ポップと芸術の大爆発 Wiennersインタビュー

芸術は爆発だ!音楽はアイデアだ!全曲3分未満、様々なジャンルをつなぎ合わせ、電子音と共にパンクのテンションで鳴らしたポップなショート・チューンが満載のデビュー作『CULT POP JAPAN』でWiennersが全国デビューを果たした。西荻のパンク・シーンを出自に持ち、今もライブハウスに勤めるメンバーがいるなど、インディーズ・シーンと強い接点のある彼らは、あらゆる線引きを無効化しようとする、確固たる決意を持っている。その力強き所信表明に耳を傾けてほしい。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

突き詰めてアンダーグラウンドに行くバンドはいるけど、僕たちは突き詰めてポップな方に行くようにしてますね。

―まずは結成の経緯から教えてください。

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玉屋2060%

玉屋:元々ドラムと俺が別のバンドをやってて、それのキーボード募集でMAXが来たんです。そのバンドのベースが抜けて解散して、新しいバンドをやろうとしたんですけど、なかなかしっくりくるベースがいなくて。そうこうしているうちに、560は元々ドラムだったんですけど、「いないんだったらやるよ」って感じで。

―元々ドラマーだったんですね。

560:中学生からずっとドラムをやってきたんですけど、弦楽器とかフロントマンに対する憧れがずっとあって。パンク・バンドでジャンプしちゃうのとか「かっけえなあ」って(笑)。

―ドラムじゃできないもんね(笑)。

560:そうそう(笑)。だからベースをやることに全然抵抗はなくて。あと、ネットでベースを募集したりしてたらしいんですけど、こういう(音楽性の)バンドだから、いきなり知らない人が来ても難しいじゃないですか? 僕は前のバンドの時から仲良かったんで、(新しいバンドで)やろうとしてることが自分なりにわかってるつもりだったんです。元々は新しいバンドを早く見たかったんですけど、なかなか始まらなかったので、「じゃあやるよ」って。

―音楽的なバックグラウンドはやっぱりパンク?

玉屋:僕はハイスタとかAIR JAMの世代なんで、中学生ぐらいの時にそういうのを聴いて、「俺もできんじゃねえかな」と思ってバンドを始めました。それから高校ぐらいの時にFRUITYとかDASHBOARDとか、西荻WATTS(東京のパンク〜ハードコア・シーンを支えたライブハウス。2005年に閉店)でやってるようなバンドにのめりこんで。それからだんだん別の音楽も聴くようになって、ヒップホップは元々好きだったし、BOREDOMSも好きだし、ワールド・ミュージックも好きだし。あとシンセとかを入れるきっかけになったのは、Plus-Tech Squeeze BoxとかCAPSULEとかが流行ってて。

―中田ヤスタカのCAPSULEだ。

玉屋:Perfumeとかまだ全然流行る前ですけどね。そういうのをバンド・サウンドに落とし込んだらすげえ面白いんじゃないかと思って。最初「そういうバンドいないかな?」と思って探したんですけど、結局いなくて、だったら自分たちでやろうって。

560:僕も十代後半でWATTSに通ってて、(玉屋と)同じ時期に打ち込みとかシンセを組み込んだバンドを探してたんですよ。一緒に探してたわけじゃなくて、それぞれ探してて(笑)。だから玉屋君が新しいバンドでやろうとしてたこともなんとなくわかったんです。

―マナブさんは?

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マナブシティ

マナブシティ:ハイスタがバンドを始めたきっかけっていうのは一緒なんですけど、ハイスタに出会う前はJ-POPを聴いてましたね。

―ああ、それこそWiennersにはJ-POP感もありますよね。

玉屋:そうですね。(自分たちの音楽が)ポップ・ミュージックとしてどうにか成立できないかっていうのがあって。シンセの入れ方とかも、曲によってはJ-POPっぽいっていうか、そういう入れ方を意識してたり。

―今回のアルバムのタイトルは『CULT POP JAPAN』だし、デモ盤のタイトルも『COSMO POP ATTACK』だったしね。やっぱりポップであることはすごく重要?

玉屋:音楽的に難しいことをやって、どんどんディープな表現になっていくバンドはたくさんいると思うんですよ。突き詰めてアンダーグラウンドに行くバンドはいるけど、僕たちは突き詰めてオーバーグラウンドっていうか、ポップな方に行くようにしてますね。

楽しくて大衆的っていう意味でのポップじゃなくて、もっとドギつい、原色っぽい、キラキラしてちょっと危ない感じのポップ感を意識してますね。

―そういう考え方っていうのは、西荻時代に培ったものなのかな?

玉屋:そうですね。すごく雑食で、いろんなことをやってるんだけど、結局ポップに響くバンドばっかりだったんで。ガチャガチャしてるけど、どことなくポップっていうのが、好きなバンドに共通してたんで。

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∴560∵

560:WATTSはパンクやハードコアが盛んだったけど、変わった人たちが出る日もたくさんあって。2ピースでドラムと歌だけとか、「何をやってるんだろう?」って人たちもいたんだけど、独特のポップな感性を持ってて、なんか憎めない、人懐っこい感じがすごくあって、そういうのを感じられる音楽が好きなんですよね。単純に「ポップでいいなあ」だとそれだけになっちゃうけど、ちゃんと根っこが生えてるっていうか。自分たちもそうありたいっていうのはありますね。

玉屋:楽しくて大衆的っていう意味でのポップじゃなくて、もっとドギつい、アルバムのジャケットのようなポップっていうか。原色っぽい、キラキラしてちょっと危ない感じのポップ感を意識してますね。

―MAXさんのバックグラウンドは?

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MAX

MAX:他の3人に比べたら一番普通っぽいところを通ってきてます。ジュディマリとかでバンドに興味を持ったんで。それから玉屋くんの前身バンドとかを知って、パンクをもっと掘り下げるようになって。あとはピアノをやってたんでクラシックとかですね。

―Wiennersのポップ感にシンセの存在は大きいですよね。

玉屋:一番美味しいところがシンセなんで、曲を作る時にシンセをどれだけ美味しく使えるかは考えますね。あと女の子の声をどれだけ美味しく使えるか。できるだけズルく使おうと思ってます。

「これだけ考えてこの時間(1分未満)かよ!」って(笑)。

―確かにズルいよね(笑)。曲作りは基本的に玉屋さん?

玉屋:そうですね。大体最初から最後までのデモを家で作ってきて、みんなでスタジオで合わせてみて、違和感のあるところをちょっとずつ変えて、つじつまが合うようにしていくというか。家ではMTRに5秒ぐらいの1フレーズを録りためまくってて、その何百とある中から、これとこれとこれをくっつけてみようみたいな感じで作ってるんです。

―ああ、じゃあホントにサンプリングですね。自分のネタでのサンプリング。

玉屋:まさにそうで、そこはなんかヒップホップ的手法っていうか、切って貼ってって感じで。あとは、その曲をいかに演奏するかっていうのが一番時間をかけるところで、元の曲ができあがってから、Wiennersの曲として成立するまですごい時間がかかるんです。このフレーズをどういう風に弾くか、叩くか、歌うかってことにめちゃめちゃ手こずるんですよね。8ビート一つにしても、8ビートの感覚で叩くのか、2ビートくらいの疾走感で叩くのか、様々な叩き方があると思うんで、「こうじゃない、こうじゃない」っていろいろ試しますね。

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―じゃあ逆に「これで完成」っていうポイントは?

玉屋:難しいんですよね…「これで完成」って、多分ないと思います。今回の15曲って結成当初にできた曲もあれば、レコーディングのギリギリでできた曲もあるんですけど、どれもちょっとずつちょっとずつ変わっていて。一応、音を録った段階で完成ってことになると思うんですけど。

―「A・B・サビ」みたいな定型だと、ある程度固まっちゃえばそこからそんなに大きくは変わらないだろうけど、Wiennersの曲だったらある意味どうにでもできるもんね。答えが何通りもあるというか、むしろ答えがないというか。

玉屋:例えばひとつの曲の中にフレーズがABCDEFGぐらいまであったとして…大体どの曲もそれぐらいあると思うんですけど(笑)。

―まずそれがすごいよね(笑)。

玉屋:それを全部並び替えるのもありだろうし、実際曲を作る時はそれを全部試すんで(笑)。あとちょっとで完成っていう時に崩しちゃったりすると、収拾つかなくなったり。

―それだけ苦労してできた曲が1分未満とかって、報われないよね(笑)。

玉屋:ホントにそうなんですよ!「これだけ考えてこの時間かよ!」って(笑)。

この時代じゃなきゃこんな音楽やってなかっただろうし、もし違う時代にやってても、だれも見向きもしなかっただろうし。

―でも、そこはこだわり? ショート・チューンであるっていうことは。

玉屋:いや、そこは全くこだわりではなくて、ホントはもっと長い曲もあっていいと思うんだけど、でもそれが性に合ってるというか。元々が短いわけではなくて、3分ぐらいある曲を凝縮して1分にしたって感じなんで。

560:一番気持ちいいところで止めようっていう感覚ですね。無駄に長いのは嫌だっていうのもあると思いますけど。

玉屋:僕は前のバンドからこういうことをやってたんで、感覚がずれてるなっていうのはあって。“Idol”をプロデュースしてもらった時も、元々サビが一回しか出てこなくて、転調して終わりだったんですけど、プロデューサーのTGMXさんに「このフレーズすごくいいから、もう一回出てきたら絶対いいと思う」って言われたときに「なるほど!その手があったか!」って目から鱗みたいな。

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―一般的にはものすごく普通のことなのにね(笑)。

玉屋:この4人でやってたら、もう一回繰り返すっていう発想はなかなか出てこないんです。

―でも、その短い曲の中にものすごい情報量が詰め込まれてるのがWiennersの面白いところだと思うんですね。この情報量の多さっていうのは今の時代背景、YouTube以降の情報化社会を反映しているという言い方もできると思うんですけど、実際そういう意識はありますか?

玉屋:多分あるとは思うんです。この時代じゃなきゃこんな音楽やってなかっただろうし、もし違う時代にやってても、だれも見向きもしなかっただろうし。それこそ、3年前でもダメだったと思うんですね。ただ情報化社会、インターネットの普及とかは、そんなに関係ないかな。曲作ってる僕自身がすごいアナログなので(笑)。

ツールを使ってじゃなくて、自分のアイデアでどこまで面白くするかってことの方がすごく重要ですね。

―今の若い人ってYouTubeで色々聴いて、新しいも古いも、ジャンルも関係なく、自分がいいと思う音楽を聴くっていう風になってきてると思う。今20代半ばのWiennersはどうやっていろいろな音楽を吸収してきたのでしょう?

玉屋:正直僕そんなに音楽詳しくないんですよ(笑)。気になってネットで調べてYouTube見たりももちろんしますけど、インターネットで情報を取り入れて形にするっていうよりは、自分の部屋だけで完結してるものだったりするんで。自分の住んでる部屋の中にある面白いものを使って、どれだけのアイデアでこれを面白くするかっていう。MTRとサンプラーとキーボードとアコギとギターとベースがあります、自分の持ってるCDがありますって中で、これをどう使って面白くするかっていう考え方の方が大きい気がします。ツールを使ってじゃなくて、自分のアイデアでどこまで面白くするかってことの方がすごく重要ですね。

何と何を足した時に、どれだけすごいものにできるか、日本人的センスって、そういうアイデアってことだと思いますね。

―じゃあ改めて、アルバムのタイトルのことを聞きたいんですけど、『CULT POP JAPAN』って「JAPAN」って単語を使ってるでしょ? 例えばthe telephonesが08年に出した『JAPAN』っていうアルバムには、ある種の洋楽コンプレックスが背景にあって、日本人だって面白い音楽を作れるんだっていう意気込みが表れてる。そういうものもある中で、Wiennersが「JAPAN」という単語を使う意味は何なのでしょう?

玉屋:このタイトルは、「CULT」と「POP」っていうかけ離れたものを消化して、日本人のセンスで吐き出すっていう意味なんですね。誇りとまでは言わないけど、自分たちが日本人だという意識はすごくあるし、海外の最先端の音楽が日本に流れてきてるのかもしれないけど、でも日本にもすごく面白いバンドがいっぱいいるし、それは他の国と変わらないと思うんです。そういう日本人のセンスっていう意味での「JAPAN」ですね。

―日本人って海外の人と比べて0から1を作り出すのは苦手だけど、1+1を2じゃなくて10にするのは得意だったりするでしょ? そういう意味でWiennersは日本的だなって思うんですよね。

玉屋:そうですね、日本的な発想かもしれないですね。音楽をやる上でアイデアってめちゃめちゃ重要だと思うんです。何と何を足した時に、どれだけすごいものにできるか、日本人的センスって、そういうアイデアってことだと思いますね。まあ、ここまで喋ってなんなんですけど、ただ単純にインパクトがあるからつけたっていうのが一番大きいんですけどね(笑)。

アンダーグラウンドの中に「メジャーとか売れるのはナシ」っていう無意識の線が引かれてるとしたら、すごい勿体無いなって。

―まあ、そういうものだよね(笑)。じゃあ、最後の質問です。Wiennersには明確にパンクっていう出自があって、今っていう時代はインディでもDIYで音楽活動ができる時代だったりする。そんな中で、Wiennersがメジャーで活動する意義をどう考えますか?

玉屋:それはメジャーから出すことになった時にすごく考えましたね。もちろん僕はパンク〜ハードコアのシーンで育ってるし、今でもすごい好きなんだけど、それだけに留まっていたくないというか、どうせやるなら一番でかいことをやれるところから出そうって思ったんです。DIYに対するアンチテーゼじゃないですけど、アンダーグラウンドの中に「メジャーとか売れるのはナシ」っていう無意識の線が引かれてるとしたら、すごい勿体無いなって。もちろん、アンダーグラウンドに留まってやってる素晴らしいバンドはいっぱいいるし、それはそれで素晴らしいことなんだけど、それとは別にこういうバンドがいても面白いかなっていう。シーンを変えるとかっていうのは自分がやることではないと思っていて、こういうバンドがメジャーから出して売れることによって、「こういう面白いことがあるんだ」って気づいて、面白い音楽を作る人がどんどん増えてくれば、それが僕の理想ですね。

560:Wiennersは自分たちがどこまでやれるのか全力で試そうっていうのが元々あったんで、自分たちらしくやれる場所であれば、それがインディーズでもメジャーでもよくて。Wiennersをパンク・バンドとして見てる人からは「ファーストアルバムでいきなりメジャーか」って言われたりもするけど、俺的にはWiennersがパンク・バンドである必要はないっていうか、WiennersはWiennersだから、自分たちのやり方でやれればそれでいいんです。

玉屋:どこから出すかじゃなくて、何を出すかの方が重要だっていうことをわかってもらいたいというか、結局は音楽をやってるわけであって、それ以外のことに目が行き過ぎる人がいっぱいいるのかなって。音楽業界で働いてる人、バンドをやってる人からすればしょうがないかもしれないけど、でも音楽が面白いか面白くないかが一番重要であって、それ以前にメジャーどうこうっていうのは違うと思って。さっき560が言ったみたいにパンク・バンドだとも思ってないけど、逆に「メジャーなんで」って切り捨てる人こそファッション・パンクだと思う。パンクってそういうことじゃないっていうことが、少しでも伝わればいいと思いますね。

リリース情報
Wienners
『CULT POP JAPAN』

2010年7月7日発売
価格:1,800円(税込)
WNSR-1

1. !
2. We are the world
3. Cult pop suicide
4. Life education
5. Love the earth,Cosmo Attack
6. Japan holi
7. World over trip
8. Channel #77.7
9. Why can you stand?
10. Go Anti Go
11. Justice 4
12. 龍宮城
13. Blitzkrieg POP
14. Hello,Goodbye
15. Idol

プロフィール
Wienners

地球最後のひみつ道具、2010年この星の平和を取り締まるウルトラ警備隊!カラフルに毒づき、クールにアツい。この世に生きるすべての音楽に敬意を注ぎ、愛をもってデストロイ&クリエイト。神様の悪ふざけ、一か八かの大勝負な創造物。呼ばれてないのに生まれちゃいました!Wienners!



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