
宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談
- インタビュー・テキスト
- 小林宏彰
- 撮影:安野泰子
「合理的」につくられた作品は、本当に面白い?
宮沢:台本は、きちんとつくって撮影したの?
岸:一応ありましたが、状況に合わせてその都度つくり変えていきましたね。即興でつくられたシーンとそうでないシーンが、自然に共存するにはどうしたらいいのかが当面のテーマでした。
宮沢章夫
宮沢:ジャン=リュック・ゴダールが『勝手にしやがれ』を撮ったときもそうだったけど、「即興を活かして映画を撮る」という方法は確かにありますね。演劇にしてもそうで、制作するのに最も合理的な方法とはどんなものか、これまでも長い時間をかけて映画史にしろ、演劇史にしろ、方法が蓄積されてきたけれども、そうして出来上がった「型」にはめて作られた作品が本当に面白いのかと。そのことを、あらゆる作家は考えてきたと思うんです。
岸:出来上がった「型」の中でつくることはある意味ではとても楽なんですけど、そもそも楽をしていいのか? っていう気持ちが強かったんだと思います。先人たちは何も無いところからアイディアを絞り出したんじゃないだろうか、という想像がまずあって、できれば自分達もそうありたいし、そうあるにはどうしたらいいのか? ってことを強く求めました。幸運なことに『未来の記録』は自主映画であったし、金銭面を除けば商業的な作品よりフットワークも軽いですから、手法や構造をイチから疑ってみたり、何よりやってみることができたんです。
『未来の記録』では俳優とスタッフを兼任している人が多いんですけど、役職とか役割も疑ってみようとしたんです。撮られる人は、むしろ撮ることから学べるんじゃないかという。だからこの人はこの役割、ということをあえて限定しなかったんですね。そしたらもろもろの担当がハッキリしていないものだから、本番に小道具を持ってくるのを忘れちゃったりして(笑)。
宮沢:それ、ダメじゃん(笑)。
岸:はい。役職が決められた意味が実感できました(笑)。
『未来の記録』より
宮沢:岸とは、舞台の映像なんかで一緒にやってそばで仕事を見てきたけど、すごく不合理というか、計算してないっていうか(笑)。だから半分くらいの期間で撮れたのかもしれないよ(笑)。
岸:これは自分の傾向でもあるのですが、僕、編集ソフトとか機材のマニュアルを最初に読まないんですよ。いつも実際に触ってゆく内にだんだん理解してゆくんでけど、その分デタラメに覚えてしまうことも沢山あって(笑)。でも、何かを「覚える」と言うとき、実はその過程が一番面白いんじゃないかと思っているんです。ついつい回り道を選んでしまうのはそういう理由があるかも知れない。そういった、過程を積み重ねながら少しずつ溜まってゆく感触や実感があるなら、それに費やした時間そのものだって「いつか画面に映り込んでくるんじゃないか」という、何かロマンのような気持ちがあったんです。
宮沢:合理的ではない方法でつくることの魅力も、もちろんあると思うんだよ。それぞれの作家自身が、自分の資質に合ったつくり方をしていれば自然に個性は出てくる。そして、観客が魅力を感じるのって、そうした作家の個性が隠しても出現してしまう作品だと思いますね。
イベント情報
- 『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010』
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2010年7月23日(金)〜8月1日(日)
会場:SKIPシティ 映像ホール・多目的ホール他(埼玉県川口市)『未来の記録』上映
2010年7月24日(土)17:00
2010年7月28日(水)11:30
上映時間:91分
プロフィール
- 宮沢章夫
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1956年生まれ。劇作家、演出家、小説家。多摩美術大学中退。中退後、24歳でさまざまな種類の執筆業をはじめる。1980年代半ば、竹中直人、いとうせいこうらとともに、「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を開始。その作・演出をすべて手掛ける。1990年、「遊園地再生事業団」の活動をはじめる。その第2回公演『ヒネミ』で、1993年、岸田國士戯曲賞を受賞。その後、舞台作品多数を手掛け、ほかにもエッセイをはじめとする執筆活動、小説発表などで注目される。2000年より、京都造形芸術大学に赴任。現、早稲田大学教授。
- 岸建太朗
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1998年、劇作家宮沢章夫氏に師事し、演出助手に従事する。2002年より「演劇映像実験動物黒子ダイル」を旗揚げし、数本の自主映画、PV、ネットドラマ、演劇の劇中映像などを制作。2007年、ヨルダン川西岸の都市ラマッラーに訪れた時、突然『未来の記録』の基になるビジョンを得る。帰国後、ワークショップ「WORLD」を繰り返しながら『未来の記録』を制作。また俳優としても、映画、演劇、TVドラマなどに多数出演している。
- {映画『未来の記録』ストーリー
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新しい学校を始めようと、幸と治はかつてフリースクールだった古い家屋に住み始める。やがて1冊のノートを手に大勢の生徒たちがやってきた。ノートには、「思い出を残そう」という言葉。やがて過去と現在が交錯し、未来に向かって流れてゆく。時空を越えて物語が展開し始める。