特集 PR

「淋しさ」に救われて conchillインタビュー

「淋しさ」に救われて conchillインタビュー

インタビュー
柏井万作(CINRA.NET編集長)
2008/09/02

尾崎豊みたいに語りかけてくる歌に勇気付けられたり救われたりした経験もあるんだけど、ただそこにあるだけの風景に救われた経験も同じくらい多くある。

―conchillはバンドだけどベーシストがいない編成ですよね。

柴田:ぼくが大学生になった頃にこのバンドを結成したんですけど、当時はベース&コーラスの女の子がいたんですよ。だから当初はオーソドックスな4人組バンド編成だったんですけど、その編成で生み出すサウンドにオリジナリティをどうしても見出せなくて。それで思い立って、一夜にしてベースレスのバンドにしたんです。

―ベースレスであることもひとつの要因だと思いますが、アコースティック・ギターとエレキ・ギターのアルペジオがサウンドの核になっていますよね。

柴田:当時コーネリアスの『Point』とかJoan of arcの『the gap』とかを聴いていて、少し変わったアコースティックな音楽に自分自身とても魅かれていたんです。あとは、曲のイントロ部分って静かで美しいアンサンブルで始まることが多いと思うんですけど、そうしたサウンドが曲中にずっと響いているような音楽を作りたかったんですよね。

―それでアルペジオを軸としたループ主体の音楽になっていったんですね。

柴田:そうですね。最初はすごい苦労したんですけど、メンバーも方向性を理解してくれていたこともあって、演奏を重ねるたびにどんどん良いサウンドになっていったように思います。でもやっぱり、ベースレスという編成の難しさはあったんですけどね(笑)。「toy」というバンド名時代に、CINRA MAGAZINEにも収録させてもらったんですけど、自主制作盤なんかを作りながら、その都度足りないものを認識しては、アレンジを再構築していきましたね。

conchillインタビュー

―自主制作盤から今回のアルバムに至るまでの間で、ものすごい進化したと思いました。曲も良くなったけど、何よりもその「足りない」というのがネガティヴなことではなくて、ひとつの魅力になったように感じました。

柴田:それはやっぱり、活動を続けていることで共有できてきた部分も増えているし、とにかく「歌」を聴かせるようとみんなが考えて演奏してくれるのも大きいですね。

角田:うん、ライブがあろうとなかろうと、定期的に練習してきたのは大きいと思う。スタジオで合わせる度に、「良い」とか「悪い」の判断を共有できるようになるし、肝心なときに、何が必要なのか分ってくる。そういう作業を積み重ねた結果かもしれない。

柴田:「進化」という話しだと、品田さんの加入も大きなポイントの1つですね。ぼくの中で、ベースレスにした時点で女性コーラスが必要不可欠だったんですけど、やはり彼女が入ってからは、バンドのバランスがものすごく良くなった。その点で、本当に彼女の存在は大きいと思います。

自分だって躊躇なく人を殺すかもしれないのに、
「殺さない」と言い切れる感じが社会に蔓延してしまっている。

―確かに女性コーラスは新しい魅力になっていましたね。英詞で歌われるフックのあるフレーズが印象的でしたが、conchillは歌詞も独特ですよね。イメージは喚起されるけど、何かストーリーを伝えるわけでもなくて。

柴田:歌詞は本当にconchillの核となる部分ですからね。頭で自然と絵が浮かぶ程度の英語はたまに使いますけど、それ以外は日本語で歌詞を書くことにはこだわっていますね。よく「意味がわからない」と言われるんですが、ぼくの中では最小限の言葉で語っているだけで、ストーリーはすごいクリアに頭の中にあるんですけどね(笑)。

角田:うん、確かに意味が分からないことは多いんだけど(笑)、言葉の使い方や感触そのものがすごく美しいと思うな。でも意味が決めつけられていないから、さっき柴田くんが話していたように、聴く人が自分で想像する余地もある。それこそ正にトリップフォークだと思うな。

―まったく同感で、とても素敵な歌詞だと思います。逆に、J-POP的な分かりやすい歌詞についてはどう思いますか?

conchillインタビュー

角田:最近よく怖いなと思うんだけど、「自分がこうなるかもしれない可能性」ってものを考えなさ過ぎる人が多い気がしていて。たとえば「俺は絶対に人は殺さない」と思い込み過ぎていたりするでしょ。もし戦場に身を置くことになったら、自分だって躊躇なく人を殺すかもしれないのに、「殺さない」と言い切れる感じが社会に蔓延してしまっている。アーティスト側がそういうことをきちんと考えないまま平和を歌っていたりするのは、かなり危険な感じがする。

―だからこそconchillは、聴き手に一歩だけ歩み寄ってもらおうとするんですね。受け身のままじゃいかんぞ、と。

柴田:まあ自分自身、尾崎豊みたいに語りかけてくる歌に勇気付けられたり救われたりした経験もあるんだけど、ただそこにあるだけの風景に救われた経験も同じくらい多くある。そうやってそっと寄り添えるような音楽もいいものだよっていうのが言いたいんですよね。そういう音楽に救われる人だって、僕以外にも実は結構いるんじゃないかと思うんです。

―決して派手ではないけれど、間違いなく日常に寄り添ってくれる音楽だと思います。今作は自主レーベルを立ち上げてのリリースですが、その中でどんなことを考えさせられましたか?

柴田:デザイナーやエンジニアに自分たちでお金を払うこととか、自分たちがライブをしてお客さんにチケット代を出してもらうこととか、お金が動くということに対する意識や姿勢については相当考えましたね。音楽がタダで手に入ったり、製作費がどんどん省かれていたり、音楽関係全般が「如何にお金をかけないで済まそうか」という方向性に向かいがちになっているような気がするんですけど、それって音楽の価値を自分たちで下げているように思うんですよね。このままだとどんどん、チケット代やCD代に誇りを持てなくなるんじゃないかなって。お金を出すってことをみんなで始めないと業界がしぼんでいくだけだと思うんです。

―それは聴く側も作る側も、それぞれが考えないといけないことですね。

柴田:そうですね。自分たちのライブだって、お客さんにチケット代を払ってもらって、貴重な時間を費やしてもらっているわけなので、お客さんの人数が5人でも300人でも1万人でもスタンスは一緒で、「ぼくらのライブはお金を出してもらって成り立っているんだ」っていう意識を持たないといけないと思いますね。

―レコーディングでしばらくライブをしていなかったようですが、楽しみにしています。

柴田:今は10月のリリースパーティに向けて準備をしているので、みなさん良かったら是非足を運んでください。あっ、DJもよろしくお願いします(笑)。

―あっ、そうでした! 素敵な時間を演出したいと思います!(笑)

Page 2
前へ

リリース情報

conchill『STANDARD』
conchill
『STANDARD』

2008年9月5日発売
価格:2,300円(税込)
TICU-001 TIMECUT LABEL

1. 水の屋根
2. tree
3. 短い蔓のように
4. timeboat
5. 小雨
6. antique
7. sweet
8. happiness in the dark
9. 草原から海へ
10. 哀しい盾
11. greenland

イベント情報

『STANDARD』Release Party

2008年10月26日(日)
会場:東京都 六本木Superdeluxe
出演:
conchill
miyauchi yuri
4 bonjour's parties
and more...
DJ:Mansaku Kashiwai(CINRA)

プロフィール

conchill

2005年より東京にて活動を開始。男女混声、アコースティックギター、エレキギター、ドラムによるベースレス編成。フォーク、エレクトロニカ、Hip Hop等メンバーのルーツとなるジャンルをバンド独自の解釈で色付けし合い、邦楽洋楽の枠を超えた時代性豊かな音楽を確立。叙情的な歌詞表現や、楽曲に対するストイックな姿勢は、様々なアーティストからも高く評価されており、良質な日本語ポップの継承者として、今なお進化を続けている。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

『角舘健悟 × 青葉市子 Live at Waseda Scotthall』

2020年、全4回にわたって行われてきた対談連載企画『角舘健悟の未知との遭遇』。青葉市子と遭遇し、教会に迷い込んだ2人の秘密のセッションの様子が公開された。本連載の趣旨でもあり、2人を繋いだYogee New Wavesの”Summer of Love”と、青葉市子の”みなしごの雨”を披露。クリスマスの夜にどうぞ。(川浦)

  1. KID FRESINOが示す良好なバランス。多層的な創作者としての姿勢 1

    KID FRESINOが示す良好なバランス。多層的な創作者としての姿勢

  2. 木村拓哉がスーツ姿で仲野太賀、塚地武雅と共演 マクドナルド新CM 2

    木村拓哉がスーツ姿で仲野太賀、塚地武雅と共演 マクドナルド新CM

  3. Gotchが歌う「生の肯定」 現代社会のほころびを見つめ直して語る 3

    Gotchが歌う「生の肯定」 現代社会のほころびを見つめ直して語る

  4. 山田孝之主演のNetflix『全裸監督』シーズン2 新ヒロインに恒松祐里 4

    山田孝之主演のNetflix『全裸監督』シーズン2 新ヒロインに恒松祐里

  5. 綾野剛が白昼の商店街を疾走、映画『ヤクザと家族 The Family』本編映像 5

    綾野剛が白昼の商店街を疾走、映画『ヤクザと家族 The Family』本編映像

  6. キンプリ平野紫耀と杉咲花がウサギになりきってぴょんぴょんするHulu新CM 6

    キンプリ平野紫耀と杉咲花がウサギになりきってぴょんぴょんするHulu新CM

  7. 『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎の日輪刀を再現 「うまい!」などセリフ音声収録 7

    『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎の日輪刀を再現 「うまい!」などセリフ音声収録

  8. 吉高由里子、知念侑李、神宮寺勇太が「アレグラFX」新広告キャラクターに 8

    吉高由里子、知念侑李、神宮寺勇太が「アレグラFX」新広告キャラクターに

  9. 緊急事態宣言下における「ライブイベント公演の開催」に関する共同声明発表 9

    緊急事態宣言下における「ライブイベント公演の開催」に関する共同声明発表

  10. ermhoiの「声」を輝かせている生い立ち、思想、知識、機材を取材 10

    ermhoiの「声」を輝かせている生い立ち、思想、知識、機材を取材