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美しい写真の裏に隠された白人とネイティブアメリカンの黒歴史

美しい写真の裏に隠された白人とネイティブアメリカンの黒歴史

島貫泰介
撮影:佐々木鋼平

アメリカ人の精神的ルーツとして利用された、ネイティブアメリカンたち

アーツ・アンド・クラフツは、イギリスの思想家であるウィリアム・モリスが19世紀末に主導したデザイン運動で、産業革命以降の大量生産社会に対し、あらためて手仕事に注目すべきだと主張するものだった。日本で柳宗悦(やなぎ むねよし)らが展開した「民藝」にも影響を与えた同運動は、植物などのモチーフを装飾に多用し、当時の白人富裕層に広がりつつあった自然回帰的な思想にうまく適合した。アメリカ先住民たちの自然的で素朴な生活をとらえたカーティスのオロトーン作品も、そのような背景の中でアメリカの白人たちに迎えられたのだ。

『ブラック・イーグル アシニボイン族』
『ブラック・イーグル アシニボイン族』

アメリカの白人たちのルーツはもちろんヨーロッパにあったが、イギリスの植民地という立場からいかにして独立するのかはアメリカにとって大きな課題だった。18世後半のアメリカ独立戦争で実際的な独立は獲得できたものの、「アメリカ人」としての精神的な独立を勝ち取るためには、ヨーロッパとは異なるルーツが必要だった。そのために利用されたのが、アメリカ先住民の文化だったのだ。

山地:自然に近い存在としての先住民を、アメリカのルーツとしてとらえる。アーツ・アンド・クラフツでは自然のモチーフを用いて文明と自然の共生が謳われたわけですが、オロトーンなどの写真作品では、ネイティブアメリカン自体が自然を示す存在として援用されたのです。

『朝のおしゃべり アコマ族』
『朝のおしゃべり アコマ族』

一筋縄ではいかないカーティスの人物像と秘められた情熱

これまで見てきた1900年前後のアメリカの社会状況と照応させていくと、カーティスを巡る状況は複雑な様相を呈してくる。白人富裕層のニーズに応じて、巧みなセットアップを施してアメリカ先住民たちを撮影した写真家とも読み取ることができるからだ。事実、カーティス作品の搾取的な性質はこれまでにも批判されており、生前には、富裕層にうまく取り入る「宮廷写真家」と揶揄されることも多かったそうだ。はたしてカーティスの真意はどこにあったのだろうか。

山地:難しいところですが、個人的には「本当の写真を撮りたい」という情熱に突き動かされた人だったと感じています。成功収めていた営業写真館の仕事を断ち切って、先住民の撮影に専念するようになってからのカーティスの人生は本当に質素でストイックなものです。複数のスタッフを従えて砂漠や荒野を転々とする撮影旅行は本当に過酷でしたし、そんな状況の中で離婚した妻には、それまで撮影した写真を持ち逃げされているんです。それでも彼はあきらめなかった。カーティスは、生前に『北米インディアン(The North American Indian)』という全20冊の大著を残しました。先住民を記録した約1,500点の写真とテキストはすべて彼の手によるもので、その多くが全米の美術館・博物館に収められています。お金儲けが理由なのだとしたら、もっと展覧会を開催して、オロトーンやプラチナプリントを積極的に販売すればよかった。しかし、カーティスは個人的な成功よりも、アメリカ先住民たちの文化を歴史に残すことを選んだのです。

『シワワチワ ズニ族』
『シワワチワ ズニ族』

1人の人間が約30年という長い時間を費やして、1つだけの仕事に取り組む情熱はいかばかりのものだろうか。あまり知られていないことだが、カーティスは写真だけでなく、音の記録も残している。エジソンが発明した蝋管再生機(フォノグラフ)で再生することのできる蝋管(ワックスシリンダー)に、先住民たちの肉声や歌を記録していたのだ。そのすべてが現存しているわけではないが、当時残された蝋管の数は1万本を超えていたという。

山地:カーティスが文化人類学を勉強したという記録は残っていませんから、これらは研究を目的としていたわけでもないでしょう。つまり、ただネイティブアメリカンへの純粋な好奇心と情熱に突き動かされて、その社会に、そして一人ひとりと向き合っていたのではないでしょうか。だからこそ、彼の写真は1世紀を過ぎた今でも輝きを失わないのだと思います。

『サンタ・クララ族の男』
『サンタ・クララ族の男』

現在、カーティスが残した写真は約100年前のネイティブアメリカン社会を知るための貴重なアーカイブ資料として広く認知され、関連する書籍の表紙を飾る機会も多い。ある意味で、ネイティブアメリカンのパブリックイメージは、カーティスの写真によってかたち作られてきたともいえるだろう。一方でカーティスの作品を、その背景にある近現代アメリカの複雑な社会事情やさまざまな思惑を抜きにして受容することには躊躇がともなうかもしれない。しかし、一見矛盾を含んだようなカーティスの人物像や作品背景は、今の日本に生きる私たち自身の複雑な状況とも実はそれほど変わらないともいえないだろうか。そして、今私たちがビンテージプリントを通してネイティブアメリカン文化の一端に触れることができるのは、いかなる手を尽くしてでも彼らの姿を後世に残そうと奮闘したカーティスの情熱があってこそだったのだ。


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イベント情報

エドワード・S・カーティス作品展
『アメリカ先住民の肖像』

2013年3月1日(金)〜5月31日(金)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン内 FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館
時間:10:00〜19:00(入館は18:50まで)
休館日:なし
料金:無料

ギャラリートーク
2013年4月21日(日)13:00〜、15:00〜(各回30分程度)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン内 FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館
料金:無料(予約不要)

プロフィール

エドワード・S・カーティス

1868年アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。1899年、ニューヨークの大富豪エドワード・H・ハリマンのアラスカ探検隊に同行したことが大きな転機となり、以前から興味を持っていたネイティブアメリカンの撮影に専念することを決意。自らを「消えゆく文化の目撃者」ととらえ、1900年の南西部での撮影を皮切りに、南西部、平原、北西海岸の部族を次々と撮影。大富豪のJ・P・モルガン氏やセオドア・ルーズベルト大統領の経済的支援を得て、ミシシッピー河西部からアラスカにかけて全域を踏破し、80以上の部族を調査・撮影。1907年から1930年の間に、約1,500点の写真とテキストによる全20巻の『北米インディアン(The North American Indian)』を発行するという偉業を成し遂げた。1952年没。

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