コラム

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2009年7月配信分(vol.233~236)

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2009年7月配信分(vol.233~236)

武田砂鉄
2009/08/19

vol.236 最近、男が分からなくて(2009/07/27)

全裸

独りで夜の観覧車の下に辿り着いた。その周辺、カップルしかいない。純度100%である。自分の登場によって純度がやや濁る。夜遅く、カップル達が観覧車への乗車を待ちこがれている。整列されたカップル達は、各々がそれなりにクネクネしながら、素直に順番待ちをしている。今お並びいただきますとお乗りになるまで約35分かかります、と係の兄ちゃんが繰り返し叫んでいる。35分待つのとアタシへの愛どっちが大きいのよ、という眼をした女子が、男子の腕にしがみついて観覧車の列へと引っ張る。男子は、おお勿論だよ、という顔を、動揺しながら作り上げている。その列を、観覧車脇の鉄柵に寄りかかって、しばしみておりました私。列の最後尾にまたカップル、またカップル。男の、「まんざらでもない顔」って冷静になるとどうにも痒い。子猫ちゃんキャラの女子に批判が集まりますが、自覚症状ありの戦略であってむしろ潔い。それより男子の、だらしないヨダレが口の脇から垂れそうな、あの顔が、脳裏に残る。

金曜の夜には、レイトショーに行った。15歳の少年が中年女子とデキる話だ。デキてから話はとことん重くなる。場内は、割と閑散としている。でも、その劇場は指定席制だから、一番見えやすいその列だけはギュウギュウに詰まっている。隣に主婦2名、逆サイドにはカップルが座っている。映画が終わる。隣の主婦は泣き崩れている。カップルの、男だけが涙を垂らしている。隣の主婦は、泣き崩れたくせにエンドロールが終わるとサッと立ち上がって劇場を出た。しかし、泣いた男は、泣き終えた余韻に浸って席を立とうとしない。彼女もそれに付き合っている。呆然と、もう何も写っていないスクリーンを見つめている。この映画は、とても悲しく、でも、考えさせる映画だった、というような、教科書通りの感想を背負って立ち上がれなくなっているに違いない。先に出て行った主婦達のほうから出て会場を後にした。

ああ最近もう鬱っぽくて大変なんだよ、と話かけてくる。口を開くとそんなことばっかり言ってくる。そんなことないっすよ、大丈夫っすよ、と繰り返すと、いや、そんなことない、これは鬱なんだよと、繰り返す。頼むオレのことを鬱と言ってくれ。愛してくれと言ってくれ、の前に、うん、やっぱり鬱ですよと言ってくれ、みたいな。これは鬱に違いないと言い始めてからかれこれ半年くらいだろうか。まだこれは鬱に違いないんだよと熱弁する。そう、熱弁。鬱と熱弁って同居できたんでしたっけ。疑問。

流行りの草食系男子、というのは、先に肉食系女子があってのこと。その上での草食系だ。それがなければ、男子はそれ以前に、食い方に迷いが生じている所なのだ。草食系を男性力の後退と考えるのが世の流れだが、それは違う。食い方がわかんなかった所に、食い方のジャンルを植え付けたのは前進である。そのくせ、男子だけの飲み会になったりすると、女なんて、が繰り返される。あれがどうも好きになれずに、その手の類いには出席しない。だって、最近、男が分からなくて。

Page 4
前へ

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. ボカロ文化の歴史を次世代に繋ぐ試み 『プロジェクトセカイ』鼎談 1

    ボカロ文化の歴史を次世代に繋ぐ試み 『プロジェクトセカイ』鼎談

  2. Honda新型VEZELのCMに井浦新、玉城ティナ、Licaxxxら 楽曲は藤井 風が担当 2

    Honda新型VEZELのCMに井浦新、玉城ティナ、Licaxxxら 楽曲は藤井 風が担当

  3. 『森、道、市場』第2弾で石野卓球、君島大空、パ音、TENDRE、クラムボンら 3

    『森、道、市場』第2弾で石野卓球、君島大空、パ音、TENDRE、クラムボンら

  4. 歌を絶やさぬように 久保田麻琴が探る「日本のうた」の過去と未来 4

    歌を絶やさぬように 久保田麻琴が探る「日本のうた」の過去と未来

  5. 新垣結衣、H&Mの2021GWキャンペーン「LET'S CHANGE」アンバサダーに就任 5

    新垣結衣、H&Mの2021GWキャンペーン「LET'S CHANGE」アンバサダーに就任

  6. ジョニー・デップ製作・主演の映画『MINAMATA』9月公開 音楽は坂本龍一 6

    ジョニー・デップ製作・主演の映画『MINAMATA』9月公開 音楽は坂本龍一

  7. 米津玄師の新シングル『Pale Blue』6月発売 ドラマ『リコカツ』主題歌収録 7

    米津玄師の新シングル『Pale Blue』6月発売 ドラマ『リコカツ』主題歌収録

  8. ドキュメンタリー『映画:フィッシュマンズ』出演者発表&ティザー予告到着 8

    ドキュメンタリー『映画:フィッシュマンズ』出演者発表&ティザー予告到着

  9. 『アメリカン・ユートピア』にいとうせいこう、オダギリジョーら35組が賛辞 9

    『アメリカン・ユートピア』にいとうせいこう、オダギリジョーら35組が賛辞

  10. カネコアヤノの選択。嘘のない歌は、信じる人を抱きしめるために 10

    カネコアヤノの選択。嘘のない歌は、信じる人を抱きしめるために