21世紀の女子解放論 もっともっと、気持ちいい毎日を

初ロマンポルノの園子温と初ヌードの冨手麻妙「日本って変な国」

鬼才・園子温の最新作『ANTIPORNO』は、とある人気アーティストの女性を主役にした、夢とも現実とも判別しない、不思議な中編作品だ。時代の寵児となった主人公の京子は、映画が進むほどにその意外な正体を露呈させていく。そこには、裸やセックスに対する私たちの性規範を批判する視線だけでなく、今日の日本人自体に対する鋭く剣呑なメッセージが込められている。

女性の欲望解放を考える本連載記事では、『ANTIPORNO』公開に合わせて、初めてロマンポルノ作品を手がけた園監督と主演の冨手麻妙にインタビューする機会を得た。攻めた演出で知られる異能の映像作家と、体当たりの演技に挑んだ新人女優との対話から浮かび上がってくるものは、いったい何だったのか?

そもそも、裸はポルノではないと考えています。(園)

―園子温監督の作風からすると、本作が初めての日活ロマンポルノ作品、というのはちょっと驚きました。

:「ROMAN PORNO REBOOT PROJECT」は、日活ロマンポルノのリバイバル的な企画(本作以外にも4作品が公開されている)ですが、懐古主義で映画を撮るのだけはどうしても嫌だったんですよ。ロマンポルノを見たことはもちろんありますが、強い思い入れもないし、ポルノ映画を今撮る意味もよくわからないので、ずっと依頼をお断りしていました。でも雑談のなかで「アンチポルノだったら撮れるかもね」と差し込んだら、「それでもいい」と返答されて(笑)。そこでやる気になったわけです。

奥:冨手麻妙、手前:園子温
奥:冨手麻妙、手前:園子温

―ポルノに対するアンチ、カウンターであるならばやるぞ、と。

:つまり女の裸を消費するのではない映画。そもそも、裸はポルノではないと考えています。二日酔いで酔っ払って、服を脱いだまま寝て、起きた裸はいやらしくないと思いませんか? 映画のなかで、セックスシーンが着衣したままだったり、フェイクだったりするのもそういう理由です。

―これまでの作品では扇情的なシーンが多く登場してきました。それも園さんとしては性的なものではなかった?

:変なところにしか性的な要素を見出せなくて、裸のセックスシーンも当たり前のものとしか思えないんです。だから今回は最初のシーンから裸でしょう。むしろどんどん服を着ていく映画になっている(笑)。裸で歯を磨くシーンがありますけど、それは「これっていやらしいですか? 僕はそう思わないんですけどね」っていう観客への問いかけでもあったりします。

冨手:女性の裸や性が社会のなかで消費されていることへの疑問や怒りは、私もずっと持っていて、最初に台本を読んだときから京子は自分そのものだと感じました。でも他の取材で、「京子は監督そのものなんだ」ということを園さんから聞いて、「そうだったんだ!」と驚きましたね。

:じつはそうなんだよ。僕の分身ってだけではないけどね。

奥:園子温、手前:冨手麻妙

冨手:クランクイン前に、『ANTIPORNO』に出ることについて、周りから反対意見や結構厳しいことを言われてモヤモヤしてたんですよね。でも現場で園さんがセットにずんずん入って来て、「(その感情を)全部爆発させろ! セリフにぶつけろ!」と檄を飛ばしてくれたことで、いろんなものが吹っ切れました。

「お前脱げるか?」って言われて、「脱ぎます!」と即答すると、園さんが「じゃあやるか」と。(冨手)

―冨手さんは『新宿スワン』や『リアル鬼ごっこ』など園作品に出演してきて、今回いよいよ主演ですね。映画初主演で脱ぐことに対して、抵抗はなかったですか?

冨手:高校生の頃に『自殺サークル』(2002年)を見たときから園さんの大ファンで、いつか絶対に出演するぞって誓っていたんです。それで渋谷でトークショーがあったときに出待ちして、「作品に出してください!」と直談判したんですよ。すっごく緊張して吐きそうだったんですけど、園さんの反応がすごくあっさりしていて(笑)。

:「出たい」って言ってくる人はたくさんいるんだもん。

冨手:ですよね。園さんに、その場で「お前脱げるか?」って言われたんです。それで「脱ぎます!」と即答すると、園さんが「じゃあやるか」と応えてくださったんですよ。立ち話での小さなやり取りに過ぎなかったけれど、私はずっとそれを信じて、近い将来に必ず実現させるんだと思って仕事をしてきました。ですから『ANTIPORNO』に主演できて、目標と約束が叶って嬉しかったです。

冨手麻妙

映画『ANTIPORNO』より。京子を演じる冨手麻妙
映画『ANTIPORNO』より。京子を演じる冨手麻妙

―『ANTIPORNO』を観た印象として、とても女性側に立って社会を批判する作品になっていると思いました。

:女性側ってだけではなく、基本的に僕は、日本人はみんな女性のように扱われていると思うんですよ。国の内外のあらゆる場所で、振り回されている人ばっかり。男も女も消費し尽くされることがこの国の運命であって、それを描きたかった。

僕自身が日本映画という枠組みのなかで生きていて、消費され尽くしかけていた時期があったし、冨手さんもグラビアモデルとして男たちの文化のなかで消費されている存在……彼女はアイドル活動をしていたこともあるしね。だから女性を代弁してもいるけれど、自分のことも代弁している。そういう意味で、京子は僕自身でもある。

冨手:園さん、中身は女ですよね(笑)。

:女の子なんです(笑)。

今の男性はちょっと頼りない人が多い気がします。だから私たちは自分で生きていかないといけない。(冨手)

冨手:園さんの世間のイメージって「男らしい」じゃないですか。でも現場で厳しくて罵倒するような監督ではまったくなくて、女性よりも女性らしい。それは『ANTIPORNO』にも出ていると思います。園子温が監督している、って予備知識がなければ「女性監督が作ったのかな?」って思えるくらいだし、ご本人の印象もやっぱり女の子なんですよ。だからこそ脱ぐことに抵抗がなかったですし、安心しきって園さんに任せられました。

左から:冨手麻妙、園子温

―園さんの「女性らしさ」というのは、スイーツ男子、草食男子的なものとは別ですか?

冨手:全然別物です。私が園さんに感じた「女性らしさ」は、「強さ」ですね。私たちの世代って、男性も女性っぽい……というか、いわゆる「女々しい」とされちゃうような男の子がすごく多くて、男女の性差をあまり意識しないんですよ。でもそれは男性固有の現象ではなくて、特にやりたいこともなく、時代に流されてふわふわ生きている世代の男女全員に共通する傾向なんだと思います。

―男性に対する物足りなさを感じたりもしますか?

冨手:あるかもしれないです。日本人の女性は、男の人を頼って、結婚して子どもを産んで、専業主婦になって幸せな家庭を築く、というのが理想的な人生の選択だと思うのですが、今の男性はちょっと頼りない人が多い気がします。だから私たちは自分で生きていかないといけない。「男だから頼れる」「男の3歩後ろを歩く女性はいい」という価値観は、今の日本ではまったく実感がないですよね。むしろ女性の方が強い。

―その強さが、園さんに感じる「女性らしさ」なんですね。

冨手:そうです、かわいい小動物的な意味ではなくて(笑)。

冨手麻妙

園子温

虚構とはポルノのことであって、つまり国会議事堂こそがポルノなんですよ。(園)

―そうすると、女性の立ち位置から日活ロマンポルノに取り組むことが、ポルノへの「アンチ」の姿勢を示すことになっている。

:ポルノを超えて、社会全体に対する怒り、ですね。撮影は2年ほど前の安保法案で大荒れになった夏に始まったので、その頃の自分の感情や、その瞬間にしか撮れないものがフィルムには強く出ています。たとえば国会議事堂前に抗議の人たちがいちばん多く集まった日に、主人公の京子がデモ行進に飛び込んで先頭を歩いちゃうシーンをゲリラ撮影しました。敬愛する大島渚監督の『新宿泥棒日記』(1969年)のように、虚構に突如として現実がまみれていくわけです。

ただ、編集作業が撮影の1年半後になって、そのシーンにどうしても違和感が生じてしまったから、泣く泣くカットしました。それでも映画全体の空気には、2年前の日本の熱量が蔓延していると思います。

―映画のファーストカットは国会議事堂のアップになっていますね。

:世の中のすべてが嘘で虚構でカラクリなんじゃないかっていうのは、常に自分にまとわりつく妄想としてあるんですよ。それを端的に示す存在として、この国でもっとも虚構の存在としての国会議事堂を出したわけです。同時に虚構とはポルノのことであって、つまり国会議事堂こそがポルノなんですよ。そう考えると、とってもいやらしい変なかたちをした建物に見えてくるでしょ(笑)。

日本って本当に変な国ですよね。アダルトビデオやアイドル文化のような女性に対する極端なポルノ的視線があるにも関わらず、もう一方で公園にある裸の彫像にパンツを履かせたりして。極端から極端へと移りゆく様子自体が冗談的だし、虚構的だと思います。

園子温

―劇中で「この国の女は、誰一人として自由を使いこなしていない」というセリフが登場します。

冨手:京子のマネージャー役の筒井さんと私が、まったく同じセリフを言うんですけど、「ああ、本当によくわかる。私が言いたかった言葉だ」と思えて、自然に発話できました。私の母親も『ANTIPORNO』を見て、印象に残ったのはその言葉だったと言っていました。

冨手麻妙

―両親のセックスも大きな主題になっていますが、その部分で演じにくさはありませんでしたか?

冨手:台本を読んで、本当に園さんはエスパーなのかもしれない? と思いました。両親とセックスについて会話するシーンがあるんですけど、そのやり取りを実際に自分も体験したことがあるんです。

私には6歳離れた妹がいるんですけど、両親に「いつ妹を作ったの? 麻妙が幼稚園行っているあいだ? セックスしたの?」って質問したことがあったんです。そのときに、お母さんは淡々と答えてくれたんですけど、お父さんは目くじら立ててすごく怒りました。「そんなとんでもない、下品なこと聞くな!」って。お母さんに「お前はどんな教育をしているんだ。変なドラマを見せるから、こういう質問をするバカな子どもになったんだ!」って、とても怒ったんです。私はそんな変な質問をしたつもりはなかったんですけどね。

「便器すら見下してるのが男よ」。これは劇中の京子のセリフですけど、まさにそう思うときが多々あるんですよね。(冨手)

冨手:「女性は便器に腰掛けておしっこするけど、男性は立ったままする。便器すら見下してるのが男よ」。これは劇中の京子のセリフですけど、まさにそう思うときが多々あるんですよね。

男性が作るものって、男の人だけのためにあるような感じがするときもあります。それに、私も写真集を出したりしてるんですけど、別に男の人だけのために作品を作ったわけでも表現をしているのでもないのに、自動的に性的なものとして見られてしまう。そういうときに「見下されているのかな」と思ったりします。

冨手麻妙

:日本人は強い女が嫌いなんだよね。小っちゃくて、転がせそうな子が好きなんだよ。僕はもうちょっと強くて、サディスティックな感じの雰囲気のある人がセクシーだし燃えますね。ロリータ的なものには、ほとんど何も感じない。

じつは、2015年あたりから女性論に関する本を書き続けているんです。ちょうど今作の台本を書く前あたりから始めていて、現代日本の女性の労働環境などについてリサーチをしていたから、シナリオにはそれが色濃く出ていると思います。

園子温

―さきほど、日本人は男も女も消耗品として振り回されているとおっしゃっていましたが、それは園さんが考える女性論とも通じるものでしょうか?

:いろんな意味で男も非常に厳しい世界で生きていますよね。たとえば、今年の正月、三が日にあまりにも男の人たちがはしゃいでいるのを見て不思議に思ったんですが、「あ、そっか。この人たちは休日がないから、三が日が嬉しくてはしゃいでるんだな」と思ったんですよ。

海外と仕事することが多くなってわかったのですが、海外の人は12月の頭くらいからみんな休みに入るんです。メールの返信も来ないし、完全に仕事がストップします。そして年が明けて4月くらいになるとだんだん夏のバカンスに気持ちが動いていって、連絡が途絶え始めるんです(笑)。ハリウッドだと秋には必ずストライキがあって、もう年がら年中お休みばっかり。

そんななかで、日本人だけがしゃかりきに働いて生産性を高めていることが素晴らしい、って言う人たちが多いですが、「そこ素晴らしくないだろ!」って思います。自分の自由を全部費やして得られる高水準。そういう意味でも、日本は自分を消費することで成り立っている国なんですよ。

マスターベーションの解放はポジティブだよね。(園)

―この連載は、CINRA.NETとirohaの合同企画なのですが、男女問わず、自分の自由や欲望を抑圧することが慣習化されている日本で、irohaのようなセルフプレジャーアイテムが普及することはポジティブな変化と言えると思いますか?

:マスターベーションだけだと淋しいけれど、ポジティプなのは間違いないと思います。海外の話ばかりになってしまいますが、日本のアダルトビデオが女の子の喘ぐところばかり撮影するのと違って、アメリカのポルノは女性と男性で半々なんですよ。なぜかというと、みんなが見るからです。僕にとっては、すごく複雑な気持ちになります。「いいとこに来たな!」って思うと、急に男性が喘ぐから(笑)。

冨手:たしかに、海外の映画だと男性が気持ちよくなるシーン多いですよね。

:つまりポルノもみんなのものなんです。流行歌でも日本の女性の歌は控えめですが、アメリカだと「私ヤル気まんまん!」みたいな歌が普通に出回っているでしょ。そうやって主張することが当然っていう空気があるのは、日本とは真逆だと思います。

左から:冨手麻妙、園子温

冨手:たとえば、「お持ち帰りされる」って言葉があるじゃないですか。たぶん女性だってヤル気まんまんなんですけど、そういうふうに男主体で語られてしまうのが日本だと思います。「やられた」とか「食われた」っていう表現も、常に女性が受け手として見られていますよね。

:実際は食われている男が多いと思うよ。

冨手:そうそう、そうなんです。

左から:冨手麻妙、園子温

:イケメンによくある構図だよね。イケメンなんだけどガサツな男と呑むと、よく「俺、1回しかやらせてもらえないんだよ。人数は多いんだけど、後日連絡取るとダメで……」っていう悩み話になるんです。「食われてる系」ってやつ。女性に「こいつは1回だけやっときゃいいや」みたいに見られているんですよね。まあ、羨ましいっちゃ羨ましいけどね(笑)。

―そういう気概のある女性が現れたのも、性規範の変化の表れなのかもしれないですね。

:だからマスターベーションの解放はポジティブですよね。あまりオナニーをやってない人って、イカなくなっちゃうと聞いたことがあります。まずはオナニーしてイクことを学ぶ。

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冨手:オナニーするかしないかは本人の自由ですけど、目の前に選択肢があることは大切ですよね。TENGAとirohaを必要としている人はたくさんいますよ。

:基本的にオナニーって淋しいものだという意識が強すぎると思います。親に見つかったらヤバいとか、いろいろ理由はあるんだろうけど、もっと開かれてほしいよね。セックスもオナニーもね。

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「女性らしくを、新しく。」をコンセプトにTENGAから登場した、女性用プレジャー・アイテムブランド。女性目線で考えられた機能性とデザインで、女性に寄り添うセルフケアを提供します。

作品情報
『ANTIPORNO』

2017年1月28日(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督・脚本:園子温
出演:
冨手麻妙
筒井真理子
不二子
小谷早弥花
吉牟田眞奈
麻美
下村愛
福田愛美
貴山侑哉
配給:日活

プロフィール
園子温 (その しおん)

1961年、愛知県生まれ。87年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品『自転車吐息』(90)は、ベルリン国際映画祭正式招待のほか、30以上の映画祭で上映された。他『愛のむきだし』(2008)で第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞、『冷たい熱帯魚』(11)で第67回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門・第35回トロント国際映画祭ヴァンガード部門、『恋の罪』(11)で第64回カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待される。『ヒミズ』(12)では、第68回ヴェネチア国際映画祭にて主演二人にマルチェロ・マストロヤンニ賞をもたらした。近年の作品として、『TOKYO TRIBE』(14)、『新宿スワン』(15)、『ラブ&ピース』(15)、『リアル鬼ごっこ』(15)、『映画 みんな!エスパーだよ!』(15)、シオンプロダクション製作第1作目となる『ひそひそ星』(16)などがある。『新宿スワンII』が大ヒット公開中。

冨手麻妙 (とみて あみ)

1994年3月17日生まれ。神奈川県出身。15歳のとき芸能界入り。「わたしは女優になる」と決意し、本格的に芝居を始める。舞台『LOVE FAIRY』(2011)で初主演を果たし、NHK連続テレビドラマ小説『花子とアン』(14)、『新宿スワン』(15)、『リアル鬼ごっこ』(15)、『みんな!エスパーだよ!』(15)、『闇金ドッグス』シリーズ、米MTV製作のオムニバス映画『MADLY』の中の園監督の短編映画『Love of Love』に出演。

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