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新世代に鳴る「非ジャンル」な歌声 黒沼英之についての考察

新世代に鳴る「非ジャンル」な歌声 黒沼英之についての考察

高橋美穂
2013/05/27

普通に見えて、どこか変。そんなものにこそ強く興味をそそられる。

さらに、「黒沼英之をつくる4つの素」の、オーストリア出身の画家、エゴン・シーレに関しては「シーレの絵には切実さを感じます」「コンプレックスを強く抱く人間の、それでも外の世界と繋がっていたいという祈り。そんな切実さでしょうか」と綴り、映画『ノーカントリー』などを制作したコーエン兄弟に関しては「そういえば兄弟の宣材写真は、普通に見えて、どこか変。そんなものにこそ強く興味をそそられます」と綴る。そんな、「黒沼英之をつくる4つの素」に対する彼のコメントを全て読んだときに、はたと気づいた。これ、全て彼自身のことでもあるじゃないか! つまり、彼が「黒沼英之をつくる4つの素」を見つけていった歴史は、彼が自己を肯定していった歴史でもあるんじゃないだろうか。自分自身を映し出し、尊敬できる存在に出会えたことによって、彼がより自己表現に邁進できたところもあるだろう。

昨今では、フィンランドで年2回発行されているファッション&アート誌である『SSAW MAGAZINE』にて、唯一の日本人モデルとして登場。コム・デ・ギャルソンやGANRYUを着こなすという、モデル活動も行っている。それがまた、国内の雑誌ではなく海外、しかもフィンランドというところが、ユニークだし、彼らしい。確かに、彼の楽曲は日本語詞だし、彼のビジュアルは日本人然としているけれど、ジャンルやシーンに根を張るわけではない飄々としたスタンスは、いつだって遥か彼方まで飛んでいってしまいそうだからだ。

黒沼英之

十人十色な生活を包み込むような、柔軟性と包容力のあるポップス

彼の楽曲は、幅広いバリエーションがありながら、歌が中心にあるポップスというところからブレはない。高音やファルセットが魅力的だが、ただ上手いというよりは、彼の人間性や感情が滲み出ていると思う。そこに、ストリングス、ピアノ、ギターと、様々な楽器を従え、時にドラマティックに、時にアットホームに、カラフルに目の前を描いてみせる。喩えるなら、ラジオが似合う楽曲と言えるかもしれない。十人十色な生活を包み込むような、柔軟性と包容力があるから。ライブのときも、全てのオーディエンスにしっかりと歌心を届けたいというような、真摯な姿勢が伝わってきて、心地好く受け入れられていた。これだけのルーツやパーソナリティーを抱えながら、全てをポップに昇華してしまうところが、とても興味深い。カルチャーを掘れば掘るほど、ヒネくれてアンダーグラウンドな思考になってしまう人もいるけれど、彼の場合は寧ろ逆。掘った分だけジャンプもする、と言えるようなセンスの持ち主なのだと思う。彼のように、ディープな音楽ファンや、サブカルチャーの世界の住人に対しても説得力がある表現ができて、お茶の間で酸素のように音楽を吸い込んでいる人の心にも引っ掛かるミュージシャンは、とても限られているのではないだろうか。しかも、メジャーデビューの段階からとなると、さらに限られてくると思う。彼自身がその特殊性に対して自覚的かどうかはわからないけれど、知能犯にせよ自然体にせよ、希少な存在であることには間違いない。

大学進学後、彼は本格的に音楽活動をスタートさせていく。ピアノの弾き語りやバンドスタイルなどで、都内でライブを敢行。そして2012年10月には、初恋の嵐やスパルタローカルズ、HAPPY BIRTHDAYや凛として時雨といった、多彩なバンドを輩出してきたMoving Onのレーベルより、1stアルバム『イン・ハー・クローゼット』をリリース。タワーレコードの「NEXT BREAKERS JAPAN」に選出される。そして、11月13日には渋谷WWWで初のワンマンライブを行い、チケットは見事ソールドアウト……って、順風満帆過ぎるではないか。しかし、この才能をもってすれば当たり前のことのような気がするし、こんな状態でも彼の中では葛藤が渦巻いているに違いない。だからこそ、信頼できるのだ。

黒沼英之

ただ音楽として聴くだけでも楽しめる。でも、鳴らしている人柄を知れば知るほど面白い。そんなシンガーソングライター、黒沼英之。最初に書いた「何か」は数え切れないほど見つかったけれど、いずれにせよ、話を訊いてみなければはじまらない。というわけで、次回はじっくりと「何か」を掘り下げるインタビューを行う予定。その純粋そうなつぶらな瞳に、今、映っているものとは。線が細いようで自分の生き方を貫いてきた、その歩みが物語るものとは。今後、より広がり、深まりゆくであろう黒沼英之ワールドに期待しながら、まずは、実際に会って語り合うことを楽しみに待ちたい。

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イベント情報

『黒沼英之 ONEMAN LIVE「instant fantasy」』

2013年9月19日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
出演:黒沼英之
料金:全席自由 3,500円(ドリンク別)

リリース情報

黒沼英之<br>
『instant fantasy』(CD)
黒沼英之
『instant fantasy』(CD)

2013年6月26日発売
価格:1,800円(税込)
VICL-64035

1. ふたり
2. 夜、月。
3. ラヴソング
4. ordinary days
5. サマーレイン
6. どうしようもない
7. 耳をすませて

プロフィール

黒沼英之

1989年1月18日生まれ。立教大学映像身体学科卒業。15歳の頃から曲を作り始める。大学進学後、本格的に音楽活動をスタート。ピアノの弾き語り、バンドスタイルなどで、都内でライブ活動を行う。2012年11月13日には渋谷WWWにて初のワンマンライブを開催し、チケットはSOLD OUT。また、フィンランド・ヘルシンキで年2回発行のファッション&アート誌「SSAW MAGAZINE」にて唯一の日本人モデルとして誌面に登場。2013年6月26日にMajor Debut Mini Album「instant fantasy」をリリース。

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