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宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談

宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談

インタビュー・テキスト
小林宏彰
撮影:安野泰子

睡眠異常から発想した、「眠り」から現代を描く新作

―撮影期間中、岸監督は10日間も眠らなかったことがあるそうですね。それはなぜだったんでしょうか。

:単純に眠っているヒマがなかったこともありますが(笑)、それは実験めいた、ある種の儀式めいた意味合いもありました。撮影者が自分の限界を遙かに超えた状態で撮った映像があるとしたら、それは一体どんなものなのか、僕自身が見てみたかったという。これも映像を「撮る」ことの原初から映画を眺めてみたいという意識と通じていると思います。

宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談
岸建太朗

―宮沢さんも、今年の10月に公演を予定している新作『ジャパニーズ・スリーピング』では、「眠り」をテーマに据えていらっしゃいますね。

宮沢:僕は睡眠異常なんですね。だいたい3時間ほど眠ると目が覚めてしまうんです。それはなぜなのか? という疑問から睡眠に興味を持ったんですが、結局人が生きる仕組みとかなり深く関係しているのではないかと。そこから、眠りを通じて「現在」について何か描けないかと思ったんです。そもそも、近代以降でしょう、8時間睡眠が当たり前になったのは。睡眠は当然、産業と結びつくんだけど。

あるいは100年前と現代では、夢の持つ構造じたいは変わっていないけれども、夢に携帯電話が登場したりする枝葉の部分には現代性があらわれている。その「変わるもの」と「変わらないもの」を見ていくことで、「現在」をなにか別の姿で描くことが出来るかもしれない、と。

―宮沢さんが、その100年も変わらない「眠り」や「夢」を、改めて今取り上げる理由とは何なのでしょう。

宮沢:その「変わらない」ことが、我々を拘束している部分もあると思うんです。自分たちは現在、豊かな時代に生きていると思っている。確かに一面ではそうです。ただ新しい種類の貧困もまた確実に層として出現している。例えばフリーターやニートが社会問題になるとか、それこそ現在的な貧しさの象徴でしょう。それをどう描くか。通りいっぺんではつまらない。「夢」や「眠り」を通して描けないかと思うんです。

新宿、渋谷、秋葉原…変わり続ける東京の「象徴」

―東京の街から受ける「貧しさ」とは、具体的にどういったことなのでしょうか。

宮沢:そうですね、僕はしばしば、新しくて刺激的な文化が出現する場所はどこなのか、と考えるんです。その際に、何というか今までの枠組みとは違った考え方をする必要があるんじゃないか、と思っていて。

宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談
『未来の記録』より

―「今までの枠組み」とは?

宮沢:ある時代の新宿や、ある時代の渋谷というひとつの大きな盛り場は、その時代を「象徴」していました。でも、その「象徴」している、ということには、今の若者はリアリティを覚えないのかもしれない。

では、若者にとっての秋葉原はどうなのか? 2年ほど前に加藤という男が秋葉原で無差別通り魔殺人を起こしたわけですけど、そのとき彼は、東名高速道路の御殿場あたりから来て、横浜あたりで降りるんです。そのあと国道246号で秋葉原を目指すわけですが、その途中で渋谷を通過する。渋谷で渋滞したことに対して腹を立てる。その模様を逐一ネットの掲示板に携帯電話で書き込んでいる。それではなぜ、事件を渋谷で起こさなかったのか? 

もちろん、彼の行動を肯定するわけでもないし、殺された人たちに対して許しがたい犯罪行為であると思うけれども、不謹慎な言い方をすれば、秋葉原の交差点にトラックで突っ込むよりも、渋谷のスクランブル交差点に突っ込んだほうがより多くの人が亡くなったかもしれない。だけど今、ある憎悪を抱えた者がそれを解消しようとする場所が秋葉原であったことの意味を改めて問い直すことは、すごく興味深いことだと思っています。そしてその背景には、さっきも少し話した非正規雇用を含めた労働状況、それから2000年代に入ってからの小泉内閣以降の新自由主義を背景にした、この国に新たに登場した「貧困」や「格差」があるでしょうね。

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イベント情報

『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010』

2010年7月23日(金)〜8月1日(日)
会場:SKIPシティ 映像ホール・多目的ホール他(埼玉県川口市)

『未来の記録』上映
2010年7月24日(土)17:00
2010年7月28日(水)11:30
上映時間:91分

プロフィール

宮沢章夫

1956年生まれ。劇作家、演出家、小説家。多摩美術大学中退。中退後、24歳でさまざまな種類の執筆業をはじめる。1980年代半ば、竹中直人、いとうせいこうらとともに、「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を開始。その作・演出をすべて手掛ける。1990年、「遊園地再生事業団」の活動をはじめる。その第2回公演『ヒネミ』で、1993年、岸田國士戯曲賞を受賞。その後、舞台作品多数を手掛け、ほかにもエッセイをはじめとする執筆活動、小説発表などで注目される。2000年より、京都造形芸術大学に赴任。現、早稲田大学教授。

岸建太朗

1998年、劇作家宮沢章夫氏に師事し、演出助手に従事する。2002年より「演劇映像実験動物黒子ダイル」を旗揚げし、数本の自主映画、PV、ネットドラマ、演劇の劇中映像などを制作。2007年、ヨルダン川西岸の都市ラマッラーに訪れた時、突然『未来の記録』の基になるビジョンを得る。帰国後、ワークショップ「WORLD」を繰り返しながら『未来の記録』を制作。また俳優としても、映画、演劇、TVドラマなどに多数出演している。

{映画『未来の記録』ストーリー

新しい学校を始めようと、幸と治はかつてフリースクールだった古い家屋に住み始める。やがて1冊のノートを手に大勢の生徒たちがやってきた。ノートには、「思い出を残そう」という言葉。やがて過去と現在が交錯し、未来に向かって流れてゆく。時空を越えて物語が展開し始める。

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