イラストレーターmameが打ち明ける、いま「あの頃」を描く理由

20歳で味わったプロとしての挫折と、30代で最後の再起

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年は楽しみにしていたイベントも軒並み中止。スマホの画像フォルダをたぐってみても、思い出に残るような写真がほとんど残っていない。2020年を振り返ると、ほぼすべての人がそんな状況だったのではないだろうか。

本当なら残っていたはずの家族や恋人、友人たちとの「思い出」を人気イラストレーターが描き下ろし、そのイラストをプリントしたトートバッグをプレゼントするキャンペーン『思い出を描き変えよう』が、家庭用ミシンでお馴染みのブラザー社により実施された。

本キャンペーンの参加イラストレーターの中から今回紹介するmameは、レトロとモダンを組み合わせた「ありそうでない世界」と、そこで暮らすキュートなカップルや女の子を描いて人気上昇中のイラストレーターだ。

mameの作品に出てくるキャラクターたちは、髪型やメイク、ファッションなどどこか1980~90年代初期を思わせる。そうした作風は、mame自身が1980年代生まれであることが大きな影響を及ぼしているようだ。

mame:自分の幼少期の記憶、例えば「こういうトレーナーを着ていたな」とか、「家の間取りはこんな感じだったな」とか色々思い出しながら描いています。あとは、インターネットなどで当時の画像を探すこともありますね。

その際、キャラの設定も細かく考えています。絵の中に反映されなくても、この子はこういう趣味があって、こういう色味が好きで、こんな仕事をしていて、みたいな。そうすることで、1枚の絵の中にストーリーを感じさせることができるんです。

鮮やかに切り取られたある物語のワンシーンに、1~2言で書かれたセリフが実に想像力をかき立てられる。モノが散らかる六畳一間の和室や、ちょっと窮屈そうな居酒屋、自販機が雑然と並ぶ路地裏など、どこか下町っぽい風景からは、「懐かしさ」と「親しみやすさ」の感情が同時に湧き起こる。

mame:私は東京生まれの東京育ちなのですが、ごちゃごちゃっとした場所が好きなんですよね。京王線沿いに住んでいたので、千歳烏山のような雰囲気がとても好きですし、下北沢や谷根千もよく散歩していました。

そんなとき、「この場面を使って絵を描きたいな」と思うんです。そうしたら、まずはざっくりとしたストーリーを頭の中で組み立ててから絵に描き起こしていきます。

mameの作品がユニークなのは、そんなノスタルジックな画面の中に「モダンなツール」も忍ばせていることだ。例えば、『ロマンチックになれないふたり』に登場するキャラクターたちが手に持っているのはスマートフォン。ゴミに出そうとしている段ボール箱には「Amazon」のロゴが入っていたりする。

mame『ロマンチックになれないふたり』(2018年、KADOKAWA)

そうした現代的な要素が単なる懐古主義とは一線を画している。レトロとモダンを組み合わせた世界観は、奇しくも昨今の1980~90年代リバイバルの流れとも見事にシンクロした。

mame:たまたま自分が好きで描きたかったものと、現代の若者たちの感覚が重なり合ったというか。本当に自分はラッキーだったと思っています。描き始めた当初は全く意識していなかったことなんですけどね。

現在30代のmameは、実は20歳の頃に少女漫画家としてプロデビューを経験している。ただ、当時世に出た作品はどれも鳴かず飛ばず。読み切りくらいしか描かせてもらえず早々に挫折し、しばらくは絵を描くことからも遠ざかった。

mame :幼少の頃から絵を描くのは大好きで、唯一の趣味だったのですけど、「プロとしては通用しない」という現実を突きつけられたことがショックで。数年間は描くことだけじゃなくて、漫画を読むことすらできなくなってしまいました。

でも30代になって、このまま絵を描かないで終わる人生でいいのだろうか? と突然思ったんです。漫画家を諦めた後は会社員として働いていたのですが、いまここで始めなかったら、おそらく一生描くことはないだろうって。

会社の同僚が、趣味で描いた自作のイラストをInstagramに上げていると聞き、「自分もやってみよう」と思い立つ。インスタのアカウントを作り、まずは絵を描くリハビリのつもりで投稿をスタートした。

mame:それがなぜか、割と早い段階で注目されるようになったんです。きっかけが自分でもよく分からなかったのですが、いろんな方に拡散していただいて、フォロワーさんも増えて。仕事にするつもりは正直全くなかったのですが、気づけばイラストで食べていけるようになっていました。

今、あの頃を描く理由は、「あの時代の自分を肯定してあげたい」から

漫画家時代とは、作風も全く変わった。mameのInstagramを遡ると、再び絵を描き始めた彼女が当時、試行錯誤を繰り返していた様子が伺える。

mame:以前は「少女漫画」然とした典型的なラブコメを描いていたのですが、きっと歳を重ねていくにつれ、このスタイルは今の自分らしくないな、と思ったのでしょうね。今の私だったらどういう絵を描きたいかを模索していくなかで、徐々にシンプルな画風になっていきました。

考えてそうしたというよりは、描いていくうちに自然とそうなりました。当初、人物描写がメインだったのを、「もう少し生活感のある絵を描いてみよう」と、背景のあるセリフつきの1コマ漫画を思いついたのもその頃です。

サインペンやマジックインクを駆使したような手描きっぽいmameのイラストは、実は全てデジタルツールで描かれているというから驚く。

mame:下絵からタブレットで描き始めるんですよ。とはいえアナログっぽい絵が好きなので、デジタルっぽくしないように工夫しています。矛盾していますよね(笑)。

例えばマジックで塗りつぶしたようなタッチは、タブレットをグリグリしながら時間をかけてニュアンスを出していく。それでもデジタルの方が、アナログより手っ取り早いというか、タブレット1台あれば、いつでもどこでも作業ができるんです。

mameのイラスト制作風景

mame:アイデアが思い浮かぶのは、歩いている時や乗り物に乗っている時が多いのですけど、「あ、今絵を描きたい」と思ったときに紙と鉛筆を出すのってなかなか難しい。電車の中で立っていても、ペンタブを出してササッと描けるのはすごく便利なんです。ただ、デジタルで思うように描けるようになるまでは試行錯誤の連続でした。

そんなmameが、キャンペーン『思い出を描き変えよう』で描いたのは、「韓国で友達の結婚パーティーをしたかった」という女性グループと、「2人で浴衣を着て花火を見に行きたかった」というカップルの2組。

mame:本当だったら韓国へ旅行して、そこでお友達のお祝いをする予定だったのに、コロナ禍でできなくなってしまったとのこと。自分もそのお友達の一人になったつもりで描きました。

4人のグループとのことだったので、ご本人たちの写真を1枚ずつお借りして、髪型や雰囲気などを寄せつつファッションは私の好みにアレンジさせていただいて。『この人だったら、こういう格好が合うかな』と想像しながら描くのは楽しかったです。

本キャンペーン用に「韓国で友達の結婚パーティーをしたかった」という女性グループを描いた作品

mame:浴衣デートのお2人は、お祭りへ行って屋台で食べ物を買って、一緒に花火を見たかったとのことだったので、橋を渡りながら川の向こうの花火を2人で眺めている場面を想像しながら描きました。

本キャンペーン用に「2人で浴衣を着て花火を見に行きたかった」というカップルの2組を描いた作品
描き下ろされたイラストはトートバッグにプリントされ、応募者にプレゼントされた

「本当はこうしたかった」という架空の思い出を、イラストを通じて擬似体験し、過去をアップデートする。そんな試みは、ある意味ではmameの普段の作品作りに通じるものがある。

筆者は小中高とリアルタイムで1980年代を経験してきた世代。当時のことを思い返してみると、1980年代を「いい時代だった」とは決して手放しで言えない。

校内暴力が大きな社会問題となり、目を覆いたくなる陰惨な事件もたくさんあった。しかし、mameの作品を見ていると、そんな記憶が「悪いことばかりでもなかったかもしれない」と思えてくる。

mame:実は私にとっても1980年代は、そんなにいい時代だったわけではないんです。小学生の頃から引きこもりだったし、いじめにも遭っていました。だからこそ、あの時代を描くことで「いい思い出」に塗り替えようとしているのかもしれない。

当時、決して豊かな日々を送っていたわけでもないのに、今自分が描きたくなるのが1980~1990年代初期なのは、あの時代の自分を肯定してあげたいという思いがあるのではないかと感じます。

「過去を描き変える」というと、ネガティブなイメージを持つかもしれない。しかし、過去を「良かった」と捉え直し再解釈することが、これからの人生をより良く生きるために必要な場合もきっとある。それは人がフィクションを求める理由にも繋がるだろう。

mame:小説を読んだり映画を観たり、音楽を聴いたりすることだって疑似体験ですが、そこには自分が経験したのと同じくらいの感動がある。そういう感動をたくさん味わうことで、私たちは自分の人生をもっと大切しようとしているのかも。

mameの作品には、仲睦まじく寄り添い合うカップルが頻繁に描かれる。コロナ禍になり、そんなmameの世界観が以前よりも求められるようになっているのではないだろうか。

mame:それは感じています。多くの方たちは、これまで以上に孤独を感じているし、温もりを求めているのかな。家族や恋人、友達と触れ合うような、今まで普通にしてきたさり気ない優しさや温もりを必要としているのかもしれない。

それは、私の絵に対するみなさんの反応からも感じることです。第2弾のキャンペーンの募集もスタートしていますが、密を控えなければならない今だからこそ、手を取りあい寄り添いあっているようなイラストに仕上げたいと思っているんですよね。

ウェブサイト情報
ブラザー

ミシン、プリンター、工作機械、通信カラオケ……。時代とともに色々なお客様に様々な「役に立つ」を届けてきたブラザー。姿や形を変えながら、いつの時代もあなたのブラザーでいたいと思い続けています。

キャンペーン情報
思い出を描き変えよう「#思い出アプデ」キャンペーン第2弾

不完全燃焼だった思い出の写真、エピソードを募集し、それをもとに5名のイラストレーターが理想的なかたちに描き変えます。描き下ろしたイラストはブラザーがトートバッグにプリントしてプレゼント。

募集期間:2020年12月10日~12月25日
応募方法:ハッシュタグ「#思い出アプデ」をつけて、描き変えてほしい写真とコメントを添えてSNSに投稿ください。

プロフィール
mame (まめ)

生活と非現実との狭間を描くイラストレーター。どこかレトロで温かいタッチで繊細な感情を描き、独特な世界観が見る人を引き込みます。2018年、『ロマンチックになれないふたり』発売。個展『ランデブー』(2019年)、『ここだけの話』(2020年)開催。



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