曽我部恵一と語る、個に還れない時代のリアル 人はなぜ踊るのか?

曽我部恵一が8月に配信で発表した「2020年夏の3部作」を、限定プレスでフィジカルリリースした。ハウシーな“永久ミント機関”、終戦記念日に作られた“戦争反対音頭”、そして2018年作『ヘブン』をバンドで再現したライブ盤『LIVE IN HEAVEN』。サウンド面での志向性は異なった3作の共通項をあえて挙げるならば、ダンス、あるいは踊るための場所への再考察を内包した音楽、と言えるのかもしれない。お祭りやフェス、イベントが軒並み中止になるなど、このコロナ禍は、ダンスの場を我々から奪った。今では、多くのクラブやライブハウスが最大限の配慮をしながら営業を再開しているものの、大半の人々にとって踊ることへのハードルは依然高いままだろう。

そんな2020年の秋、曽我部恵一に話を訊きに下北沢へと向かった。場所は、曽我部が春にオープンした「カレーの店・八月」の上階に位置するPINK MOON RECORDS。所せましと並ぶ中古レコードに囲まれながらの取材には、クラブミュージックから音頭や民謡までダンス音楽に精通しており、日本各地のさまざまな「踊りの場」を見てきたライターの大石始も参加。ふたりの対話は、コロナ禍の時代にリアルな音楽とはどんなものかに、思索を巡らすものとなった。まずは、『LIVE IN HEAVEN』“戦争反対音頭”を中心に、人はなぜ踊るのかを考察した前編から。

曽我部恵一(そかべ けいいち)
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのボーカリスト / ギタリストとして活動を始める。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル『ギター』でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント / DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス / ソロと並行し、形態にとらわれない表現を続ける。
曽我部恵一“永久ミント機関”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

ダンスミュージック、クラブ、音頭、盆踊り……私たちはなぜ踊るのか、踊ることは生きるのに必要か?

―いろいろと制限された世の中ですけど、曽我部さんと大石さんは最近踊れていますか?

曽我部:踊れてないですよ。

―そうですよね。

曽我部:だって盆踊りとかお祭り系も全部中止ですからね。

大石:ほとんど中止か、神事だけはやるとか。人が集まるお神輿とかはなかなかやれない。結果として何のためにお祭りや盆踊りをやっているのかを見つめ直す時期になっている。

―大石さんは盆踊りに足を運ぶことがライフワークのひとつにもなっていると思うんですけど、今年行けないことの影響はありますか?

大石:毎年夏になると盆踊りに行ってたから、単純に盆踊りに行かないと、調子が悪いんですよね。踊ることによって精神を保ってた感じがします。

曽我部:やっぱストレスとかから解放されるんでしょうね。

大石:まさにそうですね。おそらくクラブも同じだと思うんですけど。

曽我部:うんうん。たぶんイギリスの1960年代に労働者が週末ノーザンソウルのパーティーで踊ったり、1990年代の若者がレイヴに行ったりするのと同じ理由なんでしょうね。

―若いDJの子やイベンターと話しても、コロナ以降、パーティーがいかに自分の肉体的 / 精神的な健康に必要だったかを実感したと言っていました。自分の生活習慣のなかにあったものがパッとなくなっちゃうと、当然負荷はかかりますよね。

曽我部:ライブもそうですよね。平日働いて、週末はライブに行く人たちも多いだろうし。

大石:ライブの場とかクラブって音を浴びることもそうですけど、友人たちと集まって他愛のない話をするのも大きいですよね。酔っ払って次の日には忘れちゃうような話をすることが大事だったんだなって。

左から:大石始、曽我部恵一、田中亮太 / 取材は曽我部が運営する「PINK MOON RECORDS」で実施した

曽我部:大石さんは盆踊りに行ったとき、お酒も飲むんですか?

大石:飲みますね、でもなぜかあまり酔わないんですよね。飲んで高揚はするんだけどだんだん気持ちは内に入っていくっていうか、だからクラブで踊ってる感覚に近いと思う。みんなでわーわー話すより、ループするビートに合わせて踊りながらだんだん一人になってく。

曽我部:へーそうなんだ。意外。

大石:そういうのがなくなったときにどうやって精神を保つのか。盆踊りを含めたダンスミュージックがなぜ人間に必要なのか、すごく考えていますね(関連記事:もう一度私たちが集まれるように。祭り、盆踊り開催の行方)。

―曽我部さんは、踊れない状況が自分に与えている影響はありますか?

曽我部:俺はないな。踊りに行く習慣がそもそもないから。ダンスミュージックも好きだし、クラブに好きなDJを聴きに行ったりはするけど、週に1回は踊んなきゃとかはない。

大石:たとえばクラブに行くとき、曽我部さんは踊ること以外に何を求めて行くんですか?

曽我部:僕は音楽ですね。家でレコードを聴くのとそんなに変わらない。それが知らない音楽であっても。

大石:知らない音楽に出会える場って側面もありますよね。

曽我部:踊ることによって精神が変容していくような体験を求めてるわけではないですね。単純にいいDJがいい音楽をかけて一晩で空気を作るのを体験する。演奏会を観に行く感じと一緒かもしれない。この音楽のここいいなとか、このDJはこういうふうに世界観を作っていくんだなとか。それはバンドを観るときも一緒ですね。僕はどこで音楽聴いてもそういう感じかもしれない。どっかで自分にフィードバックさせようと思ってる。

「本当に言いたかった言葉を捨てて、韻を踏みにいくこともある」ーー曽我部恵一が模索した独自のラップのスタイル

―7月14日に渋谷のWWW Xで行われたライブを収録した『LIVE IN HEAVEN』では、2018年にリリースしたソロアルバム『ヘブン』をバンドアレンジで演奏しています。自分にどう活かすかを考えながら音楽を聴いているとのことですが、完全に曽我部さん一人で、しかもサンプリングを中心に制作した『ヘブン』を、バンドで演奏するというアイデアはどういうふうに浮かび上がったものなんでしょう?

曽我部:オファーをもらったときは『ヘブン』の曲をライブでやってほしいってだけ言われたんです。ラップの人たちのライブって、DJとラッパー2人でやるのが多いと思うんだけど、あれってラッパーじゃないと無理だと思うんですよ。俺が急にやっても絶対無理だと思った。

曽我部恵一“文学”を聴く(Apple Musicはこちら

曽我部恵一“文学 (LIVE IN HEAVEN)”を聴く(Apple Musicはこちら

曽我部:そんなときにMC松島のライブを観て、彼は一人だけでライブをしていたんですよ。CDJを自分で操作し、マイクスタンドを立て、譜面台にノートを置いて、それを読みながらラップしてたのね。それはたぶん、ステレオタイプなスタイルに対する提案で。

それを観たときにこういう形でやってみようかなと思ったんだけど、PUNPEEくんに会ったときに相談したら、「曽我部さんはミュージシャンだから、ステージを自分の部屋みたいにして、楽器を触りながら再現するのがいいと思う」と言ってくれて。それもいいなーと思いつつ、じゃあサックスはこの人に吹いてもらうのがいいな、とか考えてたら結局バンドになっちゃった。

大石:いかにもラッパー的なステージングを、自分でやることに対する抵抗感があったと。『ヘブン』ってアルバム自体も、ベタなライミングやフロウから遠ざかったところでラップをしようとしてる感じがありましたよね。

曽我部:自分にしかできないものをやっぱりやりたいんです。ラップやヒップホップのスタイルはこうだからこうやるじゃなくて、自分から出てくるヒップホップやラップって何なんだろうって。結果的に、漫画で言ったらつげ義春みたいな世界観っていうか、ちょっとシュールな夢のなかみたいな、自分の心象風景を描いていくものになりました。僕はまずビートから作るんです。で、それをずーっとループさせて、自分からどんな言葉が出てくるかを待つ。

大石:歌ではなくてラップをのせるってことは、コンセプトとしてあったわけですよね。

曽我部:そうです。つまりメロディじゃないってこと。僕の場合は、ラップを非メロディ音楽と捉えていて、Aメロ、Bメロ、サビ、みたいな構成も気にしなくていい自由な音楽なんです。

大石:結果的に普段とは違う言葉の感覚や組み立て方が出てきて、それがつげ義春的なものを生み出した。

曽我部:歌だったら使わない表現や比喩、発しないメッセージがなぜか出てくるんですよね。『ヘブン』のなかに、“mixed night”っていう曲があって、この曲は、僕のイメージでは下北のSLITS(1995年に閉店したクラブ)みたいなクラブの、あんまり人が入ってない日の朝3時とか4時とかの情景を描いていて。カウンターでぐったり飲んでて、でも近くにいる可愛い女の子が気になっていて……みたいなシチュエーションの曲なんです。

曽我部恵一“mixed night”を聴く(Apple Musicはこちら

曽我部恵一“mixed night (LIVE IN HEAVEN)”を聴く(Apple Musicはこちら

曽我部:普段はそういう曲を作ろうと思わないんですね。でも、この曲は最初にすごくメロウなビートがあって、それをループして聴いているなかで、そういう風景が見えてきた。

大石:面白いですね。ラップミュージックというアウトプットになったときに、普段とは違う景色が出てくるっていう。

曽我部:不思議ですよ。箱を先に用意して、その後でそこへ入れるものを作るっていう。僕は「自己表現しなきゃいけない! 内容がないといけない!」みたいなアーティスト意識がどっかにあるんです。でも、ラップを作るときは、まずビートがあって、そこにどんな言葉が入るかだから、すごく楽っていうか自由。ただ、韻を踏まなきゃいけないので、本当に言いたかった言葉を捨てて、韻を踏みにいくこともあるんです。

―『ヘブン』のトラックはサンプリングから作っていったそうですね。

曽我部:レコード買って、ここ使えるなという場所をずっと探してました。「ここのイントロ絶対使いたい!」とか。ホントは今、ダメだけどね。

大石:今はこの辺のレコードを使いたいとか、時期によって傾向はありますか?

曽我部:なくなっちゃいましたね。今これ聴いてるとか、今なんかこういうのにハマってるなとかは。

曽我部恵一“野行性”を聴く(Apple Musicはこちら

曽我部恵一“野行性 (LIVE IN HEAVEN)”を聴く(Apple Musicはこちら

大石:自分のそのときどきの精神状態に、この音楽はフィットする / しないみたいな感覚もなくなってきた?

曽我部:うん、それがいいことかどうかはわからないんですけど、今はちょっとこういうの聴けないなぁっていうのがない(笑)。何でもよさがわかるようになっちゃって。

大石:それ、すごい境地ですね(笑)。このお店(PINK MOON RECORDS)をやっていると、いろんなレコードが中古買取でくるわけじゃないですか? 自分が全然好きじゃないようなタイプの音楽もあるだろうし、そういうのも聴くことから「何でもいい」というところにたどり着いたんですか?

曽我部:かもしれないですね。あとはまあ、そうなろうとしてるんだと思う。

大切なのは、その音楽の聴き方を理解すること。レコード屋の店主として、音楽家として現在の感覚を語る

曽我部:円盤の田口さん(高円寺のレコード店・円盤の店長の田口史人)が手作り本のシリーズ(『円盤のレコブック』)を出しているんですよ。こないだ出た小椋佳がテーマの号を「小椋佳とかちゃんと聴いてこなかったなあ」と思って読んだら、ディスクガイドとして小椋佳の聴き方を書いてるわけですよ。

小椋佳はBUDDHA BRANDがネタにしたから聴く人は聴くんだけど、全部聴いてる人はなかなかいないと思う。でも「小椋佳はこういう聴き方があるんだよ」って言われて聴いてみたらいいわけ。ってことは、たぶん何であってもよさがあるんだろうなと思うんだよね。

で、聴き方がわかったうえで向き合うと、きっとよくないのもあるんですよ。昔、ある人が「ある作家を好きになったら、全集を読むべきだ。そしたらその作家の人間性というのがよくわかってくる」と書いてたんだけど、そういうことかな。だから全集を読むように、あるアーティストと付き合えば、絶対その人のよさもしょうもなさも見えてくる。音楽の聴き方も、「今これが好き」ってものにこだわるより何でもトライしたほうが面白い気がするんです。

―PINK MOON RECORDSで売っているレコードって、曽我部さんのなかで置く / 置かないみたいな線引きはあるんですか?

曽我部:たとえば買取がバーンとくるじゃないですか、そのなかで一番いいのは俺が自分のものにします(笑)。

大石:買取のときに聴いてみて、「これ売れないな、これはダメだ」みたいなものも当然あるわけですよね。

曽我部:そこなんですよ、そこが書き方なんです。

―コメントカードの書き方?

曽我部:そう。「ここを聴けば全然買えますよ」ってポイントを書いていくんです。田口さんの本読むまで、ムード歌謡や演歌は店頭に出さないでいたんですよ。でも今は演歌もトライできると思う。

シティポップも同じで、山下達郎さんの『FOR YOU』(1982年)も僕らの世代だと誰も見向きしないレコードを若い人たちがもう一度聴き方を教えてくれた感じがするんだよね。音頭とか民謡とかも、そういう面ってありません?

大石:たしかに民謡とか音頭とかも、聴いてると何でもよくなってきて、そもそも何がよくて、何がダメかの境界線がわかんなくなってくる(笑)。そういう聴き方の変化ってコロナ禍に入って外出自粛期間が関係しているところもありますか?

曽我部:どうなんだろ、あまり意識して考えてないですね。でもきっとあるんでしょうね、生活の様式が変わっちゃってますから。思考とか感覚も変わっているはずだと思う……なんか刺激を求めてるような気はするね。ラーメン二郎とか食いたくなるし。

一同:(笑)

曽我部:エコとかスローライフ的なものへの興味がなくなったかもしれない。それは今すごくやりやすいじゃないですか。逆に、俺は並んででも二郎食べたい。俺のストレスはそういうところに出てるのかも(笑)。体にいいものをあまり求めないっていうか、むしろケミカルなものを欲しくなってくる感じがありますよね。音楽もそうかも。DJ Hellとか今いいもん。

大石:ラーメン二郎を食べたくなっちゃうような感覚っていうのは、コロナ禍以降の曽我部さんの音作りにも反映されている?

曽我部:うーん、何を作りたいのかわかんなくなってますね。若い頃はもっとまっすぐに「こういう音楽やりたいなあ」と見えてたんだけど、今は自分から何が出てきてもOKじゃんという態度だから、何をお見せするべきか取捨選択がすごく難しいです。弾き語りでもいいし、この間出した“戦争反対音頭”のように打ち込みでマシナリーだけど日本の音楽、みたいなものでもいい。別にあれがやりたいわけではなく、「これが出てきたんけど、これもいいよね」って感じ。

「ラップや音頭も同じダンスミュージックってことなんだと思う」

大石:“戦争反対音頭”は、どんなふうに曽我部さんのなかから出てきたんですか?

曽我部:もともと僕、夏に音頭のミニアルバムを作ろうかなと考えてたんです。で、いっぱい作ったんですよ、「Go to 音頭」とか。

一同:(笑)

曽我部:「大東京ロックダウン音頭」とか。なんか小田島(等)くんたちがBEST MUSICで“STAY HOME音頭”を出したり、切腹ピストルズが向井(秀徳)くんや小泉(今日子)さんとかと“日本列島やり直し音頭二〇二〇”を作ったりしたじゃない。音頭って入れものとしてめちゃくちゃ楽っていうか、受け口が広いんです。

曽我部:近田(春夫)さんが1980年代の終わりぐらいにインタビューで「何でラップやってるんですか?」って聞かれて、「ラップはバカ話やエロ話もできるし、真剣なメッセージも伝えられる」って言ってたんだけど、音頭もそうで。瑣末なことを歌ってもいいし、超重要なメッセージを入れてもいいし、それをミックスさせてもいい。そのメッセージは踊るための音楽として受け取られるから、それは筆で書いてベタって貼ったようなものとは異なる気がして。

で、いろんな音頭を作るなかで、このコロナ以降の世の中を斜めから揶揄するっていうか、政府を攻撃するような歌もいっぱいできたんだけど、もっとど真ん中のメッセージがあってもいいよなと思ったときに、“戦争反対音頭”ができたんです。そうすると、もうこれだけでいいかなって思ったんだよね。

曽我部恵一“戦争反対音頭”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

曽我部:それと同時に、久しぶりにDaft Punkの“One More Time”を聴いたら、いいなあと思って。フランスの男の子たち2人組から、この音楽が生まれたのってすごいなと。まさしくフランスのものだし、フレンチハウスの完成形でありスタート地点でもある。でもアメリカンポップスでもあるじゃないですか。こういうのを日本でできたらいいなあと思っていて、それが自分のなかで“戦争反対音頭”に繋がったんです。

“One More Time”の12インチは片面収録で出してたから、俺も7インチはワンサイドにして(笑)。実は当初B面に「Go To音頭」を入れようとしてたんだけど、歌詞に問題点が見つかったんです。どんな曲かって説明すると、九州に単身赴任してる若い夫ーー奥さんと赤ちゃんを東京に残している男がいて、彼がGo Toキャンペーンを使って、東京に戻るっていう歌。でも自粛警察がいるから、出張のふりして背広で戻るんです。半額のチケットを買って新幹線に乗っていると、途中で富士山が見えてきて、明日も頑張ろうと思うっていう曲。

大石:めっちゃよさそう。

曽我部:そう、いい曲だったんですけど、そうしたら、うちのマネージャーが「今、東京はGo To施策の対象外です」って(笑)。歌詞に大きい穴があって、これはどうしても無理だなと思ってやめたんですけど。

大石:なるほど(笑)。今は東京もGo Toの対象内ですから、またのタイミングで発表してほしいですね。そういうストーリー性のある曲も、音頭っていう箱があれば出せるっていうことですよね? ラップっていう箱だと、つげ義春的なものになるし、音頭であればストーリーになる。

曽我部:うん、だからラップや音頭も同じダンスミュージックってことなんだと思うんですよね。何を言ってもいいっていうか、こういう歌詞じゃないとダメだよっていう制約があんまりない音楽。でも、ロックは、成り立ちとして「こういうことを歌うものだ」っていうのがちょっとある。

音頭は非伝統的な都市文化でもある。ラップミュージックやテクノがアップデートされるのと同じように、音頭も変わっていく

大石:その話をふまえると、今の曽我部さんはダンスミュージックを広く捉えてるっていうことですよね。“戦争反対音頭”が出たあとに、ケニーさん(CRZKNY)のものを筆頭にいろんなリミックスが非公式な形で出たじゃないですか。ああいうミーム的に拡がってく感じもダンスミュージックだなって感じがしました。いろんな人があのネタで遊べるというか。

曽我部:そうそう。でも言ってることは、ギャグでも斜に構えた言葉でもない、ど真ん中のメッセージ。だけど、音頭ってとこで、みんなが遊べちゃうと思うんですよね。たとえばジョン・レノンがピアノで弾き語りしたような曲だったら怒られちゃうかもって考えるじゃないですか。音頭ゆえの間口の広さやハードルの低さがあるんだと思う。

―大石さんは音頭にも精通しているかと思うんですけど、音頭史的に曽我部さんの“戦争反対音頭”はどういう位置づけができますか?

大石:音頭の「ドドンガドン」のリズムって日本の伝統的なものだと言われたりもするけど、実際はそんなに昔からあったものじゃないんですよ。「ドドンガドン」って形に整理されたのは昭和、“東京音頭”以降だって僕は思う。「伝統的なものですよ」ってフリをしておきながら、実は非伝統的な都市文化でもあるんですよ。

だから、“FUCK YOU音頭”では生演奏が入っていたのが、“戦争反対音頭”ではよりマシーン的な打ち込みになっているけど、それは正しい進化だという気がした。音頭だから三味線のせればいいじゃんっていうことではなく、都市文化のひとつとして、それこそラップミュージック、テクノもクラブもあるなかで、音頭も変わっていっていいと思う。

サニーデイ・サービス“FUCK YOU音頭”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

曽我部:なるほど。「これは日本伝統の文化ですよ」って顔をしながら、音頭もどんどん時代に合わせてブラッシュアップしていったのか。

大石:“東京音頭”以降は、上にのせるものもある種なんでもありになって、ノベルティソングやアニソンも作られて……みたいな。「ドドンガドン」のリズムだけ守りながら俗的なものを取り込み続けていくという。

曽我部:アナーキーですね。最高です。

誰もが社会の一部であることを強く自覚させられたコロナ禍。その反動で表出した、個に還ることへの欲求

―『LIVE IN HEAVEN』の発起点からはじまり、大石さん解説の音頭少史までと、シームレスに話題が移行していきましたが、実際のライブや音楽の現場がコロナ禍以降どうなっているか、それが聴き手に与える影響はどんなものかを、この前編の締めとして考えたいです。『LIVE IN HEAVEN』のライブは人数制限ありの有観客で、かつダイブやモッシュはもちろん歓声も禁止という状況での演奏だったそうですが、やってみていかがでした?

曽我部:ちょっと変な感じでしたよ。『ヘブン』の音楽自体が一人のつぶやきというか、すごくパーソナルなものだから、まずそれを合奏してるってことが変で。微妙な居心地の悪さというか、それとは逆にエモーショナルに演奏すればするほど気持ちよさも感じて。

曽我部恵一『LIVE IN HEAVEN』を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

大石:曽我部さんが声を強く荒げても、お客さんにキャッチされず、ずーっと宙を舞ってる不思議な感じがありましたね。演奏する側と聴き手のあり方が、ダンスミュージック的だと思った。体を動かすことが制限されていることも含めて、その音楽の鳴り方は、コロナ禍においてすごくリアルに響いている。解放されていく感じと制限されている感じが共存しているんですよね。

曽我部:このアルバムは「曽我部恵一コロナ禍ライブ」ってタイトルでもよかったなと思っていて。この時期じゃないと、ああいう感じのライブにならなかっただろうから。

―今後ライブのあり方はどのようなものになっていくんでしょうかね。

曽我部:どうなんですかね。ライブハウスやクラブの今後もそうですけど、そこに行けない人たちの精神状態や暮しがどうなっていくのかっていうのが気になるよね。俺も映画とかやっぱ行ってないもん。

―あー、そうですか。

曽我部:やっぱりなんか行く気になんないんだよね。映画館だと、席を空けているくらいだと思うけど、でもなんか今までと違うなと感じながら、観るのは嫌だなって。映画に行くことって自分のなかでの非日常というか、日常から離れて一人でスクリーンに向かう体験はすごく重要な癒しをもたらしてくれるものだったんで。

―その非日常的な時間がない影響ってすでに感じられています?

曽我部:まだ感じないんだけどどっかに出てくるんだろうね。今、逃避が少ないからさ。映画を観に行くのって現実逃避だし、社会と関係ない個になるってことだと思う。音楽も基本的にはそうですよね。最初に、大石さんも祭りで踊ることで個に没入できるとおっしゃってたけど、自分が映画に行く理由もそう。どっかで個になりたいんですよね。今は、それがなくなってるのかな。誰もが社会にすごくベターってくっつけられて生きている感じ。

大石:一人きりになれる場所が、パブリックがなくなることによって、むしろ少なくなっている印象はありますね。

曽我部:映画館もクラブも本来はそういう場所だよね。みんなで個になって、そこにいるっていう。

リリース情報
曽我部恵一
『永久ミント機関』(限定盤12インチ)

2020年10月16日(金)発売
価格:1,870円(税込)
ROSE 253

[SIDE-A]
1. 永久ミント機関

[SIDE-B]
1. MELTING 酩酊 SUMMER

曽我部恵一
『戦争反対音頭』(限定盤7インチ)

2020年10月16日(金)発売
価格:1,100円(税込)
ROSE 254

[SIDE-A]
1. 戦争反対音頭

曽我部恵一
『LIVE IN HEAVEN』(限定盤LP)

2020年10月16日(金)発売
価格:2,970円(税込)
ROSE 255X

[SIDE-A]
1. 野行性
2. フランシス・ベーコンエッグ
3. 文学
4. mixed night

[SIDE-B]
1. Gravity Garden
2. Big Yellow
3. 花の世紀

曽我部恵一
『LIVE IN HEAVEN』(限定盤CD)

2020年10月16日(金)発売
価格:2,200円(税込)
ROSE 255

1. 野行性
2. フランシス・ベーコンエッグ
3. 文学
4. mixed night
5. Gravity Garden
6. Big Yellow
7. 花の世紀

プロフィール
曽我部恵一
曽我部恵一 (そかべ けいいち)

1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト / ギタリストとして活動を始める。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル『ギター』でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント / DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス / ソロと並行し、形態にとらわれない表現を続ける。2020年8月、『永久ミント機関』『LIVE IN HEAVEN』『戦争反対音頭』を立て続けに発表。10月にはこれら3タイトルを「2020年夏の3部作」と銘打って限定プレスでフィジカルリリースした。

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