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マンガ家・今日マチ子と行く『宮本三郎のデッサン教室』展

マンガ家・今日マチ子と行く『宮本三郎のデッサン教室』展

内田伸一
撮影:佐々木鋼平

4時限目:自画像―似顔絵ではなく、人間像として

額縁が窮屈だといわんばかりにこちらを睨みつけるのは、目つきの鋭い1人の男性の顔、顔、顔。展覧会のポスターにも使われている宮本三郎の自画像デッサンです。その表情は写真に残る精悍な顔付きそのままで、むしろ写真より表情豊かにさえ見えます。

『自画像 さまざまな表情』(部分)紙、コンテ、1960年頃
『自画像 さまざまな表情』(部分)紙、コンテ、1960年頃

今日:1枚にいくつもの表情があるこの作品も印象的ですが、私は最小限の線で描いた横顔の1枚が好きですね。単に写実的に似せるのとは違う領域で、こういう絵ほど、本当に上手くないと描けないのではと思います。

『自画像』(部分)紙、墨、制作年不詳
『自画像』(部分)紙、墨、制作年不詳

「結果として似るぐらいの気持で、まず人間像を描くということに目的を大きくおいて描いていくべきだ」。これが、彼が自画像について語った言葉。その自画像デッサンは、自らを理想化も卑下もせず、冷静に見つめる大切さを語りかけるようでもあります。

宮本は、評価を確立した後も具象画へ抽象的表現を取り入れるなど、多様な画風の変遷を持つ画家でもあります。また、第二次大戦中には従軍画家として戦争記録画を描くなど、時代の大きなうねりの中を生きた人でした。その69年の生涯において、自分と真摯に向き合い続けるためにも、デッサンは一役買っていたのかもしれませんね。

課外授業:秘蔵のスケッチブック―誰に見せるためでもなく続く営みの力

宮本三郎のスケッチブックから
宮本三郎のスケッチブックから

展覧会を見終えた後、学芸員の方の特別なご協力で、秘蔵の宮本三郎スケッチブックも見せてもらえることに(同展でも数冊のスケッチブックを見ることができます)。展示ケースに入っていない状態のスケッチブックは、とても生々しくて少しドキドキします。そこには、代表的な裸婦像群につながるようなデッサン、交響楽団員たちの活き活きとした群像スケッチ、さらには小説の挿絵などでも活躍した彼のデザイン性の高い図像まで、知られざる多彩な素描がありました。

宮本三郎のスケッチブックから
宮本三郎のスケッチブックから

今日:彼のように長年描き続けた人ほど、基礎トレーニングというか、素振りのような行為としてもデッサンを大切にするのではないでしょうか。個人的な行為として、誰に納得してもらうでもなく探求を続けること、それも大切だと思います。

それが自分の固定観念を壊したり、世界観を深めてくれたりすることもあると。今日さんがマンガ家として広く知られる契機になった『センネン画報』も、個人ブログでほぼ毎日、1ページの作品を掲載し続ける試みです。多くの連載を抱える現在もずっと続けているのは、今のお話と通じるところがありますか?

『いちご戦争』原画より ©今日マチ子
『いちご戦争』原画より ©今日マチ子

今日:そうかもしれません。『センネン画報』は担当編集者がいるわけでもなく、始めた当初は「毎日描いていたら上手くなるだろう」という気持ちでした(笑)。今は自分のための実験場のような存在で、ここで試みているものが発展形として他の作品に活かされることもあります。どんなに忙しくても自分の中で練習の時間をつくる、という意味でも大切にしています。

『いちご戦争』原画より ©今日マチ子
『いちご戦争』原画より ©今日マチ子

作家としての「完成」に甘んじることなく、誰に頼まれるわけでもなく続く営み。そうとらえると数々の宮本デッサンも、画家が自らの可能性を探り続けた、その道程の証人のようにも思えてきます。

最後にあらためて今日の感想を聞くと「またデッサンやりたいな、ですかね」と微笑んで答えてくれた今日マチ子さん。ひとりの名画家が日々続けた創作の営みは、美術の世界を超えて多くのことを教えてくれました。そして彼の「デッサン教室」は、絵の得意不得意に関わらず、すべての人に開かれています。もの静かな展示空間で、雄弁なデッサンの語りかけに耳を傾けてみませんか?

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イベント情報

『宮本三郎のデッサン教室』

2012年12月11日(火)〜2013年3月20日(水・祝)
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜(月曜日が祝休日の場合は開館、翌火曜が休館)
料金:一般200円 大高生150円 小中学生・65歳以上・障害者の方100円
※小中学生は土、日曜、祝日、夏休み期間は無料
※障害者で小・中・高・大学生および障害者の介護者1名は無料

『作り手から見た宮本三郎 第7回「閉館後の美術館で、素描を語ろう」』
2013年2月9日(土)19:30〜21:00(19:00開場)
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
講師:諏訪敦(画家)
聞き手:小金沢智(当館担当学芸員)
定員:先着70名(要事前申込み)
料金:500円
※申込が定員に達したため、キャンセル待ち申込み受付中

『写生講座「淡彩で花を描く」』
2013年2月23日(土)、3月3日(日)10:30〜17:00
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
講師:久保木桂子(日本画家)
対象:中学生以上
定員:各日先着15名(要事前申込み)
料金:2,500円(画材費込)
※申込が定員に達したため、キャンセル待ち申込み受付中

『ワークショップ「Play Paint」』
2013年3月10日(日)14:00〜15:30
会場:東京都 自由が丘 世田谷美術館分館 宮本三郎記念美術館
講師:松岡亮(アーティスト)
定員:先着20名(要事前申込)
料金:1,000円(画材費込)
※申込が定員に達したため、キャンセル待ち申込み受付中

プロフィール

今日マチ子

マンガ家。東京藝術大学美術学部、セツ・モードセミナー卒業。2005年「ほぼ日マンガ大賞」入賞、2006年、2007年、2010年『文化庁メディア芸術祭』「審査委員会推薦作品」に選出。2011年、ダ・ヴィンチ電子書籍アワード「コミック・絵本部門賞」受賞。著作に『センネン画報』(太田出版)、『みかこさん』(講談社)、『かことみらい』(祥伝社)、『ぼくのおひめさま 親指姫 白雪姫』(ピエブックス)、『cocoon』、最新刊『アノネ、』(秋田書店)など。現在は劇団「マームとジプシー」藤田貴大との共作漫画『mi-na-mo-no-gram』に取り組み中。無類の猫&カメラ好き。

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