前田エマ×maegamimami×田中ちえこが語る、女の子のパワー

もの作りに邁進するクリエイターたちは、街や人の作品から得た刺激をどのようにして自らの表現に昇華させているのか。1960年代から演劇の聖地として、いくつもの劇場があり親しまれてきた新宿。現在もその残り香を感じさせるアートな場所がいくつもある。今回、伊勢丹新宿店のウェブメディア「ISETAN PARK net」とCINRA.NETのコラボレーション企画で、新宿にまつわるアートな場所を二人の女性に巡ってもらった。

一人目はモデルとして、また朗読会やナレーションにペインティング、写真の撮影などアーティストとして活躍する前田エマ。そしてニ人目は女性誌を中心に活躍し、先日までTBSで放送され、人気を博していたテレビドラマ『カルテット』のイラストレーションを務めていたmaegamimami。

新宿巡りをした1日の最後を締めくくるスポット「新宿眼科画廊」にて、ギャラリストのたなかちえこを交えて、今この時代に女性として求められる表現をどのように捉えているのか、そしてそれにどう向き合っているのか、しなやかかつ軽やかに時代をサバイブする三人に話を訊いた。

「ノイズ」に思えるものが、実は自分自身に意外と影響を与えていることはたくさんあります。(maegamimami)

―伊勢丹との企画で1日新宿の街を巡って発見したことはありますか?

前田:自分が住んでいる街や活動している街は、そこにいる人みんなが「その街の雰囲気」を作っているような感じがするけれど、新宿は「一つの街」という雰囲気がまったくないなと思いました。ゴッチャリした街。

定食屋に並ぶサラリーマンや、ホストたち、ショッピングを楽しむ若者が行き交ってカオスに近い状態ですよね。いろんなカルチャーや属性にいる人が混ざり合って、そこから生まれるエネルギーを感じましたね。

左から:前田エマ、たなかちえこ、maegamimami
左から:前田エマ、たなかちえこ、maegamimami

maegamimami:私は普段の生活で歩かないような、新しいギャラリーや作品、ファッションスポットに触れて、「そうそう、新宿ってこういう感じ」って思い出すことがたくさんありました。最近、世の中全体の方向性が潔癖になっていて、目を背けたくなるものが上手に制御されている気がします。だけどこの街は整理されずに美醜がそのまま残っていて、なんだか安心感を覚えましたね。

―歌舞伎町エリアで、「新宿眼科画廊」を開かれているたなかさんは、新宿という街をどのように感じていらっしゃいますか?

たなか:13年この場所で画廊を運営しているのですが、新宿は「洗練されない街」だと思うんですよね。『東京オリンピック』開催に向けて都内の整備が進んでいっているけど、新宿特有の猥雑な感じは良くも悪くも変わらない気がします。いろんな属性の人間たちが行き交って、その摩擦から文化が生まれると思っていますね。

新宿眼科画廊
新宿眼科画廊

前田:「猥雑な感じ」という感覚を知っていることって、すごく大切なことだと思います。小学生のころ通学路に、成人誌とか子どもが見てはいけない本を売っている自動販売機があって。それを見て見ぬふりして通学していたのですが、それと似た、どこか後ろめたい気持ちが蘇ってくる感じがします。

maegamimami:街のなかにある、見てはいけないであろうものをたまたま見てしまってトラウマを感じたり、消化できなかったもやっとした感情は、今の自分のなかにもしっかり残りますよね。「ノイズ」に思えてしまうものが、実は自分自身に意外と影響を与えていることはたくさんあります。

前田:そういう風に「ノイズ」と言うか、自分の生きている部分とは違うような世界や価値観と向き合うことではじめて自分の趣味嗜好を客観的に理解できるんでしょうね。

―maegamimamiさんが女性的な繊細なタッチのイラストを描くうえで、そういったノイズのようなものを取り込んで、影響を受けているというのは意外に思えます。

前田:そうですか? 私はそうは思わない。とっても自然なことだと思います。

私は自分の表現方法を、まだまだ探している最中なのかもしれない。(前田エマ)

―前田さんはなぜそれが自然だと思われるのでしょう?

前田:私も好きなお洋服や身に付けるものは、今日maegamimamiさんが着ているような花柄みたいな、可愛らしくてガーリーなものが好きです。だけど、小説や映画は複雑でドロドロした作品とか表現が好きなんですよね。

私自身、言動やモデルとして活動しているイメージからか、「のんびりとした性格」とか「丁寧な暮らし」をしていると思われることも多いのですが、全然違いますね。周りの人は分かると思うのですが、かなり大雑把な現実主義な人間。1人の人間のなかにも一言では片付けられない多様な部分があるから、maegamimamiさんが「ノイズ」に影響されるという話は納得がいきます。

前田エマ

maegamimamiのワンピース
maegamimamiのワンピース

―なるほど。街から得た刺激を自分自身の表現に起こしていくうえで、どのように反映していますか?

maegamimami:私は街で見た素敵な女の子や映画館で観た映画、印象に残った言葉、フレーズなどをその都度メモしていて。その時に感じた印象は、すぐに絵に起こさないで持ち帰ります。

自分がハッとした断片を部屋の壁に貼って持ち寄って、「あの時、あの街で見た女の子の表情は、あの映画のこのセリフを言っている気がする」といった具合につじつまがあった瞬間、イラストにしていくんです。そこからはその子の髪色などからイメージして花柄をあしらったり、自分のお気に入りの洋服を着せて描いていることが多いです。

―前田さんはモデル活動もそうですし、ドローイングや詩の朗読会、ナレーションや写真など、いろいろな方法で表現に向き合っています。それはどうしてでしょうか?

前田:いろんなことをしていると言われるけれど、自分のなかではそんな気がしていない。自分が表現したいことを、自分にできる可能な形でやっているだけ。逆に、私はできないことが人よりも多いです。例えば、私は学生時代からドローイングに苦手意識があって……。同級生たちは電車やカフェで気になる人や風景のクロッキーを描いていましたが、私はそれがすごく苦手で、ぜんぜんしっくりこなかった。

そうやってドローイングして日々をメモするよりも、自分の心がときめいた瞬間を写真で撮ったり、スマートフォンのボイスメモに言葉として録音しておくほうが自然だったんですよね。そういうストックのしかたも含め、私は自分の表現方法を、まだまだ探している最中なのかもしれないです。

一言では片付けきれないような人間の感情や表情を信じている。(maegamimami)

―そもそも前田さんとmaegamimamiさんがそれぞれの形で表現に向き合うことになったのには、どのような経緯があったのでしょうか?

前田:私は小さい頃から、その日に自分の身の回りで起こったおもしろいできごとを人に話すのが大好きだったんです。毎日「一人芝居の学芸会」みたいな感じ(笑)。私の話を聞いてくれる友人や優しい親に恵まれていたんですよね。でもその体験から、将来も誰かに「私がかんじた面白いこと、素敵なこと」を伝えていくような仕事をするぞって、幼な心に決意して。そういう、毎日誰かに身振り手振りで独演会をしていた子どものときの感覚が今でも続いている感じがします。

だから絵も文章も写真も、モデルとしての表現も、周囲の人たちに「面白いことを伝える」っていう気持ちの延長で。だから、どんな形式でも変わらない部分が根底にあるんですよね。音楽とか言葉とか芸術に触れて、ふと目の前が開ける瞬間って、みんなあるんじゃないかなと思うのですが、そういうきっかけを作れる人になれたらいいなと思っています。

写真と絵を組み合わせた前田エマの作品
写真と絵を組み合わせた前田エマの作品

写真と絵を組み合わせた前田エマの作品
写真と絵を組み合わせた前田エマの作品

maegamimami:私も子どもの時から誰かに話すこと、伝えることがとても好きでした。絵の表現もいろいろトライしていましたが、今のイラスト表現が「残った」というものに近い気がしていますね。

前田:maegamimamiさんはもう自分の表現を見つけられたということですよね。maegamimamiさんのイラストに出てくる女の子って、「楽しいです、ニコッ!」「悲しいです、ポロリ」みたいにハッキリと感情を出した表情ではなく、「この子は何を考えているんだろう? どんな感情なんだろう?」と思わせる表情をしていて、私はそこが一番好きです。わかりやすい表現がよしとされる感じが世の中全体にあると思うんですけど、そういう表現とmaegamimamiさんが描くものはちょっと違う気がします。

―「ちょっと違う」とは具体的にいうとどういったことでしょう?

前田:たとえば小さい頃読んでいた本や、聴いていた音楽の歌詞などは、理解できないことがいっぱいあったけど、その「わからなさ」を心に抱えたまま過ごした時間って、すごく大切だった気がします。それと似たような感じで、簡単に言葉で言い当てられないものをイラストレーションとして表現に落とし込んでいるところを尊敬しています。

あと、maegamiさんのイラストを見ていると「絵を描くのが楽しくて仕方ないんだろうな~」というワクワクが伝わってきて、嬉しい楽しい気持ちになります。例えば花柄の部分を見ていると、その描き込みの熱量に「きっとこの花柄を描く作業をしている瞬間はルンルンな気持ちなんだろうな~」って想像しています(笑)。

左から:maegamimami、前田エマ、たなかちえこ

maegamimami:嬉しいですね。個人的にはそれぞれの表情に意図はあるんです。でも、描いた女の子が何を考えているか、喜んでいるか悲しんでいるのかは言いたくなくて。私の根本的な考えとして、自分自身になにか大きな影響を及ぼす出来事が起きたときって、表情が硬直すると思うんですよ。

たとえば大切な人を失った瞬間にする表情は、もしかしたら微笑かもしれないじゃないですか。そういう一言では片付けきれないような人間の感情や表情を信じていて。逆に言うと「すぐに伝わってしまう表情」をそこまで信じていないのかもしれないなと思います。

まだ価値の定まらないものを見つけて作家さんと一緒に広めていけたらいい。(たなか)

―maegamimamiさんの描かれるイラストに女性が多いのはどのような理由からなのでしょうか?

maegamimami:単純に、女の子の生き様に一番興味があるんです。恋愛対象ってことではなくて、自分自身が女として生を受けたから。歌手として歌を表現方法にする人でも、ファッションデザイナーとしてお洋服を作る人でも、女性の表現者に興味があるし、いろんな人の考えることや生き様を知りたい、追求したいって思うんです。

誤解を招くような表現かもしれないですけど、男の人は嫌いじゃないし尊敬する人もたくさんいます。でも、どこか世界は、女性が存在しているということで成立している気がするんですよね。

前田:それは私もわかる気がします。社会に出て2年経って、こんなちゃらんぽらんな私でも、日本の社会システムのなかで女性として生きていくことって大変なんだなと実感しています。だからこそ、女性として表現に向かっている人のパワーを感じる機会がより増えました。

―ギャラリストとして、日々さまざまな作家さんと接する機会が多いたなかさんは?

たなか:私も自分が女性だからなのかもしれないですけど、今頑張っていると感じる作家さんは女性が多い気がします。たとえば批評家に何かを言われてもすぐに受け入れずに、自らの表現で立ち向かっていくパワーがあったり。だから自然と応援したくなっちゃうんですよね。

―新宿眼科画廊はいわゆる普通のギャラリーが扱うような作品だけではなく、イラストレーションなどサブカルチャー周りの作品も扱うなど、守備範囲が広い気がします。それは意図してのことなのでしょうか?

たなか:そうですね。ギャラリストとしては、すでに一定の価値評価がある作品や人より、まだ価値の定まらないものを見つけてその作家さんと一緒に広めていけたらいいなと思っています。

冒頭でお二人が話されていた「ノイズ」に近い部分があるのかもしれませんが、私がギャラリストとして作家さんや作品を選ぶとき、まだよくわからなかったり、すぐにはいいと思えないような作品を扱うこともあるんですよ。

maegamimami、前田エマ、たなかちえこ

―そうなのですね。

たなか:たとえば、ろくでなし子さん(女性器をモチーフとした作品などで知られるアーティスト)の個展をしたときも、作品のすべてを理解していたわけではないです。だけど、良くも悪くもかなりの反響があって。

自分が好きなもの、良いと断言できるものだけを選んで展示するのではなく、すぐにわからなくても何か余地があるものが、時間をかけて後々特別になることもある。私の個人的な好みで扱う作品を決めるのではなくて、可能性を秘めたものを大事にしたいです。

ろくでなし子『よいこのまん個展』(新宿眼科画廊)
ろくでなし子『よいこのまん個展』(新宿眼科画廊)

前田:新宿眼科画廊は、演劇もあれば、絵画もあれば、写真表現もあったり、バリエーションが豊かでおもしろいですよね。アートの文脈や典型的な構図に依存しないで、自由さや軽やかさを持っていられるのは、たなかさんのギャラリストとしての強みですよね。

直感の赴くまま行きたい場所へ行き、見たいものを見て、感覚に自由に応えていきたい。(maegamimami)

―これからどんなアーティストと一緒にギャラリーを盛り上げていきたいと考えているのでしょうか?

たなか:ありがたいことに「新宿眼科画廊」は、いつも変わった作家を扱うユニークなギャラリーというイメージが定着してきて、徐々に立ち位置ができつつある。だけど、今抱かれているようなイメージを壊していきたいとも思っています。

私、プライベートでキックボクシングに熱中していて(笑)。それで筋肉を意識するようになったんですけど、そうしたら身体表現のおもしろさに気づかされることが増えたんです。一見無関係に思えることでも、やってみると新しい発見があると思うので、ギャラリーも限界やジャンルを定めずに、果敢に挑戦していきたいですね。

新宿眼科画廊での展示を眺める前田エマ
新宿眼科画廊での展示を眺める前田エマ

―maegamimamiさんと前田さんはいかがですか?

maegamimami:私の今年のキーワードは「軽やか」なんです。これまでは表現をするうえでがんじがらめになっていた部分があった気がしていて。直感の赴くまま行きたい場所へ行き、見たいものを見て、どんどん自分の感覚に自由に応えていきたい。それによって研ぎ澄まされるものや、偶然の出会いから得られる発見があるんじゃないかなって思っています。

前田:「軽やか」。いいですね。私は、この春から友人とアトリエを借りました。今までは一人で制作をすることが多かったので、何か新しいことが起きるんじゃないかと純粋にワクワクしています。あと、歌を唄ってみたいですね(笑)。

ISETAN PARK netで前田エマ×maegamimamiが『新宿とアート』をテーマに新宿の街を紹介
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サイト情報
『ISETAN PARK net』

日本最大級のファッション発信基地である伊勢丹新宿店の「今」と「これから」がわかるウェブメディア。ファッション、アート、音楽、カルチャーなどを切り口に、週ごとに新宿店で繰り広げられるイベント情報を紹介しています。

プロフィール
前田エマ (まえだ えま)

モデル。1992年生まれ。東京造形大学卒業。オーストリアウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中からモデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、分野にとらわれない活動で注目を集める。

maegamimami (まえがみまみ)

イラストレーター。群馬県出身。女性誌、ウェブ、広告、ブランドとのコラボレーションなどを中心に活動する。また、クッションをはじめとする刺繍作品を展開するアーティスト活動も行なう。女性をモチーフにした作品が主。TBS系連続ドラマ『カルテット』のポスタービジュアルのイラストデザイン及び、主題歌“おとなの掟”(Doughnuts Hole×椎名林檎)のジャケットを制作。初の作品集『maegamimami Grab The Heart』(宝島社)が発売中。

田中ちえこ (たなか ちえこ)

ギャラリスト、アーティスト。新宿眼科画廊ディレクター。現代美術を中心に、写真や映像作品、演劇など、様々なジャンルの展覧会を行っている。ギャラリー名の由来は、「新橋内科画廊」を元にして「目に良い場所」という意味。眼科は併設していない。



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