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「郊外」から日本を考える 磯部涼×小田光雄が語る崩壊と転換の兆し

「郊外」から日本を考える 磯部涼×小田光雄が語る崩壊と転換の兆し

『SURVIBIA!!』
テキスト
中島晴矢
撮影:上保昂大 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

未来の「ニュータウン」「郊外」はどうなっていくのか?

多摩ニュータウンで2年にわたり継続して開催されてきたCINRA主催のイベント『NEWTOWN』において、筆者も企画に関わった現代アート展が行われてきた。展覧会は、『NEWTOWN』というタイトルを正面から受け止め、ニュータウンそのものを文化的、歴史的、美術的に掘り下げ、現代の視点から提示する試みだった。

多摩ニュータウンで過去2回、開催されているCINRA主催のイベント『NEWTOWN』。音楽、演劇、ダンス、文芸、落語など、幅広いカルチャーが一堂に会した。『NEWTOWN 2019』は2019年10月19日~20日に開催予定。 / 撮影:鈴木渉
多摩ニュータウンで過去2回、開催されているCINRA主催のイベント『NEWTOWN』。音楽、演劇、ダンス、文芸、落語など、幅広いカルチャーが一堂に会した。『NEWTOWN 2019』は2019年10月19日~20日に開催予定。サイトを見る / 撮影:鈴木渉

そもそも、なぜ「ニュータウン(≒郊外)」を美術展の主題として扱うのかと言えば、今「郊外」という場所が私たちの共通前提になっていると考えられるからだ。全国的に拡大した郊外空間は、少子高齢化や移民問題も含め、現代社会の局面を先鋭的に露呈させている。その意味で、美術ばかりでなく様々な文化的表現において、時代の背景をなすこの状況を完全に避けて通るのは難しい。

現代アート展『SURVIBIA!!』(『NEWTOWN 2018』内) / 「suburbia(郊外)」と「survive(生き延びる)」を掛け合わせた『SURVIBIA!!』という造語をもって、狭義のニュータウンのみならず、団地や地方都市、ロードサイドを含めた「郊外」の全体性をあぶり出すべく開催された / 撮影:垂水佳菜
現代アート展『SURVIBIA!!』(『NEWTOWN 2018』内) / 「suburbia(郊外)」と「survive(生き延びる)」を掛け合わせた『SURVIBIA!!』という造語をもって、狭義のニュータウンのみならず、団地や地方都市、ロードサイドを含めた「郊外」の全体性をあぶり出すべく開催された / 撮影:垂水佳菜

『NEWTOWN 2018』にて企画、開催した現代アート展『SURVIBIA!!』において示唆を得たのが、音楽ライター、磯部涼の著書『ルポ 川崎』(2017年、サイゾー)である。磯部は郊外都市である川崎を、北部(平穏だが退屈なニュータウン)と、南部(刺激的だが治安が悪い工業地帯)に区分けし、南部的なるものを「川崎サウスサイド」として描き出したのだった。

磯部と写真家・細倉真弓のタッグによる記事と展示「『川崎ミッドソウル』アフター『ルポ 川崎』」。川崎市中原区出身のラッパー・dodoをフィーチャーし、北部とも南部ともつかない「ミッドソウル」を第三項として眼差すものとなった(「磯部涼×細倉真弓『川崎ミッドソウル』アフター『ルポ 川崎』」より。撮影:細倉真弓)
磯部と写真家・細倉真弓のタッグによる記事と展示「『川崎ミッドソウル』アフター『ルポ 川崎』」。川崎市中原区出身のラッパー・dodoをフィーチャーし、北部とも南部ともつかない「ミッドソウル」を第三項として眼差すものとなった(「磯部涼×細倉真弓『川崎ミッドソウル』アフター『ルポ 川崎』」より。撮影:細倉真弓)

そんな中、イベント当日に開催されたのが、磯部涼と小田光雄のトークイベント『死後の〈郊外〉—混住・ニュータウン・川崎—』だ。郊外論の発端となった『〈郊外〉の誕生と死』(1997年、青弓社)を著した評論家の小田光雄と、現代の川崎をルポルタージュした磯部による世代をまたいだ対話を通して、郊外論を歴史的な縦軸でつなぎ、過去から現在、そして未来の「ニュータウン」「郊外」を占う対談としてセッティングされた、そのトークの一部始終をレポートしよう。

左から:筆者(中島晴矢)、小田光雄、磯部涼。トークイベント『死後の〈郊外〉—混住・ニュータウン・川崎—』での様子
左から:筆者(中島晴矢)、小田光雄、磯部涼。トークイベント『死後の〈郊外〉—混住・ニュータウン・川崎—』での様子
小田光雄『〈郊外〉の誕生と死』
小田光雄『〈郊外〉の誕生と死』(Amazonで見る

我々はどこへ行くのか? 1980年代に出来上がった新しい消費空間

繰り返し述べれば、私たちの暮らす環境は全面的に郊外化していると言って過言ではない。画家ポール・ゴーギャンの作品タイトルではないが、「我々はどこから来たのか」「我々は何者か」「我々はどこへ行くのか」が不透明な現代の社会や文化の状況にとって、この対話はその一端を解き明かすカギになるだろう。

ポール・ゴーギャン『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』出典:ウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)
ポール・ゴーギャン『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』出典:ウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)

まず、小田は郊外化以前の農村で育っているので、自身をネイティブアメリカンのような「先住民」と名指す。その農村も、1960年代の高度経済成長期を経て1970年代に入ると、グローバリゼーションの先駆けのように中央資本が押し寄せて、郊外型のロードサイドビジネスを形成するのだ。

小田:1970年代前半に消費社会化すると、産業の主流が第一次産業から第三次産業のサービス業へ移行します。これは日本の歴史始まって以来のチェンジなんですね。フランスの思想家ジャン・ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』もその頃に書かれています。

そして1980年代になると、それまで田んぼや畑だったところにどんどん商業施設が建っていく。かつての町の商店街には必ず従業員や家族の住むバックヤードや2階、つまり「生活」があったんですが、郊外の場合には店舗しかない。つまり「商品」しかないんです。そこで新しい消費空間が出来上がった。

『NEWTOWN 2018』トークイベント『死後の〈郊外〉—混住・ニュータウン・川崎—』での様子
『NEWTOWN 2018』トークイベント『死後の〈郊外〉—混住・ニュータウン・川崎—』での様子

一方で、2017年にちょうど150万人都市になった川崎を磯部が取り上げた背景には、2015年に起きた「川崎中一殺害事件」やドヤ街である川崎区日進町での火災事件がある。今でこそラゾーナ川崎に代表されるように再開発が盛んな川崎は、かねてより公害や差別問題に対する市民運動の聖地であり、ある種日本の社会問題を象徴する場所であった。そんな川崎南部を描いた磯部も、出自はむしろ北部的な環境だったという。

磯部:僕は千葉県千葉市の幕張メッセに隣接したニュータウンに育ちました。幼少期には地平線が見えた記憶があります。その時はまだ家もポツポツとしか建っておらず、幕張メッセもなかった。そこにだんだんアスファルトが敷かれていったんですが、1990年代のバブル崩壊にさしかかって開発が途中で止まってしまったんです。

幕張で有名なツインタワー周辺も開発が止まったので、何もない中にポツンとツインタワーだけが建っている状態でした。その後で自分の住んでいる場所と全然違う環境を見に、東京に遊びに行くのが好きになる。そういう一種の「ツーリスト目線」も、僕の活動の原点にあると思います。

1951年生まれの小田と、1978年生まれの磯部。この2人の生い立ちには、戦後日本の歩んだ道程と都市の変遷とが、鮮やかに重なっている。1989年生まれで神奈川県の港北ニュータウンに育ち、郊外化が自明の前提だった筆者もそこに加えれば、郊外世代の1世から3世をまたぐことになる。

撮影:細倉真弓
撮影:細倉真弓
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イベント情報

『NEWTOWN 2019』

2019年10月19日(土)、10月20日(日)
会場:東京都 多摩センター パルテノン大通り、パルテノン多摩
東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧 八王子市立三本松小学校)

美術展:『SURVIBIA!!』(サバイビア!!)

「郊外を、生き延びろ。」(Survive in Suburbia.)をテーマにした美術展を開催。「ノーザン・ソウル」+「サウスサイド」+「ロードサイド」からなる「郊外」を提示することを試みた

日程:2018年11月10日(土)、11月11日(日)
時間:10:30~19:00
キュレーション:中島晴矢

『EXPO-SURVIBIA -千里・万博・多摩-』
秋山佑太
石井友人
キュンチョメ
中島晴矢
FABULOUZ
原田裕規

『変容する周辺、近郊、団地』
[URG]
石毛健太
衛藤隆世
EVERYDAY HOLIDAY SQUAD
垂水五滴
中島晴矢
名越啓介
BIEN
yang02

『PERSISTENCE_suburb』
[PERSISTENCE]
新井五差路
百頭たけし
藤林悠

『川崎ミッドソウルーーアフター「ルポ 川崎」』
細倉真弓
磯部涼

映画『サウダーヂ』上映
空族

トークイベント『死後の〈郊外〉—混住・ニュータウン・川崎—』
11月10日(土)14:00~15:30
小田光雄
磯部涼
中島晴矢

トークイベント『都市・郊外・芸術ー計画と無計画の間で』
11月11日(日)14:00~15:30
会田誠
中島晴矢

『SURVIBIA!!』クロッシング・トーク
11月11日(日)17:30~19:00
出展作家多数

プロフィール

小田光雄(おだ みつお)

1951年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。出版業に携わる。著書『〈郊外〉の誕生と死』『郊外の果てへの旅/混住社会論』(いずれも論創社)、『図書館逍遥』(編書房)、『書店の近代』(平凡社)、『出版社と書店はいかにして消えていくか』などの出版状況論三部作、インタビュー集「出版人に聞く」シリーズ、『古本探究Ⅰ~Ⅲ』『古雑誌探究』(いずれも論創社)、訳書『エマ・ゴールドマン自伝』(ぱる出版)、エミール・ゾラ「ルーゴンマッカール叢書」シリーズ(論創社)などがある。個人ブログ【出版・読書メモランダム】に「出版状況クロニクル」「古本夜話」を連載中。

磯部涼(いそべ りょう)

ライター。主に日本の文化/風俗と社会の関わりについてのテキストを執筆。単著に『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版、2004年)、『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト、2011年)、『ルポ 川崎』(サイゾー、2017年)等がある。その他、共著に九龍ジョーとの『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(ele-king books/Pヴァイン、2014年)、大和田俊之、吉田雅史との『ラップは何を映しているのか――「日本語ラップ」から「トランプ後の世界」まで』(毎日新聞出版、2017年)、編者に『踊ってはいけない国、日本――風営法問題と過剰規制される社会』(河出書房新社、2012年)等。『文藝』(河出書房新社)2019年秋季号より連載「移民とラップ」を執筆開始。

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