コラム

『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」

『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」

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辰巳JUNK
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

※本記事には性暴力事件に関する記述が含まれます。
※本記事には一部本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

(メイン画像:© Universal Pictures)

2000年代USカルチャーを彷彿させるポップなビジュアル。ジャンル定型の破壊を志した異色のオスカー脚本賞作

「『アカデミー脚本賞』はクール」。ここ最近、英語圏映画ファンのあいだで評判が立っている。

根拠となっているのは近年の受賞作品、第90回『ゲット・アウト』、そして第92回『パラサイト 半地下の家族』だろう。2つの人気作の共通点として、ハリウッドにおけるジャンル定型を刷新するようなトーン転換と衝撃展開の連続、今日的な社会問題との接続といった、考察や議論を喚起しやすい作風が挙げられる。「#MeToo以後のオスカー映画」と謳われた2021年の第93回受賞作『プロミシング・ヤング・ウーマン』にも通じる個性だ。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』あらすじ:<br>30歳を目前にしたキャシー(キャリー・マリガン)は、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーやクラブにひとりで繰り出し、泥酔したフリをして、自らに課したミッションを遂行していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。この偶然の再会が、キャシーに恋心を目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』あらすじ:
30歳を目前にしたキャシー(キャリー・マリガン)は、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーやクラブにひとりで繰り出し、泥酔したフリをして、自らに課したミッションを遂行していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。この偶然の再会が、キャシーに恋心を目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる。

スリラーからダークコメディー、ラブロマンスまで内包する『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、製作と脚本を兼任したエメラルド・フェネル監督がジャンルの破壊を志して執筆した作品である(※1)。その破壊対象になったジャンルとは、コメディー、そしてレイプ・リベンジ(性的暴行の被害者やその関係者が復讐を行うジャンル)だという。

これを踏まえると、本作においてまず異色なのは、深刻な社会問題を扱うアワード受賞作としては不釣り合いに感じさせる、ポップでキッチュなビジュアルだろう。主人公キャシー(キャリー・マリガン)が働くカフェの内装を筆頭に、本作が再現するのは、甘くフェミニンな女性向けのアメリカンポップカルチャーだ。

パリス・ヒルトンとブリトニー・スピアーズの楽曲使用も話題を呼んだように、キッチュなピンクや水色がひしめくビジュアルでは『クルーレス』(1995年)や『キューティ・ブロンド』(2001年)のような1990年代後半~2000年代キューティ映画の世界観が強く志向されており、同時代的なロマンチックな演出も多用される。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』 ©2020 Focus Features
『プロミシング・ヤング・ウーマン』 ©2020 Focus Features
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人気ロマコメ俳優の配役が生み出す効果。安心感を与える「ナイスガイ」も加害者になりうる

「人口甘味料」とも例えられるキューティ映画の世界観は、1985年生まれのフェネル監督いわく「(30代の自分と)同世代の女性たちの快楽」を刺激する魅惑のノスタルジー領域だ(※2)。しかしながら、そのドリーミーな空間に『プロミシング・ヤング・ウーマン』が注入するのは、毒々しくアンフェアな「女性の現実」である。

たとえば、主人公キャシーと一夜を過ごそうとするさまざまな男性役には『The O.C.』セス役のアダム・ブロディなど、女性に人気のテレビドラマで知られる「親近感ある男優」がキャスティングされている。そんな彼らが「ロマコメのヒーロー」の雰囲気を保ったまま同意のない性行為に出ようとした場合、衝撃はいかほどだろうか? ……ポップカルチャーのペルソナを通して『プロミシング・ヤング・ウーマン』が提示するものは、安心感を与える「ナイスガイ」でもデートレイプ加害者になりうるという寓話であり、性暴力の危機に晒されつづける「女性の現実」なのだ。

キャシーと再会する大学のクラスメート・ライアンを演じるのは、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』の監督としても知られるボー・バーナム © Focus Features
キャシーと再会する大学のクラスメート・ライアンを演じるのは、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』の監督としても知られるボー・バーナム © Focus Features

ポップなビジュアルから「女性の現実」を暗示する仕掛けは多岐にわたる。たとえば、自らクラブやバーに出向いて、さまざまな男性たちと一夜を過ごす状況に導くという危険を犯す主人公は、そのときどきによって服装が異なる。「 『機会均等』の復讐の天使」をテーマにした会社員風のスーツから、「廉価版カーダシアン」と指定されたセクシーでエッジーなメイクアップ(※3)まで、多種多様な女性像に擬態していくのだ。こうしたスタイルのシャッフルからは、さまざまな服装、容貌の女性が性暴力被害者となっている「現実」が浮かび上がる。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』 © Focus Features
『プロミシング・ヤング・ウーマン』 © Focus Features
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作品情報

『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『プロミシング・ヤング・ウーマン』

2021年7月16日(金)からTOHOシネマズ 日比谷、CINE QUINTOほか全国で公開

監督・脚本:エメラルド・フェネル
出演:
キャリー・マリガン
ボー・バーナム
アリソン・ブリー
ほか
上映時間:113分
配給:パルコ

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