『クリエイターのヒミツ基地』

『クリエイターのヒミツ基地』Volume1 小田島 等(イラストレーター・デザイナー)

クリエイターのヒミツ基地 vol.1 小田島 等 イラストレーター・デザイナー

小田島式・どこでも仕事術

さてそれでは、いよいよ小田島さんの仕事場のヒミツに迫っていきます。とはいえ、小田島さんは現在、決まった仕事場を持たない、というスタイルを実行しています。いわば「どこでもオフィス」です。最低限必要な道具だけを持ち歩き、佐藤直樹さんのASYL DESIGN、映像と音楽のクリエイティブ・グループThor Production、曽我部恵一さんのROSE RECORDSなど、さまざまな場所に移動して仕事をされています。

今日の仕事場は、ちょうど小田島さんの展覧会を開催中(2010年5月24日現在)の「路地と人」という神保町の多目的スペース。「神保町はハタチくらいから好きなんです。古本屋好きだし。住もうと物件探したりもしました」。

ところで、なぜオフィスをかまえないのでしょう?「去年までは下北沢に仕事場があったんですけど、一人で仕事をしていると、鬱々とするじゃないですか。パソコンだし。だから、人のところに行ってやるといいんですよ。ちゃっかりしているけど(笑)」。

かつては自分の机に好きなおもちゃやレコードを置いて、カーテンはこれで…と俺の城的にオフィスをかまえて環境を整えていたことがあるけれど、「でも全然ダメなんですよね、落ち着かない。僕、本当につげ義春タイプなんですよ。彼のマンガを読んでると、近所にまた違うアパートを借りた……みたいな、母体回帰への拒絶ともとれる描写が出てくるでしょ? あれ、120%意味がわかります(笑)。そろそろフラフラしているのもダメだから、自分の家で仕事したほうがいいと思うんですけど、なんかイヤなんですよね。仕事しないで『ミヤネ屋』とか観ちゃいそうで(笑)」。

そんな小田島さんがいつも持ち歩いているデイパックの中には、どんな仕事道具が入っているのでしょうか?

ノートパソコン

ノートパソコン

「ハイテクには疎いです」と言う小田島さん。移動式の仕事スタイルには必須のノートパソコンは、「めっちゃ久々に買い換えた」というMac Book。パソコンを買い換えるタイミングは「規格が変わるとか、必要に迫られたら。いつもそんな感じですね」。

このパソコンには、制作でもっともよく使うというIllustratorのほか、Photoshopなどのグラフィックソフトももちろん搭載しています。

小田島さんのパソコンとの付き合いは十数年前、PowerMac7200にまでさかのぼります。「まだ完全データ入稿じゃない頃だったから、プリンタで200倍で出力してから紙焼き機で50%に縮小してエッジを消し、版下に貼って入稿する…みんなそうやってましたよね。

完全データ入稿になってきたのは、97、8年くらいかな。マガジンハウスとか、大きな出版社から出ている雑誌が先んじてそうしだして、驚いたのよくおぼえてる」。

ところで、今のパソコンは何代目?「2、3年に一度買い換えてるとしたら…6代目? 7代目? 分からないなあ、執着ないので」。

ペンタブレット

ペンタブレット

使い始めたきっかけは「みんな使っていて薦められたから。触ってみたら、5、6分くらいですぐに違和感なく使えました。けっこう直感的なツールだと思った。マウスより描くスピードが圧倒的に速いんです。使っていて気づいたのは、これは手描きの素養が試されるな、ということですね。Life is coming back! じゃないけど、絵筆が帰ってきた! と思った」。

「今までマンガをつくるときは、ペンで紙に描いて、スキャナで取り込んで色をつけてた。でも最初からペンタブで描いちゃえば、全部デジタルでできるよね。当たり前だけど」。こう語る小田島さんの絵の魅力とは、「荒れ」を取り込んだ表現にあります。「僕ね、機械の使い方のバグ的というか、隙間的なものを楽しんでるんです。たとえば絵でも、コピー機にかけて、少し荒らしたものを取り込むっていうのを繰り返すのね。だからロゴなんかでもポテッとしてたり、ちょっと傷が入ってたりする。最近はコンビニにあるコピー機も性能よくなっちゃって、それができないんですけど、ペンタブならさらに細かいことができるから、何か面白い手法を開発してみたいですね。僕の中にある直感力というか、『幼稚力』を用いて(笑)」。

コピー損紙

コピー損紙

小田島さんは、主にラフを描くときのために、いつもコピー損紙を持ち歩いています。「その理由は前に言った『自分の机じゃ仕事できない』っていうのと同じですよ、つげ義春的な(笑)。ノートを持っていても、途中で使うのやめちゃうんです。今日持ってきたコピー損紙は、この前出た作品集(『ANONYMOUS POP』)のですね」。

こうして描いたラフの中で「いいな」と思う部分があれば、周りを修正液で消し、作品として利用しているとか。

「あれ? 考えてみれば、コピー損紙じゃなくて、最初からデジタルで気ままにラフを描いちゃえば、後が楽なんだね(笑)」。

充電器

充電器

「どこでもオフィス」の小田島さんにとって、充電器はライフラインともいえます。

移動して仕事をしていると、必然的に携帯で連絡を取り合うことになります。しかも、毎日かかってくる件数がけっこう多い。それが電池切れを招く一つの要因です。

「充電器はいつも持ち歩いてますね。マクドナルドや出先で充電する」。

もう一つ、電池切れの大きな要因はTwitterなのだとか。「携帯でTwitterやってるとすぐなくなっちゃう。もうめっちゃ見てます、Twitter。1時間に1回は見ますね」。

一度、登録してみたものの、最初は難しくてすぐやめてしまったといいます。再びやろうと思ったのは、今年の1月、タナカカツキさんに手ほどきを受けたから。

「たとえばmixiだと、コミュニティで『北欧家具デザイン』に『タナカカツキ』を追加して『おれ、分かってる』とこを見せなきゃいけないじゃないですか(カツキさんごめんなさい)。それが面倒くさい。でもTwitterを始めてめっちゃ楽になりました。Twitterって冗談とか情報取り入れた俳句みたいなもんなんですかね? こう、携帯でTwitterを見る姿勢も、短冊を見る姿と似ているしね」。

さて、小田島式・どこでも仕事術、いかがでしたでしょうか? 『アノニマスポップ』の感覚を大事にしている小田島さんならではの、漂うように自由な創作姿勢を知ることができました。たまには職場以外の場所に移動して仕事をしてみるのも、気分転換になっていいのかもしれません(上司の許可さえ下りれば)。登場したヒミツ道具の使い方も、ぜひ参考にしてみてください。

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