映画『50回目のファーストキス』金ローで地上波放送 仲野太賀の演技に注目

傑作ハリウッド映画『50回目のファースト・キス』の日本版リメイク。監督は「コメディーの奇才」福田雄一

10月18日、日本テレビの『金曜ロードSHOW!』にて地上波最速放送される映画『50回目のファーストキス』。タイトルを聞いて「なんだ、ラブコメかー」くらいに思ったのなら、それは大間違いだ。
2018年に公開された本作は、今なお熱狂的なファンを持つロマンティックコメディーの傑作『50回目のファースト・キス』(2004年/ピーター・シーガル監督)を原案とした日本リメイク版。『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)や『今日から俺は!!』(日本テレビ系)、映画『HK 変態仮面』シリーズ(2013年、2016年)、『銀魂』シリーズ(2017年、2018年)で知られる「コメディーの奇才」福田雄一監督が、まさかの王道ラブストーリー、しかもハリウッド映画のリメイクに挑んだのだから四の五の言わずに観るしかないだろう。

本作の舞台は、ハワイのオアフ島。ツアーガイドとして働きながら天文学の研究をしているプレイボーイの弓削大輔(山田孝之)は、ある日、明るくて魅力的な地元の女性・藤島瑠依(長澤まさみ)と出会う。ふたりはたちまち意気投合し、次の日も会うことに。しかし、翌朝会った瑠依は大輔のことをまるで覚えていない。聞けば瑠衣は、交通事故の後遺症により1日で新しい記憶を忘れてしまう短期記憶障害を患っていて、彼女の記憶は父の誕生日で止まったまま。家族は同じ日付の新聞を置くなど、瑠衣のことばかり考えた毎日を繰り返していた……。

映画『50回目のファーストキス』予告

過去にドラマ版・映画版『世界の中心で愛を叫ぶ』でそれぞれ主演した山田孝之、長澤まさみの演技にも注目

本家ではドリュー・バリモアとアダム・サンドラーが演じたカップルを、映画版・ドラマ版『世界の中心で愛を叫ぶ』(2004年・TBS系)で、それぞれ主人公とヒロインに扮した山田孝之と長澤まさみが好演しているのも世代的には感慨深いが、あるときは暴漢に襲われ(もちろん、わざと仕組んで)、あるときは車がエンストして(これもわざと)……と、あの手この手を使って毎日のように瑠衣を口説く大輔。これに毎回違ったリアクションで応じる瑠衣。年齢とキャリアを重ねたふたりだからこその、丁々発止のやりとりが微笑ましい。

長澤まさみが出演した映画『世界の中心で、愛をさけぶ』予告編

また、脇を固めるムロツヨシ(大輔の友人役)、佐藤二朗(瑠衣の父親役)といった福田作品でおなじみの面子も、安定の笑いを供給。本家に負けず劣らずの輝きを放っている長澤&山田とともに、とかく深刻になりがちなストーリーに、明るさと救いをもたらしてくれる。

『50回目のファーストキス』 ©2018 『50回目のファーストキス』製作委員会
『50回目のファーストキス』 ©2018 『50回目のファーストキス』製作委員会

オリジナル版から、難病ものでもあるのに悲壮感がなく、前向きで明るい印象を持ったという福田監督は、「日本版を自分がやるのであれば、もっと笑えるものに昇華したい」と語っている

その言葉どおり、シーン、アングル、セリフ、ギャグ……と、ほぼ忠実にオリジナルを再現しつつも、福田流のアレンジで笑わせ、最後には泣かせてくれる。日本映画では珍しいロマンティックコメディーの良作となった。

ハリウッドオリジナル版『50回目のファースト・キス』予告編

「福田組」初参加の仲野太賀が、本家を上回る「笑い」を提供。その演技で台本も大幅に変更

そんななか、本作で「福田組」に本格初参加となった仲野太賀(当時:太賀)が、オリジナル版のシーンをほとんどそのまま踏襲している日本版において、ある種の飛び道具的な存在として本家にはない意外性と、さらなる笑いを提供している。

ハリウッドオリジナル版をトレースした衣装もすでに面白い。『50回目のファーストキス』 ©2018 『50回目のファーストキス』製作委員会

仲野太賀が演じたのは、瑠衣の弟・慎太郎。筋肉バカで、とにかく暑苦しいことこの上ない……。太賀もまた、本家で同役・ダグを演じたショーン・アスティンを、最大級のリスペクトをもってトレースしている。ダグ役のショーン・アスティンは『グーニーズ』(1985年)のマイキーや『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのサムとは思えないマッチョな姿に……なんて昔の思い出はさて置き、筋肉アピールをする慎太郎と父とのボケとツッコミの応酬をはじめ、彼が「男として」気になる大輔とのくだり……などなど、コメディーパートはもちろんのこと、しんみりしそうな場面でも、慎太郎が登場するだけでその場に本家を超えるコメディーの雰囲気が立ち上る。

「男として」大輔のことが好き、というが、実際には……。『50回目のファーストキス』 ©2018 『50回目のファーストキス』製作委員会

本作の最初のシーンを撮影したあと、太賀の表情があまりに面白かったことから慎太郎のセリフを新たに書き換えたという福田監督と、慎太郎の父として一番近くで芝居をともにした佐藤は、太賀の存在感を、こう絶賛する(エンタメステーション/2018年5月31日)。

「本当に温かい映画になったと思います。藤島家は辛い状況にあるけど、光を当てているのは、弟の存在です。太賀くんがムチャクチャおもしろくて、その役割を担ってくれました」(福田)
「彼がこの映画から悲壮感をなくしてくれたと思いますね。どんな役を演じても、太賀がやると本当に見えるんですよ。太賀が演じる息子を見ていたら、大変な状況にあっても嫌なことがあっても、人間、ものを食うし、笑うよね…っていうふうに見えたんです、僕には」(佐藤)

福田雄一監督が見抜いた仲野太賀のコメディーの才能

佐藤が語るところの「どんな役を演じても、太賀がやると本当に見える」。思えばこれは、太賀が一躍脚光を浴びた2016年放送の『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『仰げば尊し』(TBS系)あたりから際立っていた。

「ゆとりモンスター」こと山岸役を演じ、世の中を舐めたような表情と「は?」というセリフひと言で日本中の視聴者をイラっとさせた『ゆとりですがなにか』。パンチパーマにヒゲというわかりやすい不良スタイルの高杢役でありながら、それだけでは終わらない個性を放った『仰げば尊し』。「こんなヤツ、そばにいそう!」と我々に思わせたのは、まさに「太賀がやると本当に見える」芝居の賜物だろう。

『ゆとりですがなにか』スピンオフドラマ『山岸ですがなにか』予告

「ここに太賀くんをブッキングできた自分を褒めたい(笑)」と再度『50回目のファーストキス』の慎太郎役を絶賛し、太賀との出会いとなった『情熱大陸』(TBS系)の菅田将暉の回を振り返る福田監督のコメントが興味深い(ビデオパス navi/インタビュー#30)。

「前から太賀くんの評判は聞いていたんですけど、そのとき菅田くん、若葉(竜也)くん、太賀くんをしゃぶしゃぶに連れてって、インタビューを撮ったんです。『菅田くんのこんなところが嫌い』っていう話を振ったら、若葉くんが自分と太賀は友人の中でもぞんざいに扱われていると明かして。太賀くんはそのフリに真顔で『非常に腹立たしいです』とリアクションしたんです。本当に怒ってるのかなって勘違いするくらいすごくリアルなトーンで。その一言でこの子はコメディに出ても絶対におもしろいはずだと。この作品をやると決まったときも、慎太郎は絶対に太賀と推して。確かキャスティングは一番最初に太賀くんを押さえたと思う」。

福田監督が構成を手掛けた、今や伝説と言われる回だ。これまであまたの名優を見てきた監督が「本当かな?」と勘違いするほどのリアクションを芝居以外でもするのだから、我々素人は騙される(いい意味で)に決まっている。

録画した素材を見返すと、「腹立たしいです」ではなく「不服ですね」と太賀は答えているが、この今時の青年であれば滅多に使わない「不服」という言葉のチョイスにも、非凡なものを感じた。

華々しいデビューから一転した「沈黙の8年間」。その間に築いた、監督たちからの信頼

2006年に13歳でオーディションを受け、フジテレビ系『新宿の母物語』で俳優デビュー。翌年NHK『風林火山』で大河デビューを果たし、続く2008年に『那須少年記』で映画初主演。華々しいデビューかに思えたが、2016年に『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』で2度目の主演をするまで8年もかかっている。

この6月、主演作2本を含む映画5本に出演した昨年を「転換期」と位置づけ、太賀から仲野太賀に改名した際のインタビューでは、それまでは自分の芝居や同世代の俳優に対する劣等感を抱えていたことを語っているが、この「沈黙」の8年間で地道に培ったものが今に至る信頼の礎を築いたのかもしれない。

実際、8年後の2016年に放送された先の『ゆとりですがなにか』で脚本を手掛けた宮藤官九郎は、「(どのキャラクターにも)みんな思い入れがありますが、自分で書いてて新しいなって思ったのは山岸かな。太賀くんがすごくうまくやってくれたから成立させることができました」(Smartザテレビジョン/2016年8月10日)と、最大級の讃辞を語り、昨年『今日から俺は!!』では2度目の福田組で今井役を演じた。宮藤はその後、現在放送中の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の後半における重要な役どころで再び(正確には連続テレビ小説『あまちゃん』のAD小池役もあるため、3度)太賀を起用しているところからも、彼と一緒に仕事をした監督たちの信頼ぶりが伺える。

「いだてん」第39回【懐かしの満州】 | NHK

そして、今年。太賀本人が「日本のコメディを背負ってきて、それで結果を出してきた福田さんが、純愛ものの要素を入れて、いつもとは違ったテイストの作品を作る」「このタイミングで福田さんとご一緒できたのは僕にとってもすごく大きくて」(リアルサウンド/2018年6月2日)と語った『50回目のファーストキス』を経た2019年に公開された映画『きばいやんせ!私』や『町田くんの世界』でも、「太賀がやると本当に見える」=どこにでもいるような青年役を飄々と演じ、それでいて笑わせるところではしっかりと笑わせ、インパクトを残している。

映画『町田くんの世界』本予告

一方でシリアスな芝居でも……と、もっと書きたいところだが、そろそろ文字数も尽きてきたので太賀が魅せる別な一面はほかに譲るとして、日本映画界、ドラマ界に新たに現れたコメディーリリーフの、これからの活躍に期待したい。

個人的には福田雄一、宮藤官九郎ら日本では数少ないコメディー(ギャグ)作家である『時効警察』シリーズ(テレビ朝日系)の三木聡と一緒の仕事も見てみたいと思ったりもするが——―ともあれ。「ラブコメなんて……」と思っている男性はもとより、カップルで観ればより幸せな気持ちになれること請け合いの『50回目のファーストキス』。今NetflixやHuluでも配信中の、ハリウッドオリジナル版とともにぜひご覧いただきたい。

番組情報
金曜ロードSHOW!
『50回目のファーストキス』

2019年10月18日(金)21:00~日本テレビ系で放送(放送開始時刻は変更の可能性あり)

監督・脚本:福田雄一
主題歌:平井堅“トドカナイカラ”
出演:
山田孝之
長澤まさみ
ムロツヨシ
勝矢
太賀
山崎紘菜
大和田伸也
佐藤二朗

作品情報
『50回目のファースト・キス』

監督:ピーター・シーガル
脚本:ジョージ・ウィング
出演:
アダム・サンドラー
ドリュー・バリモア
ショーン・アスティン



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