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3.11以降の日常と静かに対峙するキュレーションの力

3.11以降の日常と静かに対峙するキュレーションの力

坂口千秋
撮影:佐々木鋼平
2012/10/05

ゴヤとChim↑Pomのコラボレーション

今展覧会は、そんなゴヤの作品とChim↑Pomの作品が並べられた展示室から始まります。人間に追われ、駆除され続けるうちに毒に対して抗体を持ち、賢く進化した大都会に巣食うネズミが、それでも人間と共存していく姿に自身を重ねた映像インスタレーション『SUPER RAT』は、Chim↑Pomが2006年に発表した衝撃的なデビュー作で、それは彼ら6人の自画像でもありました。今回展示されている作品は2011年に再制作されたもので、新宿の繁華街でネズミを捕獲する時の映像も加えられています。

Chim↑Pom『SUPER RAT』2011-12 ©2011 Chim↑Pom Courtesy of MUJIN-TO Production, Tokyo
Chim↑Pom『SUPER RAT』2011-12 ©2011 Chim↑Pom Courtesy of MUJIN-TO Production, Tokyo

『SUPER RAT(Showcase)』は、震災後、あるレストランの店先にディスプレイされていた食品を美味しそうに食べるネズミの姿が、原発事故後の世界の中で逞しく生きる日本人のように思えたことから、自分たちの自画像ではなく、震災後の日本人の肖像として制作したかった、とChim↑Pomリーダーの卯城竜太さんが説明してくれました。日本人全員の逞しさを表現したかった、というスーパーポジティブなメッセージに痛快な気分になる一方、見えない放射線と共に生きていくこれからの日本人の現実にも気づかされます。

ヒトラーが描いた水彩画に手を加えたディノス・チャップマン

一方、ダイレクトな暴力やセックスの表現でしばしば論議を巻き起こすイギリスのアーティスト、ジェイク&ディノス・チャップマンにとっても、ゴヤは創作の重要なモチーフでした。この展覧会のために選ばれた作品は、アドルフ・ヒトラーの水彩画の上に作家が手を加えたドローイングシリーズ『ディノスとアドルフ』から3点と、ブロンズ彫刻作品『ニューヨーク・ニューヨーク』。いずれも日本では初公開です。

ジェイク&ディノス・チャップマン『ニューヨーク・ニューヨーク』2010年 Courtesy of the artists 撮影:渡邉修
ジェイク&ディノス・チャップマン『ニューヨーク・ニューヨーク』
2010年 Courtesy of the artists 撮影:渡邉修

普段の過激な表現はやや影を潜めていますが、もの静かで暗い画面には、絵筆を持つ青年アドルフが見た風景に不気味な生物が不穏に交錯して描かれています。ゴヤとChim↑Pom、そしてアドルフ・ヒトラーとコラボレートしたジェイク&ディノス・チャップマン。時代、空間を超えた、一見全く異なる作品が同じ展示室内に掲げられることによって、時空を超えた普遍的な人間の姿、本質が浮かび上がってくるように感じました。

ジェイク&ディノス・チャップマン『ディノスとアドルフV』2008 ©the artist Courtesy White Cube
ジェイク&ディノス・チャップマン『ディノスとアドルフV』2008 ©the artist Courtesy White Cube

このように、今展覧会の大きな特徴は、まさに「キュレーション」された展覧会であることです。新しく展覧会の為に制作された作品はありませんが、既存の作品を再解釈して選び、他の作品と組み合わせて、新しい見方を提示するといった工夫やチャレンジがあちこちに見られます。そこには金沢21世紀美術館が所蔵する1980年代以降を中心とした、現代アート有数のコレクションも多数起用されています。コレクションを活かすも殺すもキュレーター次第。こういった展示をどんどん重ねることで、作品の解釈も豊富になり、価値も更新されていくと、美術館のコレクションを活用していくことに北出さんはとても意識的でした。

奈良美智『Fountain of Life』2001年 作家蔵 撮影:渡邉修
奈良美智『Fountain of Life』
2001年 作家蔵 撮影:渡邉修

初期村上隆の伝説的作品『シ−ブリーズ』を体験

村上隆の『シーブリーズ・アナザーディメンション2012』は、そうしたコレクション作品を使った新しい展開例です。金沢21世紀美術館の所蔵品である『シーブリーズ』と、ドクロがプリントされた壁紙の『タイムボカン』が向かい合わせで展示されています。ともに原爆を意識させる、対になるべき2つの作品を展示したいと、この企画で村上さんに打診したところ、この場所に合わせて村上さんがオリジナルのインスタレーションとしてプランを考案してくれたそうです。『シーブリーズ』は、正面のシャッターが開くと、ロケットの噴射口のように設置された総電量16,000ワットの水銀灯16灯から大量の熱と光が一斉に放射されます。壁と作品の間は数メートルの距離しかないために、見る人は壁に張り付けられるように至近距離からこの暴力的な熱と光を浴びることになります。写真では伝わらない強烈でフィジカルな体験が印象的です。

村上隆『シーブリーズ アナザーディメンション 2012版』 1991年(デジタルプリント:2012年) ©1992 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co.,Ltd. All Rights Reserved.
村上隆『シーブリーズ アナザーディメンション 2012版』
1991年(デジタルプリント:2012年)
©1992 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co.,Ltd. All Rights Reserved.

このほか、土を敷き、そこに枯葉を埋め込んで葉脈の部分を掻き起こして円のかたちを発掘する鈴木ヒラクの『bacteria sign(circle)』86点は、鈴木さんがアーティスト活動を始めて間もない頃に金沢21世紀美術館がまとめて収蔵した圧巻の作品です。

鈴木ヒラク『bacteria sign(circle)』2000年 金沢21世紀美術館蔵
鈴木ヒラク『bacteria sign(circle)』2000年 金沢21世紀美術館蔵

また鑑賞者の心臓の鼓動に連動して会場の電球が明滅するラファエル・ロサノ=ヘメルの大型インタラクティブ作品『パルス・ルーム』、コーヒーカップの中の子供たちの眼から涙が流れ落ちる奈良美智の著名な彫刻作品『Fountain of Life』など、見応えある作品が展示されています。

ラファエル・ロサノ=へメル『パルス・ルーム』2006年 金沢21世紀美術館蔵
ラファエル・ロサノ=へメル『パルス・ルーム』2006年 金沢21世紀美術館蔵

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イベント情報

『ソンエリュミエール、そして叡智』

2012年9月15日(土)〜2013年3月17日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜(ただし10月8日、12月24日、1月14日、2月11日は開館)、12月4日〜12月13日、12月25日、12月29日〜1月1日、1月15日、2月12日
出展:
Chim↑Pom
フランシスコ・デ・ゴヤ
木村太陽
鈴木ヒラク
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス
ジェイク&ディノス・チャップマン
奈良美智
ラファエル・ロサノ=ヘメル
梅田哲也(『迷信の科学』と『ほとんどすべて忘れている』の展示は11月4日まで)
村上隆
草間彌生
ピピロッティ・リスト
パトリック・ブラン
日比野克彦
料金:
当日 一般1,000円 大学生・65歳以上800円 小中高生400円
前売・団体 一般800円 大学生600円 小中高生300円
(11月4日まで本展観覧券にて『ソンエリュミエール – 物質・移動・時間』も観覧可)

イベント情報

『ソンエリュミエール ―― 物質・移動・時間』

2012年4月28日(土)〜11月4日(日)
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜、7月17日、9月18日(ただし4月30日、7月16日、8月13日、9月17日、10月8日は開館)
出展:
秋山陽
粟津潔
ヤン・ファーブル
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス
木村太陽
岸本清子
草間彌生
ゴードン・マッタ=クラーク
カールステン・ニコライ
ゲルハルト・リヒター
サイトウ・マコト
田嶋悦子
マグナス・ヴァリン
アンディ・ウォーホル
料金:一般350円 大学生・65歳以上280円 小中高生無料

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