コラム

君島大空が照らす、アンビバレントな生。この切れ切れの人の世で

君島大空が照らす、アンビバレントな生。この切れ切れの人の世で

テキスト
天野史彬
リードテキスト・編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2020/08/04

メイン画像:平木希奈(サイトを見る

音楽は感情発火装置で、記憶のなかの「ある一瞬」を無限に引き伸ばし、永遠に閉じ込めておくことのできる記録装置だ。君島大空が紡ぐ音を聴いているといつもそう思う。2019年3月28日、『午後の反射光』をリリースしたばかりの君島大空がCINRA主催イベント『exPoP!!!!!』に出演したとき、「ベッドルームを恐る恐る出てみた」といった感じの彼が自身の音楽を熱っぽく求める観客たちに接触した瞬間のことを僕は時々思い出す。世界と擦れ合うことで生じる、魂の緊張を脱ぎ捨てたかのような瞬間――あのときまでとそれ以降で、君島大空には何か変化が生まれたのではないか。そんな気がしている。

「七尾旅人に通じる、君島大空の『天使性』について書いてほしい」――下記のテキストは、ライターの天野史彬にこう何の気なしに伝えたことで生まれたものだ。ここでいう「天使」は何か具体的なものを指すのではなく、君島大空の音楽を説明するために充てがっている記号に過ぎない。その語感、文字面が想起させる抽象的なエネルギーによって、なんとか捉えようとしていたものがたしかにあるのだ。それは何か? 2019年2月21日、初めての取材で我々と君島大空が接触してから少しずつ積み重なった感覚、時間、感情を形にしようと試みた。

君島大空(きみしま おおぞら) / 撮影:平木希奈<br>1995年生まれ、日本の音楽家。2014年から活動をはじめる。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし、多重録音で制作した音源の公開をはじめる。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2020年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。ギタリストとして、高井息吹、坂口喜咲、婦人倶楽部、吉澤嘉代子、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、劇伴、楽曲提供など様々な分野で活動中。
君島大空(きみしま おおぞら) / 撮影:平木希奈
1995年生まれ、日本の音楽家。2014年から活動をはじめる。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし、多重録音で制作した音源の公開をはじめる。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2020年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。ギタリストとして、高井息吹、坂口喜咲、婦人倶楽部、吉澤嘉代子、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、劇伴、楽曲提供など様々な分野で活動中。

君島大空のベッドルームと世界を繋ぐ感覚。かすかな息づかいなど、楽曲に忍ばされた宝石のような音の粒たちが描くもの

音楽家・君島大空が、2020年最初の新曲“火傷に雨”をリリースした。火傷に雨、というタイトルがすでに豊潤なイメージを抱いている。焼けて傷ついた皮膚と、雨という自然現象との接触。雨は、焼けた皮膚の痛みをより鋭くするだろうか? それとも、熱を冷まし痛みを浄化するだろうか? 実際に火傷の傷口を雨に晒した経験のない僕に正解はわからないが、しかし、そもそもイメージに正解などないのだ。

君島大空はシュルレアリスムに大きく影響を受けている音楽家だが、シュルレアリスムといえば真っ先に引用される、ロートレアモンのあまりに有名な詩の一節――「解剖台の上でミシンとこうもり傘が偶然出会ったように美しい」というあの一節のように、出会い、重なり、衝突、反射……あらゆる「接触」は無限のイメージを喚起する。

取材中、机を手で軽く叩いて音を出しながら、「こんな感じで、音っていうのは、つまるところ『何か』と『何か』の『接触』なんですよ」と僕に話してくれたのは蓮沼執太だった(関連記事:蓮沼執太が語る「接触」することで生まれる音楽や人間との関係性)。「そうか、接触か」と目から鱗が落ちるような感覚があった。それは、あまりに単純明快な、しかし、終わりのない問いをはらんだひとつの答えだった。

そういえば、去年の2月に君島大空に初めて取材をしたとき、彼は「リップノイズを集めるのが好きだ」と言っていた。あの発言を記事に入れなかったのは僕のミスだろう。君島大空の、「接触」に対するフェティッシュな欲望がよくわかる発言だ。君島大空の音楽に見られる「混濁しながらもクリア」な音像は、そんな彼の欲望によって形作られている。

“火傷に雨”のサウンドも見事に、混濁しながらもクリア、だ。曲を再生すると、君島が自身でサンプリングしたと思しき雨音や、エレキギターの胎動に空気が震える音や、そんな様々な音に交じって、恐らく君島自身のものであろう、かすかな息づかいが聴こえる。その息づかいすらも、彼は曲のなかに閉じ込めてしまえる。

接触はいつも境界線の上に小鳥のように佇んでいて、君島大空はそれをしばらく眺めてからサッと捕まえて、宝石にする。そして、そんな彼の音楽に接触した我々もまた、そこに無限のイメージを抱くのだ。接触は連鎖していく。指が弦をはじき、空気を震わせ、それを受けて、また指が弦を弾く……そんなふうにして、音が旋律となって連なっていくように。

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リリース情報

『火傷に雨』
君島大空
『火傷に雨』

2020年7月24日(金・祝)配信リリース

プロフィール

君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ、日本の音楽家。2014年から活動をはじめる。同年からSoundCloudに自身で作詞/作曲/編曲/演奏/歌唱をし、多重録音で制作した音源の公開をはじめる。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。4月には初の合奏形態でのライブを敢行。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日、『FUJI ROCK FESTIVAL'19』 ROOKIE A GO-GOに合奏形態で出演。同年11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ・NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。2020年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。ギタリストとして、高井息吹、坂口喜咲、婦人倶楽部、吉澤嘉代子、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、劇伴、楽曲提供など様々な分野で活動中。

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