ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

2日連続の真夏日となった6月23日、武蔵野美術大学で『ムサビとデザインアーカイブ』と題したシンポジウムが開催されました。熱い議論が繰り広げられたシンポジウムは、大学美術館のリニューアル開館を記念して開かれたもの。展示室面積を2倍以上に拡大してリニューアルされた美術館の魅力はいったいどこにあるのか? シンポジウムの発言を参考にさぐってみましょう。

ムサビのキャンパス建築に見る、デザインの魅力

武蔵野美術大学が鷹の台にキャンパスを構えたのは1960年代半ばのこと。キャンパスのデザインを担当したのは、ソニービルや東京芸術劇場などの作品でも知られ、建築学科の創設にも携わった芦原義信さんでした。シンポジウムのコーディネーター役を務める小泉誠教授に促され、最初にマイクを持ったのは松葉一清教授。専門である建築の観点から、美術館を含むキャンパス全体の魅力を説明しました。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

松葉:皆さんは今日、正門から美術館までまっすぐ歩いてこられたと思います。途中でくぐってこられたのは、事務の集まった一号館という建物です。くぐるときにちょっと圧迫感がありますが、これはおそらく「大学にきた初心を忘れるなよ」ということを伝えるための空間の仕立てではないかと思います。その先に出ると広場があって、これを囲むようにして4つの建物があります。こうしたデザインの骨格は、芦原先生が考えたものからほとんど変わっておりません。これだけ芦原先生の考えられた骨格が残っている建物もそうはないと思いますので、キャンパスを空間的に味わっていただけたら、と思います。

収蔵コレクションは、じつに4万点!

美術館棟としてリニューアルした建物のデザインを担当したのも芦原義信さん。1967年に美術資料図書館としてオープンして以来、約半世紀にわたってデザインをテーマに幅広い作品をコレクションしてきました。コレクションは版画、グラフィックデザインにプロダクトデザイン、椅子から工芸品にいたるまで、その数は実に4万点に及びます。加えて、近年は音楽評論家の中村とうよう氏から4万点に及ぶレコードが寄贈されたそうです。気の遠くなるような数字ですが、それを「切り身」と喩えたのは、デザイン史が専門の柏木博教授です。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

柏木:4万点と聞くと相当な数だと思うかもしれませんが、たとえばクーパー・ヒュイットのナショナルデザインミュージアムにはおよそ50万点のコレクションがあります。それから、世界初のデザインミュージアムであるロンドンのヴィクトリア&アルバートは400万点にも及ぶ膨大な数のコレクションを持っています。そういった欧米のデザインミュージアムの収蔵数をマグロ一頭とすると、4万点という数は「切り身」だというふうに考えていいと思います。しかし切り身ではあるけれど、コアとなるものをきちっと集めて公開していきたい。というのも、欧米ではほとんどの国々が公立のデザインミュージアムを持っているわけですが、残念なことに日本には公立のデザインミュージアムはありません。この開館がきっかけとなって、デザインミュージアムの発展が促進されていくといいなと思っています。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

レオナルド・ダ・ヴィンチの手がけたものに触れられる?

4万点のコレクションのうち、核となるコレクションのひとつはポスターです。多くの美術館がまだポスターに関心を持っていなかった時代からコツコツと蒐集されてきた多様なコレクションのうち、選りすぐりの作品が6月24日より開催中の『ムサビのデザイン』展にて展示されています。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

音楽や映画、展覧会のものに限らず幅広いジャンルのポスターが集められてきましたが、政党ポスターもそのうちのひとつ。これらのポスターについて、芸術文化学科の今井良朗教授は次のように解説しました。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

今井:1976年に新自由クラブが立ち上がったとき、いっせいに政党のポスターが変わったんです。「いずれ歴史的な意味を持つんじゃないか」ということで、政党本部をすべて周ってポスターを集め、コレクションしました。このように足を使って集めたことが、このコレクションの大きな特徴だろうと思います。最近は絵画同様、ポスターも市場で購入可能ですが、集まるものは作家を中心にしたものになりがちです。足を使って集められたこの美術館のポスターは、様々な研究に十分寄与するものだと思っております。


膨大な数のコレクションを眺めているとうっかり忘れてしまいそうになりますが、ここは大学美術館なのです。蒐集されたコレクションは大事に保管されているだけではなく、大学での教育に役立てられています。その具体例を語ってくれたのは、視覚伝達デザイン学科の主任教授である新島実先生です。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

新島:武蔵野美術大学のコレクションのなかには、大変貴重な資料もたくさんあります。たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿――まあ複製ですけれども、学生はこれを手に取って触れることができる。つまりレオナルド・ダ・ヴィンチが、どのぐらいの大きさのものをどういった文字で書いていたのかを追体験できるわけです。そうすると、今度は自分が本をつくるとき大変役に立つ。本の綴じ方ひとつとっても、自分のつくりたい本にはどんな綴じ方がふさわしいのかを考えるための良い材料になります。

デザインは人々を啓蒙し、生活を豊かにする

武蔵野美術大学のコレクションが役に立つのは、大学に通う学生だけではありません。コレクションの数々は、展覧会を通じて一般の方々にも開放されています。美術館のリニューアル開館に際して『ムサビのデザイン』展と同時に開催されているのは、『WA:現代日本のデザインと調和の精神』展です。12のカテゴリーと6のキーワードによって紹介されるのは、私たちの生活のなかにある約160点のプロダクト。この展覧会を観ていると、何気なく使っているプロダクトも、決してデザインと無縁ではないということがわかります。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

展覧会で見ることができる作品のデザイナーたちは、デザインの普及や教育活動を行うことにも熱心に取り組んできたそう。基礎デザイン学科の小林昭世教授は、デザイナーによる教育活動の歴史について、次のように語ってくれました。

ムサビの教授と考える、デザインの魅力と可能性

小林:19世紀には様々なデザイン運動が起こりました。ウィリアム・モリスのアート・アンド・クラフツ運動やバウハウスの運動もそのひとつです。これらの運動は、新しい教育運動と連動して起こってきた経緯があります。つまり、デザイン運動には新しいデザイナーを養成するということと同時に、新しいデザインで生活をしていく生活者を啓蒙し、社会教育をするといった性質を持っています。本学の美術館も、デザイナーを育てるだけではなく、生活者にインパクトを与え生活者を啓蒙する――そういったことに貢献できればいいなと思います。


以上にて、シンポジウム『ムサビとデザインアーカイブ』の内容をかいつまんでお伝えしてきましたが、武蔵野美術大学美術館では、7月30日まで展示中の『ムサビのデザイン』展と『WA:現代日本のデザインと調和の精神』展に続けて、年内に10もの展覧会がラインナップされています。うれしいことに、入館料は無料。社会に開かれたムサビの美術館に、足を運んでみてはいかがでしょう。

information

『ムサビのデザイン』展
――コレクションと教育でたどるデザイン史

2011年6月24日(金)〜7月30日(土)
会場:東京都 武蔵野美術大学 美術館展示室3
時間:10:00〜18:00(土曜日は17:00閉館)
休館日:日曜、祝日(※7月18日(月・祝)は特別開館(10:00〜17:00))
料金:無料

『WA:現代日本のデザインと調和の精神』展
――世界が見た日本のプロダクト

2011年6月24日(金)〜7月30日(土)
会場:東京都 武蔵野美術大学 美術館展示室2、4、5
時間:10:00〜18:00(土曜日17:00閉館)
休館日:日曜、祝日(※7月18日(月・祝)は特別開館(10:00〜17:00))
料金:無料

武蔵野美術大学の「大学美術館」がリニューアル開館!
武蔵野美術大学 美術館・図書館
ムサビのデザイン | 武蔵野美術大学 美術館
WA:現代日本のデザインと調和の精神 | 武蔵野美術大学 美術館



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