ギョーカイ列伝 ―並べて、伝えて、つなげる。つながる。―

大阪No.1ラジオ局FM802・今江に訊く、音楽メディアが担う役割

日本のエンターテイメント業界の最前線で戦い続ける人物に話を聞く連載『ギョーカイ列伝』。第13弾に登場するのは、「大阪No.1ミュージックステーション」であるラジオ局・FM802の編成部副部長、今江元紀。

人気の老舗番組『ROCK KIDS 802』を担当するほか、関西においては最大規模の年末フェス『RADIO CRAZY』をはじめ、数多くのイベント制作も手掛けている今江。学生をターゲットにした『ROCK KIDS 802』では、アーティスト・学校・企業による斬新なコラボレーション企画を次々に打ち出し、一ラジオマンの枠組みを超えた存在感を放っている。

デジタル化の波のなかにあって、ラジオの役割はどのように変わっていくのか? そして、近年「関西のバンドシーンが元気」と言われるなかにあって、ローカルから発信する意義をどのように捉えているのか? なにより人とのつながりを重視する今江の発言は、決して時代には流されない、エンタメの本質を突くものであったように思う。

僕、東京にずっといたら、今も「ぴあ」にいたと思うんです。

—今江さんはどのようなキャリアを経てFM802に入られたのでしょうか?

今江:学生時代は「将来やりたいことがあるから、今はこれをやっておこう」みたいに、器用に考えられる人間ではなくて。大学のときは行事とかでイベントを作るサークルに入っていたんですけど、それが就職にどうこうというのはまったく考えてなかったです。なので、「どういう仕事に就きたいか?」というのは、就職活動が始まってから考えましたね。

卒業後は「ぴあ」に入ったんですけど、その採用試験の過程で、「エンタメのことを仕事にしたいな」という想いを引き出してもらえて、今もそのファーストインプレッションの延長にあるというか。

—前職では、雑誌『ぴあ関西版』の副編集長をされていたそうですね。

今江:「ぴあ」は業界のなかで非常に中立的なポジションで、エンタメ業界に関わるいろんな人と一緒にお仕事ができる場所でした。ただ、30歳手前で向こう10年の自分を考えたときに、もともと音楽を聴いたりライブに行ったりするのが好きだったので、音楽業界の人と一番たくさん名刺交換ができる場所で仕事をしようと思って、FM802に転職したんです。より音楽を中心に扱うところで、その最前線で仕事がしたいなって。

今江元紀
今江元紀

—今江さんはもともと関西出身だそうですが、「ぴあ」の新入社員時代は東京にいらっしゃったそうですね。転職の際に、「もう一度東京で仕事がしたい」とは考えなかったですか?

今江:希望を出して大阪に戻ってきたわけではなくて、会社の配属だったんですけど……僕、東京にずっといたら、今も「ぴあ」にいたと思うんです。大阪に来てなかったら、転職とか考えなかった気がするなあ。

—東京と大阪ではなにが違ったのでしょう?

今江:「大阪にはFM802があった」ということですよね。自社のことで恐縮ですが、贔屓目に見てもこんなにいろんな人が集まって、いろんなアーティストが立ち寄ってくれて、情報とコンテンツに溢れている場所はないと思うんです。だったら、そこを有効活用しない手はないなって。入社してから、ラジオの面白さを勉強させていただきました。もともとすごいラジオのリスナーだったかっていうと、そうではないんです。

アーティストが自分で発信できる世の中になった今、我々メディアの役割は非常に限られている気がする。

—現在はFM802で働く上での一番のモチベーションって、どういったところにありますか?

今江:もちろん、音楽自体大好きなんですけど、音楽の知識がすごく深いというわけではないので、そこに関わってる人たちが好きなんだと思います。その人たちが実現させたいと思ってることに対して、ちょっとでもお手伝いができたら嬉しい。それは発信する人に対してもそうだし、いろんな音楽に出会いたいと思ってる人たちに向けてもそうですし。

今江元紀

—今江さんはアーティストとの距離感がすごく近い印象があります。さらに、一つひとつの番組やイベント露出をアーティストの音源やライブチケットの売上につなげようと、「アーティストにちゃんと還元したい」という想いがすごく強いように思うのですが、いかがですか?

今江:それはまあ、そうでしょうね。アーティストが自分で発信できる世の中になった今、我々メディアの役割は非常に限られている気がするんです。ただ、それは決してゼロではない。その想いはメディアで働く以上ちゃんと持っていたくて。あえて媒体を通して伝える意義を、常に意識しなければと思っています。

—SNSなどでアーティスト自身が発信できる今、メディアの役割は改めて問われていますよね。

今江:やっぱりアーティスト自身の発信に勝るものはないと思うんですよ。ライブのチケットの申し込みだって、アーティストのオフィシャルサイトからの申し込みが一番数字いいわけじゃないですか? でも僕らは、もともとそのアーティストに興味なかった人が、1人でも行ってもらえるきっかけを作れる。

その「1」に賭けたいんですよね。まったく興味なかった人が、FM802をきっかけに、0.3くらいは興味を持ってくれるかもしれない。さらに、ほかのメディアや街中の施策とかを積み上げていけば、みんなで「1」を作れるかもしれないなって。

今、音楽業界の裏方としては、すべての動きをわかっていることが重要になってきてると思うんです。

—1人のファンを作ることが簡単ではないからこそ、ラジオでの発信だけで終わるのではなく、複合的な発信をできる企画作りが必要だということですよね。

今江:アーティストにとって、メディアと一緒になにかをやることは「目的」ではなく「手段」だとみんなが意識してやれれば、もっとできることは多いと思うんです。たとえば、アーティストのキャンペーンで、「どこの雑誌で特集されました」とか「このテレビ番組に出ました」とか、そこで終わるんじゃなくて、「じゃあ、実際それを何人の人が見たのか?」とか「それが流れてるあいだに、どう動けばより興味を持ってもらえるか?」とか、そこを工夫する必要がある。常に「意味のあること」を心がけたいと思っています。

今江元紀

—単発の発信で終わらせないことが、「意味」をきちんと深めていくために不可欠だと。

今江:そうなんですよね。なので、今、音楽業界の裏方としては、アーティストに関わるすべての動きをわかっていることが重要になってきていると思います。「私、レコード会社の人間なので、ライブのことはわからないです」とか、「私はライブの担当なので、リリースや宣伝のことはよく知らない」って言ってるようでは……。これって、音楽業界に限った話ではないと思うんですよね。基本的に、知らないことや「?」をなくすことが大事というか。

—確かに、すべての仕事に通ずる話ですね。

今江:そういう意味では、自分も含めてメディア側の知らないことが多すぎるんですよね。アーティストのマネージメントさんが抱えてることって、権利の問題とか、我々が知らないところのお金の流れもたくさんあるはずで。上辺だけで「応援してます」「プロモーションになります」ではなくて、もっと責任を持って、一つひとつのことに向き合わないといけないなって思いますね。

—そういった考えが、今江さんを動かす原動力になっていると。

今江:アーティストが血のにじむような想いで作り上げたものを、僕らが多くの人に届けられる可能性があるわけですから、一生懸命になりたいですよね。「届ける」って言葉すら横柄な気もするんですけど、メディアで働いていて、届く人が1人でも多くなる可能性がある場所にいる以上、0を1にすることに賭けたいんです。

音楽とかエンターテイメントの世界くらいじゃないですか? すぐ数字につながらなくても怒られなかったりするのって(笑)。

—『ROCK KIDS 802』(毎週月~木、21:00~23:48放送)では、この連載の前回に出ていただいた我謝さん(なぜA-Sketchはflumpool、ワンオクなどヒットを続けられるのか?)が担当するONE OK ROCKの学校訪問企画をはじめ、関西の学校や学生を巻き込んだイベントを数多く手掛けられていますよね。

今江:「学生をターゲットにした番組をやろう」ということ自体は、編成全体で決めたことで、これまでのプロデューサーが作ってきた歴史があります。ただ、自分が担当になって、どうやって若年層に広げていくかを考えたときに、より学校をターゲットにしようとは考えました。

これ、インナーで作ったクライアント向けの番組の紹介冊子なんですけど。こういうのって、「10代向けの番組です」と言っても、そもそもメディアって空気を売ってるようなものだし、聴取率としての数字は出ても、影響力はまた別だったりもするじゃないですか?

右が、『ROCK KIDS 802』クライアント向け資料。左は、一般向けに配布されているFM802のタイムテーブル冊子。
右が、『ROCK KIDS 802』クライアント向け資料。左は、一般向けに配布されているFM802のタイムテーブル冊子。

今江:それをどう可視化しようか考えたときに、実際いろんな学校に行って、草の根的な活動をしようと思ったんです。学生にとって一生残るような1日をアーティストと一緒に『ROCK KIDS 802』で作る。それを冊子にまとめることで、営業のセクションがスポンサーにアプローチしてくれたり、アーティストのみなさんにも「こういう番組なんです」って話ができるなと。

—具体的な行動を積み上げて見せていくことで、表紙にある「ティーンに圧倒的な支持を得る」というコピーが、ちゃんと中身も伴って伝わっていきますね。

今江:10年ちょっとこの仕事をやらせていただいて、結局大事なのは一個一個の積み重ねだと思ったんですよね。10年くらい前は、第一人者になりたかったというか、「先輩の引いたレールに乗ってるだけ」っていうことに違和感を感じて、「自分で新しい畑を耕さないと」って思いながら仕事をしていたんですけど……今はちょっと違います。

これもメディアの仕事に限らないと思うんですけど、さっき言ったように「目的」だと思ってることを全部「手段」だと思って、一個一個の結果に満足せず、トライを続けることによって、ストーリーができあがっていく。僕の場合は、一個一個の積み重ねからアーティストさんとの関係性を強めることで、距離感も縮まって、斬新だと思ってもらえる企画でご一緒できたり、大物アーティストが普段やらないようなことをやってくれたり、そういうことが可能になっていくんだと思うんです。

今江元紀

—やはり、目的と手段をはき違えないことが大事だと。

今江:まあ、なかなかそんなこと言っていられないっていうのもわかるんです。興業はチケットが売れてなんぼだし、会社的には利益がいくら残るかを見ると思う。ただ、それだけじゃないというところがこの仕事の醍醐味で、そこに賭ける気持ちがなかったら、もうこの業界にいないと思います。だって、音楽とかエンターテイメントの世界くらいじゃないですか? すぐ数字につながらなくても怒られなかったりするのって(笑)。

—えーと、ケースバイケースですかね(笑)。

今江:もちろん、結果は出さないとダメだと思います。ただ、たとえば、200のキャパに150人しかお客さんが入らなかったとしても、「いいライブだったね」って言ってもらえる。普通に考えたら「50足りなかった」で終わり。でも、それでも「よかった」って言える仕事って、ほかにあんまりないんじゃないかと思うんですよね。

今世の中に影響力のある人って、結構ラジオをやってる方が多くて。

—ラジオ業界の現状についても聞かせてください。YouTubeやサブスクリプションサービスが普及しつつあるなか、これからのラジオの役割をどのように考えていらっしゃいますか?

今江:ネットだと自分が聴きたいものだけを聴くけど、ラジオは同じ時間帯に同じように聴いてる人がたくさんいる。「共有できたり、共感できる」という醍醐味があると思うんですよね。そして、圧倒的に違うのは、体温をもって曲を届ける人(DJ、ディレクター)がいるっていうところです。

あと、今世の中に影響力のある人って、結構ラジオをやってる方が多くて、こんなにみんながアウトプットに使うツールもほかにないなって思うんですよ。そんなにテレビに出ない人でも、雑誌やウェブで連載をしていなくても、ラジオのレギュラーは続けていたりする。なので、みんな自信を持って、ラジオというツールをもっと使っていろいろやったらいいんじゃないかと思います。

プロデューサーとして普段は座ることのないDJ用の椅子にて
プロデューサーとして普段は座ることのないDJ用の椅子にて

—確かに、一時期はテレビや雑誌などとともに「インターネットに取って代わられる」という論調でしたけど、特にラジオは上手くデジタルとも共存して、むしろ勢いを増しているようにも思います。

今江:僕はあんまり「ラジオだからどう」という考えはしてなくて、とにかくこの場所に集まってくれる音楽が好きな人たちと面白いことをやろうっていう感じなんですよね。関西はイベンターとかライブハウスの距離も近いし、『MINAMI WHEEL』のような諸先輩方が作ってくれたものもあって、「じゃあ、そういうなかでFM802という場所からなにが発信できるか」ということに、こだわっていきたいんです。

—「東京からではなく、地方からもしっかり発信していきたい」という想いが強いと言えますか?

今江:関西の土壌とか文化は存分に生かしたいです。ただ、「全国に届け!」とかってなっちゃうと、それは本末転倒だと思うんですよ。自分らの手の届く範囲の人たちにちゃんと届ける。まずはそれだけです。

—近年のロックシーンにおいては、KANA-BOONに始まり、キュウソネコカミ、ヤバイTシャツ屋さん、夜の本気ダンスと、関西発のバンドが元気だということがよく言われると思うんですけど、それについてはどうお考えですか?

今江:「『MINAMI WHEEL』があるからですよ」とか言いたいですけど、そういうことでもない気がするんですよね。「関西バンドが熱い」って、発信側が作った勝手なキャッチコピーのような気もするんです。「そのバンドを紹介する言葉がそれしか思いつかなかったんちゃうん?」みたいな。

まあ、関西にいいバンドが多いということ自体は実感としてあるので、そこはいいように捉えたいです。「FM802があるから」って言いたいですけどね(笑)。

多分、本当は裏方の半分くらいがお客さんになったほうがいいと思うんです。

—メディアという立場から見て、現在エンターテイメント業界で働く人に重要なのは、どんな意識だとお考えですか?

今江:そうですね……まあ、さぼらなければいいと思うんですよ。で、一人ひとりがやれることとやるべきことを考えて、ちゃんと意味のあることをするっていう。

多分、本当は裏方の半分くらいがお客さんになったほうがいいと思うんです。もともとCDを買ったりライブ行くのが好きな人たちが今業界で働いてると思うから、その人たちの半分がお客さんになって、お金を使えば、もっと盛り上がるんだろうなって(笑)。でも、そうじゃなくてこっち側にいるのであれば、ただのファンではなくて、ちゃんとこっちにいる意味を考えて、なにかプラスになるようなことをしたほうがいいんじゃないかとは思います。

今江元紀

—途中でおっしゃっていたように、メディアならメディアのことだけでなく、ライブやマネージメント、もっと言えばショップや学校側の知識をつけるというのも、つまりは「さぼらない」ってことですよね。ただ会社にいて、内側のことだけ考えるのではなく、一人ひとりが自分にできることを広く考えることが重要というか。

今江:だと思います。どこの会社にも上司と部下がいて、会社が命令的に上から話せば早いことが多いけど、そこを自分の話にするというか。もちろん、暖簾は会社の名前を借りてますけど、自分で看板を出せるようになったほうがいい。なにか面白い話が来たときに、会社の上にいっちゃうんじゃなくて、自分のところに来るようにして、それをできるだけいい形にする。本当に、その繰り返しをやってきただけです。関わってくれる人みんながいいと思ってくれることを一緒にやるっていう、それだけなんですよね。

「音楽業界は不況」みたいに言う人もいるのかもしれないですけど、僕は全然ネガティブな要素はないと思うんですよ。

—この連載記事はCINRA.NETとCAMPFIREの合同企画なのですが、今江さんはクラウドファンディングについて、どのような印象をお持ちですか?

今江:僕はまだクラウドファンディングについて、あんまり勉強できてなくて。ただ、模倣のようなものが増えてきてる気はするんですよね。「結局チケット買ってるやん? それが特典に変わってるだけじゃないの?」みたいな。ほしいと思ったものに対価を払うという意味では、結局「購入」と一緒のような気もするというか。まあ、まだちゃんと自分の意見が言えるようなところまでいけてないので、もっとちゃんと勉強したいと思います。

今江元紀

—では最後に、音楽業界やエンターテイメント業界に入りたいと思っている人に対して、なにかメッセージをいただけますか?

今江:「音楽業界は不況」みたいに言う人もいるのかもしれないですけど、僕は全然ネガティブな要素はないと思うんですよ。アーティストは増え続けてるし、イベントも増え続けてるし、リリースも多いし。「昔に比べて」で言うと、CDの売上という数字は下がってるんでしょうけど、自分の感覚として、ネガティブな要素は全然ないですね。

—その言葉に背中を押される若者は非常に多いと思います。FM802には、「802wannabes」という学生インターンのようなプロジェクトもありますが、学生時代にはどんなことをやっておいたほうがいいとお考えですか?

今江:自分がやりたいことを達成するためには、どの仕事に就くのがいいのか。それを知識として身につけるために、いろんな人に接しておくことが大事だと思います。

たとえば、ラジオでいうと、「番組でキューが振りたい」と思ったら、ラジオ局じゃなくて、制作会社に行ったほうがいい。会社って入ってみないとなにができるのかわからなかったりするから、いろんな人に触れて、「ここなら自分のやりたいことができる」っていう場所を、ちゃんと見つけておけるといいですよね。

あとは「DJになりたい」とか「ディレクターになりたい」とかじゃなくて、やっぱりそれになった上でなにをやりたいのかが大事。逆にいうと、そこがはっきりしていれば、最初から希望の会社に入れなかったとしても、できることが必ず見つかると思います。

ウェブサイト情報
CAMPFIRE

群衆(crowd)から資金集め(funding)ができる、日本最大のクラウドファンディング・プラットフォームです。

プロフィール
今江元紀 (いまえ もとのり)

京都出身。2004年立命館大学法学部卒業。ぴあ雑誌編集(東京~大阪)を経て、現在FM802編成部 副部長。

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