スプツニ子!×宇川直宏 2010年代のアートってどんなもの?

2015年は「現代アート」をテーマにプログラムを展開する金沢21世紀美術館で、『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』展が開催されている。選ばれた作家は、金氏徹平、宇川直宏、束芋、スプツニ子!、八木良太といった、21世紀以降の日本現代アートシーンで頭角を表してきた面々。

そこで今回、展覧会関連プログラムとして行なわれた、宇川直宏とスプツニ子!のトークをCINRA.NET特別編集版としてお送りする。同展にも展示中の、日本の現代アーティスト100人のインタビュー映像をアーカイブする宇川直宏のプロジェクト『THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS』。その一環として、宇川が聞き手となり実施されたスプツニ子!へのインタビューは、年の差17歳でありながら、新しい時代を担うアーティストとしてのラディカルな視野にあふれた、非常に刺激的なものとなった。

※本記事は、『THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS』のアーカイブとして公開収録されたインタビューを、再編集したものです。

僕は1980年代末から活動しているのですが、2010年代のアーティストとして紹介されていることに、まったく違和感がない。(宇川)

宇川:僕らは今回、金沢21世紀美術館『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』展の参加アーティストとして招聘されていて、つまり今世紀、2000年代以降の作家として認定されたことにもなりますが、スプちゃんって、表現活動を始めたのが5年前くらい?

スプ子:2007年くらいからロンドンでライブはしていましたけど、美術館に展示され始めたのは2010年とか。

左から:スプツニ子!、宇川直宏
左から:スプツニ子!、宇川直宏

宇川:キャリアとしても、紛れもなく今世紀のアーティストということになりますね。そして、DOMMUNEを開局したのも2010年。つまり僕らは、2000年代のアーティストでもなく、ずばりテン年代(2010年代)のアーティストなんですよ。しかも僕とスプちゃんの年齢差が、僕は1968年生まれで、スプちゃんは……。

スプ子:1985年。

宇川:17歳の年齢差があるにもかかわらず、同時代のアーティストとして評価されている事実にまったく違和感がない。だから、最近乱視で老眼まで入ってきて、γ-GTPの数値も極端に上がっている老体の僕としては、すごく意義のある展覧会だとも思っていて(笑)。僕自身は1980年代末から活動しているのですが、テン年代のアーティストとして紹介してもらっていること自体、下半身はED気味だけど、表現に関してはまだまだ精力に溢れているぞという立証にもなっている。

スプ子:あはは。いやいやいや(笑)。

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 宇川直宏『DJ JOHN CAGE & WORLDWIDE DJS』展示風景
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 宇川直宏『DJ JOHN CAGE & WORLDWIDE DJS』展示風景

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 宇川直宏『THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS』展示風景
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 宇川直宏『THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS』展示風景

宇川:なぜ、このような話をするのかというと、スプちゃんのアーティストデビュー前、2010年の4月に、開局1か月を迎えたDOMMUNEはスプツニ子!の2時間番組やっているんですよね。

スプ子:そう、まだ1度も学校の外で展示したことがない大学院生の頃。本当にどのメディアにも一切出てなかった。

宇川:この先見の明! ここは強く言っておきたかった。つまり僕らの関係性は、すでに5年前から始まっていたということ。上妻世海(こうずま せかい)くんというキュレーターが、『世界制作のプロトタイプ』という、インターネット時代のビジュアルコミュニケーションをテーマにした展覧会をやっていて、梅ラボくんや、HouxoQueくんや、Nukemeくんと一緒に、偶然なのか必然なのか、僕はそこでも一人だけ40代で参加しているのね(笑)。その展覧会では「リレーショナル(関係性)とコンティンジェンシー(偶有性)」をコンセプトにしている。そして今展のサブタイトルの「ポスト工業化社会」も「インターネット社会」とも読み解けるし、さらに広い視野で現代を捕らえようと試みている。それらの視点から見ても、スプツニ子!や、DOMMUNEは、テン年代を象徴するアーティストの1サンプルだろう、と。僕たちは、今展のキュレーターの方々から、「コンテンポラリー(同時代)」を構築する為のマテリアルとして選ばれたわけですが、他にも同時代を生きる魑魅魍魎なアーティストがたくさん参加していて、まさに「現代」を突き付けられるような展覧会になっていると思います。

スプ子:めちゃくちゃ良い展覧会ですよね。小金沢健人さんの展示のインパクトもすごかった。イスラム国の動画をテーマに扱っている作品なんですけど、たしかにイスラム国の映像がニュースで流れたとき、リアルなことが起きているはずなのに、スペクタクルなフィクションみたいにYouTubeで物語が展開していて、リアルなのかフェイクなのかわからない感じがあった。ネタバレになるから、あまり詳細は言えないんですけど。

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 小金沢健人『他人の靴』展示風景

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 小金沢健人『他人の靴』展示風景
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 小金沢健人『他人の靴』展示風景

宇川:凄まじいですよね。テレビで扱われていたあの映像自体が題材になっていますが、民放テレビでは確実にこの作品を紹介することはできないと思います。あと束芋さんの映像作家としての貫禄にもヤラれましたし、ビデオカメラと身体の問題を錯乱させる泉太郎さんの高純度なナンセンスワールドには、未知なる高揚感を得ました。本当にまったく意味がわからない(笑)。300人で木のコスプレをやってみたっていう作品ですが、これは体験してください。発狂していますから(笑)。あの感性がやっぱり2010年代なんでしょうか。

スプ子:うん(笑)。

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 泉太郎『無題候補(虹の影が見えない)』展示風景 写真提供:金沢21世紀美術館
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 泉太郎『無題候補(虹の影が見えない)』展示風景 写真提供:金沢21世紀美術館

宇川:そして、今展のキーワードとなっているのが、「関係性」「日常」「メディア」「ヴァナキュラー」という4つのワード。平たく言えば、「つながり」と「現在」と「SNS」と「民衆と土着の問題」を扱っているということでしょうか。この4つのキーワードを各作品に当てはめてみても、キュレーターの方々の審美眼が浮かび上がって面白いですね。

スプ子:たしかに、いろんな側面からDOMMUNEもスプ子もリンクしている展覧会だと思います。

NASAからの突然のメールで、いきなりヒューストンのジョンソン宇宙センターに呼ばれたんですよ!(スプツニ子!)

宇川:で、この対談は、僕の展示作品『THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS』の一部にもなるので、ここから僕はスプちゃんのインタビュアーに徹したいと思います。スプちゃんが今回展示している作品『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』の話を聞いてもいいですか?

スプ子:きっかけは、テキサス州ヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターからの突然のメールで。「ハーイ! NASAのジェシーよ、Skypeしない?」みたいな内容で。

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 スプツニ子!『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』展示風景
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 スプツニ子!『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』展示風景

宇川:うわぁ、突然、NASAから(笑)。「ヴァナキュラー」から「アメリカ航空宇宙局」まで。

スプ子:そう(笑)。で、Skypeしてみたら「スプ子、あなたはテクノロジーやサイエンス、若い女性をモチーフにしているみたいだけど、NASAはもっとガールズパワーが欲しいのよ。もっと女性に宇宙に興味を持ってもらいたいし、特に若い女性に興奮してもらいたい」みたいな話で。それで、ヒューストンに呼ばれたんですよ!

宇川:え、いきなり?

スプ子:そう、いきなりですよ(笑)。で、NASAの人たちとブレインストーミングしていたら、理系の女の子が月面にハイヒールで足跡をつけるためのマシンを月に飛ばすという、『ムーン☆ウォークマシン』の原型アイデアができていったんです。

宇川:ムーンウォークといえば、マイケル・ジャクソンですよね。

スプ子:マイケルはもちろん、私はポップカルチャー自体が大好きで、『ムーン☆ウォークマシン』には、その想いやオマージュがいろいろ詰まっています。デヴィッド・ボウイのMV“Space Oddity”(1969年)に出てくるトム大佐とか、あと『修羅雪姫』(1973年)っていう映画があるじゃないですか。

宇川:梶芽衣子さんが主演で、クエンティン・タランティーノも影響を受けた映画。

スプ子:そう。雪の上に血しぶきがブワーって飛び散るシーンがあるんですけど、そのオマージュをねじ込んだり、いろいろ好き勝手やってみました。さすがにNASAは、梶芽衣子までは気付いてないと思いますけどね(笑)。

スプツニ子!『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』 ©Sputniko!
スプツニ子!『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』 ©Sputniko!

宇川:じつは、かなりハイコンテクストな作品になっているわけですね。あと、アポロ11号は本当に月面に着陸していたのか? っていう捏造説もたくさんあって、月面着陸の映像は、じつはスタンリー・キューブリックが『2001年宇宙の旅』のセットを使って撮っていたという説も根強かったりしますよね(笑)。

スプ子:だから、そういうフィクションも含めて、違うフィクションで宇宙計画を塗りつぶすみたいなイメージの作品でもありますよね。

宇川:言ってみれば、メタフィクション的な世界観ですよね。なぜなら登場キャラクターの女性像も入れ子構造になっていて、スプちゃん演じるスーパーヒロイン「ルナ☆ガール」に憧れる主人公・セレナは理系女子。「テクノロジーとジェンダーの交錯」がスプツニ子!のコンセプトの1つですが、キャラクターだけではなく、この関係性にも自己が投影されていますか?

スプ子:そうですね、私も理系女子で「私だって、スーパーヒロインになってみたい!」な感じでスプツニ子!を始めたところもあったので。本当にオタクだったし、人前で話すのも今でこそ慣れてきましたけど、5年前に初めてDOMMUNEに出演したときは、すごいテンパってましたよ。

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 スプツニ子!『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』展示風景
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』 スプツニ子!『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』展示風景

宇川:そうかな? 饒舌にプレゼンできていたと思いますよ。

スプ子:もう、マイクに歯をぶつけながらしゃべってましたもん(笑)。でも、そういうのを克服しようと思って、音楽作ってライブしてみたいな感じでスプツニ子!の活動を始めたので、自己投影感はありますね。

ちょっとアイデアが欲しいなってときにSNSで聞けば、Twitterの妖精たちがみんなでブワァーっと10個ぐらい教えてくれる(笑)。(スプツニ子!)

宇川:あとやはり、今展のキーワードの1つに「関係性」とあるように、テン年代のアーティストの特色として、「リレーショナル」というテーマが問われていると思います。ここで重要なのは、スプちゃんのプロジェクトの数々は、その都度SNSで呼びかけて、そこで集まったスタッフで構成されているプロジェクトなんですよね。

スプ子:そうなんです。若手でなんのお金もコネもなかったから、その方法が一番手っ取り早かった。

宇川:でも、2010年は「ソーシャルメディアの夜明け」と言われた時代で、クラウドファンディングもまだ今ほど一般的ではなかったし、当時、その方法を実現したのは、かなり先駆的だったのではと僕は思っているんです。プロセス自体も重要なコンセプトになっている。DOMMUNEでスプちゃんの番組をやることになった理由が……あれは、なんのプロジェクトだっけ?

スプ子:『生理マシーン、タカシの場合。』を制作中のときでした。Twitterでスタッフ募集を呼びかけていて。


宇川:そうそう。その中のメインのスタッフの方から、「宇川さん、面白い女の子がいるんだけど……」って電話がかかってきて。資料が送られてきて作品を見たら、『カラスボット☆ジェニー』の写真と共に、ローリー・アンダーソン(ルー・リードの妻としても知られるパフォーマンスアーティスト)のJ-POPバージョンを目指す! と言い切っている。じつはテン年代ではなく、パンク / ニューウェーブ世代の僕としては大変新鮮でしたし(笑)、これは絶対紹介せねば! と。当時は、2005年結成のChim↑Pomや、2008年から活動を開始するカオス*ラウンジ、要するにゼロ年代の僕らの先輩方が(笑)、圧倒的に新しい活動を開始していました。かたやハプニングを味方につけた芸術実行犯、かたや理論武装した芸術知能犯。しかし、スプツニ子!は、DOMMUNEと同じく、SNS以降という匂いがした。だからあのタイミングで2時間番組を配信したのです。

スプ子:すごく嬉しかったです。

宇川:2006年から2008年頃にかけて、既存の映像をリエディットして新たな世界を作りあげる、ブリコラージュとしての「MAD」というトレンドが、「ニコニコ動画」の浸透によって加速されましたが、その後「ニコニコ生放送」も開始され、海外ではUstreamが話題になっていて、ソーシャルストリームを使ってどんな新しい映像表現ができるのか? どんなコミュニケーションが可能なのか? を、みんなが模索し始めた時期でもあったんです。その文脈にボーカロイドの飛躍もあった。そんな中で、資金ではなく制作スタッフをSNSで集めるスプツニ子!の登場は珍しかった。

スプ子:そうですね。私が一応ディレクターで統率をとって、主演もして、ストーリーとデバイス、音楽も作って……。結構大変だったんですけど、それ以外ができる人、ヘアメイクやスタイリストを探して、それで一緒に作り上げた感じですよね。映像ディレクター募集っていっても、2人くらいしか応募がこなくて(笑)。


宇川:そのスタイルを今でも継続されているんですよね?

スプ子:そうですね。それが一番楽しいし、必然的にそうなると言うか。たとえば作品で、ちょっとアイデアが欲しいなってときにSNSで聞けば、Twitterの妖精たちがみんなでブワァーっと10個ぐらい教えてくれる感じ(笑)。そういえば、DOMMUNEに初めて出演したときも、学生だったから制作費が底を尽き始めていてヤバかったんですけど、最後にDVDを宣伝したじゃないですか。

宇川:しました。『PARAKONPE 3000』ですね。

スプ子:そうなんです、まだ7枚くらいしか売れてなかったんですよ。でも、DOMMUNEで「買って下さい!」って宣伝したら、一気に40枚くらい売れてだいぶ助かりました(笑)。

技術的には、避妊用ピルを飲み続けることで生理をなくすこともできたのに、わざわざできないようにデザインされている。テクノロジーの進歩は平等じゃないんですよ。(スプツニ子!)

宇川:それからスプちゃんの作品には1つのレイヤーとして、「サイバーフェミニズム」という世界観がありますね。

スプ子:ありますね。もともと理系で、研究室に女性が少なかったからこそ思う部分もいっぱいあって。それが自然に作品に出るところはあります。『生理マシーン、タカシの場合。』も、避妊用ピルが発明されたとき、じつは飲み続けることで生理をなくす効果があったそうなんです。でもそれじゃ宗教的な反発も起きるかもしれないし、女性が不安がってピルを飲み続けてくれないってことになって、わざわざ3週間ピルを飲んで、1週間休んで、毎月来なくてもいい生理を来させる、みたいなデザインにされていて。

宇川:興味深いですね。

スプツニ子!『生理マシーン、タカシの場合。』 ©Sputniko!
スプツニ子!『生理マシーン、タカシの場合。』 ©Sputniko!

スプ子:そこから50年以上も経って、月面着陸とか、遺伝子組換えとか、インターネットとか、いろんなテクノロジーが出ているのに、いまだにほとんどの女性が、毎月血が出て、お腹が痛い思いをしている。テクノロジーは平等に、みんなの為に進歩するイメージがある一方で、その時代の文化や宗教、社会的な要素に影響にされている事実を、生理1つだけでも感じられるんですよ。そういうことをテーマに扱いたいなぁ、と思いながら学校で作品を作っていましたね。

宇川:それとは逆に、リベラルなフェミニズムの視点からの男性性への言及もありますね。たとえば“ちんこの歌”だったり、『チンボーグ』だったり。

スプ子:ありますね、『チンボーグ』。私の心拍数に合わせてガシャーンと勃起するマシーンを作ったんですよ、23歳のときにコツコツと(笑)。このときのテーマが、「ちんこエンビー(penis envy)」ってあるじゃないですか、精神分析学者のジークムント・フロイトが提唱していた。

宇川:なるほど、「ファルス論」ですか? 男根羨望!

スプ子:そう、男根羨望。ペニスの欠如からくるペニス羨望によって女性の人格が形成される、みたいな説があるんですけど、実際はどうなのかなあ? と思って。じゃあ、もし女の子が「ちんこ」を身に付ければ、毎日の活動は変わるのか? と。ついでに、ちんこを付けて生活した後にちんこを取れば、腕や足を切断した人が、腕がないのに腕があるような錯覚をするファントムリム現象みたいなことが、『チンボーグ』でも起こらないのか? と思って。

スプツニ子!『チンボーグ』 ©Sputniko!
スプツニ子!『チンボーグ』 ©Sputniko!

宇川:『チンボーグ』は着脱式だから、どちらかというと物理的に衣服を脱いだときに生じる現象に近そうだけど?(笑)

スプ子:いや、一応心拍数にリンクしているので……(笑)。さっきからずっと下ネタで申し訳ないんですけど、「ちんこ」は男性にとって、自分の気持ちと通じ合ったある種の友人のような存在じゃないんですか? それがわかんないからやっているんですけど、単純に「友だちがいていいな」と思ってて。

宇川:素晴らしい! まさに『おぼっちゃまくん』に出てくるギャグ「ともだちんこ」ですね。おぼっちゃまくん原理主義!(笑)

『寿司ボーグ☆ユカリ』は、ラブドール批評的な作品だったんですよ。「美少女サイボーグ」みたいな日本のセンスを、少しおちょくって見ているっていうか。(スプツニ子!)

宇川:それで、スプちゃんに聞きたかったんですが、現在の日本のラブドールの進化についてはどう考えていますか? オリエント工業のラブドールが超リアルで、ヤバすぎます。人間超えしている機能美ですよ(笑)。

スプ子:ほんとにヤバいですよね。じつは以前にラブドール批評的な作品を作っていたんですよ、『寿司ボーグ☆ユカリ』(2010年)っていう。

宇川:たしかに『寿司ボーグ☆ユカリ』はラブドール批評だ。だって、女体盛りと回転寿司をモデルにしていますからね。

スプ子:「美少女サイボーグ」みたいな日本独自のセンスを、少しおちょくって見ているっていうか。

『寿司ボーグ☆ユカリ』 ©Sputniko!
『寿司ボーグ☆ユカリ』 ©Sputniko!

宇川:オリエント工業のラブドールに回転するベルトコンベアー付けたら「ラブドール☆ユカリ」になりそうだもんね。

スプ子:それが最近出たんですよ! 『寿司ボーグ☆ユカリ』にそっくりなドールを、オリエント工業が!

宇川:(絶句)……嘘やん!? 笑うしかないやん!

スプ子:どうしよう!?(笑) 「パーティードール」っていう商品なんですけど、ちょっと見てもらっていいですか? どれくらい『寿司ボーグ☆ユカリ』に似ているのかっていうのを……(と、ネットで検索する)。

スプ子:あ、これこれ! パーティードール! 見えますか?

宇川:あれー!? 『寿司ボーグ☆ユカリ』! ヤバい! 完璧にユカリってる!(爆笑)

スプ子:ヤバいでしょ!? 日本社会を批評するとか言って作品を作ったのに、もうその類似品が出現してる!(爆笑) 私、これを作ったオリエント工業の人と対談したいんです!

宇川:って言うか、スプちゃんとオリエント工業の対談を「ポストインダストリアルの美術」っていう文脈でやろうよ! 美術として考えるならば、アレン・ジョーンズ(イギリスのポップアーティスト)の女体家具シリーズとかのコンテクストとも接続できる。しかし『寿司ボーグ☆ユカリ』も「パーティードール」も、完璧にポスト・ポストインダストリアルの次元に突入してるよね(笑) 対談どころか、共同開発プロジェクトを立ち上げたほうがいいと思うよ!

スプ子:やったらどうなるんでしょうね(笑)。せっかくだから、金沢21世紀美術館でやりたい。石川県ってじつはアダルト産業がすごいらしいんですよ。DMM.comも創業は石川県で、アダルトビデオのモザイク処理をするスタジオが一番多いのも石川県なんだそうです。大事な産業ですからね。日本のクリエイティブですし、いつも感心してます。

宇川:じつは僕も20歳の頃、KUKIというメーカーでアダルトビデオの助監督をやっていたんですよ(笑)。こういったアダルト・インダストリーな領域も、スプちゃんの作品に通底しているコンセプトの1つでもあるよね。

スプ子:そうですね、さっきの『チンボーグ』もそうですけど、やっぱり素直にセクシャリティーの問題に突っ込んでいくっていうのはありますね。

恋愛ホルモンを、蚕の遺伝子に組み込んでもらっているんですよ。そうすればその蚕から生まれた絹で織られたドレスは、ガチの勝負ドレスになるんです!(スプツニ子!)

宇川:スプちゃんの最新の活動は、どんな感じですか?

スプ子:最近すごく興味を持っているのが、遺伝子組換えとかバイオテクノロジーなんですよ。

宇川:やはり、そこに到達しますか。

スプ子:今、MIT(マサチューセッツ工科大学)で仕事しているんですけど、MITでもIPS細胞とか遺伝子組換えがホットなトピックで、人間が神の領域に踏み込んでいくところがすごく興味深くて。「遺伝子組換え蚕」っていうのが存在していて、蚕のタマゴにクラゲやサンゴの遺伝子を導入すると、蛍光タンパク質によって「光る蚕」が作れるんですよ。その光る蚕から生まれる絹も光っていて。


宇川:その光る絹を使えば「光る服」ができる?

スプ子:うん。というかその絹自体は、2008年に生物研(現・国立研究開発法人農業生物資源研究所)っていう、筑波の研究所で作られていたんですけど、そことコラボレーションさせていただいて、新しい絹を作り始めているんです。オキシトシンという、恋愛感情を高める作用のあるホルモンがあってですね。

宇川:恋愛感情を高める作用って、どんなホルモン?

スプ子:信頼関係を強めるホルモンとも言われていて、セックスの後とか、感情が高まったときに脳内で分泌されるホルモンがオキシトシンらしいんですよ。恋人や奥さんがいる男性にオキシトシンを投与すると、他の魅力的な女性に近寄らなくなって、浮気防止の作用があるっていう(笑)。

宇川:つまり、日常的に頻繁に会う異性に目が向く。

スプ子:そうなんです。で、その恋愛ホルモンを今、蚕の遺伝子に組み込んでもらっているんですよ。そうすれば蚕から生まれた絹にはオキシトシンが入っているから、その絹で織られたドレスはガチの勝負ドレスになるんです!

宇川:どひゃ~! ガチだし、絹だし、そして光る!

スプ子:絶対に落とせる……と言いきるには正直微妙だけど、落とせるかもしれない(笑)。

宇川:ちょっと待って。勝負下着ってさ、言ってみれば段階を踏んで、ようやく脱ぎ捨てる可能性を見出したタイミングで身につける訳だけど、そうじゃなくて日常で、路上で闊歩しているときも恋愛ホルモンを振りまいているわけでしょ?

スプ子:たしかに常に振りまいているから、ちょっと危険性はありますね。

スプツニ子!

宇川:ということは、純粋に「無敵のモテ機能」なんじゃないの?

スプ子:「絶対、モテる服」として、そのうち『CanCam』に特集されるかも(笑)。まだ4月23日から始まったGUCCI新宿の展覧会でコンセプトを発表したばかりで、今から蚕を育てて最初の糸が実現するのは半年後なんですよ。

宇川:うわぁ……、これはヤバいね。オキシトシンの入ったタンクトップとか着てみたい! それで新宿2丁目をランニングしたいね(笑)。

スプ子:さらに、ギリシャ神話にアフロディーテっていう愛と美と創造の女神がいて、そのアフロディーテの誕生秘話が、じつは海に投げ込まれた神のちんこに付いていた泡から生まれたという話なんですけど(笑)。

宇川:おおお……! 崇高ともだちんこ(笑)。

スプ子:ま、それはいったん置いといて(笑)。そのちんこが海に投げ込まれて、いろいろあってアフロディーテが生まれたとき、バラの香りに包まれていて、オリンポスの神々を魅了したらしいんですよ。だから、今回のプロジェクトでは、そんなアフロディーテ神話をバイオテクノロジーで書き換えようと思っているんです。海のクラゲやサンゴの光る遺伝子が入っているし、恋愛ホルモンと、バラの香りが出る遺伝子も組み込んでもらおうとしていて。アートのために新しい生物を作っちゃうこと自体が、かなり怒られちゃうかもしれないんですけど……。

宇川:でも、スプちゃんの座右の銘である(笑)、ちんことアートが、きちんと機能してるのは素晴らしいことですね。

スプ子:ここでもたまたま、ちんこがね(笑)。どうしてもちんこから逃れられない宿命みたいです。

宇川:(笑)。ということで、そんなスプちゃんやDOMMUNEの他、同時代を象徴するエクストリームな作品が網羅された『われらの時代 ポスト工業化社会の美術』になりますが。

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』金氏徹平 展示風景
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』金氏徹平 展示風景

『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』束芋『TOZEN』展示風景
『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』束芋『TOZEN』展示風景

スプ子:本当に面白かったですね。

宇川:「ポストインダストリアルジャパン」っていうサブタイトルが、ノイズ / インダストリアル音楽世代の僕としては、すごく心に響いたし、シリーズタイトルで「THE CONTEMPORARY(=これが同時代)」とも言い切ってますからね。8月までやっております。せっかく新幹線も開通したので、ぜひみなさん体験してください。というわけで、スプツニ子!と宇川直宏でしたー!

スプ子:ありがとうございました!

イベント情報
『ザ・コンテンポラリー1 われらの時代:ポスト工業化社会の美術』展

2015年4月25日(土)~8月30日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展示室7-14、長期インスタレーションルーム、デザインギャラリー、プロジェクト工房、ほか
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
出品作家:
大久保あり
金氏徹平
宇川直宏
小金沢健人
泉太郎
三瀬夏之介
束芋
スプツニ子!
八木良太
アルマ望遠鏡プロジェクト
休場日:月曜(7月20日、8月17日は開場)、7月21日
料金:一般1,000円 大学生800円 小中高生400円 65歳以上800円
※長期インスタレーションルームでの展示は5月26日~9月6日、デザインギャラリーでの展示は5月26日~11月15日

プロフィール
宇川直宏 (うかわ なおひろ)

1968年香川県生まれ。映像作家 / グラフィックデザイナー / VJ / 文筆家 / 京都造形芸術大学教授 / そして「現在美術家」……幅広く極めて多岐に渡る活動を行う全方位的アーティスト。既成のファインアートと大衆文化の枠組みを抹消し、現在の日本にあって最も自由な表現活動を行っている自称「MEDIA THERAPIST」。2010年3月に突如個人で立ち上げたライブストリーミングスタジオ兼チャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数をたたき出し、国内外で話題を呼び続ける「文化庁メディア芸術祭推薦作品」。今年は『アルスエレクトロニカ』サウンドアート部門の審査委員も担当。

スプツニ子! (すぷつにこ)

1985年東京生まれ。2007年よりカラスと交信するロボットや女性の生理を疑似体験するマシン、ハイヒール付き月面ローバーなど、テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を批評する映像、音楽、写真、パフォーマンス作品を発表している。2013年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教。近著に『はみだす力』。主な展覧会に『Talk to Me』(ニューヨーク近代美術館、2011年)、『東京 アートミーティング うさぎスマッシュ』(東京都現代美術館、2013年)など。



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