
3.11以降の日常と静かに対峙するキュレーションの力
- 文
- 坂口千秋
- 撮影:佐々木鋼平
美術館の中に突如現れる光の庭
時間の話に、もう1つ繋がってくる展示があります。『「サンセット〜サンライズ・アーク」光庭プロジェクト』は、植物の時間というものに注目しています。美術館のほぼ真ん中にある恒久設置作品、パトリック・ブラン『緑の橋』のある光庭全体を植物の空間として、ブランの研究対象である朝顔が通路と壁をびっしり覆います。生長し、花を咲かせ、やがて枯れて種をつける――見慣れた朝顔の姿もこうしてガラス越しに見ることで、そこに流れる植物の時間が鮮明に意識されていきます。このプロジェクトには、2007年に日比野克彦が行なった『明後日朝顔プロジェクト21』から生まれた朝顔の種も加わっていて、新たな朝顔の展示風景が来年も生まれていきます。
パトリック・ブラン、日比野克彦『サンセット〜サンライズ・アーク』光庭プロジェクト 展示風景
妹島和世+西沢立衛 / SANAAの設計した、自然光にあふれる金沢21世紀美術館の建築空間を歩きながら、「ゴヤの時代に、光は叡智を表現する重要な要素として描かれていた」という担当キュレーター北出さんの話を思い出しました。私たちの日常に向けて美術館という非日常的空間が開かれていて、今展覧会の作品や建築、そして差し込む光との間に、静かな共鳴が起こっているのを感じます。叡智とは、さまざまなものが対立ではなく共存して響きあう、そんな状態から生まれるのかもしれません。 北出さんは言います。
北出:展覧会は見る人がいないと成り立たないし、作品も生きていきません。叡智という言葉はちょっと難しいかもしれないけれど、ぜひその空間と時間に立ち会ってみてください。この展覧会が、それぞれの生き方をほんの少しでも考えてみるきっかけになればいいなと思っています。
アートの力を信じるキュレーターの言葉が、最後に力強く心に響きました。
イベント情報
- 『ソンエリュミエール、そして叡智』
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2012年9月15日(土)〜2013年3月17日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜(ただし10月8日、12月24日、1月14日、2月11日は開館)、12月4日〜12月13日、12月25日、12月29日〜1月1日、1月15日、2月12日
出展:
Chim↑Pom
フランシスコ・デ・ゴヤ
木村太陽
鈴木ヒラク
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス
ジェイク&ディノス・チャップマン
奈良美智
ラファエル・ロサノ=ヘメル
梅田哲也(『迷信の科学』と『ほとんどすべて忘れている』の展示は11月4日まで)
村上隆
草間彌生
ピピロッティ・リスト
パトリック・ブラン
日比野克彦
料金:
当日 一般1,000円 大学生・65歳以上800円 小中高生400円
前売・団体 一般800円 大学生600円 小中高生300円
(11月4日まで本展観覧券にて『ソンエリュミエール – 物質・移動・時間』も観覧可)
イベント情報
- 『ソンエリュミエール ―― 物質・移動・時間』
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2012年4月28日(土)〜11月4日(日)
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜、7月17日、9月18日(ただし4月30日、7月16日、8月13日、9月17日、10月8日は開館)
出展:
秋山陽
粟津潔
ヤン・ファーブル
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス
木村太陽
岸本清子
草間彌生
ゴードン・マッタ=クラーク
カールステン・ニコライ
ゲルハルト・リヒター
サイトウ・マコト
田嶋悦子
マグナス・ヴァリン
アンディ・ウォーホル
料金:一般350円 大学生・65歳以上280円 小中高生無料