箭内道彦×小杉幸一 かつての「憧れ」を取り戻す、広告界の戦い

「もっと小杉の話をしたほうがよかったかな。僕の話ばっかりになってもしょうがないから、パルコのことをたくさん書いてね」

取材のあと、箭内道彦は小さくこぼした。箭内は広告を「自分の好きなものを伝えるお手伝いだ」と表現するが、それは彼自身が日常的に体現する思想なのだと実感した。広告は大きなビジネスで、さまざまな関係者たちの思いが折り重なっている。だからこそ、自分自身のまっすぐな「好き」という気持ちを貫くのは難しい。箭内道彦にはなぜそれができるのだろう? ひっそりと周りを気遣う言葉に、その答えが見えた気がした。GUCCIのジャージに身を包み、金髪を逆立てながら、彼はどこまでも優しく繊細な人だ。

そんな箭内とともにパルコの50周年広告「50年目の、新しいパルコ。」を手がけたのが、アートディレクターの小杉幸一である。「息をするようにデザインをするからこそ信頼できる」と箭内に絶賛される彼は、「パルコアラ」の生みの親。タイプの異なるふたりが共同で制作した、2019年元旦のパルコの広告を緒に、パルコの広告クリエイティブが牽引してきた文化とそこに深く関わってきたクリエイターの思いに迫る。

自分の好きな相手を広告するっていうことしかやってないんですよ。(箭内)

—今回、パルコの50周年広告「50年目の、新しいパルコ。」で一緒にお仕事されたとのことですが、おふたりは博報堂に同時期に在籍されていたんですか?

小杉:いえ、ギリギリかぶってないんですよ。博報堂の内定者には、入社する前に会社の先輩に挨拶する会が設けられていて、社内の大先輩たちと話せる機会があるんです。箭内さんとはそこでお会いしたのが最初ですね。

箭内:僕は偉い人とご飯を食べていたら、なりゆきで参加することになったんですよ。

左から:箭内道彦、小杉幸一

小杉:箭内さんに「おめでとう」って言ってもらって、固い握手を交わしたんですけど、僕が会社に入ったときにはもう辞められてました(笑)。

箭内:小杉くんが入社する4月に、バトンタッチみたいな形でちょうど退社しましたね。

—入れ違いだったんですね。お互いの印象はどうでしたか?

箭内:僕は博報堂にデザイナーとして入社したのに、デザイン専門誌で「デザイン恐怖症」って連載をやってたくらい、基本的に「デザイナー」が苦手なんです。実はもともと、小杉くんは「ザ・デザイン」という人だから近よらないようにしておこうと思ってました。師匠の事務所が「ミスターデザイン」だし(笑)。

箭内道彦

小杉:僕の師匠は佐野研二郎さん(アートディレクター。現在はMR_DESIGN代表)なんです。

—「ザ・デザイン」って、どういうことなのでしょう?

箭内:呼吸をするように、脈を打つように、デザインをするんです。ボーン・トゥ・ビー・デザイン。デザインが「手段」になる人もいますよね。お金のため、社会をよりよくするため、モテるため。小杉くんはそのどれでもないんです。色とか質感とか、プリミティブな細部を愛している。理屈で整理しているんじゃなくて、手で整理しているんです。だからとにかくデザインが巧くて信用できるんですよ。

—小杉さんから見て、箭内さんはどんな印象でしたか?

小杉:僕が大学時代に憧れていた広告クリエイティブの世界では、一人ひとり違った個性を持った先輩たちが活躍されていたんです。自由でやんちゃな人がたくさんいて、箭内さんはその象徴。そういうクリエイティブのあり方が植えつけられていたから、逆に自分はどうしよう、と悩んでいました。

小杉幸一

—箭内さんは、「広告」というものをどう捉えているんですか?

箭内:思い切って言うと、広告で「世界平和」を目指しています。もちろん、実際にはそれをブレイクダウンして、「みんなが元気になる」とか、「笑顔になる」とか、「頑張っている人たちを応援する」とか、「いいものがあったら代わりに自慢させてもらう」とかってことになりますね。

あとは、人の魅力を伝えることですよね。広告は応援することであり、本人すら知らなかった対象の魅力を見つけて引き出すことなのかなって思っています。

—箭内さんの広告には、いつもそれを感じますね。

箭内:2008年から3年間、『トップランナー』(NHKで放送されていた番組)の司会をやっていました。なんで広告を作る人が司会をやるのか自分でもわからなかったんですけど、そこにきてくれる人を30分という番組の中で広告する仕事だって思ったら、全部同じだって気づいたんです。

僕は「自分の好きな相手を広告する」っていうことしかやってないんですよ。音楽も故郷の福島も好きだから伝えたい。広くやってますね、って言われるんですけど、やってること自体はすごく狭いんです。

—広告って一般的には、「面」で伝えるものだとされることが多いですが、箭内さんは一人ひとり「個」の顔を見て、人に向き合って仕事をしている、とこれまでの仕事を見て感じていました。

箭内:まさにそうなんです。『広告批評』(マドラ出版株式会社発行の月刊誌。2009年に休刊)の編集者に、「箭内さんのやっていることは広告じゃなくて編集だ」と言われました。その頃は意味がよくわからなかったんですけど、編集って、みんなを代表して面白い人に会いにいって、それをみんなに伝える仕事じゃないですか。『月刊 風とロック』を作っている中で、そこにシンパシーがあると気づいたんです。編集的な広告というか、広告的な編集というか。

パルコはたくさんの人格があって、いい意味で多重人格なんです。(小杉)

—これまでおふたりが一緒に手がけた広告について教えてください。

小杉:「ふくしまプライド。」という福島の農産物の魅力を伝えるプロジェクトが最初ですね。あとは、いまはまだ言えない仕事もあったり。

福島県「ふくしまプライド。」ロゴ

箭内:あと、一緒にプレゼンに負けたり。

一同:(笑)。

—いままでのお話を聞いていると、競合プレゼンだとしても、「勝つための提案」をされないんじゃないかな、と思いました。

箭内:そうなんですよ。勝つために提案するよりは、「こうしたほうがいいのに」っていうおせっかいの広告を提案するんです。だから勝率10割には絶対なれない。

—パルコの広告の取り組みは、どういったきっかけではじまったんですか?

箭内:パルコって、やっぱり広告業界では憧れの仕事で、「いいなー」ってずっと見ていて、ある日「こんなCMを作るべきだ」というデモテープを送ってみたんですよ。そうしたらパルコの担当の方がすぐ電話をかけてきてくれて、「頼んでもないのに送られてきたのは初めてだ!」って感激してくれたんです。その2年後くらいに「やっと仕事を頼めるときになりました」って、広島パルコの新館オープンのお仕事をいただきました。それからはずっとやらせていただいています。

小杉:僕は「パルコアラ」ですね。博報堂として自主プレゼンをしました。自分にとっては大きなターニングポイントになる仕事でした。

小杉幸一が手がけた「パルコアラ」パルコ50周年ビジュアル
小杉幸一デザインのパルコ50周年ロゴ
パルコ「2017年夏のグランバザール×映画『怪盗グルーのミニオン大脱走』」。人気キャラクターとのコラボも。

箭内:昔パルコの担当の方に「パルコの仕事をすると会社をやめて独立するよ」と言われて、それで暗示にかかって実際に会社をやめたんですよ。小杉くんもそろそろですかね(笑)。

一同:(笑)。

—それはどうしてなんでしょう?

箭内:パルコはちゃんと頼りにしてくれて、ちゃんと褒めてくれて、ちゃんと輝かせてくれるから、ですかね。

小杉:僕はパルコに育ててもらって箭内さんともつながったし、いろんなカルチャーにつなげてもらったな、と思っています。

—パルコという会社は、クリエイターに対するリスペクトがあるんですね。

箭内:そうですね。パルコという会社は広告の捉え方も独自です。ポスターを作れば、隅っこに「Not For Sale」って文言が入っている。広告ではなく商品に近い感覚なんですよ。そういう姿勢で広告を作っている会社って、ほかにはないですね。

—百貨店・ファッションビルの広告って独特なものですよね。機能訴求ではないからこそ、表現が試されるというか。

小杉:企業ってひとつの人格で表現することが多いんですけど、パルコはたくさんの人格があって、いい意味で多重人格なんです。いろんな側面を持っている魅力的な人。「パルコアラ」で僕は親しみやすい側面を任されたのかなと。そういう顔を分けることで奥行きのあるブランドを作っているのかなとも思います。

箭内:「パルコはからっぽだ」ってパルコの方が言っていたんですけど、僕もそう思っていて。パルコって新しいものが入る空洞なんですよ。僕自身、自分のことをからっぽでなんでも入ると思っているから、そこに共感できるんです。

2011年以降、パルコはクリエイターの活動をサポートする意思を示す「インキュベーション」という言葉を理念に掲げているんです。それまで続いてきた広告の作り方が、この10年近くで変わっていっているんですよね。「なんでもいいからドカンと当ててよ」じゃなくて、企業の意志や夢とか、社会に対する願いをパルコは持っているから、それを僕と小杉でイタコのように形にしているんです。

やるべきことをやって揶揄されることを怖がっちゃいけない。(箭内)

—「SPECIAL IN YOU.」(2014年からパルコが掲げるコーポレートメッセージ)のキャンペーンは、どのように生まれたんですか?

箭内:「LOVE HUMAN.」(2010年にスタートしたパルコのコーポレートメッセージ)の後継という位置づけでした。パルコさんの広告は、まさに応援なんですよね。「SPECIAL IN YOU.」は、広告を見ている人を肯定しながら追い詰めていく。すごい人を広告に出して、「これを見ているおまえもすごいんだよ」って言われたら、「ヤバい」って思うじゃないですか。

パルコ「君も、特別。セイント・ヴィンセント編」メインビジュアル。世界的な女性シンガーソングライター兼ギタリストのセイント・ヴィンセントを起用した。
パルコ「君も、特別。セイント・ヴィンセント編」60秒ムービー

—アメリカのニュース雑誌『TIME』の2006年の「Person of the Year」に「YOU(あなた)」が選ばれたんですよね。パルコのコーポレートメッセージが「HUMAN」から「YOU」へ変わっていったのは、社会の主権が一人ひとりにあるということを象徴しているようにも感じられました。

箭内:すごい(笑)。

—「個人の時代」という話題に関連しますが、SNS時代になって炎上やバズることが広告業界でも話題になっています。これらをどのように捉えていますか?

箭内:炎上は……したくないですよね。しかし、「クレームのこない広告は届いていない広告」という話もあります。誰かを傷つけることは論外ですが、なにか新しいことに挑んだ結果、新しいことを好ましく思わない人から攻撃をうけるとか、やるべきことをやって揶揄されることを怖がっちゃいけない。もちろん広告を作るときは、どういう反響があるか考えながらやりますけど、そこにだけ合わせていくと、やるべきことを見失ってしまう。

デザインもコピーも企画も、炎上に対する予防線をはるのではなく、炎上を超えていくものを作る。企業がメッセージを持つことが増えてきていますが、過去の広告の技術だけで挑んでいくと炎上してしまうケースもある。企業がなにかを言うだけでなく、実際の行動が伴っていることも非常に大事ですね。

—箭内さんは、マスでもなければインターネットでもない、独自のポジションなんだな、と思います。

箭内:そうなんですよ。突き抜けないんです。博報堂で鍛えてもらったことが大きいですね。あそこのクリエティブは、いろんな人が得意な陣地を持っているから、重なってしまうと表に出られないし、自分にそもそもできないことをやろうとしても仕方ないって気づく。

小杉:学校みたいですよね、博報堂は。

箭内:中間テストのように仕事の順位が出るし、誰にカップヌードルの仕事がきた、とかで一喜一憂するしね。

2019年、2020年は、なにに憧れてなにを理想とするかが問われはじめると思うんですよ。(箭内)

—今回、おふたりが手がけたパルコ50周年の広告には、どんな意図が込められているんでしょうか?

箭内:「店舗のオープン」という出来事まで含めて広告だと思っていて。だから建て替え工事中の渋谷パルコの写真を使用しています。今年パルコは4施設がオープンするんですけど、そのアンカーが渋谷なんですよ。

「50年目の、新しいパルコ。」ポスタービジュアル

小杉:今回改めて実感したのですが、箭内さんはとにかくジャッジが早いんです。どんどん作ったものを見てもらって、方向性を合わせていくんですよね。ここで終わり、ではなく動き続けて、完成を目指し続けるというか。

箭内:ジャッジは実際早いし、早くありたい、早く見せようと思っています。じっくり考え過ぎて煮詰めちゃうよりも、寿司をにぎってすぐに食べてもらうみたいなスピード感で、ホヤホヤな状態で作品を出すほうがいいんですよ。

建て替え工事中の新生渋谷パルコの前にて

—百貨店・ファッションビルの広告の歴史を振り返ると、かつては「憧れ」を作るものでした。そこから、親近感とか共感が重視される時代がきて、パルコはもう一度憧れに戻りながらも、「YOU」で主権を受け手に渡しているように感じます。

箭内:広告は一度「憧れ」じゃなくなったんですよね。機能とか共感ってところに、世の中みんなで逃げていったような気がします。楽だからね、共感は。憧れなければ傷つかないし、夢を持たなければ挫折しない。

だけど2019年、2020年は、なにに憧れてなにを理想とするかが問われはじめると思うんですよ。だから、未知の場所に行こうとしている人を応援したり、自分もついていってみたり、自分は違うところに行ってみたり。これから試される時代になると思います。

—誰もがSNSで好き勝手言える時代だからこそ、ちゃんといい方向に進もうって道しるべになる広告が生まれるのは、素晴らしいことですよね。

箭内:まさに世の中が「パルコはどうするのか、お手並み拝見」と楽しみにしていると思いますよ。50年目になにをするのかって。

サイト情報
『パルコ50周年キャンぺーンサイト』

2019年1月1日からスタートしたパルコの50周年キャンペーン「50年目の、新しいパルコ。」の特設サイト。同サイトでは、インタビュー企画や謝恩企画など、随時情報が更新される予定。

プロフィール
箭内道彦 (やない みちひこ)

クリエイティブディレクター。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、リクルート「ゼクシィ」等、数々の話題の広告をディレクション。「SPECIAL IN YOU.」「Last Dance_」他、パルコの宣伝クリエイティブを長く手掛けている。「月刊風とロック」発行人、福島県クリエイティブディレクター、渋谷のラジオ理事長、2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場した猪苗代湖ズのギタリストでもある。東京藝術大学准教授・学長特別補佐。

小杉幸一 (こすぎ こういち)

クリエイティブディレクター / アートディレクター。ブランディング、イベントのほか、空間、テクノロジーを使った従来の型にはまらない広告のアートディレクション、アパレルブランドとのコラボレーションなど幅広く活躍。主な仕事に、PARCO「パルコアラ」、福島県「ふくしまプライド。」、資生堂「50 selfies of Lady Gaga」、SUNTORY「特茶」、SUZUKI「HUSTLER」「XBEE」、STARFLYER「輝く人へ、」、ジャニーズ事務所「CI デザイン」、YMO「YMO40」、築地玉寿司「もじにぎり」、B&B「CI デザイン」などがある。主な受賞に、東京ADC賞、カンヌライオン国際広告祭デザイン部門<GOLD>、JAGDA新人賞、JAGDA賞、D&AD、NY ADC、ONE SHOW<GOLD>、ACC賞<GOLD/SILVER>、ギャラクシー賞、ADFES<GRANPRIX>など国内外多数受賞。多摩美術大学非常勤講師



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