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3.11以降の日常と静かに対峙するキュレーションの力

3.11以降の日常と静かに対峙するキュレーションの力

坂口千秋
撮影:佐々木鋼平
2012/10/05

さまざまな細かな現象が奏でるポリフォニー

作品を順番に見て回るうちに、突然、異なる作品同士が不思議な共鳴を始めることもあります。自然の力学や現象を取り入れた装置によって、時間と空間の領域をまたがる表現を行う梅田哲也『迷信の科学』『ほとんどすべて忘れている』は別々の作品ですが、1つの部屋にまとめて展示することで、個々の作品が1つの現象となって立ち上がってくるようです。ガラス張りの天井に映る光の波紋、小さな2つの光が灯るモビール、慣性のように頭上を回り続けるライト、高い天井からまっすぐ吊り下げられたバケツ、空き缶から漂う煙、チリチリとなる小さな鈴、古い扇風機のカバー……。ばらばらに点在する装置が、何かをきっかけにして連鎖し始めます。

梅田哲也『迷信の科学』2009年 作家蔵 撮影:渡邉修
梅田哲也『迷信の科学』2009年 作家蔵 撮影:渡邉修

梅田さんの作品の中でもかなり洗練されたポエティックなもので、見えないけれど、確かにそこにあるものの存在を想像させます。梅田さんの作品は美術館中央の光の庭にもありますが、こちらはまだ進行中。しかし何をもって完成とするのかは、おそらく作家自身でさえもわからないような気がします。

そして壁に目を向けると、『みているをみられているはみられているをみている』という禅問答のようなタイトルが。とたんに別の場所にある木村太陽の作品がはっと思い出されました。コスメ雑誌に登場するモデルの目の部分だけを切り抜き、無数の目がこちらを見ている不気味なユーモア溢れる木村太陽の作品を鑑賞していると、「みる/みられる」という関係性が、「作者と作品」、「作品と鑑賞者」、そして「作家と鑑賞者」の間で、ぐるぐると廻りはじめます。こうして何かがきっかけとなって、別々の作品同士が静かに呼応を始める、そんな重層的な仕掛けがいくつもこの展覧会の中に潜んでいます。

木村太陽『Feel Your Gravity』2005 金沢21世紀美術館蔵 ©KIMURA Taiyo 撮影:斎城卓
木村太陽『Feel Your Gravity』
2005 金沢21世紀美術館蔵 ©KIMURA Taiyo
撮影:斎城卓

ありふれた日常の奇跡を探るフィッシュリとヴァイス

ゴヤと並んで本展の構成に重要なキーとなるのが、スイスの作家、ペーター・フィッシュリとダヴィッド・ヴァイス。フィッシュリとヴァイスは、70年代末に2人で活動を開始、パンクの精神にウィットとユーモアを携えて、自分たちをとりまくありふれた世界の本質を、身近な素材とキッチュな仕掛けによって軽やかに捉えようとする作家です。1987年に制作され、綿密に積み上げられたガラクタたちが次々と連鎖反応を起こしていく映像作品『事の次第』はあまりにも有名です。

展覧会と同タイトルの作品『音と光――緑の光線』は、草間彌生のドローイングとともに展示されています。傾きながら動き続けるターンテーブルの上で、カラカラと音をたてて転がるプラスチック製の使い捨てコップに野外用携帯ランプの光を照射することで、キッチュで幻想的な映像を壁に浮かび上がらせます。

ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス『音と光ー緑の光線』1990年 金沢21世紀美術館蔵 撮影:渡邉修
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス『音と光ー緑の光線』
1990年 金沢21世紀美術館蔵 撮影:渡邉修

北出:今展覧会タイトルの元の意味である「ソンエリュミエール」のきらびやかで豪華絢爛なスペクタクルショーとは正反対に、チープな日常にあるものでイリュージョンを導き出すフィッシュリとヴァイスのウィット溢れる批評精神。そうした彼らの視線が、展覧会を構成していくカギになりました。

「緑の光線」と聞いて、フランス映画監督の巨匠、エリック・ロメールの同タイトルの映画を思い出しました。1日の終わりに水平線に一瞬現れるといわれる緑の光線。回り続けるコップは、巡り続ける日々の現れかもしれません。そしてその光は草間彌生が描いた、まるで生への執着のように無限に広がるドットの絵画をうっすらと照らし出しています。

草間彌生『Light』1952 金沢21世紀美術館蔵 © Yayoi Kusama 撮影:斎城卓
草間彌生『Light』1952 金沢21世紀美術館蔵 © Yayoi Kusama 撮影:斎城卓

フィッシュリとヴァイスの展示室がもう1つあります。彼らのアイコン的なネズミと熊(パンダ?)の着ぐるみが登場する『庭園にて』と、下水道の中をタイムトラベルのように突き進む『カナルヴィデオ』の映像2作品。そして展示室に転がるフェイクの大きな石の中から、何かが転がるような音が響く新作『クリン クロン ロック』の3つの作品で構成されています。実はこの展示企画を進行していた最中に、ダヴィッド・ヴァイスがこの世を去るという悲しい出来事がありました。その意味でも見ておきたい、とても重要な作品です。

ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス 左奥『カナルヴィデオ』1992年、右上『庭園にて』2008-10年、右下『クリン クロン ロック』2010-12年 作家蔵 撮影:渡邉修
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス 左奥『カナルヴィデオ』1992年、右上『庭園にて』2008-10年、右下『クリン クロン ロック』2010-12年 作家蔵 撮影:渡邉修

『庭園にて』は、ネズミと熊の着ぐるみが日本庭園をゆっくりと散策する模様を映した、ウトウトした午睡のような映像作品です。特別なことが何も起こらない人工の自然の中で、ネズミと熊は出会い、鮮やかな緑色をした竹林に触れ、小川の水に足をひたし、廃屋の階段を登り、うたた寝をし、おずおずと無垢な手つき足どりで、目の前にある世界を一歩ずつ確かめるように歩んでいきます。Chim↑Pomのような瞬発力とは正反対の、間延びした時間に吸い込まれるような表現に、私たちの時間もぐーんと延びていくような錯覚を覚えながらも、肯定的なメッセージが言葉ではないかたちで心に届き、浸透していきます。

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イベント情報

『ソンエリュミエール、そして叡智』

2012年9月15日(土)〜2013年3月17日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜(ただし10月8日、12月24日、1月14日、2月11日は開館)、12月4日〜12月13日、12月25日、12月29日〜1月1日、1月15日、2月12日
出展:
Chim↑Pom
フランシスコ・デ・ゴヤ
木村太陽
鈴木ヒラク
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス
ジェイク&ディノス・チャップマン
奈良美智
ラファエル・ロサノ=ヘメル
梅田哲也(『迷信の科学』と『ほとんどすべて忘れている』の展示は11月4日まで)
村上隆
草間彌生
ピピロッティ・リスト
パトリック・ブラン
日比野克彦
料金:
当日 一般1,000円 大学生・65歳以上800円 小中高生400円
前売・団体 一般800円 大学生600円 小中高生300円
(11月4日まで本展観覧券にて『ソンエリュミエール – 物質・移動・時間』も観覧可)

イベント情報

『ソンエリュミエール ―― 物質・移動・時間』

2012年4月28日(土)〜11月4日(日)
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜、7月17日、9月18日(ただし4月30日、7月16日、8月13日、9月17日、10月8日は開館)
出展:
秋山陽
粟津潔
ヤン・ファーブル
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス
木村太陽
岸本清子
草間彌生
ゴードン・マッタ=クラーク
カールステン・ニコライ
ゲルハルト・リヒター
サイトウ・マコト
田嶋悦子
マグナス・ヴァリン
アンディ・ウォーホル
料金:一般350円 大学生・65歳以上280円 小中高生無料

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