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美しい写真の裏に隠された白人とネイティブアメリカンの黒歴史

美しい写真の裏に隠された白人とネイティブアメリカンの黒歴史

島貫泰介
撮影:佐々木鋼平

ネイティブアメリカンとの深い信頼関係、協同作業によって制作された作品の数々

アメリカ上流階級からの知遇を得たカーティスは、1900年から本格的にネイティブアメリカンを撮影する作品の制作をスタートする。南西部を皮切りに、平原、北西海岸の部族を次々と写真に収めていった。

山地:カーティスは、写真技術だけでなく交渉術にも長けていました。例えば各部族の酋長に撮影を依頼する際も、自分がリサーチしてきた他の部族の知識を語ることで信頼を得ていたようです。時にはあえて間違った知識を語り、相手にそのミスを指摘させることで、会話の糸口を掴んだりしていたといいます。とても話し上手な人だったようですね。

『ズニ族のキアキマッシ、ワイフシワ』
『ズニ族のキアキマッシ、ワイフシワ』

そのようにしてネイティブアメリカン社会に溶け込んでいったカーティスは、他の写真家では撮影することのできない貴重な被写体やシーンを次々とものにしていった。森の川沿いに半裸でたたずむ先住民の少女をとらえた『夢見る乙女』では、絵画のように見事な構図だけでなく、肌をさらすことを許した少女や部族のカーティスに対する信頼の厚さに驚かされる。

『夢見る乙女』
『夢見る乙女』

『バッドランズのオアシス』も、先住民とカーティスの間に育まれた信頼を証明づける1枚だろう。同作は、広大な草原の中で華麗な羽飾りを纏った男性が白馬にまたがる姿を撮影している。男性は馬上から遥か彼方の風景へと目をやり、白馬は頭を下げて水を呑んでいる。神話のワンシーンのような決定的瞬間。完成された美しい構図に、カーティスの写真家としての希有な資質を感じる。しかしこれはそんな奇跡の一瞬をカーティスがとらえたものではありえないと山地さんはいう。

『バッドランズのオアシス』
『バッドランズのオアシス』

というのは、1900年代初頭には、その後一眼レフやレンジファインダーと呼ばれるようになる小型の銀塩カメラはまだ発明されていなかった。世界最初の小型カメラ、ライカが発売されたのは1925年である。当時の写真家たちは巨大な木製の大判カメラ、それを支える重い三脚、現在のフィルムに相当する何十枚ものガラス乾板の一式を装備し、何人ものスタッフを率いて撮影旅行に赴いていたのだ。1カット撮影するたびにガラス乾板を交換するのも大仕事、露光時間に数十秒から数分かかることもざらだった。

山地:スナップショットのように「偶然の一瞬」をとらえることが不可能な時代ですから、カーティスはあらかじめ場所と構図を選んでカメラを据えたはずです。『バッドランズのオアシス』では渇きを潤すために馬が水を呑んでいる姿が印象的ですが、そのシーンを撮影するためにカーティスは、馬が自然に水を欲するよう、あらかじめ近くを走らせていたのではないでしょうか。伝統衣装を着た男性の姿も含め、カーティスの美意識が行き渡った1枚と言えるでしょう。このような複雑な手順を踏んだ撮影には、先住民たちの協力と理解が不可欠でした。自らの文化の記録を後世に残したいという思いが先住民たち側にもあったとはいえ、ここまでカーティスに心を開いていたことに驚かされます。

山地裕子(清里フォトアートミュージアム主任学芸員)
山地裕子(清里フォトアートミュージアム主任学芸員)

資金調達に奔走していた白人社会におけるカーティスの姿

当時のカーティスは1年間の3分の2を撮影旅行に充てていたという。では、残りの時間をどのように過ごしたのだろうか。

山地:次の撮影のための資金調達です。政府からの援助があったとはいえ、多くのスタッフを連れての長期間撮影には、機材代を含めて莫大な費用が必要でした。ニューヨークの高級ホテルで開催される販売会に出展し、富裕層に対してプリントを販売していたのです。そこで得た資金を元手にして次の撮影の計画を立てる。アメリカ先住民の撮影に取り組んだ約30年の間、カーティスは先住民の居住地と大都市を行き来する生活を続けました。

ここでカーティスの写真技法について説明しておきたい。彼が手がけた技法は多岐にわたるが、特に注視すべきなのが「オロトーン技法」と呼ばれるものだろう。オロトーンとは、ポジフィルムの代用品としてガラス板を用いる技法で、ガラス面に塗布したブロンズ粉に被写体の像を定着させ、その裏からバナナ油で彩色を施すもの。美しい金色の質感と高いシャープネスが特徴だが、とても壊れやすいため、作品保護のために特注された額と一体化して販売されることが多く、非常に手間のかかる技法とされていた。しかし、カーティスが独自に改良を施したオロトーン技法は透明性と安定性に優れ、「カート・トーン」と呼ばれ人気を博していたという。

アクリルケースと額装で保護されたオロトーン作品
アクリルケースと額装で保護されたオロトーン作品

金色で被写体をプリントするという点で、19世紀末に日本で発明され、アメリカの見本市でも紹介された「蒔絵写真」の影響を受けているのではないかという説もあるが、真偽は定かではない。凝った額ぶちも含め、きわめて高い工芸性を誇ったオロトーンは、アメリカ国内の富裕層に愛好されていた。また同時期に流行したデザイン運動「アーツ・アンド・クラフツ」運動もオロトーンの受容を後押ししたといわれている。

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イベント情報

エドワード・S・カーティス作品展
『アメリカ先住民の肖像』

2013年3月1日(金)〜5月31日(金)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン内 FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館
時間:10:00〜19:00(入館は18:50まで)
休館日:なし
料金:無料

ギャラリートーク
2013年4月21日(日)13:00〜、15:00〜(各回30分程度)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン内 FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館
料金:無料(予約不要)

プロフィール

エドワード・S・カーティス

1868年アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。1899年、ニューヨークの大富豪エドワード・H・ハリマンのアラスカ探検隊に同行したことが大きな転機となり、以前から興味を持っていたネイティブアメリカンの撮影に専念することを決意。自らを「消えゆく文化の目撃者」ととらえ、1900年の南西部での撮影を皮切りに、南西部、平原、北西海岸の部族を次々と撮影。大富豪のJ・P・モルガン氏やセオドア・ルーズベルト大統領の経済的支援を得て、ミシシッピー河西部からアラスカにかけて全域を踏破し、80以上の部族を調査・撮影。1907年から1930年の間に、約1,500点の写真とテキストによる全20巻の『北米インディアン(The North American Indian)』を発行するという偉業を成し遂げた。1952年没。

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