音楽フェス『KAIKOO』主催 DJ BAKUインタビュー

2008年春に、横浜ZAIMで開催された音楽フェスティバル『KAIKOO meets REVOLUTION』をご存知だろうか。有名無名を問わず、バンドやDJといった演奏形態も問わず、そのオルタナティブな音楽で聴く者の心を虜にするアーティストたちが一堂に会したフェスティバル。そこは間違いなく、2008年現在の日本の先端を捉えた空間だった。

そして、そのフェスティバルの求心力になったのが、DJ BAKUという孤高のターンテーブリストだ。異才であるがゆえに苦労も多かった彼が、「思いがけなく出あうこと=邂逅」していきながら歩んでいる軌跡について伺った。

他に何もできることがないっていう、
諦めにも近いところからミックステープを作り出したんです。

―DVD『KAIKOO meets REVOLUTION』が完成しましたが、歴史に名を刻まれるべきフェスティバルでしたね。行けなかったのが悔しくなるほど、素晴らしい時間が記録されたDVDでした。

BAKU:実はぼくも今日初めて見たんですよ(笑)。イベントの運営からDVDの制作まで、全部ひろきくん(DJ BAKUの事務所、POPGROUPの代表)たちがやってくれていたから。ショートフィルム形式でちゃんと「作品」になってるし、音も映像もしっかりしていて完成度が高かったです。

―会場を横浜ZAIMにしたのは何故だったんですか?

DJ BAKUインタビュー
『KAIKOO』

BAKU:今回は「KAIKOO」だけじゃなくて、横浜の方で活動しているMEETS★REVOLUTIONが協力してくれたのが大きかったんですよ。出演者のブッキングも含めて本当にみんなで作ったフェスティバルだったんです。ボランティアの人たちもめちゃくちゃ頑張ってくれて、俺は自分のライブの事しか考えなくてよかった。そしたら本番前になって、どこからステージに上がればいいのかすら分らなくて、普通に入口から入っちゃったり(笑)。「そんだけわかってなかったら天皇じゃん」って茶化されましたね(笑)。

―そうだったんですか(笑)。「邂逅」といのうは「思いがけなく出あうこと」という意味を持つ言葉ですが、BAKUさんは活動の最初期からこの言葉を大切に使い続けていますよね。「邂逅」との出会いは、どういったものだったんでしょうか?

BAKU:まだ20歳になる前で本当に無名だった頃、たまたまゴミ捨て場で拾ったレコードの中に『Kaikoo』というレコードがあったんですよ。色々な人と出会っていくことって大切なことだし、そのレコードとの出会い自体がまさに邂逅だったから、自分が作ったミックステープに『KAIKOO WITH SCRATCH』ってタイトルを付けて。それがきっかけでしたね。

―最初はミックステープだったんですね。

BAKU:俺もDJで食っていきたいと思っていたし、まず最初にできることと言えば、スクラッチを通じて邂逅していくことだったんです。

DJ BAKUインタビュー
『KAIKOO』

―BAKUさんは普通のクラブDJとはスタイルが違うと思うんですが、苦労は多かったんでしょうか?

BAKU:そうですね。自分のDJスタイルは理解されないと思ってたし、実際にその通りだったんです。その当時は誘ってくれるクラブもなかったし、DJバトルの大会も自分の表現ができる場所ではなかった。DJの下積みをしようと思っても、自分がやりたいこととは違う事をやらなきゃいけないんですよ。もちろんその道もアリだとは思うし、自分も昔はDJのバイトをやって、お客さんに誕生日の人がいれば、その人にプレゼントする曲を流したりしたけど、「俺はそこじゃない所に行きたい」と思ってた。とにかくDJとしてはすごく中途半端だったんです。だから、他に何もできることがないっていう、諦めにも近いところからミックステープを作り出したんです。俺だって、上手くできるんだったらやりたかったですよ。でも今思うと、「一人で何とかしてやる」と思って、自分でやり初めて良かったですけどね。

反感買うかなと思ってあんまり言いたくなかったんだけど、
実は、他人の音楽があんまりわからないんですよ。

―ミックステープを作っていって、そこでどんどん評価されていったんでしょうか?

DJ BAKUインタビュー

BAKU:テープの評判が良くて、そこから3~4年ぐらい作ってましたね。それで、2002年にフランスで開催された日本人アーティストの祭典みたいなイベントに出た時に、たまたまロンドンにいたひろき君が観に来てたんです。それも本当に邂逅ですよね。ひろき君しか、俺の音楽を理解して一緒に何かやれそうな人はいなくて、彼と一緒に『KAIKOO/邂逅』(2005年)っていう音楽ドキュメンタリーDVDを作ったんです。その頃もまだ、ミックステープとアナログくらいしかリリースしてなかったんだけど、『KAIKOO/邂逅』がかなり売れたんですよ。

―そのDVDのリリースパーティーとして代官山UNITでイベント『KAIKOO』がスタートして、その後も渋谷AXや、RISING SUN ROCK FESTIVAL 2007内での開催など、活動がどんどん大きくなっていきましたよね。

BAKU:そうですね。DVDの調子がよかったのもあって、POPGROUP(事務所/レーベル)を設立して。それで2006年に1stアルバムを発売して、今年の4月に2ndアルバムを出して。28歳でやっと1st、30歳で2ndだから、ここまで来るのに時間はかかりましたけどね。

―DIYでやってきて、今年の『KAIKOO』は5000人も集まったんだからものすごいことですよ。

BAKU:普通はCDを出してからDVDを出していったりすると思うんですけど、そこが逆でしたよね。CDを出してないっていうのは本当に意味不明で(笑)、やっぱりアルバム出す度に知らないお客さんが増えてるんですよ。アナログを買う人とCDを買う人って全く違うみたいで、かなりマニアックな世界でやってたんだなって最近気がつきました。でも確かに、今年の『KAIKOO meets REVOLUTION』はここ最近の集大成だったかもしれないですね。こんなに人が入るとは思わなかったし。

―BAKUさんはロックのレコードからサンプリングをしたり、ジャンルにこだわらない方だと思いますが、今年の『KAIKOO』も音楽の幅がすごく広かったですよね。

BAKU:反感買うかなと思ってあんまり言いたくなかったんだけど、実は、他人の音楽があんまりわからないんですよ。友達になった後は、「喋った人がやってるのはこんな音楽なんだ」って興味深く聴けるんだけど。要するに、自分の事しかわからないのかもしれないですね。他人の事があんまりわかんないのかな。

―おっ、意外な発言ですね(笑)。では、HIP-HOPが好きな理由は?

BAKU:DJがトラックを流してもう一人がラップするっていう、単純なところですかね。だから昔はライブハウスに行っても全然楽しめなかったし、何でDJを始めたかって、バンドの楽しみ方がわからなかったっていうのもあるんですよ。クラブってみんな適当にやってて、キックとスネアとベースと、とにかく単純じゃないですか。単純だからハマったんですね。だから今回、バンドの人をここまで誘えたのも不思議なぐらいですよ。

DJ BAKUインタビュー

―それでも最近は、バンド編成でのライブもやり始めているんですよね?

BAKU:そうそう。もともと大勢でやるのが苦手だったから一人でライブをやっていたんですけど、2ndアルバムの内容が結構ロックっぽくなったから、バンドでやり始めてみたんです。バンドでのやり方がまだわからないから、アルバムでエンジニアもやってくれているベースのカオルさん(バンドoakの中心人物)と話し合って作ってる感じですね。もともとバンドに興味はあったし、バンドの中で演奏することで、また開けていけるかなとも思ったんです。

―この前WEBで「何か掴みかけてきた」って書いてありましたね(2008年9月1日付、Message from DJ BAKU)。

BAKU:バンドの中の一人として、自分がどういうことをやればいいか模索していたんです。今は、MUROCHIN君(WRENCH)のドラムにエフェクトをかけてスクラッチをしたり、俺がフィードバックさせた音がサビまで来て盛り上がったりとか、役割が段々見えてきました。

KAIKOO meets REVOLUTIONは
色んな人を巻き込んで一緒に作れたのが大きかった

―BAKUさんはこれまでも、生楽器の演奏者たちとライブでコラボレーションすることは多かったですよね。

BAKU:そうですね。楽しいですし、たまにはセッションもやりたいですね。でも俺の中で、灰野(敬二)さんとやったのが究極すぎちゃって、それ以降はあんまりやってないですけど。

DJ BAKUインタビュー

―灰野さんの時はどんな感じだったんですか?

BAKU:『KAIKOO/邂逅』の最後に入ってるんですけど、ほんと「ギリギリ音楽」っていう感じです(笑)。灰野さんがメロディをやってるんだけど、普通にはわかんないですね。あれ以上ボリュームがでかいのも多分あり得ないだろうし。

―カオティックな感じですよね。

BAKU:そうそう。それでも「この人がこうやったら次はこうなる」みたいな、一応どこかで繋がり合って演奏してるんですよ。あの轟音の中でも、しっかりと展開や盛り上がりもあって。あれは精神的にもすごく大変だったし、それもあってDVDにしちゃおうと思いましたね。

―インプロ(即興演奏)って、やっぱり擦り減るんですね。

BAKU:そうなんですけど、インプロがよく分かんないって言う人も多いから、分かりやすくしたいし、盛り上げたいと思うんですよ。だから毎回、自分の理想とする形に持っていこうとするし、擦り減るんですよね。

―その緊張感があるから、ある瞬間にものすごい開放感や高揚感を味わえる。それは刺激的な体験だと思います。

BAKU:そうでしょうね。だからみんな見てくれてるんでしょうけど、やっぱ疲れるから、本当にこれだと思った人としかもうやりたくないですね(笑)。灰野さんだってただデタラメをやってるんじゃなくて、「上手く組み立ててやろう」って考えてるし、そういう技術がある人じゃないと一緒にできないですよ。

―まさにそれも「邂逅」だと思うんですけど、生で観ないと感じられない魅力があると思いますし、クラブやライブハウスという垣根を越えた体験が、『KAIKOO』には詰まっていますよね。

BAKU:最近の若い子なんか、夕方はロックのライブでモッシュして、夜はクラブやレイブに行くってっていうのが増えてますし、両方の面白さを感じてもらえたらいいなって思っていたんです。俺も昔から、DJだけだと寂しいしちょっとライブも観たいっていうのがあって、それをそのままできたかなとは思いますね。

―音楽だけじゃなくて、アートの展示があったり、小さな子供からお年寄りまで会場にいたり、垣根を越えた面白さっていうのを感じた人は多かったみたいですね。『KAIKOO』に行った知り合い達も、みんな口を揃えて「あれはヤバかった」って言ってましたし。

DJ BAKUインタビュー

BAKU:やっぱり、色んな人を巻き込んで一緒に作れたのが大きかったかな。それこそまさに「邂逅」してきた結果だと思う。3年前の『KAIKOO/邂逅』は本当に自分のエゴで作ったものだったけど、今回は色んな人が協力してくれて、どういう反応が出るかっていうのは今からすごく楽しみですね。

―このDVDを出して、また来年に繋がっていくのが楽しみですね。もちろん続けていくつもりはあるんですよね?

BAKU:やる場所は探さなきゃいけないんだけど、続けていきたいですね。WIREとか横浜レゲエ祭とか、3万人くらい集まるじゃないですか。めちゃくちゃリスペクトしてるんですよ。予想もつかないですけど、そういうイベントにしていきたっていう気持ちはありますね。あれだけの事をやるのに、どれだけ苦労してきたのか分らないですけど。

―歴史を積み上げてきていますよね。

BAKU:そう、何年もやってるでしょ? だからみんな仲良いし。もしなれるんだったらそれぐらい行ってみたいですね。

リリース情報
『KAIKOO meets REVOLUTION』

2008年9月13日発売
価格:3,980円(税込)
POPDVD-102X POPGROUP Recordings

出演:
DJ BAKU、BDB、COOL WISE MEN、KEISON、東田トモヒロ、BLACK GANION、ORdER、METALCHICKS、GOTH-TRAD、KENJI TAKIKI、サイプレス上野とロベルト吉野、YOUR SONG IS GOOD、AL HACAM、Mic Jack Production、二階堂和美、TUCKER、NICE VIEW、O.N.O、... AND MORE 4/27 TURTLE ISLAND、THA BLUE HERB、REBEL FAMILIA、OKI DUB AINU BAND、Oak、DJ QUIETSTORM、MOODMAN、KODAMA KAZUFUMI、RUMI&SKYFISH、グディングス・リナ、曽我部恵一ランデヴーバンド、EYヨ,8otto、Caravan、キセル、MC漢、PRIMAL、ECHO,朝崎郁恵、...AND MORE 他総勢70アーティスト参加

イベント情報
『KAIKOO meets REVOLUTION-邂逅革命的創造物解放記念祭-』

2008年11月16日(日)OPEN / START 17:00~22:00
会場:恵比寿Liquid Room
料金:前売3,300円 当日3,800円

King Room:
DJ BAKU
TURTLE ISLAND
-Special Guest-
the band apart
Oi-SKALL MATES

SATOL.F(Caribbean Dandy)
KZ SUDO (Caribbean Dandy)
AMEMIYA KSK(Caribbean Dandy)
HOMERUN SOUND
RYOH a.k.a PACHUCABRAS

Queen Floor:
RUMI+SKYFISH
サイプレス上野とロベルト吉野
KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'S
CIAZOO
EKD(未来世紀メキシコ)

Total Art Direction:
DARK FUNK SPOT

FOOD : POP喫茶「 OPPA-LA」
珍酒:zumzum mart

プロフィール
DJ BAKU

HIPHOPを基盤にしながらもターンテーブルを操り常に新しいダンスミュージックを提案する、オルタネイティブDJ/トラックメイカー。1999~2004までの5年間のARTIST達との交流を描いた音楽ドキュメンタリー映画『KAIKOO/邂逅』は若者のバイブルとなる。06年6月に1st Album『SPINHEDDZ』をPOPGROUP Recordindsよりリリース。08年4月2nd Album『DHARMA DANCE』(ダルマ ダンス)をPOPGROUP Recordingsよりリリースし、DJ BAKUバンド"Hybrid Audio Band"も結成。東京ツアーファイナル(at Liquid Room)での初披露ライブセットも大成功。DJとして、Australia & New Zealand Tourも決定し、精力的に活動中!!



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