コラム

伝説的なインド映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』再上映。いま観る意義とは?

伝説的なインド映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』再上映。いま観る意義とは?

テキスト
佐伯享介(CINRA.NET編集部)

(メイン画像:©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.)

あの伝説的なインド映画がスクリーンに帰ってきた。
「伝説的な」という煽り文句がちっとも大げさではないその作品は、日本でもっとも成功を収めたインド映画の1つ、『ムトゥ 踊るマハラジャ』である。同作の4K&5.1chデジタルリマスター版が、11月23日から東京・新宿ピカデリーほか全国で順次公開中だ。それにあわせてCINRA.NETでは本作の配給・作品宣伝プロデューサーである江戸木純氏と、宣伝担当の祭屋・宮田氏にメール取材を実施。当時の熱狂ぶりや今観るべき理由などについてコメントをもらった。

©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.
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20年前の日本を熱狂させたインド映画の金字塔。『ムトゥ 踊るマハラジャ』とは? 当時の熱狂ぶりを訊く

今から20年前、1998年に日本公開された南インドの映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』。主人公のムトゥ、彼が仕える大地主ラージャー、旅回り一座の女優ランガの三角関係と、ラージャーの屋敷の乗っ取りを企むラージャーの叔父の陰謀が絡みあい、やがてムトゥの出生の秘密が明らかになっていくというあらすじだ。南インドのタミル語で製作され、本国では1995年に公開された。

1998年の日本公開時、本作には直接関わっていなかったものの映画宣伝の仕事に携わっていた宮田氏は、「当時の『ムトゥ 踊るマハラジャ』の想像を絶するヒット振りは鮮明に覚えており、どのメディアを見てもこの作品が取り上げられていた記憶があります」と振り返る。作品プロデューサーから聞いたという話を交えながら、当時の熱狂ぶりを教えてくれた。

1998年6月13日、当時、渋谷カルチャーの流行の最先端を担い、ミニシアターブームの聖地的存在だったシネマライズ単館でスタートした本作は、同館で23週におよぶロングラン上映となり、興収2億800万円をあげて、この年のミニシアター興行ランキング第1位を記録。老若男女が連日劇場前に長蛇の列を作る様子が次々とワイドショーやニュースで取り上げられて話題となりました。その後、全国100か所以上の劇場で上映され、動員約25万人、総興収4億円を突破。20年を経た現在も日本公開インド映画歴代1位の記録は未だ塗り替えられておらず、VHS、LD、DVDといったビデオソフトの総売上げ本数も6万本を超えています。

世間の話題を集めてから、本作から影響を受けた歌やダンスがテレビを通じて継続的に投下。豪華絢爛でエネルギッシュ、微笑みながらアグレッシブにキレキレのダンスを踊りまくる、といった本作のミュージカルシーンが、間接的に「インド映画」のパブリックイメージを作り上げていった。日本におけるインド映画受容において、もっとも影響を与えた作品となった。

©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.
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いま、『ムトゥ 踊るマハラジャ』を観るべき意義とは? 「最高に面白い娯楽映画だが、普遍的メッセージも」

『ムトゥ 踊るマハラジャ』を2018年に劇場で上映する。そのきっかけについて、江戸木純氏はこう語ってくれた。

今年は初公開から20周年ということで、何らかの再上映をしたいと数年前から製作会社のカヴィターラヤー・プロダクションズと計画していました。今年は4K放送も開始されるため、4K化とステレオ化(オリジナル版はモノラルでした)の可能性を探り、オリジナルネガと音源の所在を確認し、それが奇跡的に完全な形で保管されていたことから4K&5.1chデジタルリマスターの製作を決定しました。音楽を担当したA・R・ラフマーン氏も5.1chリミックスの監修を快諾してくれて製作が開始されました。

モノラル(!)だったオリジナル版の音声が5.1chになったというだけでも、劇場に足を運ぶ価値はあるだろう。江戸木氏は、いまこの映画を観る意義について次のようにコメントした。

主演のラジニカーント氏も言っていますが、『ムトゥ 踊るマハラジャ』は最高に面白い娯楽映画ですが、単なる娯楽ではなく、人々の幸福を祈る慈愛や博愛、幸福とは何か? 自分が気づいていない自分の本当の能力など、ある意味仏教的精神に近い普遍的なメッセージが込められています。20年前に日本でこの映画があれほどヒットしたのも、そうした「ただ面白いだけではない」日本人の心に触れるメッセージがこの映画にあったからだと思います。4K&5.1chデジタルリマスター版の映像と音響によってこの映画のメッセージはより強く今の日本の観客の皆さんにも届くと思います。
©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.
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IT大国に成長したインドが生んだ怪物的エンタメ大作、『バーフバリ』との違い。『ムトゥ 踊るマハラジャ』はスペクタクルやアクションも全て人力だった

日本公開の1998年から20年。その間、インドはIT大国として大きく経済成長を遂げた。『ムトゥ 踊るマハラジャ』公開時のインドの名目GDPは3666億USドル。2017年は2.6兆USドルと、約7倍に成長した。

映画作品に目を向けると、日本では『きっと、うまくいく』『PK』『ロボット』『マッキー』『ダンガル きっと、つよくなる』といったインド映画が人気を博したが、中でもとくに大きなインパクトを引き起こしたのは2017年に日本公開された『バーフバリ』2部作だろう。「絶叫上映」など観客参加型の上映企画はたびたびメディアに取り上げられた。『バーフバリ』と『ムトゥ 踊るマハラジャ』の違いや似ている点について、江戸木氏はこう指摘する。

『バーフバリ』はテルグ語映画ですが、同じ南インドでも『ムトゥ 踊るマハラジャ』はタミル語映画です。徹底的に観客を楽しませるエンタテインメント精神は共通していますし、随所にミュージカルシーンを入れ込むマサラムービーのスタイルも一緒ですが、『ムトゥ 踊るマハラジャ』はよりミュージカル色が強いです。また『バーフバリ』はほぼ全編CGやデジタル処理で製作されていますが、『ムトゥ 踊るマハラジャ』は完全ノンデジタルでスペクタクルシーンやハードなアクションもすべて本当に人力でやっています。自然の美しさや動物たちの躍動も大きな見ものです。
『バーフバリ』はかなりバイオレンスの強い作品ですが、『ムトゥ 踊るマハラジャ』は凄いアクションはありますが暴力的表現はほとんどありません。

人力で構築された『ムトゥ 踊るマハラジャ』と、最新のテクノロジーを駆使した『バーフバリ』。その対比がインドの変化と発展を象徴しているようで面白い。

©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.
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「驚くほどの楽しさに満ちた、傑作中の傑作」『ムトゥ 踊るマハラジャ』の見どころを訊く

最後に『ムトゥ 踊るマハラジャ』の見どころについて、江戸木氏と宮田氏に伺った。宮田氏は、本作がキャッチコピーにある通りの「ウルトラ・ハッピーマサラ・ムービー(大娯楽映画)」であると太鼓判を押す。そして「絶叫上映」「応援上映」など参加型の上映形式が確立されていなかった当時、観客の自然発生的な盛り上がりによって、映画をより楽しむための動きが生まれたという意味で、「絶叫上映」の誕生を予見していたのではないかと指摘しつつ、以下のように締めくくった。

何より、底抜けに楽しいエンタテインメントでありながら、実は(押しつけがましくは決して無く)、人生を楽しく生き抜く為に必要なムトゥの名言が随所に散りばめられた本作を思わず身体を動かさずにはいられない、圧倒的な躍動感で観る人全てに“エナジー”を注入してくれる、映画史に名を刻む珠玉のダンスシーンと共に多くの皆さんと是非、劇場で“共有”“体感”して頂ければ嬉しいです。
©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.
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江戸木氏はインド映画に馴染みのない映画ファンに向けて、以下のようにメッセージを寄せている。

インド映画は歌あり、踊りあり、コメディあり、アクションあり、ラブストーリーあり…、と映画的魅力のエッセンスがすべて詰まったエンタテインメントのパッケージです。『ムトゥ 踊るマハラジャ』はその中でも傑作中の傑作で、驚くほどの楽しさに満ちています。その面白さは言葉では表現しきれません。また、主演のラジニカーントの圧倒的魅力とミーナの美貌もスクリーンサイズでないとその凄さのすべてを感じ取ることは出来ません。ぜひ映画館で体験してください。
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作品情報

『「ムトゥ 踊るマハラジャ」(4K&5.1chデジタルリマスター版)』

2018年11月23日(祝・金)から新宿ピカデリーほか全国で順次公開

監督・脚本:K・S・ラヴィクマール
音楽:A・R・ラフマーン
出演:
ラジニカーント
ミーナ
サラットバーブ
センディル
ヴァディヴェール
上映時間:166分
配給:エデン

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