未来から見た今を描く 永戸鉄也インタビュー

UA、サザンオールスターズ、THE BACKHORNなど国内トップアーティストのアートディレクションや映像、デザインなどを手がけながらも、その一方で自身の確かな作品世界を構築。アーティストとしても高い評価を得ている永戸鉄也。様々な素材を切り貼りする手法、「コラージュ」を武器にジャンルに捕らわれず、どんな舞台でも自らの世界を生み出す、その柔軟かつ折れることのない芯をもった活動の根本をうかがった。

3年で溜まっていたものを全部出して次へ行きたい

―今回は3年ぶりの個展ですが、全く同じ期間で3カ所に同時開催という変わった形式をとられたのはなぜなのでしょうか?

低音のゆくえ

永戸:単純に言ってしまうとできることを全てやってみたかったからですね。なるべく普通じゃないことをしたいという思いもあります。作品を観てもらうことも大事ですが、この3年で溜まっていたものを全部出して次にいきたい気持ちがあります。

―さらに3カ所で「デジタルコラージュ」「写真」「(アナログな素材を使った)コラージュ」という異なる手法で魅せる、つまり異なる制作方法で作られた作品を3カ所で同時期に紹介する展覧会だ、と気づいたときにかなりのインパクトを受けました。

永戸: 3つの手法は全部自分の中では繋がっていることなので「なぜ、3カ所で3種類のことをしているのか」という意味が見ている人に伝わればと思っていますし、伝わるようになっています。

―永戸さんの身の回りの方は、今回の「3カ所同時個展」をどう捉えられたのでしょうか?

永戸:おそらく最初はなぜわざわざ同時に行うのか、と不思議に感じたと思います。ただ、濃く楽しみたいだけなんですけどね。

―確かに全部やりたい、という気持ちが伝わってきます。永戸さんは今回のイベントだけでなく、普段のお仕事でもデザイン、アートワーク、映像など幅広く手がけていらっしゃいますが、そこにも全てを楽しみたい思いが反映されているのでしょうか?

永戸:やりたいことが止まらなくなってしまうので、まずは行けるところまで行こうかなという開き直りもあります。一つ一つの精度は上がっていて、それぞれが循環してよい影響があるし、仕事にも個人の作品にも繋がっていっていますね。

―全てに共通する点はコラージュですが、コラージュをはじめたきっかけは何だったんでしょうか?

Sence of Wonder フライヤー

永戸:パソコンを買った当時はデジタルを用いて絵を描いてましたが、スキャナーを入手してから自分の手で描いた絵も取り込むようになりました。それを延々続けていたのが発展してデジタルコラージュになっています。そこからパソコンに入っているフォントを並べはじめて、自分の好きな文字詰めを考えはじめたことがデザインに繋がり、さらにそれをパソコンに取り込んで、自分の作品でも他の人の作品だろうと関係なく客観的に見る目ができたときに、これはディレクションもできる、と思ったんです。

それまでは作品を作るということしか知らなかったのが、それからは自分の作品を客観的に見て判断したり、色々な人達を適した場所に送り込んだりできるようになりました。そう考えるとディレクションもコラージュみたいな感覚ですね。

―アーティスト活動とディレクションをどうやって両立してやっているのか不思議に思っていたのですが、全てが興味の一直線上にあるんですね。

永戸:両立はしていないですね。僕にとっては一緒くたなことで、文字詰めもコラージュで切って貼るときの感覚も同じです。ただ、出来上がっているものが違うだけで自分が気持ちいい感じに配置しています。

―会期中もデザインのお仕事はされているんですか?

永戸:今が一番忙しいですね。展覧会の会期中にも撮影や、入稿しなきゃいけないものがあるけど、これができたらもうなんでもできるんじゃないかと(笑)。

―本当に限界に挑戦中ですね(笑)。

繋がりの中から何かを作りだしたい

―デジタルとアナログという異なる2つのコラージュ手法に対してそれぞれどういった魅力を感じていますか?

My perfect enemy

永戸:デジタルコラージュの場合は手で千切ったりするのと違って接合部分がなめらかなので、あたかもそれが元から繋がっているように見せています。逆にアナログの場合はそれができないので素材同士が直接ぶつかり合っている印象があります。デジタルの場合はコンピュータの異物と異物が繋がっている感覚に惹かれています。

―アナログコラージュに使っている素材は?

永戸:雑誌などを何でも切って使っていますが、基本的には親戚や親族の持っていたものが多いです。

―作品のために新たに購入するわけではないんですね。

永戸:購入したものは少ないですね。これまで自分でコレクションしていた書籍も、作品のために切り始めてしまってからは集めなくなりました。元々、捨てられそうになっている書籍をもらってきていているものがほとんどで、祖母のものなど古い書物もあります。昔、実家がやっていた木工所を立ち上げた祖父が当時集めていた外国の家具のパンフレットや写真が残っていたり、1900年代初頭にアメリカに行っていた親戚がためていた本も多くあります。

―だいぶ貴重な書物も多くありそうですが。

永戸鉄也インタビュー

永戸:本好きな人が見たら貴重かもしれないけど、僕にはそういった価値があまりわからないですから。何もしなければ売られるなり捨てられしまうはずだった多くの本を前にしたときに、それらを圧縮して違う物へ作り替えて残したいという発想が出てきたのです。

僕の作品は未来から見た今、なのかもしれない

―永戸さんの作品を見ていると、「今っぽさ」や「古めかしさ」といった印象があまりなくて、いい意味で「時代」の影響が少ないと思いました。永戸さん独自の時代が見えるように感じるんです。

UA『Golden green』

永戸:最先端なものは作らない、いや、作れないといったほうが正しいかもしれないです。ただどちらかというと僕の作品は古いといっても、ひょっとしたら200年ぐらい先の未来から見た「今」、といった古さなのかもしれない。今を今で見ようとしていなくて、過去から未来として今を見たり、その逆もありますね。

―UAやサザンオールスターズのCDのアートワークなど幅広く手がけられているのも、永戸さんの作品が時代に捕われずに、アーティスト性そのものを表現していることが大きく影響しているかもしれないですね。

永戸:もちろん、僕なりにその時代については考えて作っているのですが、いわゆるファッションデザイナーが考える「ファッション」や、デザイナーが考える「デザイン」とは違う視点のものができていると思います。

ライブコラージュは人に見せる事のできる自分なりの遊びの方法

―スーパーデラックスのイベント『FLAT SESSION』で行うライブコラージュとはどういったものですか?

永戸鉄也インタビュー

永戸:作品を作る時に普段やっている、切り貼り、ヤスリで削る行為などを音楽と一緒に行います。VJのように音とシンクロしてやるのではないのですが、基本はインプロの人達の演奏と一緒に音と映像が突き進んで行くようなものになっています。

―ライブコラージュは何がきっかけで生まれたのでしょうか?

永戸:どうしても家で閉じこもっての作業が多くなるので、外に出ようと思ってはじめました。ただ遊びに出るより、人に見せる事のできる自分なりの遊びの方法を考えたら、やっていることをそのままカメラに撮ってみたのがきっかけです。

―共演される方々はどういった選び方をしていますか?

永戸:今回は初めて自分で企画したイベントなのですが、鈴木ヒラク君やKYOTAROとか僕の気になっている人達を呼びました。例えばグラフィティのように意味を解りやすく伝えるメッセージ性の強いものではなく、音楽の近くにいながらも音とビジュアルのそれぞれの見せ方を考えている、そんな人達とやってみようと思いました。彼らは東京のポップカルチャーのアイコンになり得るアーティストということも含めてお願いしています。ギタリストの秋山(徹次)さんとライブコラージュで共演するのも楽しみです。KYOTAROは今回、ボディペインティングで参加予定です。

永戸鉄也インタビュー

―色々な角度で楽しめるイベントになりそうですね。

永戸:自分自身でも楽しいことをやりたいですからね。あと同じ週に中村賢治君が主催する『BLACK&GOLD』というイベントでは外山明さんと共演するのでそちらも楽しみです。

10年続く「トーキョーツアー」?

―最後に気になっていたことをお聞きしたいのですが、フライヤーには「永戸鉄也トーキョーツアー2008」と題されていますが、今回の展覧会はツアーなんですか?

永戸:それは後藤(繁雄)さんが言い出したんだけど(笑)。

―後藤さんの紹介文にも「まず10年間毎年続くツアーのスタート」って書いてありますね(笑)。これから10年続けるんですか??

RED LOVE

永戸:僕もそれを見て「え、これから10年やるの?」って思いました(笑)。けど、そういう発言とかにいい意味で巻き込まれていくっていうのも重要で、それだったら10年やってみようかなともちょっと思ってる。どうなるかはまだわからないですけどね。

―人の影響もいい具合に味方につけるわけですね。

永戸:合気道みたいに人の勢いで転んじゃって、けど軽く転べる。そういうのも好きですね。

―それでは是非、この10年続くツアーのスタートを切る展覧会に足を運んで欲しい読者の方々にメッセージをお願いします。

永戸:自由に、捕われずにやったらいいと思います。

イベント情報
永戸鉄也『トーキョーツアー2008』

『Tone Karma トーンカーマ』
2008年8月19日(火)~9月3日(水)12:00~19:00
会場:リトルモア地下(東京・原宿)
料金:200円
定休日:月曜

「オープニングパーティー」
2008年8月22日(金)18:30~

「蓄音器DJ & アーティストトーク」
2008年8月29日(金) 19:30~
トークゲスト:後藤繁雄(編集者・クリエイティブディレクター)
料金:700円(1ドリンク付)
定員40名(要予約・7月28日より受付)
予約・問い合わせ:リトルモア地下 03-3401-1042

『Needle Juice ニードルジュース』
会場:PUNCTUM(東京・京橋)
2008年8月19日(火)~9月3日(水)

「クロージングパーティー」
2008年9月3日(水)17:00~19:00

『flat session フラットセッション』
2008年8月19日(火)~9月3日(水)
会場:スーパーデラックス(東京・六本木)

永戸鉄也トーキョーツアー2008開催記念イベント
『音と視覚表現のあいだ
flat session フラットセッション』

2008年8月28日(木)18:00~23:00
参加予定アーティスト:
永戸鉄也、秋山徹次、鈴木ヒラク、KYOTARO、beermike、岸本智也、昆野立、中村賢治
GROUP[中村賢治(as)+岩見継吾(b)+池澤龍作(dr)高橋保行(tb)]、他
料金:1,500円

プロフィール
永戸鉄也 (ながと・てつや)

1970年生まれ。高校卒業後渡米、帰国後96年より作品制作と平行して音楽等の分野でアートディレクション、グラフィックデザイン、映像制作に携わる。2003年、第6回文化庁メディア芸術祭デジタルアート(ノンインタラクティブ)部門・優秀賞受賞。同年、トーキョーワンダーウォール公募2003・ワンダーウォール賞を受賞し東京都庁での個展を成功させるなどその活動は多岐にわたる。



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