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現代の日本社会でアーティストとして生きる理由

現代の日本社会でアーティストとして生きる理由

内田伸一
撮影:大槻正敏
2012/11/19

奥村雄樹―翻訳者として4つの作品を媒介するアーティスト

次の部屋はドアで閉ざされた密室。中からは英語の声が聞こえてきます。室内に入ると、それは同時上映される4つの映像からのものでした。奥村雄樹さんの作品『知らないことを思い出す(芸術家の幽霊)』です。ただし、個々の映像作品の本当の「作者」はバラバラで、奥村さんが実際に手がけたのはそれぞれの日本語字幕のみ。これまた相当に謎めいた作品です(ちなみに、いずれも美術好きならオッと思う著名な作者&映像作品です)。ご本人に、この謎について聞きました。

奥村:ある映像作品では、作家本人のいない状況で友人や関係者などが彼の今後を議論したり、別の映像では作家自身が違う人格で出演していたりします。つまり、いずれの場合も、作者のアイデンティティーが別の誰かによって成り代わられてしまう。なおかつ僕が翻訳者として全作品の内容を代弁しているような状況(笑)。翻訳や通訳の仕事は、自分とは別の人になりきって話したり、逆に訳者の人格が話者本人のように出てしまったりと、霊媒に近い部分があります。そうした構造を組み合わせて、作品とは、作者とは、そして「私」とは、という問題にアプローチしています。

奥村雄樹
奥村雄樹

また、美術館1Fミュージアムショップの横では、奥村さんが近隣の小学1年生と実施したワークショップ『くうそうかいぼうがく』から生まれた絵も、壁一面に貼り出されています。これは子どもたちに、目には見えない自分の体内を想像で描いてもらう試み。ある人にとって直接経験できないブラックボックス的な領域に秘められた可能性、それを表現する際の「変換」や「解釈」に興味があると語る奥村さん。アーティストとしてこうした様々な活動に取り組むのは、なぜでしょうか?

奥村雄樹『くうそうかいぼうがく(深川編)』2012年
奥村雄樹『くうそうかいぼうがく(深川編)』2012年

奥村:気付いたらそういうポジションにいた感じですが、やや大げさにいうと、社会の中である種のトリックスターとして機能したいと思っています。言語や慣習による取り決めをひっくり返してみせる存在。これまで、ミュージシャンの曽我部恵一さん、落語家の笑福亭里光さん、通訳者の小林のり子さんといった人たちと協働してきましたが、「外側」から彼らの領域に介入し、新しい枠組みを提案することが、僕の性格に合っているのでしょうね。もちろん美術の枠組み自体も同じように揺さぶる必要があるし、僕の作品も自然とそうなってきていますね。

佐々瞬―成長した松の木が渡米してファッションショーに出演する未来日記

今回の最年少作家(86年生まれ)である佐々瞬さんは、会場をもっとも広く使った作品群を展開。最初の大部屋には、建築用の木板で組み上げた巨大構造物がそびえます。しかし、その佇まいや部屋の散らかりようからも、まだ未完成でそれが何になるのか特定しづらい雰囲気です。やがて聞こえてくる女性や老人、若者のつぶやきに耳を澄ますと、この物体が、船、お風呂、本棚や屋外彫刻など、様々なものに思えてきます。作品名は『アレの話』。

佐々:完成前で何だかわからない保留の状態というのは、逆に言えば幾通りにも判断できますよね。そのとき人々が直面する、自らの主観性の曖昧さ、あるいはわかってしまった後では失われてしまうだろう、複数の判断基準を、私たちが部分的にせよ共有していたりすること。それらへの興味から生まれた作品です。

佐々瞬
佐々瞬

続く廊下には、無数の紙片に綴られた日記と、松の苗木による作品『松の日記』が。自分が制作によく使う松材が、どんな経緯で手元に辿り着くのかという興味から始まった作品だそうです。日記は実際に苗を育て始めるところから始まりますが、やがて未来日記へと変貌。成長した松が渡米してファッションショーに出演したり(!)、船の材料として検討されたりする中で、2122年、彼の孫による記述で終わります。 最後の作品は『それらの日々をへて、あの日がやってくる』。壁に貼られた夥しい量の日記と、そこに映し出されるパフォーマンス映像。やがて、それは彼の友人の死を扱ったものだとわかってきます。中学生の頃、言い争いで気まずい思いのまま疎遠になったその友人は、東日本大震災で亡くなったようです。

佐々瞬『それらの日々をへて、あの日がやってくる』2012年 撮影:齋藤圭吾 提供:東京都現代美術館
佐々瞬『それらの日々をへて、あの日がやってくる』2012年 撮影:齋藤圭吾 提供:東京都現代美術館

映像では、棺の蓋を開けて亡友役と対話する佐々さんの様子が。その前後で、佐々さんは日記を即興的に書き換えていきます。ときには優しく、ときには激しい言葉へ。人の死という変更不可能な出来事と、移ろいゆく記憶をどう受け止めるのか。会期中、このパフォーマンスの実演もあるようです。 絵を描くのが好きだった少年時代から、やがてアーティストを志したのは、優れたアーティストや、作品からの影響だったという佐々さん。しかし、作品制作の動機はより身近なものだと語ります。

佐々:現実に自分に起きた問題や、「わからないこと」。心理的であれ社会的であれ、それを何とかしたいという「思い」が出発点になることが多いですね。そこから、何故その「思い」が生まれるのかを探る。それが、作品を作るなかで得られる問題についての「ある解決策」になったりする。そうやってその都度、目の前にある世界の出来事に関わっていくこと、自分の経験や抱える問題を世界との繋がりの中で捉えたいと思うことが、作品を生み出す力になっています。

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イベント情報

『MOTアニュアル2012 Making Situations, Editing Landscapes 風が吹けば桶屋が儲かる』

2012年10月27日(土)〜2013年2月3日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室 3F
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
参加作家:
奥村雄樹
佐々瞬
下道基行
田中功起
田村友一郎
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)
森田浩彰
休館日:月曜(12月24日、1月14日は開館)、12月25日、12月28日〜1月1日、1月15日
料金:一般1,000円 大学生・65歳以上800円 中高生500円
※小学生以下無料

佐々瞬『それらの日々をへて、あの日がやってくる』パフォーマンス
2012年12月8日(土)
会場:東京都 東京都現代美術館 企画展示室3F
時間:未定(決まり次第、美術館ホームページで告知)
出演:小田原直也、佐々瞬
※当日有効の本展チケットが必要

奥村雄樹関連展示『通訳者のメモ』
2012年11月23日(金・祝)〜 12月2日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 ホワイエ

奥村雄樹『ジュン・ヤン 忘却と記憶についての短いレクチャー』上映+トーク
2012年11月24日(土) 15:00より(14:30開場、17:00終了予定)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 地下2F 講堂
トーク:平倉圭×星野太
料金:無料

田村友一郎関連イベント
2012年12月24日(月・祝)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
※当日有効の本展チケットが必要
※開催時間は決定次第、美術館ホームページで告知

田中功起『質問する』
2012年9月〜約3か月
ウェブマガジン『ARTiT』上で掲載
※本展企画者との往復書簡
ART iT 連載 田中功起 質問する 8-1:西川美穂子さんへ1

森田浩彰によるパフォーマンス
会期中随時開催予定

学芸員によるギャラリーツアー
2013年1月12日(土)15:00〜16:00
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室3F
※当日有効の本展チケットが必要

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