Open Reel EnsembleがDJ KENTAROをLock On!

たびたびCINRAでも取り上げてきた、2組の音楽家がリハーサル無しに音で対峙する対戦型即興ライブ『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE』(以下、『BOYCOTT』)が今年も開催される。毎回注目の会場は、前回の国立科学博物館から、なんと格闘技のメッカ・後楽園ホールへと大きくスケールアップ(後楽園ホールでの音楽ライブの開催は20数年ぶり!)。さらに凄いのが出演者のラインナップで、「坂本龍一 vs 大友良英」、「いとうせいこう vs Shing02」、「DJ KENTARO vs Open Reel Ensemble」の3試合に加え、オープニングアクトとして「千住宗臣 vs 服部正嗣」、さらにはゲストとしてやくしまるえつこの参加も決定と、日本を代表する個性派ばかりがずらりと顔を揃えているのだ。今回はこの中から唯一の2回連続出場となるOpen Reel Ensembleが登場。旧式のオープンリール式磁気録音機を楽器として使用するパフォーマンスによって着実に注目を集めている彼らに、イベントの魅力と自身の活動について、じっくりと語ってもらった。過去最大級の『BOYCOTT』、あなたも目撃者の1人になりませんか?

機材のバージョンは上がっていくんですけど、和田自身のバージョンが上がらない(笑)。

―前回の『BOYCOTT』ではAFRAさんと対戦したわけですが、まずその感想から聞かせてください。

和田:ものすごくドキドキしましたね。僕らは演奏方法から考えてるグループというか、プログラムを組んだりするところから始まっていて、今も常に発見をしながらやっている感じなんです。何かひとつのスタイルが決まっていて、師匠がいてってわけじゃなくて…

―完成形があって、そこに向かうわけではないですもんね。

和田:「完成って何だよ?」みたいな感じなんで(笑)。前回はAFRAさんの声をその場でどう録って、どう組み立てていくかをシステムから考えて、「こう来たら、こうなんじゃないか」とか、結構いろいろ考えてたような気がするんですけど、いざ本番になったら「全部無理!」ってことになって(笑)。

和田永
和田永

―(笑)。

和田:最終的にネジはずれたような感じになってたよね?

佐藤:それはでも結構あるじゃん、いつも。

和田:そう、最終的にはいつもそうなんです(笑)。

難波:僕らに方程式があれば、入力に対して答えが勝手に出てくるけど、方程式がないまま答えばっかり求めてるから、自分らが求めてない道すじから来たときは…

和田:速攻で崩壊する(笑)。

吉田匡:そこだけ聞いてると即興に向いてないよね(笑)。

吉田匡
吉田匡

佐藤:曲作るときは即興から生まれる方が多いけどね。

―うん、即興的な要素も多分に含んだグループですよね。

和田:数人でやってるってとこもポイントなんですよ。1人でやってるとある程度コントロールが効くんだけど、他の人もいると「そっち行くんだ!」みたいな(笑)。メンバー内に不確定要素があり過ぎて、メンバー間だけでもバトルなのに、さらにもう1人AFRAさんがいたっていう(笑)。

―特に不確定要素が強いのは誰なんですか?

和田:常に僕がハプニングを起こしやすくて、本番終わって楽屋に帰ってくると、みんなから「今日もやらかしたね」ってお叱りを受けるんです。

難波:でも直らないんですよ。機材のバージョンは上がっていくんですけど、和田自身のバージョンが上がらない(笑)。

―でも、かっこよく言えば、無我の境地から生まれる音楽の強さみたいなものもありますよね。『BOYCOTT』ってまさにそういった場だとも言えると思うし。

和田:事故の連続でしたけどね(笑)。それがものすごい味方になるときもあるし、ホントの敵になっちゃうときもあるっていう。

2/3ページ:デザインだのなんだの言ってるわりに、結局は衝動なんです。

予定調和を見てるのとは違うわけで、まさに「そこで何かが起こってる」っていうのは熱い何かがありますよね。

―事前にはどんなことを考えて本番に臨んだのですか?

和田:オープンリールは取り入れた音が音源になるマシンなので、録音したAFRAさんの肉声を加工して、電子音とも体から出た音とも違う、その中間に位置するような音を出したいっていうのはありました。

吉田悠:上手くいけばAFRAさんの音を解体して、AFRAさんよりすごい音にして返して、もうその音に任せちゃうぐらいの勢いでやりたかったんです。テープをおでこに引っ掛けて、頭の動きでAFRAさんの声を崩すとか、体でテープを引っ張って、どんどんビートが崩れていくとか。

和田:「テープキコウ」って言ってて、「気功」と「機構」をかけてるんですけど(笑)。でもそれをやろうとしたら…何の音も出なくて(笑)。

吉田悠:単に引っかかって、動けなくなっちゃった(笑)。

吉田悠
AFRA VS Open Reel Ensemble

和田:なので僕らの構想とは全く違う方向に行っちゃったんですけど、それで吹っ切れたようなところもあったと思います。

―個人的な印象としては、キカイと人間が勝負するSF映画みたいだなって思いました。まず、オープンリールが並んでる時点でSF映画っぽいし、そこにキカイの音を出す人間が加わって、その音をまたキカイが録音して加工してっていう、両者の境界線が崩れていくような、不思議な感覚でした。

和田:僕ら自身対決してるような感覚ってあって、アートパフォーマンスの要素もあるんですけど、段々自分たちが操ってるのか、操られてるのかよくわからなくなってくるんですよ。でも身体で向き合ってる感じはあるので、いつも終わると汗だくで…いやあ、でも面白かったですね。リハしようとしたら止められましたけど。

難波:当たり前じゃん。

―そういうコンセプトだから(笑)。

和田:ホントに何が起きるかわからない、予定調和を見てるのとは違うわけで、まさに「そこで何かが起こってる」っていうのは熱い何かがありますよね。それを再確認できた感じはありました。AFRAさんとバーサスになってたかはわからないですけど、自分自身とは戦ってたと思います。

―いろんな方向でバーサスだったわけですね。自分とも、メンバーとも…

和田:マシンとも戦ってるし、AFRAさんとも戦ってるし、PAとも戦ってたかもしれないです(笑)。

デザインだのなんだの言ってるわりに、結局は衝動なんです。

―ではそんな経験を踏まえて、今回はどのような構想を持って臨みますか?

和田:DJ KENTAROさんといえば、レコード・スクラッチにおける日本の頂点に君臨してる人で、僕らは磁気テープにおけるスクラッチ界の…って、他にやってる人いないんですけど(笑)。そういう意味で、ビニールの出す音色と、磁気テープの出す音色っていう対比はあるかもしれないですね。


難波:僕らがオープンリールに感じてる空想世界みたいなものを、会場で出せたらいいなとは思ってます。お客さんがDJのすごい迫力と技術でワッとなる中で、「あいつら、淡々と変な世界作ってるな」みたいなのはやりたいです。

―空想世界っていうのはどういうことですか?

和田:オープンリールって、不便で、廃れていってるメディアですけど、これならではの視覚的・聴覚的な魔術みたいなものがあって、そこに変な世界を見てるんです。単純に、テープが回ってる絵を最初に見たときに、その先に広がっているストーリー性みたいなものを感じたんですよね。その空想的なものと、そのメディア独特の質感っていうのは僕らの中でセットになっていて、それをどう表現していくかっていうことを考えてます。

―なるほど。そういう部分にも、オープンリールとターンテーブルの違いを見てると。

難波:オープンリールを簡単に説明するときは、「録音できるターンテーブルで、スクラッチもできます」みたいに言っちゃうんですけど、そもそもがターンテーブルとは違いますからね。

吉田匡:スクラッチも、DJ KENTAROさんと僕らでは全く生まれる音が違いますし。

難波:だから、僕らがやってるのはスクラッチじゃないんだよね、多分。わかりやすいから「スクラッチ」って言っちゃってるけど、ホントは別名称だと思うんです。DJの人と一緒にやると「似てる」って言われるし、僕らもそういう先入観はあるんですけど、ターンテーブルがなかった場合を考えて、こっちで勝手に進めていく方が、自然に僕らの在り方が見えてくるのかなって。

難波卓己
難波卓己

和田:現実的にはレコードの方がスクラッチしやすいんだけど、それをあのオープンリールでやるっていうユーモラスな部分、ちょっと角度を変えると世の中が面白く見えるっていう、そういう架空の世界というか、自分たちの映画を投影する感覚なんですよね。テクノロジーの進化に対して人間がどう向き合うかっていうのは映画的な世界観で、オープンリールはある種猿に戻ったような、原始的な感覚でやってるイメージがあるんです。デザインチックにコンポジションしておきながら、結局はそれを忘れて汗だくで演奏してるっていう。

難波:昔は動き方とか立つ位置についてもすごく言ってたよね? で、僕らは言われたようにやってみているんだけど、ライブ中に(和田を)見ると、やってない(笑)。デザインだのなんだの言ってるわりに、結局は衝動なんです。

和田:21世紀的な発想で行こうとか思ってたら、いつのまにか太古へ…。

難波:いつのまにかっていうか、2曲目ぐらいでもうなってるよ。

―(笑)。やっぱり『BOYCOTT』的なグループだってことかもしれないですね。最終的に、その場の衝動が大事っていうのは。

和田:野生と理性がバーサスしてるんです(笑)。

3/3ページ:デジタルのシュミレートとは違うテープの響きっていうのを、僕らの色として提示していきたい。

デジタルのシュミレートとは違うテープの響きっていうのを、僕らの色として提示していきたい。

―では、残りの時間で現在制作中というアルバムについても聞かせてください。ライブとは大きく違うものになりそうですよね。

和田:もちろん、僕たちのライブにある視覚的な要素が音源には入らないので、ひとつのコンセプトになっているのは、オープンリールによって生まれる音色ですね。テープそのものの音色を使いながら、コンピューターの中でそれをもう1回再構築して、アンサンブルにしていくっていうのがまずあります。そして、そこにストーリー性をどう織り込んでいくか。現実の歴史と、空想的なストーリーが行き来するような、そういうものを今5人でどんどんアイデアを出し合いながら作っていて、どんどん締め切りに間に合わなくなっていくっていう(笑)。

難波:視覚要素がなくても、「Open Reel Ensembleはこういう音なんだ」っていうものにしないと、オープンリールでやってる意味が薄れてしまうので、そこはなんとかしたいですね。

佐藤:今ってテープの音もデジタルで表現しようと思えばできちゃうんです。でも、僕たちは実際のオープンリールを使って、デジタルのシュミレートとは違うフィジカルなテープの響きっていうのを、僕らの色として提示していけたらっていうのがあります。もちろん、今僕らの世代にはプログラミングだったり、音響合成ソフトとか、いろんな音を作る方法があるわけで、それを「これはこれ」って分けるんじゃなくて、ハイブリッドとして表現していくっていうのがOpen Reel Ensembleの音だっていうことを提示したいですね。

佐藤公俊
佐藤公俊

―最初にも言ってたように、完成形があるわけじゃなくて、道なき道を進んでるわけだから、突き詰めようと思えばいくらでもやることはありますよね。

吉田悠:既存のジャンルにあてはめようとしたら、1曲1曲違うジャンルに聞こえるかもしれない。でも「Open Reel Ensembleが出すべき音色」っていう軸で作ってるから、ジャンルのことは気にならないんですよね。

難波:あとはライブだと物理的に無理だけど、「許されるならこういう音を出したい」っていうのが、音源には込められますよね。

吉田匡:「こんなシチュエーションで使われるオープンリール」、「こんなところのオープンリール」とかね。

難波:ジャングルの中だと新しいテープが手に入らないからすごいノイズが乗ってるとか、ニューヨークだとハイファイな、熱を通したばっかりのオープンリール、みたいな。

吉田悠:ある場所ではその民族口伝の歌を録音するために使ってて、ある場所では演説を録音して国民に配ってましたとか、勝手にシチュエーションを想定して、現実と架空を行き来して織り込んでいくっていう。

吉田悠
吉田悠

和田:ターンテーブルは世界中に楽器文化がありますけど、オープンリールはそこまでではないので、地域ごとのオープンリールを僕らが勝手に想定できるんです(笑)。

―Open Reel Ensembleっていう世界の、架空のサウンドトラックみたいな感じになるのかもね。

和田:まさにそういう感じかもしれないですね。

混ざり合ってる音の中でも、僕らの音色や世界みたいなものが、どう浸食していけるか。

―では、最後に改めて、『BOYCOTT』に向けての展望を聞かせてください。

難波:終わった後に裏で、DJ KENTAROさんが「オープンリール触ってもいい?」って言われる…ないか。

和田:それぐらいプレゼンすると(笑)。

難波:「DJセットにオープンリール1個置きませんか?」みたいな。

―バーサスじゃなくて、プレゼン(笑)。

和田:どっちがどの音を出してるのか、目をつぶってもわかるといいなって思います。混ざり合ってる音の中でも、僕らの音色や世界みたいなものが、どう浸食していけるかっていうのはイメージとしてありますね。

難波:異種格闘技戦だと思うので、相手の土俵に入っちゃうとダメですよね。

吉田悠:グル―ヴで勝負を仕掛けられても音色で返すとか、そういうことを考えたりはしてます。

―今回は会場が後楽園ホールなので、プロレス的な煽りとかどう?

吉田匡:「ぜってえ録音してやっからな!」みたいな?

和田:もっとダサい感じで、「ロックオン!(録音!)」とかの方がいいんじゃない?

吉田匡:「お前のソウルをロックオン!(録音!)」とか(笑)。

和田:もう負けてる、その時点で(笑)。

『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』会場、出演者

イベント情報
『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』

2012年3月21日(水)OPEN 18:45 / START 19:30
会場:東京都 水道橋 後楽園ホール

出演:
坂本龍一 vs 大友良英
DJ KENTARO vs Open Reel Ensemble
いとうせいこう vs Shing02
ゲスト:やくしまるえつこ
オープニングアクト:千住宗臣 vs 服部正嗣

料金:
一般席4,800円(各プレイガイドにて発売中)
学割(立見)2,900円(ウェブサイトにてメール予約を受付中)
当日5,500円

プロフィール
Open Reel Ensemble

09年より活動開始。時代の表舞台から姿を消した旧式のオープンリール式磁気録音機を現代のコンピュータとドッキングさせ「楽器」として駆使して演奏するプロジェクト。その場で声や音をテープに録音、リールの回転や動作をコンピュータで制御したり、人力で操作することでオープンリールを演奏する。メンバー:和田永(Reel&Concept)佐藤公俊(Reel)吉田悠(Reel&Perc.)難波卓己(Reel&Vln.)吉田匡(Bass)。11年にはスペイン・SONAR BARCELONA、オーストリア・ARS Electronicaにも出演。



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