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現代の日本社会でアーティストとして生きる理由

現代の日本社会でアーティストとして生きる理由

内田伸一
撮影:大槻正敏
2012/11/19

下道基行―隣の国に残されたユーモラスな鳥居の姿

続いて、下道基行さんの展示室へ。壁に大判写真が9点並んで展示される光景は、一見普通の美術展っぽく見えます。でも、これらも実はなかなかクセ者です。このシリーズ作品『torii』は、一見日本の風景のようで実は全て日本の隣国で撮られた「鳥居」の風景で構成されています。ただし、台湾では鳥居は倒されてベンチになっていたり、サイパンではキリスト教の墓地に混ざっていたり、サハリンではオホーツク海を見下ろす大草原にぽつんと佇んでいたり……。

日本ではあり得ないシチュエーションの鳥居の姿はユーモラスにも感じますが、同時に戦前日本のアジア侵攻史にも思いが及びます。韓国の下町で撮った一枚には、鳥居が写っていません。韓国では多くが戦後に破壊されたらしく、かつてそれがあったという場所でシャッターを切ったそうです。

下道基行 『torii』 2006-2012、アメリカ/サイパン島、タイプCプリント Courtesy of the artist and nap gallery
下道基行 『torii』 2006-2012、アメリカ/サイパン島、タイプCプリント Courtesy of the artist and nap gallery

下道:政治的な作品にも見えるかもしれませんが、僕はどちらかというと、写真を通して今を考える「考現学(過去を対象にする考古学ではなく、現代の社会現象を調査し、考える学問)」的な思いでこのシリーズを撮ってきました。鳥居は日本で聖俗の境界とされる一方、異国の文化の人々にはもともと必要がなかったものでした。だから戦後の残され方も様々です。その風景と、今そこに生きる人々の想いに直接対峙したいと思ったのが、この作品の制作理由でした。歴史が共存する風景ともいえますが、記憶に迫るというよりも、目の前にある現在の姿、形の断面を切り取ったものです。

そして展示室の一角にはコピー機が。ガラスのコピー台には、下道さんが撮影に訪れた町から出した恋人への手紙や、旅の手帖が置かれています。コピーボタンを押すとそれらがスキャン、印刷され、お客さんが持ち帰れる仕組み。コピー用紙の裏面には現地での彼の日記がびっしりと記され、ここにも彼が感じた「現在の姿、形の断面」「歴史の共存する風景」を垣間見ることができます。

下道基行
下道基行

テレビ番組の制作会社でリサーチャーとして働きながら、自らの作品を作ってきた下道さん。アーティストとして生きる理由は何なのでしょう?

下道:数年前まではいつも仕事をしながら、旅に出ては写真を撮ってきました。だから、アーティストが職業だという意識はありません。作品を作るのは、自分でいろんなことを知りたいから。そうして旅で得てきた素材たちは、帰って手製の料理を作る感じで(笑)、それをみんなに振る舞って、一緒に話し合いたいという思いもありますね。

Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)―団塊の世代との「ユルコラボ」に挑戦

Nadegata Instant Party(ナデガタインスタントパーティー)は、中崎透さん、山城大督さん、野田智子さんの三人による「本末転倒型オフビートユニット」。作品作りを口実にして、見知らぬ者同士が協力する場を作り出す活動で知られます。今回は、いわゆる「団塊の世代」とコラボした映像インスタレーションを発表しています。

Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)『カントリー・ロード・ショー/COUNTR
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)『カントリー・ロード・ショー/COUNTR

中崎:ユニット名は、即興のパーティー(宴/口実)を通して、パーティー(グループ/コミュニティ)ができあがる、その過程自体を作品にできたらという思いからきています。「ナデガタ」はですね……ちょっとユルやかな感じでいたいというか(笑)、強くぶつかり合うのとは違う形で、お互いの力を引き出し合えたらいいなと。

そんな彼らが、かつての学生運動など「いかり肩」なイメージもある団塊世代と協働。今自分たちが生きるこの国のかたちに大きく関わった世代の人々と、一度じっくり向き合いたかったそうです。ただ、その方法はあくまでナデガタスタイル。公募で「『だんかいJAPAN』合唱団」結成を呼びかけ、集まった16人の団塊世代の人たちの個人史を聞きつつ、最終的に合唱曲を作るまでの道のりが、『カントリー・ロード・ショー』として作品化されました。

Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)『カントリー・ロード・ショー/COUNTRY ROAD SHOW』2012年
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)『カントリー・ロード・ショー/COUNTRY ROAD SHOW』2012年

展示は参加者たちのひとり語りを6幕仕立てにし、順に移動しながら見ていく構成です。最後の部屋には「『だんかいJAPAN』合唱団」の合唱映像が大スクリーンで登場。過ぎた季節への一抹の寂しさと、なお続く人生へのエールが混在する歌詞が印象的です。当初はこの世代特有の大きな何かをつかもうと試みた作家たちでしたが、やがて個々の参加者の人生に引き込まれていったという体験も、このフィナーレに反映されているようです。

ナデガタの三人はもともと個人でも活動し、中崎さんと山城さんは作家として、野田さんはアーティストの活動を支えるマネジメントの仕事をしています。

野田:私はもともと作家志望というより、アーティストが社会でどのように生きていけるかを考えるアートマネジメントに興味がありました。ナデガタへの参加も、それなら一度、作家と共に現場に飛び込んでみようと思ったから。すると、毎回違うダイナミックな風景が見えてきたんです。私たちの作品は3人だけのものではなく、いつも関わった周りの人々によって動かされていく部分もある。これからもそれを見てみたいと思っています。

Nadegata Instant Party(左から:野田智子、山城大督、中崎透)
Nadegata Instant Party(左から:野田智子、山城大督、中崎透)

山城:一言でいえば、作家活動を通して「考えること」をしたいんです。社会規範や経済活動を越えた手法を見つけたり、それ自体に参加したり。また、僕はナデガタでは映像を担当することが多くて、記録と現実の関係にもずっと興味を持っています。

中崎:アーティストという存在は、どんな人にも会いに行けるし、フラットに付き合える「固定されない良さ」があると思います。同じ理由で社会的には生きづらく面倒なこともあるけど(苦笑)、でもそこが自分には魅力なのかもしれません。

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イベント情報

『MOTアニュアル2012 Making Situations, Editing Landscapes 風が吹けば桶屋が儲かる』

2012年10月27日(土)〜2013年2月3日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室 3F
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
参加作家:
奥村雄樹
佐々瞬
下道基行
田中功起
田村友一郎
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)
森田浩彰
休館日:月曜(12月24日、1月14日は開館)、12月25日、12月28日〜1月1日、1月15日
料金:一般1,000円 大学生・65歳以上800円 中高生500円
※小学生以下無料

佐々瞬『それらの日々をへて、あの日がやってくる』パフォーマンス
2012年12月8日(土)
会場:東京都 東京都現代美術館 企画展示室3F
時間:未定(決まり次第、美術館ホームページで告知)
出演:小田原直也、佐々瞬
※当日有効の本展チケットが必要

奥村雄樹関連展示『通訳者のメモ』
2012年11月23日(金・祝)〜 12月2日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 ホワイエ

奥村雄樹『ジュン・ヤン 忘却と記憶についての短いレクチャー』上映+トーク
2012年11月24日(土) 15:00より(14:30開場、17:00終了予定)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 地下2F 講堂
トーク:平倉圭×星野太
料金:無料

田村友一郎関連イベント
2012年12月24日(月・祝)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
※当日有効の本展チケットが必要
※開催時間は決定次第、美術館ホームページで告知

田中功起『質問する』
2012年9月〜約3か月
ウェブマガジン『ARTiT』上で掲載
※本展企画者との往復書簡
ART iT 連載 田中功起 質問する 8-1:西川美穂子さんへ1

森田浩彰によるパフォーマンス
会期中随時開催予定

学芸員によるギャラリーツアー
2013年1月12日(土)15:00〜16:00
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室3F
※当日有効の本展チケットが必要

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