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『クリエイターのヒミツ基地』 死後くん(イラストレーター、漫画家)

NHK総合テレビ『おやすみ日本』のワンコーナー、市原悦子の朗読が話題の「日本眠いい昔ばなし」イラストレーションや、独特な歌声と歌詞で敏感な音楽ファンからの注目を集めるシンガーソングライター・mmm(ミーマイモー)のジャケットワーク、さらにファッション雑誌のイラストレーションからウェブ漫画まで、多彩なメディアで独特の作風を披露する「死後くん」。一度目にしたら忘れない名前の強烈さとは反対に、彼の絵は見る人の気持ちをほんわかとさせながら、ときにシュールな世界観でドキリとさせてくれます。自由闊達、軽快なフットワークでジャンルを横断する「死後くん」の不思議な魅力は、どうやって培われたのでしょう? その経歴から探らせていただきました。

テキスト:阿部美香
撮影:CINRA編集部

死後くん(しごくん)
1977年愛知県生まれの蟹座のイラストレーター、漫画家。NHK『おやすみ日本』にて「眠いい昔話」のコーナーを手がけたり、mmmのCDジャケットを手がけたり、「死後」という扱いづらいペンネームで、紙媒体、TV、ウェブなど、みるみる間に活躍の場を広げながら、引き続き蟹座を背負い続ける(ライフワーク)。ペンネームが不謹慎に見える媒体に限っては「永井ひでゆき」という名義を使用する、基本的に面倒くさい人が多い(個人の感想です)蟹座の中でも特に面倒くさい蟹座の人。意味不明なサイト『MODERN FART』にてウェブ漫画『I My モコちゃん』『ジョン&ヨージ』も掲載、またオンラインTシャツショップ「TEE PARTY」にてTシャツ発売中。

死後くん(イラストレーター、漫画家)

誰もが気になる? そのペンネーム「死後くん」の由来

今回、「死後くん」にお話を伺うことになり、まず気になったのはペンネームでした。これはさぞ過激な方なのでは? と思って仕事場兼ご自宅に伺ってみると……出ていらしたのは、草食系男子という言葉がよく似合いそうな、なんとも穏やかで優しく控えめな男性ではないですか! ペンネームとお人柄にはかなりのギャップが……。

死後くん:はは、よく言われます。少し前までは「死後」だけだったんですが、ネットで検索をかけるとオカルトサイトばかりヒットするので、最近は「死後くん」を名乗ってます。そもそもの由来は……パンクバンドっぽいからかな? つけたときはまだ若かったので、勢いとインパクトがあって尖った感じを出したかった。かなり名前負けしてると自分でも思います(笑)。

そんな死後くんは愛知県刈谷市生まれ。子ども時代はスポーツ少年でしたが、高校生の頃に趣味嗜好がサブカルチャー路線へとガラリと変化したそうです。

死後くん:最初はバスケ部だったんですが、練習がハードすぎて半年で辞め、写真部に入り直しました。そこで自然とサブカルに詳しい友達ができて、筋肉少女帯などのナゴム系の音楽や『ガロ』系の漫画、マニアックな映画などを半強制的に教わったんです。若気の至りで、学園祭では演劇もやりました。惑星ピスタチオという劇団の『破壊ランナー』という作品なんですけど、ひたすら走りながら「はぁーー!」とか言ってるだけの主役を演じたり(笑)。そうこうするうち、思春期特有の「俺は人とは違うんだぞ!」と、今でいうサブカル選民意識が芽生えてしまったんです(笑)。

濃厚な高校生活で、めでたく(?)サブカルチャーに造詣を深めた死後くんは、そこで将来の夢を持ちます。なりたかったのは映画監督。絵を描く職業ではなかったのですか?

死後くん:絵を描くのは昔から好きでしたけど、専門的な勉強はほとんどしてませんし、絵描きになろうとは思ってもいませんでした。当時は、「スピルバーグを超えられるのは自分しかいない!」と胸に秘めながら、映画の仕事がしたくて映像学科のある東京の美大をいくつか受けたんですが、見事に全部落ち、結局は明治大学で映画サークルに所属したんです。学生時代に撮ったのは『忍ばれて』というラブコメ忍者映画。新婚夫婦のもとに突然忍者がやってきて、夫婦生活が崩壊していくというショートムービーでした。そんなので「スピルバーグを超える!」と本気で思っていた自分が怖いですけどね(笑)。

死後くんの仕事部屋

映画監督の夢から醒めつつ、目に入ってきたのは絵本作家への道

ちなみに、死後くんが最も影響を受けた映画は、学生時代に偶然レイトショーで観た長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』だそう。暴力とお色気が混在した1970年代の邦画が大好きなんだとか。そしていよいよ大学卒業後、映像制作会社でアルバイトの仕事を始めます。ところが……。

死後くん:アルバイトをやりつつ、映画を撮りたいと考えていたんですが……映画作りはチームプレイじゃないですか? 社会人になると仲間集めも大変だったり、そもそも僕は人と一緒より、1人でモノを作るほうが性に合っていることに気づかされました。だから、いつしか映画作りから疎遠になってしまったんです。

その後、死後くんはアルバイト生活にピリオドを打ち、美術関係の会社に就職します。映画監督の夢から醒めつつも、「何かを作りたい」という気持ちと現実の狭間で揺れ動いていた死後くん。転機が訪れたのは、28歳のときでした。

死後くん:就職したといっても、あまり優秀な社員ではなかったんですが……(笑)、会社で働かせてもらいながら、吉祥寺の絵本専門書店「トムズボックス」が主宰する絵本作家養成ワークショップ「あとさき塾」に通うことにしたんです。絵本は大学時代に気になり始めてから、密かにずっと作ってみたいと思っていました。映画と違って1人でも作れるし、ストーリーも描けるから、僕には合っているんじゃないかと。そのワークショップに参加する傍ら、出版社に勤める知り合いから、雑誌のイラストやカットの依頼をちょこちょこいただけるようになったんです。

そして会社で働きながら、地道にイラストレーターとしての副業を続けていた死後くんに、もう1つの転機が訪れました。ユニークな編集活動で有名な伊藤ガビンさんから、『daily vitamins』(現『MODERN FART』)というウェブサイトで「漫画を描かないか?」と突然声が掛かったのです。

死後くん:その頃、mixiで『フルチンくん』という3コマ漫画を描いていたんですが、知り合いづてにガビンさんがそれをご存じだったらしく……。と言っても、ガビンさんが気に入ったのは漫画じゃなくて、「死後」というペンネームのほうだったそうですけど(笑)。でも、仕事をいただけたのはチャンスでした。『daily vitamins』には当時、タナカカツキさんや寺田克也さんなど著名な方の作品が掲載されていたので、少しでも新人として存在感を示したほうがいいだろうと、『ジョン&ヨージ』という4コマストーリー漫画を毎日更新で連載したんです。その後『MODERN FART』にサイトリニューアルしたタイミングで連載は終了しましたが、漫画は描き続けたかったので、新しく『I My モコちゃん』の連載を始めました。

こだわりのない「絵描き」だからこそ、表現できる世界

イラストレーターとして徐々に頭角を表しつつ、連載漫画にも精力的に取り組んでいった死後くんは、次第に仕事が忙しくなっていき、ついに数年間勤めていた会社を辞め、「イラストレーター、漫画家」として独立、今に至ります。……と、こうしてお話を伺っていると、良きタイミングで順調に絵を描くお仕事と出会われていった死後くんですが、ご本人の口調はいたって軽やか。クリエイティブなお仕事を目指す方からよく聞く「絶対にこうなりたい、こうしたい!」という必死さ、熱さとは無縁なように感じられます。

死後くん:ああ、特に絵に関してはそうかもしれません(苦笑)。僕、絵描きとしての自覚があまりないんです。作品によってタッチもコロコロ変わりますし、自分の画風に対してもあまりこだわりがない。人の絵を見て「こんなふうに描きたい」とは思うことはありますが……。そもそも、当初目指していたのが映画監督でしたから、デッサンを描き込んだこともないですし、上手い絵描きさんに対するコンプレックスは常にあります(苦笑)。今でも電車で前に座った人をこっそりスケッチしたり、ささやかな努力はしていますが、自分でも「下手くそだなぁ」と思ってしまいますね(笑)。

とはいえ、『I My モコちゃん』や『オカイモン』などの漫画を見ると、そこには死後くん独特の感性が宿っていることはよく分かります。「そこは想像していなかった!」という突飛で自由な展開。大胆で軽妙な会話劇からなるエンターテイメントなストーリーセンスには、思わず驚き、笑ってしまいます。

死後くん:そう言われてみれば……、お話を考えるのは好きなんですよね。昔は、それを映像で表現したいと思ってたんですが、なかなか実際に撮れる機会がなかったので、自分一人がやれるものに合わせていったら、漫画や絵本に置き換わった感じはありますね。だから根本の部分は変わらない。やはり自分は、「お話」を作りたいんだと思います。

そこが生まれながらの絵描きさんにはない、死後くんの個性なのでしょう。同じことはキャラクター作りにも言えます。例えば『I My モコちゃん』には、雲から飛び出してきたモコちゃんを筆頭に、寝たきりのヒマじじい、地面に埋まったままの不良のリーダー・お頭など、普通は思いつかないような大胆でシュールなキャラクターが続々と登場します。

死後くん:キャラクター作りでは、こんな台詞を喋らせたいから、このキャラクターを登場させよう、となることが多いですね。ただ、出てくるアイデアはかなり断片的。それをどうにか繋げていくために、ストーリー作りには四苦八苦します。映画を撮っていたときもそうでした。撮りたいシーンはあるけど、それだけじゃお話にならないから、前後のストーリーを考えていくんです。

まず台詞があって、キャラクターが生まれ、ストーリーが作られていくというのは、とてもユニーク。もしかしたら、高校時代の演劇経験も、そこに繋がっているのかも知れません。さらに、死後くんのクリエイティブの原点が映像であることは、こんなエピソードからも伝わってきます。

死後くん:漫画でも「こんなワンシーンが描きたい」というところから創作がスタートするんですが、僕の頭の中では、そのワンシーンは静止画ではなく、映像として思い浮かんでいるんです。ただ、それを漫画で実現するためにはコマをキチンと割り振ったり、背景を織り交ぜて話を進めたりといった作業が必要。ウェブ漫画では、紙の漫画のように、コマ割りや切り返しなどで空間や時間経過を表現することは難しいので、どうやったら思い浮かんだ映像とストーリーを漫画で表現できるか、毎回苦労しています。

そうお話を聞いてから、死後くんの作品を拝見すると、キャラクターにもストーリーにも新しい見方ができそうです。今回は漫画のお話を中心にさせていただきましたが、イラストから漫画まで幅広く手がけている死後くん、今後はどんな創作活動をしていきたいのでしょうか?

死後くん:いつか絵本は形にしたいですね。「あとさき塾」で考えたアイデアもありますし、親が子どもに読ませたい品がいいだけの絵本ではなく、大好きな長新太さんの作品のように、子どもが訳も分からずキャッキャするようなものを描いてみたいです。絵本以外だと……やはり映像作品ですね。撮りたい映画は学園物のエンターテイメント。基本、恋愛モノで、バイオレントで笑えてドッカンドッカンいくような(笑)。

映像としてアイデアが生まれ、「お話」となって、漫画やイラストに昇華されていく、死後くん独自の作品世界。「絵描きとしての自覚があまりない」という姿勢だからこそ、様々なクライアントから仕事のオファーが届き、そこで発揮されるクリエイティビティー。次のページでは、そんな死後くんの制作を支えるヒミツ道具をお伺いします。

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