コラム

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2010年2月配信分(vol.261~264)

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2010年2月配信分(vol.261~264)

武田砂鉄
2010/04/09

vol.262 サークルで数百人のメンバーをまとめた数百万人の皆様へ(2010/2/8)

全裸

さて寝ようかと歯ブラシを突っ込んでテレビ画面に目をやると、就活実践番組とやらが行なわれていて、スタジオに招かれたいくつかの企業の人事担当者と就職活動中の大学生が、向き合っている。面接でこんなことを聞かれたらどうするという問いかけに、大学ごとに答えを出し、その答えを人事部連中が評価する、という下品な番組であった。どうにも苦い。苦い歯磨き粉は苦手だから、歯磨き粉のせいじゃない。この番組のせいだ。

「希望の部署に配属されなかったら?」という問いかけにどう答えるべきか。ある大学生が、悩んだ挙句、「自分のやりたいことではないかもしれませんが、それが自分が成長するために与えられた仕事なのですから、一生懸命頑張ります」と答えた。もう少し自分がロックンロールな人物だったら思わず口の中の歯磨き粉を画面に吹き散らす所だったが、こういう安直な攻めでは会社なんぞ入れんからなと諭すのがこの番組なのだろうし、ひとまずなんとか堪えて、人事部の指導を待った。いくつかの意見が出揃った後で人事担当者は良き回答を出した大学名の札をあげる。驚いた。そして、ションボリした。人事担当者は揃って、その平凡なフォーマット回答を褒めたのである。

何だか寝付けなくなった。この不景気に企業は学生を執拗に選び抜くだろう。同じようにして、学生は選ばれ抜かれる為の作戦を磨くだろう。その苦境と、この回答の安直さと、その安直さの承認、相当なチグハグが露になっているのに画面の中は頷き合いだ。うんうん、そうか、そう攻めるべきなのかと、選ばれなかった学生諸君も納得の表情だ。これはどういうことなのか。

まず、彼の回答は本音ではない。企業の連中も本音だと捉えているわけではないだろう(本音だと信じ込んでいたら愚鈍の極みだ)。それなのにこの回答が認められるのは、何故なのか。それは、「その時々のフォーマットを瞬時に理解し、そこに当てはまる理由をいちいち問わない人物を求む」ということなのだろう。現代用語でこれを「素直」と呼ぶらしい。どこまでも空疎である。しかし問題はここからだ。そのくせ、企業も学生も何故だか熱い。ドライな査定なのに、周辺事項は熱苦しい。恐ろしいほど手垢の付いた「サークルで何百人をまとめた」やら「旅先で出会った異国の何ちゃら」みたいなエピソードを、か弱い腕力でシューカツに手繰り寄せて、企業と学生が頷き合っている。久しぶりにこんなことを思ったが、この人たち、ちょっと頭が悪いのではないか。

「イヤです」とか、本音でぶつかれば良いというわけでもないということは、経験上熟知している。「希望の部署に配属されなかったら?」と問われたら、自分ならこう答える。「配属が決まったその日は、ふて寝します。翌朝どう感じるか分かりませんが、ひとまず落ち込みます」。そこまでの対応しか、絶対に予測出来ない。エッヘン、おいらはどこだって頑張るよ、という気が利く立ち回りは、往々にして脆い。隣の歯車が止まれば止まる。その後で自家発電の方法は持たない。この手の脆さから逃れる為に使われる「気合い」「熱意」「挑戦」「成長」といった語句が、輪郭を持たずシャボン玉のようにシューカツに佇んでいる。それをかたどる為に、「サークルで数百人のメンバーをまとめた」というネタが有効だと未だに信じ、自分のセールスポイントだと疑わないのだ。ご忠告申し上げるが、「サークルで数百人のメンバーをまとめた」人を数百人見つけることなんて容易い。それを、企業も学生も知らないでいる。学生はまだしも、企業がそのことを「知らないフリ」ではなくて、どうやら本当に知らないようなのが、とてつもなく恐ろしい。無思想な発泡酒ピーポーの思考は、とことん停止しているようなのだ。

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教室でも放課後でも負け続けたこと、弱さ故に大事な友達も傷つけてきたことーー振り返るほど情けなさでズタズタになってきた自分達の青春を全部吐き出しながら、だからこそ今まで裏切らず側にいてくれた人を離さず抱き締めて生きていきたいのだと表明する1stアルバムが『サンキュー・マイ・フレンド・アンド・マイ・ファミリー』だ。ブッチャーズ、eastern youth、NUMBER GIRLを抱き締めて離さない号泣ファズは変わらぬまま、アルバムタイトルの通り「誰に何を歌いたいのか」に重心を置いた結果としてバンドサウンドが撚られ、歌がグッと前に出た。汗と唾を撒き散らす激情の成分はやや減ったが、あなたと友達になりたい、友達との絆を目一杯歌いたい、だからまずは自分達が素っ裸になってあなたと向き合いたいという意志がスウィートなメロディに乗って突き抜けている。「たったそれだけ」をたったひとりに伝えるためにもんどり打つ、バンドの核心がそのまま映し出されたMV。端からライブの中核を担ってきた名曲がさらに躍動している。(矢島大地)

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