コラム

(メイン画像:©Yasuko Kageyama)

映画『ソフィア・コッポラの椿姫』が、本日10月6日から東京・TOHOシネマズ日本橋ほか全国で公開される。

CINRA.NETでは、日本公開に寄せたソフィア・コッポラのインタビューを独占入手。最新作『Beguiled(原題)』で今年の『カンヌ国際映画祭』監督賞に輝き、女性監督としては56年ぶり、史上2人目という快挙を成し遂げたソフィア。彼女自身の言葉を交えながら、『ソフィア・コッポラの椿姫』の見どころを紹介する。

ヴェルディのオペラ『椿姫』とは?

同作は、ソフィア・コッポラが初演出を務め、昨年5月にイタリア・ローマ歌劇場で上演されたジュゼッペ・ヴェルディのオペラ『椿姫』を映像化したもの。1853年に発表されたオペラ『椿姫』は、イタリアの作曲家・ヴェルディの代表作で、小デュマの小説をもとに、パリ社交界の高級娼婦ヴィオレッタの悲恋を描いた古典的な作品だ。劇中の“乾杯の歌”は、どこかで耳にしたことのある人も多いはず。

監督作における劇中曲のセレクトに定評があるソフィア。My Bloody ValentineやSonic Youthらと親交を持ち、Phoenixのボーカリスト、トーマス・マーズのパートナーでもある彼女は、イタリアの大作曲家の音楽をどのように受け止め、演出に活かしたのだろう?

ソフィア:ヴェルディの音楽は美しく、とても感情的で、そこを演出に生かしました。彼の音楽は、私の表現法より、あからさまに感情的ですね。

ソフィア・コッポラ ©Yasuko Kageyama
©Yasuko Kageyama

ヴァレンティノにいざなわれた、初めての表現形式

あのソフィア・コッポラが映像ではなく、オペラの演出に挑む。その報はここ日本でも、好意的な驚きをもって迎えられた。ソフィアはオペラ演出という未知の表現領域に、なぜ足を踏み入れたのか。

ソフィアをオペラの世界に手引した張本人は、ファッションデザイナーのヴァレンティノ・ガラヴァーニ。ファッションブランド「ヴァレンティノ」を一代で築き上げたイタリアを代表するクリエイターである。ソフィアの監督作『マリー・アントワネット』を見て感銘を受けたヴァレンティノが、彼女に直接電話をして打診したことから、『椿姫』のプロジェクトがスタートした。

Valentino Garavani e Sofia Coppola durante le prove de La traviata ©Yasuko Kageyama Opera di Roma
Valentino Garavani e Sofia Coppola durante le prove de La traviata ©Yasuko Kageyama Opera di Roma

ヴァレンティノからオファーを受けた当初、オペラには詳しくなく、オペラ演出の方法も知らなかったというソフィア。引き受けた理由については、「もちろんヴァレンティノから声をかけられたから、というのもそうだけど、『椿姫』が、女性の話であり、素敵な魅力とロマンスがあるから、というのも大きな決め手だった」と明かしている(参考:オフィシャルサイトのプロダクションノート )。

2007年にファッションデザイナーを引退したヴァレンティノだが、同作では主人公ヴィオレッタの衣装デザインを自ら担当。ヴィオレッタ以外の衣装を手掛けたデザイナー陣も、現在はDior初の女性クリエイティブディレクターを務めるマリア・グラツィア・キウリ、昨年ヴァレンティノの単独クリエイティブディレクターに指名されたピエールパオロ・ピッチョーリと豪華絢爛だ。

ソフィア・コッポラとイタリア

ソフィア・コッポラの父は『ゴッドファーザー』3部作を世に送り出した、イタリア系アメリカ人の映画監督フランシス・フォード・コッポラ。ソフィアの曽祖父母たちがイタリアから渡米したのは1904年。以来100年以上にわたって一族はアメリカで暮らしてきた。家族が『椿姫』のプレミア公演に訪れた際について、ソフィアはこう語った。

ソフィア:とてもエキサイティングで、恐くもあり、感動もしました。両親、夫、当時9歳だった娘のローミーが来てくれたことはとても嬉しかった。父はオペラが大好きで、とても楽しんでくれたみたいで良かった。ローマでイタリア人のスタッフと仕事が出来たことが本当に良かったです。私はイタリアの家系ですからね。

メインキャストを務めたのは、ヴィオレッタ役のフランチェスカ・ドット、アルフレード役のアントニオ・ポーリといったイタリア出身の歌手たち。そして、カリスマ的な人気を誇る1976年生まれのイタリア人指揮者、ヤデル・ビニャミーニが指揮をとった。

ソフィア:彼らはとても優しかったです。初めてのオペラ演出をする私を気にかけてくれていた。俳優(歌手)の方々には映画と同じような接し方をしました。でも彼らは歌っているときに体力の限界を教えてくれた。だから、映画俳優より運動選手に近いかもしれないですね。指揮者は先導してくれたので、私は彼と連携できた。とても良い関係を築けました。

ソフィア・コッポラ ©Yasuko Kageyama
©Yasuko Kageyama

クリストファー・ノーラン作品を彩るクリエイターも参加

公演が行なわれたのは、1880年に開場したコスタンツィ劇場が前身のローマ歌劇場。残虐かつ奇矯なエピソードを残したローマ皇帝ヘリオガバルス(アントナン・アルトーの著作『ヘリオガバルス あるいは戴冠せるアナーキスト』でも知られる)の邸宅跡地に建てられた劇場である。

その歴史あるステージに、クリストファー・ノーラン監督の映画『プレステージ』『ダークナイト』『インターステラー』などの仕事で知られる、プロダクションデザイナーのネイサン・クロウリーが舞台美術を作り上げた。

ソフィア:本作が彼にとって初めての劇場での美術監督だと思います。ネイサンは多くの映画で美術を手がけていて、衣装展をメトロポリタン美術館で行ったこともあるんですよ。

イタリア色が濃い同公演に、異分子のように紛れ込んだロンドン出身のクロウリー。彼が手掛けた舞台空間にも注目したい。

ネイサン・クロウリー ©Yasuko Kageyama
ネイサン・クロウリー

ガーリーカルチャーの先駆者として

ソフィア・コッポラが語ったように、『椿姫』は「女性」にフォーカスした物語でもある。ソフィアはこれまで、次々に自殺していく5人姉妹を描いた1999年の『ヴァージン・スーサイズ』を皮切りに、少女と大人の「あわい」を繊細な手つきで映像に定着させてきた。

東京の街を背景に女優の空虚感を映し出した『ロスト・イン・トランスレーション』、孤独を抱えた少女としてのマリー・アントワネット像を提示した『マリー・アントワネット』、映画スターの父と娘の交流がテーマの『SOMEWHERE』、そしてセレブに憧れるティーン窃盗団の実話に想を得た『ブリングリング』。ガーリーカルチャーの先駆者と称されるソフィアが、悲恋の娼婦ヴィオレッタをどのように舞台上に出現させたのか。そしてその経験は、彼女の創作活動に今後どのような影響を与えていくのか。それも見どころの一つである。

ソフィア・コッポラ ©Yasuko Kageyama
ソフィア・コッポラ ©Yasuko Kageyama

日本のファンに向けて

『ロスト・イン・トランスレーション』の撮影を東京で行なったこともあるソフィアは、『ソフィア・コッポラの椿姫』公開に寄せて、最後に日本のファンへこう語った。

ソフィア:ヴァレンティノの衣装が使用できたこと、素敵な役者と仕事ができたこと、とても幸せです。きっと楽しんで頂けると思うわ! 音楽、ヴァレンティノの衣装に敬意を払い、重点的に取り組みましたから。

ジャンルの枠を超えて数多くのクリエイターたちと交流し、愛されてきたソフィア・コッポラ。その胸奥に流れ続けているのは、表現者たちとそれが生み出す作品への敬意に違いない。彼女は自身のルーツを視野に捉えながら、一流のクリエイターたちと共に自らの表現の拡張に挑んだ。『ソフィア・コッポラの椿姫』は、その華麗な挑戦の記録である。

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作品情報

『ソフィア・コッポラの椿姫』

2017年10月6日(金)から東京・TOHOシネマズ日本橋ほか全国で順次公開
演出:ソフィア・コッポラ
出演:
フランチェスカ・ドット
アントニオ・ポーリ
ロベルト・フロンターリ
配給:東北新社

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