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マンガ家・今日マチ子と行く『宮本三郎のデッサン教室』展

マンガ家・今日マチ子と行く『宮本三郎のデッサン教室』展

内田伸一
撮影:佐々木鋼平

「見ること、描くことに新しい感動が伴わなければ、勉強にはならない。感動するためには、常に新しいものの発見がなければならない」。この言葉の主、宮本三郎(1905―1974)は昭和を代表する画家のひとり。色彩豊かな女性像などで知られます。その宮本が日々欠かさず行っていたといわれるのがデッサン。デッサンと聞くと、大作絵画などに比べ地道な「練習」「修行」のイメージもありますが、実はこれが彼の表現を生涯支えた大切な創作だったのです。ひとりの表現者がそこまでこだわったデッサンの魅力とは?

そこで今回は、マンガ家の今日マチ子さんと一緒に、宮本三郎記念美術館で開催中の展覧会『宮本三郎のデッサン教室』を訪ねます。若者たちの心の動きを日々繊細なタッチで表現し続ける彼女にとっても、デッサンを通じて現実の世界を「見て」「描くこと」は大切なものを教えてくれるようです――。さっそく宮本の言う「新しい感動」を探しに、彼のデッサン教室に出かけてみましょう。では、開講です!

[メイン画像]『女』(部分)紙、コンテ、制作年不詳

1時限目:静物画・動物画―世界を捉えなおす、デッサン体験

自由が丘駅から徒歩数分。宮本三郎記念美術館は、画家・宮本三郎の自宅兼アトリエ跡地を活用し、2004年にオープンしました。同館では宮本の偉業を様々な視点から紹介し、今を生きる人々の心と響き合う企画展を繰り出しています。

展示風景
展示風景

開催中の『宮本三郎のデッサン教室』展は、豊かな色彩感覚による裸婦像などで知られる宮本絵画の中から、デッサンに注目したユニークな企画。そこで今回は、彼が描いたさまざまなモチーフを今日マチ子さんと共に体験し、対話の中でデッサンの魅力や可能性を探っていきます。今日さんも学生時代、絵画の基本を学んだ時期に、数多くのデッサン制作を体験したそう。そんな彼女にこの「デッサン教室」における贅沢な副担任(または頼りになるクラスメイト?)役をお願いするような気持ちで、展覧会へお誘いしました。特別にマンガ原稿もお持ちいただき、それらも見せてもらいながらお話していきます。

展示風景
展示風景

まずは、静物・動物画を描いたセクション。テーブル上の花瓶や食器といった静物画は、美術の授業でもおなじみですね。でも宮本三郎の静物デッサンは、ひたすら写実的というわけでもないようです。今日さんは、デッサンというとまずどんな印象を持ちますか?


『みかこさん』彩色前の原画より ©今日マチ子(講談社)
『みかこさん』彩色前の原画より ©今日マチ子(講談社)

今日:美大の予備校時代を思い出し、どこか懐かしい気分にもなります。最近は何かをじっくりデッサンすることはあまりありませんが、たとえばマンガでパフェを描くとき、形をとるために数回描いてみるといったことはあります。美術家にとってのデッサンは必ずしも作品として完成させたり、人に見せたりするためのものではないでしょうから、だからこその自由な表現や新鮮な学びもあるのかなと思います。

『みかこさん』彩色前の原画より ©今日マチ子(講談社)
『みかこさん』彩色前の原画より ©今日マチ子(講談社)

確かに同館が収蔵する3,500点以上という宮本デッサンの多くは、生前に本人が公開するつもりで描いたものではないそうです。そのため画家のプライベートな制作現場を覗かせてもらう感覚もあり、時を超えてその創作の息づかいまでが伝わってきそうです。宮本は静物写生について「自然のままの果物や、花の一枝にも、形の配列の変化と、リズムとを見出し得る」との言葉を残しました。デッサンは、それまで見えなかった世界を新たに発見していくものなんでしょうか?

今日:世界の見え方が変わるという感覚は、私もデッサンを習い始めた一番はじめに体験しました。まず基礎としてシンプルな円柱や円錐形の置物の描き方を教えてもらい、デッサンするのですが、それまで二次元の可愛いイラストを描いて満足していた私には、新しい世界が開ける嬉しさがあったんです。それからは、綺麗だな、可愛いなと思うものを立体として描けることが、より楽しくなりました。当然最初は下手なのですが、ある日、自分がまた次の段階に行けたと気付く瞬間もある。偉大な画家はそれを何度も経験するのかもしれませんね。

『猫』紙、色鉛筆、制作年不詳
『猫』紙、色鉛筆、制作年不詳

動物のデッサンもありました。今日さんの初期マンガ『ガールズ美術』でもオウムのデッサンでひどい目にあう男子が出てくるように(笑)、動きが予測不能な動物たちを描くことは宮本も「モデルとしては手におえない」と綴っています。でも「その不自由さが、逆に作品のより自由な立て前を要請してゆく」とも記していますね。制限のある困難な状況さえ、作家の感受性しだいでは、普段得られないチャンスになり得るということでしょうか。

『ガールズ美術』第5回「山田とオウム」 ©今日マチ子
『ガールズ美術』第5回「山田とオウム」 ©今日マチ子

今日:確かに動物は、宮本さんの言うとおり手におえません(笑)。当たり前ですが、人間のモデルさんと違い勝手に動き続けるから、デッサンする際は特徴や骨格を捉えづらくて苦労しました。でも「その不自由さが……」という宮本さんの言葉は興味深いですね。作家としてとても真面目で、プロ意識が高い方だったのではと感じます。

『牛』(部分)紙、コンテ、制作年不詳
『牛』(部分)紙、コンテ、制作年不詳

宮本三郎の前向きで貪欲な創作姿勢が、これらのシンプルな作品に象徴的に表れています。デッサン鑑賞の楽しみ方が、ちょっとわかってきたような気が?

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イベント情報

『宮本三郎のデッサン教室』

2012年12月11日(火)〜2013年3月20日(水・祝)
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜(月曜日が祝休日の場合は開館、翌火曜が休館)
料金:一般200円 大高生150円 小中学生・65歳以上・障害者の方100円
※小中学生は土、日曜、祝日、夏休み期間は無料
※障害者で小・中・高・大学生および障害者の介護者1名は無料

『作り手から見た宮本三郎 第7回「閉館後の美術館で、素描を語ろう」』
2013年2月9日(土)19:30〜21:00(19:00開場)
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
講師:諏訪敦(画家)
聞き手:小金沢智(当館担当学芸員)
定員:先着70名(要事前申込み)
料金:500円
※申込が定員に達したため、キャンセル待ち申込み受付中

『写生講座「淡彩で花を描く」』
2013年2月23日(土)、3月3日(日)10:30〜17:00
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
講師:久保木桂子(日本画家)
対象:中学生以上
定員:各日先着15名(要事前申込み)
料金:2,500円(画材費込)
※申込が定員に達したため、キャンセル待ち申込み受付中

『ワークショップ「Play Paint」』
2013年3月10日(日)14:00〜15:30
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
講師:松岡亮(アーティスト)
定員:先着20名(要事前申込)
料金:1,000円(画材費込)
※申込が定員に達したため、キャンセル待ち申込み受付中

プロフィール

今日マチ子

マンガ家。東京藝術大学美術学部、セツ・モードセミナー卒業。2005年「ほぼ日マンガ大賞」入賞、2006年、2007年、2010年『文化庁メディア芸術祭』「審査委員会推薦作品」に選出。2011年、ダ・ヴィンチ電子書籍アワード「コミック・絵本部門賞」受賞。著作に『センネン画報』(太田出版)、『みかこさん』(講談社)、『かことみらい』(祥伝社)、『ぼくのおひめさま 親指姫 白雪姫』(ピエブックス)、『cocoon』、最新刊『アノネ、』(秋田書店)など。現在は劇団「マームとジプシー」藤田貴大との共作漫画『mi-na-mo-no-gram』に取り組み中。無類の猫&カメラ好き。

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