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七尾旅人インタビュー 「何億もの声」から見えてくるもの

七尾旅人インタビュー 「何億もの声」から見えてくるもの

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:柏井万作
2010/08/13

ネット・メディアが興隆して、これまでは隠れていた歌、聞こえてこなかった声が顕在化してきた今の状態をなるべく肯定的に捉えて、楽しみたい。

―『911FANTASIA』で初めて一区切りできたというお話でしたが、今回って人生を楽しんでる感じがすごく伝わる作品だと思うんですね。当然シリアスな側面はあるし、作品として濃厚だけど、重苦しい感じじゃなくて、リラックスして聴こえる。ベタな言い方ですけど、「2枚目のデビュー・アルバム」のような印象を受けます。

七尾:うんうん、そうかもしれないですね。すごい新鮮なアルバムになったんじゃないかと思うんですよね。その意味で2枚目のデビュー作ってことはすごい正しいと思います。初めての方に聴いてほしいですね。「七尾旅人」って名前は知ってるけど、なんか難しそうだから聴いたことないって人とか。初体面の人によく言われるんですよ、「こんな人だったなんて!」って。イメージと実物との間のギャップが大きいみたい(笑)。

―(笑)。ではアルバム・タイトルの『billion voices』について教えてください。

七尾:「何億もの声」ってイメージなんですけど、要はネット・メディアが興隆して、YouTubeとかblogとかTwitterとか新しいメディアが台頭してきたことによって、これまでは隠れていた歌、聞こえてこなかった声が顕在化してきた今の状態をなるべく肯定的に捉えて、楽しみたいっていう意図がひとつあるんですね。今作の導入部、1曲目は、とある街のとある少年がネット動画を見ていたら、どこか地方都市の知らないおじさんが歌い始めるという、そんな光景から幕を開けます。

七尾旅人インタビュー 「何億もの声」から見えてくるもの

―2曲目に「Rock Star」というテーマを持ってきたのは?

七尾:で、その無名のおじさんがロックンロールを歌い始めるわけですが、めちゃくちゃ熱いわけですよ。それは全然本職のロックスターにも負けてないわけ。俺の好きなスターがそこらじゅうに居るってことが言いたかったのかもしれないし、そこはこれから1年、2年とあの曲を演奏していく中でいろんなことを思うんだろうけど、現状でお話できる一個の解釈は今言った感じですね。めちゃくちゃホットな熱い命が世界中に60億以上あってそれぞれの歌を歌っているという事実に、想像力が向かいやすくなりそう。新しい時代の始まりですよね、大げさに言うと。90年代から、ここ最近まで、暗くネガティブな言説しか流通してなかったですよね、日本のメディアには。でも今、はっきり言ってしまって構わないと思いますよ。「明るい兆候がある」と。21世紀という新しいパラダイムにようやく皆が慣れ始めていて、新しい身体感覚の中から、新しい創作物が生まれ始めている。そこではスノビッシュに新しいものを消費するんじゃなくて、むしろ泥臭く、自分の本当に大切なものをもう一度思い出しながら、新しい試行錯誤を始めたいですね。

もう一回21世紀のインディペンデントを一から考え直してくってことをやりたかったんです。

―「新しいインフラ」と言うと、「DIY STARS」(アーティスト自身のサイト内で楽曲ファイルなどのダウンロード販売を可能にするWEBサービス)がまさにそうですよね。

七尾:そういうのがないとミュージシャンが困るんじゃないかと思って。俺最初98年にメジャーからデビューしたのですが、その年をピークにものすごい勢いでCDって売れなくなるんですよ。奈落の底へ、ストーンと落ちてくわけ。俺自身2年ぐらいでリストラされて、作りかけの2枚組を持ったまま路頭に迷うの、3年ぐらい。告知もできなくて苦しかったですけど、公式サイト作ってからはゆっくりゆっくり体勢を立て直して、自分の考えを書いたり告知したりしながら、何とかライブで食べていくっていう。そのときに思ったのは、音楽業界はどんどん衰弱するだろうけど、その代わり巻き返しのチャンスは増えていくだろうってこと。

―「DIY STARS」の構想はいつ頃からあったんですか?

七尾:2003年位かな?携帯型MP3プレイヤーを手に入れて、こういう風にデータ・ファイルで音を聴くってことが一般化して行くのであれば、ミュージシャンが自分で作品を売ることも可能になるなって思ったの。誰かがそういうシステムを2005年ぐらいになったら作るだろうと思ってた。でも、そうはならなくて、代わりにすごく著名な海外のアーティストが配信実験を始めたんですよ。

―はい、そうですね。

七尾:自分のウェブから自由に値づけできる形で売ったり、無料で撒いてみたり、値段の違ういろんなパッケージを用意してみたり。いろんなダイナミックな動きを始めたんですけど、海外のビッグ・アーティストがやってることは、自分の周囲にいるインディ・ミュージシャン、すごくがんばってるんだけど、いまいち食えてない、そういう人たちのリアリティとはかけ離れてるって思ったんですよ。強力な知名度がないと取れない方法だったから。だからもっと誰でも利用できるような形で、個々で配信システムを持てるようにならないかってずっと思ってたんです。

―なるほど。

七尾:そしたら、今年に入ってから一緒に作れそうな人が見つかったんで、話持ちかけてすぐ作ってみたって感じなんです。DIY STARSを使うと、何でも同梱して売れるんですよ。CDでは収録できないような、長尺のものや、高音質のファイル。それから動画や、スキャニングした手書きの手紙や、漫画、小説、ソフトウェア。値段も自由につけて、好きなタイミングでアップして、告知して、すぐ売り始められるっていう。創作意欲が湧いちゃって仕方なくなるシステムなんです。俺も今、「あれしよう、これしよう」って状態になってて(笑)。

―(笑)。

七尾:友達のミュージシャンにもいい感じに共有してもらってて、ホントにワクワクする感じで盛り上がってるんですよ。日本アンダーグラウンドを代表する才能が集結しつつあります。そういう素晴らしい音楽家たちに、これまでは存在し得なかった作品を発想してもらうための新しいインフラを作って、もう一回21世紀のインディペンデントを一から考え直してくってことをやりたかったんです。

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リリース情報

七尾旅人<br>
『billion voices』
七尾旅人
『billion voices』

2010年7月7日発売
価格:3,000円(税込)
felicity cap-96 PCD-18615

1. MIDNIGHT TUBE
2. I Wanna Be A Rock Star
3. one voice(もしもわたしが声を出せたら)
4. 検索少年
5. シャッター商店街のマイルスデイビス
6. BAD BAD SWING!
7. なんだかいい予感がするよ
8. あたりは真っ暗闇
9. beyond the seasons
10. どんどん季節は流れて
11. Rollin' Rollin'
12. 1979、東京
13. おめでとう
14. 私の赤ちゃん

プロフィール

七尾旅人

79年夏生まれのシンガーソングライター。98年のデビュー以来、幾つかの問題作を発表。07年9月11日には3枚組というボリュームで、驚異に満ちたインディペンデント・ミュージカル作品『911ファンタジア』を発売。また、ライブパフォーマンスも圧倒的な存在感を見せつけており、自身ライフワークと位置付け全国各地で開催してきた弾き語り独演会『歌の事故』、全共演者と立て続けに即興対決を行う『百人組手』の二つの自主企画を軸に、各地のフェス、イベント、Ustでも伝説的ステージを生み出し続ける。twitterで驀進中!!!Check it!

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