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アリアナ・グランデのコーチェラ出演は新世代のヒーロー像を決定づけるか?

アリアナ・グランデのコーチェラ出演は新世代のヒーロー像を決定づけるか?

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辰巳JUNK
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

史上最年少、女性として4人目のヘッドライナーとなったポップスター

2019年、『コーチェラ・フェスティバル』のヘッドライナーが25歳のアリアナ・グランデに決定した。20年つづく同フェスにおける史上最年少記録だ。この快挙は、コーチェラと音楽シーン、そしてアリアナにとって、どのような意義を成すのだろうか。

「10年前なら到底信じられなかった」、そうつづった『Forbes』 は、アリアナのヘッドライナー就任を「ポップティミズム」の跳躍だと位置づけている。「ポップティミズム」とはポピュラー音楽を価値あるものと見なす思想であり、批評領域においては、ポップを蔑視しがちだった「ロック主義」と対にされることが多い。

今年の『コーチェラ』ラインナップ

ロックをルーツにする『コーチェラ』にしても、ポップアーティスト、とくに女性には狭き門とされてきた。たとえば、出演自体が物議を醸した2006年のマドンナすら最大のステージは与えられていない。2017年にレディー・ガガ、2018年ビヨンセと、ここ3年は女性ヘッドライナーが続いているわけだが、それでも2002年、2007年のビョークを含む史上4人目の女性とされるアリアナは「異例」と受け止められた。

当時のガガはロックやジャズの素養を立証積みであったし、ビヨンセは「信頼できるアーバンアーティスト」という評価も確立していた。一方、アリアナは、さまざまな音楽性を見せて評価されてきたとは言え「ティーン女子に人気なポップスター」のイメージが強い。そんな彼女が史上最年少ヘッドライナーとなったことは、コーチェラや音楽批評領域における「ポップ蔑視」終焉の決定打になりうるはずだ。

アリアナ・グランデの2016年のライブパフォーマンス“One Last Time”

米音楽シーンにおける「ポップと女性の復権」イヤーのシンボルに

アリアナの『コーチェラ』ヘッドライナーは音楽シーンの動向も象徴している。2019年春のアメリカでは「ポップと女性の復権」が起こりつつあるのだ。

トランプ政権が始まった2017年以降、ビルボードHOT100チャートはさながら「女性不況」が巻き起こっていた。33年ぶりにトップ10がすべて男性の週も出たほどだ。要因としては、男性優位ジャンルとされるヒップホップの台頭が挙げられる。

しかしながら、今年は女性アクトによるナンバーワンヒットが増え、3月時点で首位獲得数が2018年合計数と並んでいる。この数字を牽引した存在は、もちろん、ビートルズ以来55年ぶりにトップ3を独占したアリアナに他ならない。この波に新星ビリー・アイリッシュもつづいている上、今年はテイラー・スウィフトやホールジー、リアーナによる新作リリースも期待されている。

アリアナ・グランデのInstagramより。1964年のビートルズ以来初めて、ビルボードHOT100チャートのトップ3を単一アーティストが独占した

3月末にリリースした1stアルバムが60の国と地域のiTunesで1位を獲得しているビリー・アイリッシュ。『コーチェラ』の2日目に出演する

「男性ラッパーのように好きなときに曲を出す」と語ってきたアリアナにしても、宣言通り、ツアー中にヴィクトリア・モネとの新曲“MONOPOLY”をドロップしてみせた。こうした「女性の復権」は『コーチェラ』にも現出している。今年はアリアナやビリーに加え、ジャネール・モネイやケイシー・マスグレイヴス、そしてBLACKPINKやPerfumeなど、絢爛たるアクトがパフォーマンス予定だ。

4月1日にリリースされた“MONOPOLY”

『thank u, next』という比類なきアルバム

2019年のアリアナにとって『コーチェラ』は小さな成功に過ぎないとする声もある。アルバム『thank u, next』は、もっと大きな存在だ。そのグレイトネスの 考察は、『コーチェラ』をより楽しむマテリアルになるだろう。

前作からわずか半年で届けられたアルバム『thank u, next』。今年2月にリリース
前作からわずか半年で届けられたアルバム『thank u, next』。今年2月にリリース

「2018年は、キャリアは最高なのに人生は最悪だったことが興味深いです。多くの人が、アーティストとしての私がピークを迎えていることについて『彼女は乗りに乗ってる、全てを手に入れた』と思うでしょう。それはそうなのですが、人生の面では自分がどうなってるのか何もわかっていません」

昨年末の『Billboard's Women of the Year』受賞スピーチでアリアナはそう語ったが、『thank u, next』は「どうなっているかわからない状態」を表現したようなアルバムだった。

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