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片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

テキスト:橋本倫史 撮影:西田香織

神話の中に描かれるインド社会の過酷な現実

『アーティスト・ファイル2013』も、残すところあと3人。不穏な音に招かれて進んでいくと、インドの作家ナリニ・マラニさんの作品が現れます。『内在する他者との分裂』と題されたこの作品は、高さ2メートル、幅は合計14メートルにも及ぶ巨大な14枚組の作品です。モチーフとなるのはギリシャ神話に登場するカッサンドラという女性の予言者ですが、マラニさんは古代の神話とインドの抱える問題や現実を織り交ぜて描いています。

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

片桐:本当だ、神話っぽい絵の中に戦車が描いてある。地雷を踏んだ人とか、急にリアルになりますね。この感じ、超怖くないですか? 絵本でいえば『モチモチの木』みたいな感じ。この作品の絵本があったら怖くて読めないかもしれない。この内臓みたいな絵柄も、絵が光っているような感じがするのも、すげえ怖いですよ……。

そう、透明なアクリルシートに描かれたこの作品は、インドのガラス絵に着想を得て作られました。さらにもう1つ展示されているマラニさんの作品は、『消失した血痕を探して』です。部屋の中央でぐるぐる回る大きなシリンダーを通して映し出される影絵と、それに重なるように映し出される映像とが組み合わさることで、現代のインドに生きる女性の心象風景が私たちの胸に迫ってきます。

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

片桐:最初は平和だったのに、段々恐ろしくなってきますね。ヒンズー教の神様が出てくるから、何だかお寺にいるみたいな感覚になりますね。あ、女の人が映ってる。インドの結婚は親が決めた政略結婚みたいなことが多いって聞きますし、カースト制度もあるし、自由がないですもんね。その怖さを表現してるんでしょうね。

現場検証の香りがする、ヤバい写真の部屋

ナリニ・マリニさんの部屋を後にすると、100点余りの写真が所狭しと迷路のように並べられています。2008年から宮城県の北釜と呼ばれる土地に移り住み、集落の専属カメラマンとして滞在制作を続けている志賀理江子さんの作品『螺旋海岸』です。集落の専属カメラマンと聞くとほのぼのした写真を想像しますが、土地の記憶と深く結びついた志賀さんの写真は異様な光を放っています。

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

片桐:これはヤバいですね……。この並べ方といい、土嚢で抑えてある感じといい、現場検証の香りがしますよ。この村、絶対何か事件が起きてるでしょ。ほとんど横溝正史の世界ですよ。またピントを微妙に甘くしてあるから余計怖いんだよなあ。

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

志賀理江子さんは集落の人々と共に暮らしながら、土地の人々へのヒアリングを重ね、それらのインタビューを文字に起こしてきました。その言葉が志賀さんに内在化され、「歌」のように自然と志賀さんの中から出てくるようになったとき、『螺旋海岸』と題した1つの作品群が生み出されたのです。

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

片桐:こっちの写真は生け贄みたいになってるし、かと思ったらこっちの写真はおばあさんが内緒話してるし……。でも、これはきっと土地の人々と仲良くなって、この写真を撮るためにこういうポーズを取ってもらったんでしょうね。僕、写真を見てると、すぐ「これは何をしてるんだろう?」って考えちゃうんです。「何でこれを撮ったんだろう?」って気になっちゃうんですよね。

月の光が作り出した虹の風景!?

最後の部屋に展示されている作品は、一見すると普通の風景写真。だけど、どれも何だかふわっとした幽玄な雰囲気があります。『Fullmoons』というタイトルの付けられたこれらの作品は、実は満月の光のみでカメラが捉えた世界各地の風景なのです。通常よりも長い露光時間で撮影された風景は、人間の眼では決して捉えることのできない幻想的な風景を描き出します。

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

片桐:ええ!? これ、ほとんど昼の写真じゃないですか? 月の光でこんなに見えるの? これなんて、虹まで出てますよ! 夜でも虹って出るんですね……。ナイアガラの滝みたいになってるけど、一体どこの写真なんだろう?

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

これらの作品を手がけたダレン・アーモンドさんは、満月の光を追いかけて世界中を旅しています。そして『Fullmoons』の写真が撮影された場所は、どれも偉大な画家たちが描いた土地や、歴史的な出来事が起きた場所なのだそうです。

『片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展

片桐:同じ風景でも、昼間に撮られた写真とでは、遠景と近景の明るさの差が全然違うんでしょうね。とても不思議な感じです。一体、月はどっちに出てるんだろう? 空が白くなってる方向に月があるんですかね? 満月の夜は肉眼で見ても空が明るいですけど、こんなに白く写るものなんですね。

橋本倫史

1982年東広島市生まれ。ライター。07年、リトルマガジン『HB』創刊、編集発行人を務める。『en-taxi』(扶桑社)、『マンスリーよしもとPLUS』(ヨシモトブックス)等に寄稿。向井秀徳初の著書『厚岸のおかず』(イースト・プレス)制作にも携わる。

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