新しい世界の見方を見つけるには? 鑑賞者のイマジネーションが試される現代アート展

スカイツリーで一望する東京の景色と、アートを観ることの共通点?

先日、東京スカイツリーの展望台に登って、東京を一望した。「馬鹿と煙は高いところが好き」というが、高いところから世界を見渡すことは、やっぱりとても気持ちのいいことだ。スカイツリーの上からは、いつもとはまた違った視点からの、東京の街が見えてくる。

パラモデル『キソまたはウソの模型』2014 撮影:伊奈英次
パラモデル『キソまたはウソの模型』2014 撮影:伊奈英次

美術作品も、もしかしたら展望台と同じようなものなのかもしれない。絵画なら、額縁がその世界の始まりと終わりを決めてくれるし、インスタレーションであっても、鑑賞者はその細部に至るまでじっくりと鑑賞をすることができる。多くの美術作品はそこに詰め込まれたもう1つの世界をじっくりと覗き込むという前提の上に立っている。そのとき、鑑賞者は、まるで神様になったかのような視点から、美術作品を俯瞰している。

けれども、そのような視点は、あまりにも私たちの日常とかけ離れているのもまた事実だ。スカイツリーの上からは、浅草も新宿も、富士山までをも一望できるのに、地上にいながらでは建物に阻まれて、隣の街すらも見ることはできない。僕らを取り巻く現実は、俯瞰してじっくり見るような、ある意味わかりやすい景色とはまた違っていて、複雑なのだ。

青田真也『無題』2013-14 撮影:伊奈英次
青田真也『無題』2013-14 撮影:伊奈英次

世界を「断片」化して見せる、アーティストそれぞれの手法

毎回異なるテーマで「表現すること」の意味を問い、複数の若手アーティストをキュレーションしながら、東京都現代美術館で1999年より続けられているグループ展『MOTアニュアル』。13回目の開催となる今年は「フラグメント」というタイトルが付けられている。出品する6グループの作家たちが、この世界を「フラグメント=断片」を手掛かりに考察しようと試みる展覧会だ。

双子のアーティスト、高田安規子・政子は、軽石、トランプ、吸盤など、安価で小型の日用品を用いて、古代ローマ時代の遺跡や江戸切子に見立てたカットグラスといった、スケールも価値もまったく異なるものへと転換させる作品を展示。

高田安規子・政子『カットグラス』2014 撮影:伊奈英次
高田安規子・政子『カットグラス』2014 撮影:伊奈英次

宮永亮の映像作品『WAVY』は、ドキュメントとして記録された複数の風景映像を、レイヤーに重ねることによって「映像の記録性をはぐらかし、個々の映像が枝葉のように分かれる別々の矢印をもっている」作品だ。

宮永亮『WAVY』2014 撮影:伊奈英次
宮永亮『WAVY』2014 撮影:伊奈英次

また、青田真也はプラスティックボトルやガラス瓶の表面を丹念にヤスリがけし、福田尚代は「本」や「しおり」「消しゴム」などをテーマにした繊細な作りの作品を発表している。

福田尚代『残像:引き潮』2010-14 撮影:伊奈英次
福田尚代『残像:引き潮』2010-14 撮影:伊奈英次

さらに、現在、小豆島在住の吉田夏奈は、島に移住して感じた地球との関係を、地層やマントルなどに描き出し、「2人でおもちゃで遊んでいるうちに、作品が生まれていく」というパラモデルは、巨大な壁画のようなスペースに大阪の地下鉄構内図をまるでRPGゲームのダンジョンのように繋いで提示したり、プラレールを用いて不思議な文様を描いた遊び心に溢れる作品を展示している。

吉田夏奈 展示風景 撮影:伊奈英次
吉田夏奈 展示風景 撮影:伊奈英次

展覧会担当キュレーターの森千花は、今年の『MOTアニュアル』の意図をこう説明する。

「私たちの周囲には、細切れの時間や細切れの情報、細切れの言葉があふれている。多くの人が、社会の断片化を感じ始めており、そして全体像の見えない世界にある意味不安を感じているのではないでしょうか」。

自分の世界を、根本から変えるかもしれない「断片」の力

今回、選ばれた作家たちは、それぞれが日常の「断片」を選びとり、多種多様なスタイルによって、それらに向き合っているアーティストばかりだ。ガラス瓶や洗剤ボトルといった既製品の表面を磨いたり、本のページに極細で無数の穴を開けたり、ペルシャ絨毯の刺繍でトランプを作ってしまったりする彼らが提示するのは、広大な沃野としての「世界」ではなく、とても細やかな世界の欠片とでも言うべきものだ。もしかしたら、鑑賞者はある種の戸惑いも覚えるかもしれない。「いったい、これの、どこが『作品』なのか」と。しかし、森は言う。

「世界の断片のような作品たちは、あくまでも『入り口』にすぎません。鑑賞者は、そんな『断片』を通して、新たな世界の見方を自分の力で立ち上げていく。作品にすべてが現れるわけではない。その意味で、想像力が試される作品ばかりではないかと思っています」。

青田真也『無題』2013-14 撮影:伊奈英次
青田真也『無題』2013-14 撮影:伊奈英次

たとえば、高田安規子・政子は、江戸切子を模した美しい「吸盤」を展示している。ここで、作家が描き出そうとしているのは、吸盤が江戸切子に見えるという「擬態」としてのおもしろさだけではない。江戸切子を作り上げた文化的な背景や、その模様に込めた願いが見えてくると森は語る。

「観る人がこれまで積み上げてきた経験や知識などによって、作品から見えてくるものは変わってきます。作品が描き出すのは世界の一部に過ぎませんが、その後ろにある風景を鑑賞者自身によって立ち上げていただきたいですね」。

たとえば、Twitterのタイムラインに表示される情報が、利用者ごとにまったく異なっているように、私たちはそれぞれ微妙に色合いの異なった現実を生きている。この色合いの異なる現実になにかを働きかけるためには、高所から街を一望し鷲掴みにするような視点は、ひょっとしたらリアリティーに欠けたものなのではないだろうか。その意味では、ここで作家たちが提示する「断片」は、Twitterに投稿された140文字のささやかな文字列にも似ている。このメッセージが他の様々な投稿とともに消えていってしまうのか、それとも私たちのタイムラインを根本から変えてしまう力を持ったものなのか、それを決めるのは、他ならぬ鑑賞者自身なのだ。

イベント情報
『MOTアニュアル2014 フラグメント―未完のはじまり』

2014年2月15日(土)~5月11日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室3F
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
出展作家:
青田真也
髙田安規子・政子
パラモデル
福田尚代
宮永亮
吉田夏奈
休館日:月曜、5月7日(5月5日は開館)
料金:一般1,000円 大学生・65歳以上800円 中高生500円 小学生以下無料

アーティストトーク
2014年4月19日(土)15:00~
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
出演:
福田尚代
宮永亮

アーティストトーク
2014年5月10日(土)15:00~
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
出演:吉田夏奈

髙田安規子・政子による地図のワークショップ
2014年5月3日(土・祝)13:00~
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
※事前申込制、詳細は東京都現代美術館のオフィシャルサイトで後日発表

サンデーツアー
2014年3月2日(日)から5月4日(日)までの毎週日曜15:00~
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室3F

学芸員によるギャラリーツアー
2014年3月21日(金・祝)、4月29日(火・祝)15:00~
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室3F

(メイン画像:©パラモデル『未完の書物Pと、そこに溢れるパラテキストのための投影計画』2014 撮影:伊奈英次)



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