

『驚愕の谷』
2014年11月3日(月・祝)~11月6日(木)
作・演出:ピーター・ブルック、マリー=エレーヌ・エティエンヌ

『羅生門|藪の中』
2014年11月5日(水)~11月9日(日)
アーティスティック・ディレクター:ジョージ・イブラヒム(アルカサバ・シアター)
演出:坂田ゆかり
美術:目
ドラマトゥルク:長島確

『春の祭典』
2014年11月12日(水)~11月16日(日)
振付・演出:白神ももこ
美術:毛利悠子
音楽:宮内康乃

『透明な隣人 ~8 –エイトによせて~』
2014年11月13日(木)~11月16日(日)
作・演出:西尾佳織

ミクニヤナイハラプロジェクト
『桜の園』

2014年11月13日(木)~11月17日(月)
作・演出:矢内原美邦

『動物紳士』
2014年11月15日(土)~11月24日(月・祝)
振付・出演:森川弘和
美術・衣裳デザイン:杉山至

『彼は言った/彼女は言った』
2014年11月19日(水)~11月24日(月・祝)
構成・出演:モ・サ

薪伝実験劇団
『ゴースト 2.0 ~イプセン「幽霊」より』

2014年11月22日(土)~11月24日(月・祝)
演出:ワン・チョン

『さいたまゴールド・シアター 鴉(からす)よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる』
2014年11月23日(日)~11月26日(水)
作:清水邦夫
演出:蜷川幸雄

渡辺源四郎商店
『さらば!原子力ロボむつ ~愛・戦士編~』

2014年11月28日(金)~11月30日(日)
作・演出:畑澤聖悟

『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』
2014年11月28日(金)~11月29日(土)
作・演出:畑澤聖悟

『アジアシリーズ vol.1 韓国特集 多元(ダウォン)芸術』
『From the Sea』

11月3日(月・祝)~11月7日(金)
コンセプト・演出:ソ・ヒョンソク

『1分の中の10年』
2014年11月13日(木)~11月16日(日)
構成・振付:イム・ジエ

クリエイティブ・ヴァキ
『いくつかの方式の会話』

2014年11月14日(金)~11月16日(日)
構成・演出:イ・キョンソン

映像特集
『痛いところを突くークリストフ・シュリンゲンジーフの社会的総合芸術』
オープニングレクチャー:『クリストフ・シュリンゲンジーフの芸術と非芸術』
上映作品:
『時のひび割れ』
『友よ!友よ!友よ!』
『失敗をチャンスに』
『外国人よ、出て行け!』

シンポジウム
『アートにおける多様性をめぐって』

テーマ1:「韓国多元(ダウォン)芸術、その現状と可能性」
テーマ2:「日本におけるドラマトゥルクの10年」
テーマ3:「中国・北京――同時代の小劇場演劇シーン」
テーマ4:「都市が育むアート」

3夜連続トーク『舞台芸術のアートマネジメントを考える』
第1夜:「舞台芸術のアートマネジメントを現場から振り返る」
第2夜:「これからのアートマネジメントと、その担い手とは」
第3夜:「アートマネージャーのセカンドキャリア」

『まなびのアトリエ』

  • フェスティバル/トーキョー FESTIVAL/TOKYO 演劇×ダンス×美術×音楽…に出会う30日間
  • プロフィール
    市村作知雄(いちむら さちお)

    1949年生まれ。アート制作者。アート制作者の地位向上とスキルアップのための活動を続ける。特定非営利活動法人アートネットワーク・ジャパン会長、『フェステイバル/トーキョー』実行委員長、東京芸術大学音楽環境創造科准教授、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団評議員、企業メセナ協議会交流部会員など。



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