ど真ん中のポップスはムズムズしちゃう YOOKsインタビュー

京都のポップバンドYOOKs。昨年3月の改名と1stミニアルバム『Newtownage』のリリース以降、日比谷野外音楽堂で行なわれた『exPoP!!!!! vol.100』や『TOKYO CALLING』『SYNCHRONICITY』など東京のイベントにも出演し、彼らが掲げる「ニュータウンポップ」を旗印に飛躍的な活動を展開した。

そんな充実の2017年を締めくくった2ndミニアルバム『Dawn』。前作『Newtownage』を象徴していたR&Bやブルーアイドソウルを感じる冷やかなグルーヴがかろうじて残っているのは“tobacco”のみ。シンプルに歌を押し出したキャッチーな作品へと早くも舵を切っていることに驚く。そもそも、くるりなどの京都音楽の系譜とは、まったく別の土着性でもって突如私たちの眼前に現れた一見「京都らしくない」彼ら。メンバーの三人に、前身バンド「雨の降る街」の時代からこれまでの歩み、2017年の経験を経て生み出した新作『Dawn』での目論見を訊いた。

インディーシーンのなかだけでやっていると井の中の蛙になってしまう。(清水)

—YOOKsにとって2017年は『Newtownage』から広がって、『exPoP!!!!! vol.100』のオープニングアクトで日比谷野外音楽堂の舞台も踏んだり、目まぐるしく環境が変わりましたよね。そのなかで得た経験で印象的なことはありますか?

清水(Ba):一番残っているのは、10月の『SYNCHRONICITY'17 AUTUMN LIVE!!』のオープニングアクトをやらせてもらったことですね。TSUTAYA O-EASTの会場で自分たちのあとに出てきた人たちを観ると、自分たちの実力で出られたステージじゃないなと感じてしまって。

松井(Dr):フレンズやCreepy Nutsのライブを観て、「これは今の自分たちにはできないことだな」って思ってしまいました。

左から:清水佑(Ba)、福家佑輔(Vo,Gt)、松井規広(Dr)
左から:清水佑(Ba)、福家佑輔(Vo,Gt)、松井規広(Dr)

—具体的にどういうことでしょうか?

清水:フレンズとCreepy Nutsのステージはものすごくエンターテイメントで、お客さんをめちゃくちゃ沸かせているのを観て、圧倒的なレベルの差を痛感したんです。それで落ち込んで。とはいえ、インディーシーンのなかだけでやっていると井の中の蛙になってしまうので、大きな舞台でやらせていただいたのはいい経験でした。これがなかったら、「この1年調子いいぞ!」で終わっていたと思うので。

清水佑

—そもそもの話ですけど、大学のサークルで出会ったみなさんが前身バンド「雨の降る街」を結成したのが、2015年3月。最初はどんな方向性を目指して組んだバンドだったのでしょう?

清水:自分はあとから入ったんですけど、最初からいる二人(福家、松井)がOvallやtoeのようなインストゥルメンタルをやりたいというところからはじまってますね。

福家(Vo,Gt):当時周りで流行っていた「残響レコード」的なポストロックでも、American Footballみたいなエモでもなく、R&Bやヒップホップの流れを汲んだものを目指していて。

福家佑輔

—スタンスとしては、本格的な活動を目指して組んだバンドだったんですか?

清水:曲が完成したらそれで楽しいというくらいで、先は見据えてなかったと思います。

福家:活動に対する意識が変わったのは、卒業・就職の時期が近づいてきたタイミングですね。そこで「今後どうする?」みたいな真面目な話をするようになって。

清水:活動に対するモチベーションを揃えたかったから、そのタイミングでちゃんと話をして、本格的にやることにしました。そうしたら「雨の降る街」という名前で活動するのはイメージに合わないな、という話になって。

東京に住みたいとは思わないけど、東京で生活する人には羨ましさがある。(福家)

—なぜ、雨の降る街という名前だとイメージに合わないと思ったんですか?

清水:「ニュータウンポップ」を掲げはじめたときから違和感が生まれたんですけど、「雨の降る『街』」という名前と「ニュー『タウン』ポップ」という言葉に乖離を感じたんですよね。

福家:ニュータウンポップって言っているのに、その頃のロゴには「city」って書いてあったしね(笑)。

清水:「街(=city)」と自分たちの住んでいる「タウン」をちゃんと区別したかったんですよね。街や都市というのは人が暮らす空気感よりも、「こうだったらいいよね」と煌びやかに美化された感じがするんですけど、タウンは人がしっかり根づいている感じがしていて。汚いものも含めた生活がにじみ出ているから、かっこよくはないけど馴染みがあるなと。それでいえば、京都はタウンですし、自分たちにもしっくりきたんです。

—雨の降る街での最後のライブから2週間ほどでYOOKsに切り替わりましたよね。音楽性が変わったというわけではなく、本格的にやっていくということと、現状の方向に合わせるための改名だったんですね。

松井:そうですね。そもそも『Newtownage』の曲は、全部雨の降る街時代からやっていた曲ですし。

松井規広

—ニュータウンポップを説明するときに「生活」というワードが出てきますけど、音楽に生活感を求めるのはなぜですか?

清水:前回のインタビューでも言いましたけど、シティポップが描いているものって別の世界の出来事のように感じていて。自分たちはもうちょっとダサいし、シティポップを真似してもいけ好かないし……そういう自分たちにとっても、すっと入り込めるような音楽をやりたいと思って、生活感に行き着いたというか。そう思うのは、フォークロックっぽいものも好きだからかもしれないです。たとえば、はっぴいえんどの歌詞は生活の匂いを感じるじゃないですか。

—シティポップをやっている人たちも、はっぴいえんどをひとつの出発点として影響を受けているだろうし、はっぴいえんども都市に生きることを歌っているはずなのに、シティポップ自体はYOOKsにとってリアリティーがないとなってしまうのは不思議ですね。その距離感といえるようなところに、ある意味では地方性を感じるというか。根本には、東京や都市に対する憧れがあるんですかね?

福家:カウンター的な側面はあるかもしれないです。東京に住みたいとは思わないけど、東京で生活する人には羨ましさがあって。東京で、シティポップで歌われているような人生を送れるのなら、どうなっていたのかなぁと。

左から:清水佑、福家佑輔、松井規広

2017年はシティポップが世間的にも供給過多になってしまっていた。(清水)

—ニュータウンポップとシティポップの違いについて、音楽的な部分でいうとどんなところでしょうか?

清水:シティポップは好きですけど、もともとはtoeとかに影響受けたインストバンドとしてはじまってるし、他のジャンルからの影響も大きいので、シティポップリバイバルの人たちとの違いはそこかなと。僕らはお互いに「これいいよ」って持ち寄ったものを取り入れていくことを大事にしているバンドで。

そもそもニュータウンポップはジャンルではないというのは大きいかと思います。生活に根づいた温かみのあるポップスであれば、どんなものでもニュータウンポップになりうると考えていて。あとは、福家の歌が乗ったら最終的にはニュータウンポップになるので、福家の功績も大きいなと思います(笑)。

左から:松井規広、福家佑輔、清水佑

YOOKs『Newtownage』収録曲

福家:ニュータウンポップは、「ジャンル」というよりももっと広いフォーマットみたいなものなので。僕らは時代とかも関係なく、あらゆる音楽シーンに合わせられるような音楽を目指しているんです。

—ニュータウンポップは音楽的に画一化されたものではなく、懐の広いものだと。とはいえ、意地悪な言い方をすると、そのときどきの流行りの音楽を取り入れるというスタンスだと、音楽性がブレてしまうだろうし、流行りに乗っかってるように見えてしまうことも出てくると思うのですが。

福家:いいなと思っても、ただ取り入れることはしないんです。「この曲のこの雰囲気がいいな」と思ったら、それは具体的に何がいいのだろう、どうやって作っているのだろう、と考えて、答えが出てから作りはじめるように意識していて。そうすることで、ただ真似して取り入れただけじゃない、自分が持っているものとうまくミックスしたサウンドができると思うんです。

清水:時代に合わせた音楽をやるといっても、単に迎合するわけではないですからね。自分たちは、くるりの先見性を持っているところが大好きなんですよ。たとえば、『TEAM ROCK』(2001年)で当時クラブシーンで流行っていたエレクトロを導入したように、バンドの個性を殺すことなく、その時代に即したものを常に作り続けるというのが僕らの目指していることで。

—ではYOOKsにとって、今自分たちに取り入れるべき音楽はどのようなものですか?

清水:“tobacco”だけは前作までのR&Bの流れを汲んでいますが、それ以外の曲ではロックンロールを意識しています。時代性ってところでいうと、2017年はシティポップが世間的にも供給過多になってしまっていたと思うんですよ。だからこそ新しいアプローチがしたくて。

清水佑

清水:シティポップって、R&Bっぽいビート感は共通していて、その上にどんなサウンドやメロディーを乗せるのかをみんな試行錯誤していると思うんですよね。

松井:リズム隊はみんな黒いもんね。

清水:そうそう。その黒いビート感の上にさらにR&Bっぽいギターや歌を乗せると、ただのシティポップになっちゃうんですよね。それは今の時代つまらないですから。具体的に言うと、“monologue”の仮題は「カジ」だったんですけど、この曲はカジヒデキさん、スネオヘアーさん、ふくろうずみたいな、しっかりポップさを感じさせるロックを意識しています。あとはコード感の変化が大きくて、シティポップで使いがちな「セブンス」から脱却しようと。

福家:“orange”と“iiwake”では、セブンスではなくメジャーコードとマイナーコードを使っていて、2000年代のロックンロールリバイバルからの影響が強いです。特に“orange”は『Angles』(2011年)のときのThe Strokesのようなロックサウンドを意識していますね。

The Strokes『Angles』収録曲

どポップにやったら俺たちムズムズしちゃうよね。(清水)

—なぜ今、ロックンロールが自分たちに必要だと思ったのでしょうか?

清水:より多くの人たちにいいなと思ってもらえる音楽を作るために、ロックンロールのストレートさが欲しかったんです。というのも、あるお客さんに「YOOKsは踊れない」って言われたことがあって。

松井:「お客さんが楽しそうじゃない」って。

福家:そう。単純に、ライブに明るい曲が欲しかったというのもありますね。

清水:「音楽好きは気に入るかもしれないけど、一般の人も好きって言えるような曲がないよね」と言われて考えた結果、ロックンロールに行き着いたのかなと。

—そんなキャッチーさを目指すなかで取り入れるのはポップスではなく、ロックンロールを選ぶところにYOOKsらしさを感じますね。

福家:どストレートなポップは作れないし、歌詞もとても明るい曲は書けないので……。

清水:それに、どポップにやったら俺たちムズムズしちゃうよね。

左から:松井規広、福家佑輔、清水佑

歌詞を聴かれるのが恥ずかしいって福家が言ったら「歌詞は聴かすもんやぞ! お前ダサいわ~」って怒られてた。(松井)

—『Dawn』は、サウンド的には温かくも軽さのあるポップミュージック集という感じですけど、福家さんの書く歌詞はかなり闇を抱えているように思えました。

福家:前までは背伸びしていて、自分の感情的な部分をそのまま歌詞にするのが恥ずかしかったんです。

福家佑輔

松井:そういえば、モグラさん(Live House nano店長)に「福家は歌詞をゴニョゴニョ歌っている」って言われてたよね? それに対して「歌詞を聴かれるのが恥ずかしい」って福家が言ったら、「歌詞は聴かすもんやぞ! お前ダサいわ~」って怒られてました。

—(笑)。歌詞でいうと、今作収録の4曲は、時系列になっていますよね?

清水:そうなんです。“orange”が夕方で、“monologue”が夜、“tobacco”が夜更けで、“iiwake”が朝というコンセプトにしたくて。ジャケットはそれぞれの曲がテーマになった画像のチェキで、1枚ずつ歌詞カードになっているんです。だからCDの盤面もケースにもデザインが全くされてなくて、曲順も書いてない。時制はつながっているけど物語はそれぞれ独立しているから、いろいろ組み替えて解釈してもらいたいなと。デザインもこだわったところです。

福家:この歌詞カードとジャケットは今回清水が頑張ってくれたところですね。

実際にCDに封入されているチェキ風の歌詞カード
実際にCDに封入されているチェキ風の歌詞カード

YOOKs『Dawn』ジャケット
YOOKs『Dawn』ジャケット(タワーレコードオンラインを見る

100人中100人に70%響く曲と、100人中30人のたちに200%響く曲、どちらも作れる存在を目指したい。(清水)

—今作は、みなさんの捻くれた部分や個性が素直に出ていることもあり、これからがより楽しみになったのですが、バンドとしては今後どのようなあり方を目指して活動していくのでしょうか?

清水:理想でいえば、サカナクションのようなバンドです。サカナクションは自分たちのやりたい音楽と、多くの人に向けて発信すること、どちらもいいバランスでやっていますよね。“新宝島”(2015年)みたいに大衆にも響く音楽もあれば、“さよならはエモーション”(2014年)みたいなコアな楽曲もあるじゃないですか? 100人中100人に70%響く曲と、100人中30人のたちに200%響く曲、どちらも作れる存在を目指したいです。

松井:音楽的なこだわりと誰にでもわかるキャッチーな部分のいいバランスを狙ってやっていきたいよね。それでいうと、前作に入っている“Above the horizon”っていう曲はちょうどいいバランスの曲で。

清水:この曲が僕たちが前作のなかでは一番好きな曲なんですけど、お客さんに一番ウケる曲というわけではないんですよね。そのバランスを取りながら作っていく音楽がやりたいなと。くるりのように、「YOOKsは次何するかわかんないけどワクワクするな」と思ってもらえたら一番いいですね。

松井:くるりみたいに作品ごとに音楽性が変わっても支持してもらうには、ひたすらいい曲を出し続けて信頼してもらうしかないよね。YOOKsが出すなら間違いないって思ってもらえるようになりたい。

松井規広

—くるりやサカナクションを理想像に挙げるYOOKsにとって、同世代のバンドで共感できる方はいますか?

清水:やりたいことと大衆性のバランスを大事にする姿勢としては、evening cinemaの原田(夏樹)くんとは通じるものがあると思います(参考記事:evening cinemaインタビュー 日本のポップス史を継ぐ新たな才能)。彼には「ニュータウンポップって言葉めっちゃずるいと思ってた」って言われましたし(笑)。あとはcinnamonsのギターの青山(慎司)くんも同じような考えでしたね。

—evening cinemaもcinnamonsも関西ではなく東京のバンドですね。

清水:ニュータウンポップの考え方は、東京のほうが受け入れてくれる地盤があるかもしれないです。京都は音楽を一途に頑張っている人が多いですけど、なかなか外に出てこないんですよね。最近やっと、京都でもバレーボウイズとかベランダを皮切りに、外に目を向けるバンドが出てきた感じがしますけど。

—京都のシーンも少しずつ変わりつつありますよね。東京をはじめ、活動範囲が広がっていくなかで、YOOKsにとって京都で続けていくことにはどんな意味があるのでしょうか?

清水:意識的に「このままの生活を続ける」というのが大事なんだろうなと思っています。やっぱり自分たちの生活があるところで作るから、今やっている音楽に意味があると思うんです。上京してしまうと生活感がなくなっちゃうと思いますし。そういう意味では、僕たちがニュータウンポップを掲げるようになったきっかけでもあるtofubeatsさんが、メジャーで活動しながらもずっと神戸を拠点にしているのも大きいですね。

福家:やっぱり生活の基盤を移しちゃうと歌詞も変わってくるだろうしね。ニュータウンポップであり続けるということが、そのまま京都で続けていく意味なんだろうなと思います。

左から:松井規広、福家佑輔、清水佑

リリース情報
YOOKs 『Dawn』(CD)

2017年12月24日(日)発売

価格:1,500円(税込)
ライブ会場、タワーレコード(渋谷店、新宿店、京都店、梅田大阪マルビル店、梅田NU茶屋町店、福岡パルコ店)、タワーレコードオンライン、HOLIDAY!RECORDS、RECORD SHOP ZOOにて販売

1. orange
2. monologue
3. tobacco
4. iiwake

プロフィール
YOOKs
YOOKs (よーくす)

京都発ニュータウンポップ。メンバーは、福家佑輔(Vo,Gt)、清水佑(Ba)、松井規広(Dr)。2015年3月大学の同級生により前身バンド「雨の降る街」を結成。フォークロックやインディーポップ、ポストロックやシティポップ等様々な音楽から影響を受けた「ニュータウンポップ」を掲げ、京都を中心に活動中。



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