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宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談

宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談

インタビュー・テキスト
小林宏彰
撮影:安野泰子

「祈る自由」すらない場所

―岸監督も、「場所」から想像力を喚起していく作家ですよね。『未来の記録』は、ある部屋で起こった出来事の記憶をきっかけにドラマがはじまります。この筋立てに影響を及ぼしたのは、どんな「場所」だったんでしょう?

:宮沢さんの『ニュータウン入口』という作品のリーディング公演を観に行ったとき、僕は深い感銘を受けてイスラエルに行こうと決意したのですが、劇場を場所として考えたとき、一人の若者に海を越えさせてしまう力が働くことがあるのだと思います。場所が誰かの想像力を喚起させて、思いも寄らぬ行動を起こさせるというか。『未来の記録』の着想もそれととても良く似ているんです。

『ニュータウン入り口』の観劇後、僕は本当にイスラエルに旅立って、エルサレムを拠点にパレスチナを回っていました。ある小さな農村に立ち寄った時のことですが、その村には村民たちが自営するフリースクールがあって、多くの戦傷孤児たちが生活していました。僕は子供たちとサッカーしたり遊んだりしたあと会食に招かれて、「あなたにとって自由とは何か?」というテーマで村人たちと話し合いました。そこである一人の村人が、「我々には祈る自由すらない」と言ったんです。

その言葉が僕の中にずっと残っていて。だって「祈る場所がない」って相当なことだと思うんですよ。僕はそのとき、返す言葉が見つからなくて黙っていたんですが、ずっと彼の訴えに何か返信したいという思いがありました。おこがましいことかも知れませんが、そういう気持ちが『未来の記録』をつくらせたんじゃないかと思っています。

宮沢章夫×岸建太朗(映画監督)対談

ものすごくゆっくりと「見る」ことの大切さ

―「場所」からインスピレーションを受けてきたお二人ですが、他にも最近の関心事があれば教えてください。

:小説家の中上健次さんが『現代小説の方法』という講演のなかで、アフガニスタンに旅行されたときのことを書かれているんです。現地でガイドと待ち合わせしていたらその息子が来て、父親から「明日改めて連絡をする」と伝言があったと。で、安心して待っていたんだけど翌朝も父は現れなかった。息子はまた探しに行くと言うんだけど、そもそもの探し方が非合理で、翌朝も人が溜まる場所に行ってみるというだけだったそうなんです。見かねた中上さんは、こちらから父親に電話を掛けるとか、何か合理的な解決法を教えてあげようとしたのですが、そのときにふと、「これは現代小説の問題なんじゃないか」と気づいたという一節があるんです。

だいたいの小説は、密室で電話連絡を待っているような状況から始まるのだと中上氏は言います。そういった移動のない状況を小説で書こうとすることーーそれは心理劇なんだと中上氏は続け、「小説を阻害するもの」と仰っているのですが、僕はそのことを「映画を阻害するもの」と言い換えて捉えました。

僕の制作の仕方は、実際にそこに行って、見たり触れたりしながら実感したことをヒントに物語を紡ぐものだったので、プロの方から見れば随分無駄の多い現場だったと思います。でも良い悪いは別として、思いも寄らぬ方向に映画が進んで行った感触があって、今考えると何か不思議なんです。自分がつくった映画ではない気さえして。

宮沢:その中上健次の文章は僕も読んでいますが、非常に感動的なんです。「すぐに手に入れられるものを小説として書いて良いのか」という問題を、近代小説の思考の枠組みのなかで改めて問い直す必要があるんじゃないか、という提起だと思うんですね。

小説という表現のジャンルは何を書いてもいいメディアとして出現し、そのことの自由の中で育ったと考えられます。でも、それでも失われていってしまうものはある。中上健次は、小説について語りつつ、我々が当たり前だと思ってしまっている、日常における「人とのコミュニケーションの問題」を問い直したんでしょう。これは映画でも演劇でも同様の問いが立てられる。電話を使えば簡単にできてしまうことを、ゆっくりと時間をかけて行う。

で、これまでの話を聞いていて分かったのは、岸建太朗は不器用だということです(笑)。人が5分でできることに、1時間もかかってしまうという。でも、これはすごく重要なことなんです。普通はサッと通り過ぎてしまうものを、ものすごくゆっくり見ているわけですから。

不器用な人は、目的を達成するのに時間がかかる。でも、時間がかかった分、きっちり自分の血肉にしている。それは作家としてとても大切なことだと思うし、それこそが中上健次が言おうとしていた、芸術作品が本来持っているべき力なんじゃないかと思います。

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イベント情報

『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010』

2010年7月23日(金)〜8月1日(日)
会場:SKIPシティ 映像ホール・多目的ホール他(埼玉県川口市)

『未来の記録』上映
2010年7月24日(土)17:00
2010年7月28日(水)11:30
上映時間:91分

プロフィール

宮沢章夫

1956年生まれ。劇作家、演出家、小説家。多摩美術大学中退。中退後、24歳でさまざまな種類の執筆業をはじめる。1980年代半ば、竹中直人、いとうせいこうらとともに、「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を開始。その作・演出をすべて手掛ける。1990年、「遊園地再生事業団」の活動をはじめる。その第2回公演『ヒネミ』で、1993年、岸田國士戯曲賞を受賞。その後、舞台作品多数を手掛け、ほかにもエッセイをはじめとする執筆活動、小説発表などで注目される。2000年より、京都造形芸術大学に赴任。現、早稲田大学教授。

岸建太朗

1998年、劇作家宮沢章夫氏に師事し、演出助手に従事する。2002年より「演劇映像実験動物黒子ダイル」を旗揚げし、数本の自主映画、PV、ネットドラマ、演劇の劇中映像などを制作。2007年、ヨルダン川西岸の都市ラマッラーに訪れた時、突然『未来の記録』の基になるビジョンを得る。帰国後、ワークショップ「WORLD」を繰り返しながら『未来の記録』を制作。また俳優としても、映画、演劇、TVドラマなどに多数出演している。

{映画『未来の記録』ストーリー

新しい学校を始めようと、幸と治はかつてフリースクールだった古い家屋に住み始める。やがて1冊のノートを手に大勢の生徒たちがやってきた。ノートには、「思い出を残そう」という言葉。やがて過去と現在が交錯し、未来に向かって流れてゆく。時空を越えて物語が展開し始める。

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