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七尾旅人インタビュー 「何億もの声」から見えてくるもの

七尾旅人インタビュー 「何億もの声」から見えてくるもの

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:柏井万作
2010/08/13

俺にとってこれは音楽への執着なのか、人間への執着なのか、時代への執着なのか、よくわからないんですよ、もう。

―そもそも、旅人さんがそうやって音楽にのめりこんだきっかけってなんだったんでしょう?

七尾:普通はほら、中学とかでエレキ買ってもらって何か好きなバンドのコピーから始めるんだろうけど、俺は少し違ってて、自然発生的だったんです。不登校児で、将来が見えず、完全に行き詰っていた。何かうなり声でも良いから声を出したかった。でも、声を出すだけじゃダメだっていうのがあるわけ。自分縛りが超あるんですよ。「これしなきゃあれしなきゃ」っていう強迫観念がちっちゃいころからあるわけ。自己抑圧が高いっていうか。人と話すのも、普通には出来ない。誰かに何か聞いてもらうなら、歌にしなきゃいけない。ただ語りかけるなんて失礼っていうか、何かが足りないと。だからメロディを与えて、リズムを与えて、音楽化して、そこで初めてものが言える。一人称じゃなくて、もっと多層構造にして、ひとつの状況を生み出してから。

―そうしなければいけなかった理由は何なのでしょう?

七尾:一言では言えないですね。個人的な気質もあるでしょうが、絶対的な軸がない時代に育ったことも一因かも。震災とかオウム事件とか酒鬼薔薇とか、冷戦構造が崩壊して日本国内に目が向いたときに、社会を根本から揺るがすような事件が多発したじゃないですか? そういう最中に少年期を過ごしたので、俺の中には世界を上手く定義付けられるような明瞭な物語はないわけ。だから、シアトリカルな構造を採ってたんだと思います、初期作品は。「夢から覚めたらまた夢で」みたいな曲があったりとか、そういう完全に中心軸が失われた世界の中でもがく登場人物たちが居たり、過剰な歌唱法やサウンドスケープがあったりとか。新しい歌を作り続ける事で、何か確かなものを打ち立てたい、回復したいと思ってやってきたところがあると思うんです。もうちょっと上の世代は中心軸がなくてもその分裂的状況を軽快に消費しながら、楽しめたんだよね。例えば80年代初頭の日本は経済だけでなく、文化的にもピークだった。その頃活躍した世代って、話してても、その時代の高揚感みたいなものを強く感じさせる。「未来へ、未来へ、どこまでも先にいける」って。

―うん、確かに。

七尾:俺もそう思いたい性格なんだけど、俺の世代っていうのは日本社会の敗北と崩壊を見過ぎてるわけ。でも俺はやっぱり、ものすごい夢とかわくわくとか魔法みたいなものを現出させるのがミュージシャンの役割だと思ってるから、なんとかしてお客さんにありえないミラクルを見せたいよね。夢見がちだって言われるかもしれないけど、そういうのが社会の根っこの部分を活性化するんだと信じたいよ。いくら政治家とか学者が偉ぶっても、根っこが死んでる国はもうダメ。でも、民衆文化っつーの?歌手とかクラブ・カルチャーとか、映画とか漫画が元気なうちは絶対に大丈夫。どんだけ世の中が傾いても、立ち直れる。

七尾旅人インタビュー 「何億もの声」から見えてくるもの

―なるほど。

七尾:90年代中盤から後半は、個がかつてないほど分断された時代だったと思うんですよ。かなり異様な社会状況があったけど、まだそれを緩和するためのツールがなかった。分断化された個をつなぐためのツールがなかった。その後、携帯電話の爆発的な普及があったり、ネット・メディアの発展、2ちゃんやミクシイやyoutubeを経てTwitterやUstが出てきて、ようやくその新しいインフラにみんなが慣れ始めてる。当然いろんなものが分断化されていく現象は起こり続けていて、もっと細かくなっていってるんだけど、みんなの身体感覚がその状況に追いつきつつある。そこでやっと「DIY STARS」も出していけるし、こういうアルバムも出せる。

―やっと環境が整ってきたわけですね。

七尾:90年代に俺は今と同じことを言ってたけど、なかなか伝わらなかったから。どんな存在、声だって、美しい歌であるということ。そして、新しい身体感覚が必要だと、歌を通して新しい身体性を回復していかなきゃいけない、それでやっと文化がジャンプアップできるんだって、ずっと言い続けてきた。そうやって長い間もがいてきて、俺にとってこれは音楽への執着なのか、人間への執着なのか、時代への執着なのか、よくわからないんですよ、もう。ミュージシャンっていう職業は、日々の創作の中で自己が抱えてる限界を突きつけられ続けるのと同時に、時代が抱えてる限界にも向き合う事になる。自分の限界であり、時代の限界であり、同時代の作り手を広く見渡してもまだ誰も埋めることが出来ていない部分、そこが常に課題になってくると思うんですよ。そこを突破していくために、自分の創作だけじゃなくて、DIY STARSのように、才能豊かな仲間たちに自由に泳いでもらうための方法論を提供してるんです。

―今ってまずは自分の周りを整えることで、それを外に発信できるツールがあるわけですからね。

七尾:そうそう、ロック的なこと言わせてもらうと、なんかさ、一発逆転したいんだよね。個がぶった切られてく時代で、もうビッグ・ヒットは出ない、ビッグ・スターは出ないって言われてるし、確かにそうも思うじゃん? 実際マイケル・ジャクソンみたいなやつはもう現れないと思う。でも、現れないとしながらも、またもう一度見てみたい。奇跡的な作品、奇跡的な存在、別に一個人じゃなくても、ムーブメントとかさ。今を精一杯生きる皆を奮い立たせるような、何か面白い事を引き起こしたいわけ。ポップカルチャーでしか成立しない魔法を。「DIY STARS」なんて個の極みで、何県の誰でも自力で作品を売れるんだけど、YouTubeで100万ビューとか、一夜にして人気者が生まれてしまう今だったら、例えば島根県のやつが地元で地道に創作を続けていつか100万ダウンロード行く可能性だって否定できないじゃないですか? 個が分断化された末に生まれてきた、個のためのショップである「DIY STARS」から、世界的なマーケットで何百万も売れる存在が出るかもしれない。それは20世紀までの音楽産業構造では絶対に描けなかった夢ですよ。そういう一発逆転がしたいわけ。やり方は無限にあると思う。今は無理だって思われてることの裏に、実は何かあるんじゃねえかって思ってるの。

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リリース情報

七尾旅人<br>
『billion voices』
七尾旅人
『billion voices』

2010年7月7日発売
価格:3,000円(税込)
felicity cap-96 PCD-18615

1. MIDNIGHT TUBE
2. I Wanna Be A Rock Star
3. one voice(もしもわたしが声を出せたら)
4. 検索少年
5. シャッター商店街のマイルスデイビス
6. BAD BAD SWING!
7. なんだかいい予感がするよ
8. あたりは真っ暗闇
9. beyond the seasons
10. どんどん季節は流れて
11. Rollin' Rollin'
12. 1979、東京
13. おめでとう
14. 私の赤ちゃん

プロフィール

七尾旅人

79年夏生まれのシンガーソングライター。98年のデビュー以来、幾つかの問題作を発表。07年9月11日には3枚組というボリュームで、驚異に満ちたインディペンデント・ミュージカル作品『911ファンタジア』を発売。また、ライブパフォーマンスも圧倒的な存在感を見せつけており、自身ライフワークと位置付け全国各地で開催してきた弾き語り独演会『歌の事故』、全共演者と立て続けに即興対決を行う『百人組手』の二つの自主企画を軸に、各地のフェス、イベント、Ustでも伝説的ステージを生み出し続ける。twitterで驀進中!!!Check it!

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