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現代の日本社会でアーティストとして生きる理由

現代の日本社会でアーティストとして生きる理由

内田伸一
撮影:大槻正敏
2012/11/19

田中功起―事件は美術館(だけ)で起きてるんじゃない!?

最後に、受付で謎の言葉を仕掛けた、田中功起さんにお話を聞きました。これまで映像作品を中心に、日常にちょっと意外な現象を注ぎ込むような表現をしてきた田中さん。それにしても「美術館に作品のない参加作家」とは?

田中:美術館から依頼を受けて展覧会に参加するのは、アーティストの主な活動のひとつです。でもそれは同時に、美術というシステムに取り込まれた営みでもありますよね。例えば、そこでは会期や会場といった「決まり事」が常に優先される。でも展覧会という枠を取り払えば、作家はもっと色んなことを日々行っています。だから今回僕は展覧会という「決まり事」の中で行われてきたアーティストの活動を、その外にある活動と入れ替えてみたんです。

今回の田中さんの「館外活動」には、映画館での作品上映会など、展覧会チケットで見に行けるものもあれば、JR山手線に乗りながらゲストと語り合う『ダイアローグ・トゥー・ザ・パブリック(JR山手線)』のような、詳しい場所や時間が公開されないものもあります。

田中:他にも、この展覧会の担当学芸員・西川美穂子さんとの手紙のやりとりを『ART iT』に連載しているのですが(数年前から連載している『質問する』というコーナー)、これもこの展覧会の公式な出品作です。ちなみに、受付係の発言も『アーティスト・ステイトメント』という作品なので、あれが美術館にある僕の唯一の「出展作」とも言えますね(笑)。

たしかに、よく見れば受付係の胸元には作品キャプションが……。ステイトメント=宣言と解釈すれば、「美術館の外で活動しています」という言葉は、田中さんの活動姿勢を示すものともとれます。ご自身は、アーティストとしての生き方をどう考えているのでしょう?

田中功起『アーティスト・ステイトメント』
田中功起『アーティスト・ステイトメント』

田中:ある考え方の下で規範化された場では、それを受け入れるから平穏に生きていける現実もあります。制度も慣習も、もともとこの世界を便宜的に区切って円滑に社会が営まれるように生まれたものですからね。でも、アーティストはその慣習から離れた場所にも可能性を求め、異なる立場から別の考え方を提唱することができると思うんです。ただ今回の作品は、美術館やその制度と安易に敵対するわけではなく、いわば共犯することで可能性を探りたいと。『踊る大捜査線』で言えば、室井(システム内部の変革)と青島(現場の変革)みたいな(笑)。そしてここで試されていることは、アートに限らずどの分野にも通じることかもしれません。アートの世界で変革ができないなら、社会全体も変えられないだろうというのが僕の今の考えです。

左:田中功起
左:田中功起

こうしてアーティストたちの話を聞き、改めてこの展覧会全体を振り返ると、思うことが2つあります。ひとつは、彼らがとらえる「作る」という行為の多様さ。そこには視覚的・直感的な感動とはまた違う思考の営みがあります。付け加えれば、美術の歴史で先人たちが切り開き、積み重ねてきた文脈が、これらの若いアーティストの新しい挑戦に奥行きを与えている部分もありそうです。

もうひとつは、新たな価値の創造を担うアーティストが結果としてあらわにする、この世界の複雑さです。この展覧会の公式紹介文には、「物事の通常の状態に手を加え、異なる状況を設定することで、日常の風景に別の見え方をもたらす」とあります。でも彼らは「通常の状態」「日常の風景」自体が、実は見かけほど素朴で単純なものではないと知っているのでしょう。制度や慣習に対するカウンターというよりも、オルタナティブを示す動きが、彼らの目指す道なのかもしれません。

「風が吹けば桶屋が儲かる」。この言葉が展覧会に冠されたことの意味を、「アーティストとは何者なのか」という点から考えてみるのも興味深いですね。さて、みなさんはどの作品の中に「風」を感じ、そこから何が始まるでしょうか?

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イベント情報

『MOTアニュアル2012 Making Situations, Editing Landscapes 風が吹けば桶屋が儲かる』

2012年10月27日(土)〜2013年2月3日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室 3F
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
参加作家:
奥村雄樹
佐々瞬
下道基行
田中功起
田村友一郎
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)
森田浩彰
休館日:月曜(12月24日、1月14日は開館)、12月25日、12月28日〜1月1日、1月15日
料金:一般1,000円 大学生・65歳以上800円 中高生500円
※小学生以下無料

佐々瞬『それらの日々をへて、あの日がやってくる』パフォーマンス
2012年12月8日(土)
会場:東京都 東京都現代美術館 企画展示室3F
時間:未定(決まり次第、美術館ホームページで告知)
出演:小田原直也、佐々瞬
※当日有効の本展チケットが必要

奥村雄樹関連展示『通訳者のメモ』
2012年11月23日(金・祝)〜 12月2日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 ホワイエ

奥村雄樹『ジュン・ヤン 忘却と記憶についての短いレクチャー』上映+トーク
2012年11月24日(土) 15:00より(14:30開場、17:00終了予定)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 地下2F 講堂
トーク:平倉圭×星野太
料金:無料

田村友一郎関連イベント
2012年12月24日(月・祝)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
※当日有効の本展チケットが必要
※開催時間は決定次第、美術館ホームページで告知

田中功起『質問する』
2012年9月〜約3か月
ウェブマガジン『ARTiT』上で掲載
※本展企画者との往復書簡
ART iT 連載 田中功起 質問する 8-1:西川美穂子さんへ1

森田浩彰によるパフォーマンス
会期中随時開催予定

学芸員によるギャラリーツアー
2013年1月12日(土)15:00〜16:00
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室3F
※当日有効の本展チケットが必要

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