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第4話:ナカノヨウスケ(PaperBagLunchbox)×有馬和樹(おとぎ話)対談 P3

「俺が死んだら、おとぎ話は伝説になるんじゃないか」とか、すげぇ自分勝手なことまで考えちゃってた。 ナカノ/有馬/柏井

そうしてバンドが前に進む準備が整ったとして、しかし「成功」はまだまだ遠い彼方にある。言ってしまえば、PBLはようやく2度目のスタートラインに立ち、再スタートを切ったばかり。本当の勝負を始めたばかりだ。果たしてその勝負にPBLは勝ちを収められるのか、それはまだ誰にも分からない。

一方のおとぎ話は、PBLに比べれば随分と安定した活動を行い、遥か先までその歩みを進めていた。しかしその内実を聞いてみれば、やはり彼らの道のりも平坦ではなかったようだ。

有馬:デビュー前に銀杏BOYZと共演させてもらったことも関係してるんだけど、3枚のアルバム全部「銀杏BOYZが好きな人におすすめ」みたいな宣伝になっちゃってたし、音楽誌も評論家も「銀杏BOYZのパクリ」みたいな書き方ばかりで、ちゃんと「おとぎ話の音楽」として評価してくれる人がすごい少なかったんだよね。

ナカノ:そうだったんだ。おとぎ話と銀杏BOYZは全然違う音楽だと思うけど、一度イメージが付いちゃうとなかなかそこから抜け出せないんだね。

有馬:だから2枚目のアルバムはおとぎ話の武器でもあるメロウな曲を中心にしたんだけど、その当時のお客さんはやっぱり銀杏BOYZの文脈でおとぎ話を見てるから、「こんなんじゃ暴れられない」って離れていっちゃったりして。それはやっぱり悔しかったけど、「自分たちが今やりたい音楽」をやってないと嘘になるし、それをブレずに突き詰めてきたら、一度離れたけどまた来たってお客さんが結構いて。その人たちって最終的には、今のおとぎ話だけじゃなくて、おとぎ話がそこまで到達するプロセスも全部愛せるようになって戻ってきてくれてるから、面白いよ、本当に。

―世の中に向けて何かを発表していけば、自分の意図とは違う反応もたくさん返ってくるじゃないですか。どうして有馬くんは、そこでブレずにいられたんでしょう?

有馬:誤解されることはもちろんあるけど、たとえば曽我部(恵一)さんとかナカノくんとか、ちゃんと「おとぎ話の音楽」として評価してくれる人がいるだけで、安心感はあって。でも、レーベルとか会社にそういう人がいたかっていうと、ここまでの話ができる人はあんまりいなかった。

有馬

―当たり前だけど、やっぱりおとぎ話も、苦労しながら歩みを進めているんですね…。そういうことって外からだと分からないから興味深いんですけど、興味深いだけではなくて、みんなそういう葛藤の中で何かしらの答えを見つけて、それがまた音楽にもフィードバックされてくる。だからこそ、その「苦労」っていうのはすごい重要な気がしていて。

有馬そういうとこで言うと、正直俺も去年は最悪だった。サードアルバム(『FAIRYTALE』 2010年1月)を出す前に、500枚限定でもいいからシングルをリリースして話題を作りたいと思ってたんだけど、「シングルは売れないから」っていうことでNGが出ちゃって。それがね、俺の曲がダメだからシングルは出せないっていう話な らいいんだけど、「音楽業界ではもうシングルは売れないから出しません」って言われたと思って、絶望しちゃったんだよね。「もう未来なんてないじゃん」っ て思って。

ナカノ:そこまでいってたんだね…。

有馬:あのね、ナカノくんじゃないけど、「俺が死んだら、おとぎ話は伝説になるんじゃないか」とか、すげぇ自分勝手なことまで考えちゃってた。絶対にそれを外には出さなかったけどね。それでも頑張ってサードアルバムを作ってて、でもその「自分が頑張っちゃってる」感じがものすごく嫌だったの。で、そんな時にナカノくんから泣きながら電話がかかってきたんだよ。

―その時、有馬くんもあんまりいい状況じゃなかったんだ。

有馬:そうそう。だけどナカノくんと話してて、「あーもういいや」って思ったの。友達がつらい時に電話してくれる・頼ってもらえる人間なんだって思ったら、「俺はもう泣くのやめよう。もういいや。もっと弱ってるやつがいる」って思えて。それでなんか吹っ切れたし、目先のことで悩んだからダメなんだって分かった。

―目先のこと?

有馬:細かいこととか、目先のことを考え出すと、みんなすぐに「それはできない」とか言ったりするでしょ? ナカノくんと話してて、目先のことだけ見てるとつらいんだなって分かって。だから、もっと大きな枠で考えられたら楽しいんだよね。たとえばおとぎ話が『アビーロード』(ビートルズが最後に作ったアルバム)を目指すんだったら、これから先10年で自分たちが作らなくちゃいけない音楽が見えてくるし、「それって絶対できるわ!」って思うもん。そう思えたら、結構ラクなのよ。

有馬

こうしておとぎ話は、UKプロジェクトという大手音楽レーベルと決別し、自分たちの信念を貫く道を選んでいった。今年の11月、彼らは曽我部恵一が主宰するROSE RECORDSから4枚目のアルバム『HOKORI』をリリースしたのだ。

有馬: UKプロジェクトで3枚アルバムを出したけど、自分たちが動きたいと思うペースとレーベルとの折り合いがつかなくなっちゃって。とにかくすぐに4枚目のアルバムをレコーディングしたかったから、全部自分たちでお金を出して作って。それで、作ったからには色んな人に聴いてもらいたくて、手渡ししてたんだよね。そしたら曽我部(恵一)さんが「ROSE RECORDSから出そうよ」って言ってくれて、お願いすることになったの。

前作からたったの10ヶ月で、レーベルを移籍してアルバムをリリースする。このスピード感と実行力は、おとぎ話がレーベルに依存せず、自らの頭で考え、歩みを進めている賜物だ。そして一方のPBLも、唐突にセカンドアルバムを発表するというフライング気味な再スタートを切り、それからたったの3ヶ月で、1月にサードアルバム『Ground Disco』を発表する。PBLには、おとぎ話でいう有馬ほどの絶対的な牽引者は存在しない。しかし4人の歯車が噛み合った今、おとぎ話にも負けない推進力をもつバンドに変化した。

とはいえ、あれほど足踏みを続けてきたPBLだ。正直なところ、まだ完全に歯車が噛み合ったわけではないだろうし、これからもまだ、トラブルは起きるかもしれない。では今の好調は何なのかと言えば、前話で伊藤が「覚悟はしていたけど、ぼんやりしてた」と語り、今回有馬が「もっと大きな枠で考えられたら楽しい」と言った通り、大きな目標の下「やるべきこと」が明確になったことが大きな要因の一つだろう。2枚のアルバムを制作し、ツアーに出て、最後のワンマンライブをソールドアウトさせる。そこに賭ける彼らの覚悟は、本物だ。

ナカノ/有馬そしてもう一つ、常に目先の問題と格闘してしまうナカノヨウスケが、「歌うこと」だけを求められ、それだけに集中できている(他メンバーの努力の成果でもある)のは、非常に大きい。驚くくらいイキイキとしているのだ、今のナカノヨウスケは。それを証明するかのように、1月に出るサードアルバムや、ここ2ヶ月のツアーにおいてナカノは常に素晴らしいパフォーマンスを見せ、ボーカリストとして急成長をみせた。

こうして考えてみると「空白の5年間」は、すでに覚悟の決まっていた4人にとって、それぞれの役割を擦り合わせ、確認するために要した時間だったのかもしれない。

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