特集 PR

小山登美夫&塩見有子対談 現代アートの仕事の魅力

小山登美夫&塩見有子対談 現代アートの仕事の魅力

インタビュー・テキスト
坂口千秋
撮影:菱沼勇夫

小山登美夫に聞く、今アート業界が求める人材とは?

―小山さんのギャラリーでスタッフ募集をかけるにあたって、採用のポイントとかあるんでしょうか?

小山:アートを知っていればそれに越したことはないけど、実は普通に社会性がある人がいいですよね。あと思い込みのない人。どんなことも受け入れられるような人がいいかな。

―思い込みのない人?

小山:ギャラリーの仕事ってイメージと違って、作品のデータ整理から始まって、梱包、倉庫整理、発送、画像のやりとりなど、やたらと地味で細かい作業がいっぱいあるんですよ。販売だってお客さんの希望を考えなくちゃいけないし、自分の好きなアートは何っていう話じゃあ全くないんですよ。

―最近ではギャラリー勤務経験のない若いギャラリストも出ていますね。こうした時代の変遷はどう映りますか?

小山:それもまた新しいタイプでいいんじゃないかな。僕らの頃は情報を得るには現地へ行くしかなかったけど、今ではインターネットで情報もリアルタイムで得られるし、普通に海外のアートフェアもたくさん見ていて、僕らの時代とはまた全然違う感じだと思いますね。だからもっと海外の作家を取り扱ったらいいのに、とは思いますけどね。

―アート業界全体を見ていて、こういう人がいたらいいなと思うことはありますか?

小山:アートをとりまく世界の中で、自分がやるべきことを冷静に見れる人が一番いいですね。展覧会はアーティストだけのものじゃなくて、オーディエンスや主催者のものでもあるので、いろんな立ち位置が見えて全体をオーガナイズできる人がいい。でも中にはのめり込むタイプの人も必要。そういう人はマネジメントが向いていると思うのね。オーガナイザー、マネージャー、細かいファイリングが得意なアーカイビスト、いろんなパターンの働き方があると思う。

―現代アートの知識はやっぱり必要ですか?

小山:それも必要ではあるけど、過去を知ることがとても大切。今は情報があふれていて、若い子は目の前の現象を追うだけで手一杯だけど、以前のことを知らないのはまずいと思ってる。現代アートだけじゃなく日本の歴史も勉強して、その上で今の自分の場所を知らないと通用しない。特にキュレーターを目指すなら、近代を学ぶことは必須なんだよね。

塩見:MADでも現代アートに至るまでの歴史を学ぶ、モダン・アートコースを設置しています。表面的な情報はインターネットで簡単に得られるけれど、ゆっくり本を2時間読んで消化するというプロセスもすごく大事。ひとつの言葉の意味をじっくり考えて自分のものにする作業がアートには必要だと思いますね。

左から:塩見有子、小山登美夫

アートは社会の中で絶対必要なもの

―それにしても、AITのメンバーも立ち上げの頃からずっと変わってないですよね。これまでずっとアートの仕事を続けて来られたのはなぜですか?

塩見:アートの仕事ってルーティンワークがなくて、全く同じ仕事ってわけじゃないので面白いです。AITの仕事も、MADに限らず、海外からアーティストを招聘するアーティスト・イン・レジデンスや、財団や企業や美術館などと連携してのイベントや展覧会づくり、トークやシンポジウムなど、それぞれ変化や発見に富むものばかり。アートというキーワードで普段繋がりがない色んな人に会うことができるし、アートを通して社会の様々なところにアクセスできるのも面白いですね。

小山:今あるほとんどの仕事って、お金を稼ごうとか幸せになろうとかポジティブな方向しか向いてないけど、アートはネガティブなことも含めて違うことが言えるジャンルだと思う。特に現代アートは感情だけではないところが強いから、色んなものを見て経験を積んでようやく自分がいる世界におけるアートの位置がわかった人が興味を持ってMADとかに来るんじゃないかな。

―今日本社会自体があまりポジティブではない状況で、これからアートはどのように社会とつながるべきだと考えますか。なぜアートは社会に必要なんでしょうか。単に好きだから、ということじゃないと思うんですが。

塩見:アートは贅沢品の一面もあるけれど、その一方で、アーティストのささやかな行為が人の心を動かすこともある。アートってすべてを内包していて、美しく眼にやさしいものもあれば、私たちが当たり前と思っていることに疑問を投げかけたり、批判したり、私たちが気づかない世界や目を覆いたくなることを軽々と暴いてしまったり。アートは、ものごとの見方をいろいろな方向に伸ばして行って、考え方の幅のようなものを押し広げて行くことができる。そういうものをひっくるめて、アートは社会の中で絶対必要なものだと私は思います。

小山:アートはいいことだけじゃないからね(笑)。アートイコールいいことだけだとつまらない。アートはいいときもあるけど、悪魔のようになったり、ときには人を精神的に救済したり、ときには金の亡者のゲームの素材になったり…でもどんな時代でも社会でも、アーティストは絶対にいなくならない。彼らが面白い表現をした時に反応できるしくみは、社会が持っていたほうがいいかもしれないな。

塩見:自分が見ている世界を新しく知ろうとすること、それが「MAD(Making Art Different)、つまり「アートを違った角度から見てみよう」という意味で、さらには「アートを変える」力にもなっていくと思います。

小山:しかもマッドな集団だからね(笑)。

塩見:そうそう! 本当の驚きや発見って、必ず自分の心や身体に残って血肉になっていくと思うんですよ。現代アートを楽しんでいるうちに、気が付いたら自分の世界の見方も変わっていくと思いますよ。

「現代アートはわからない」という声はよく聞かれるけれど、「わからないから面白い」のが現代アートだと、お2人の話を聞いて思った。わからないものを知りたいという、好奇心と探究心、発見やひらめきが眼の前の世界を変えていく。アートを仕事にするということは、大げさなようだけど、今を生きる冒険のようなものかもしれない。アートの仕事がしたかったというよりも、気が付いたらアートの仕事をやっていた。そんなどうしようもない性のようなものが、お2人から感じられた。

記事の感想をお聞かせください

知らなかったテーマ、ゲストに対して、新たな発見や感動を得ることはできましたか?

得られなかった 得られた

回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Page 3
前へ

イベント情報

5コマから学べる現代アートの学校「MAD」

MAD無料体験レクチャーシリーズ
『ARTIST BIRTHDAYS』

2012年3月21日(水)
会場:東京都 代官山 AITルーム
時間:19:00〜20:30(要予約、詳細はウェブサイトを確認)
料金:参加無料


MAD受講ガイダンス

2012年3月26日(月)
会場:東京都 代官山 AITルーム
時間:19:15〜20:30(要予約、詳細はウェブサイトを確認)
料金:参加無料


菅木志雄展
『潜態の場化』

2012年3月10日(土)〜4月14日(土)
会場:東京都 清澄白河 小山登美夫ギャラリー東京 7F
時間:12:00〜19:00
閉廊日:日、月曜、祝日


オープニングレセプション

2012年3月10日(土)18:00〜20:00


ジェレミー・ディッキンソン展
『Autopark』

2012年3月10日(土)〜4月14日(土)
会場:東京都 清澄白河 小山登美夫ギャラリー東京 6F
時間:12:00〜19:000
閉廊日:日、月曜、祝日


オープニングレセプション

2012年3月10日(土)18:00〜20:00


インカ・エッセンハイ / Inka Essenhigh展
『The Natural and the Man-Made』

2012年3月2日(金)〜4月7日(土)
会場:京都府 下京区 小山登美夫ギャラリー京都
時間:11:00〜19:00
閉廊日:日、月曜、祝日


柏原由佳展
『トランジション』

2012年3月2日(金)〜4月7日(土)
会場:京都府 下京区 TKG エディションズ京都
時間:11:00〜19:00
閉廊日:日、月曜、祝日

プロフィール

小山登美夫

1963年東京都生まれ。東京藝術大学芸術学科卒業。西村画廊、白石コンテンポラリーアートという、日本を代表する現代美術画廊の勤務を経て、1996年に小山登美夫ギャラリーを開廊。村上隆、奈良美智といった同世代の日本人アーティストの展覧会を多数開催するだけでなく、海外のアートフェアにも積極的に参加して国外のアーティストも取り扱うなど、ワールドワイドな展開を行う日本のギャラリーの先駆けとなる。

プロフィール

塩見有子

アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]ディレクター。学習院大学法学部政治学科卒業後、イギリスのサザビーズインスティテュートオブアーツにて現代美術ディプロマコースを修了。帰国後、ナンジョウアンドアソシエイツにて国内外の展覧会やアート・プロジェクトのコーディネート、コーポレートアートのコンサルタント、マネジメントを担当。2002年、仲間と共にNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]を立ち上げ、代表に就任。AITでは、レジデンスやMADをはじめとするAITの活動全体の企画やマネジメント、組織運営を行う。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像 1

    THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像

  2. 中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿 2

    中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿

  3. 『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」 3

    『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」

  4. ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも 4

    ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも

  5. A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること 5

    A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること

  6. 地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る 6

    地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る

  7. 林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着 7

    林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着

  8. 『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか 8

    『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか

  9. ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開 9

    ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開

  10. 『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察 10

    『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察