楽しいことを見つけたら猛ダッシュで 蜜インタビュー

鍵盤ハーモニカとアコースティックギター、そして聴き手をふわりと包み込む心地良い2つのメロディ。シングル『初恋かぷせる』でメジャーデビューを果たす男女デュオ「蜜」の魅力は、まず何より2人の歌声が生みだす絶妙なハーモニーにある。でも、それだけじゃない。ライブを観たら1度でわかる。楽しいのだ。音楽性自体にはカフェミュージックっぽいポップセンスも感じるけど、お洒落に気取ったところは一切なし。確実にお客さんを笑顔にするステージ。奔放でやりたい放題な木村ウニのパフォーマンスと、それに引っ張られつつ、時にツッコミを入れつつ、屋台骨を支える橋詰遼のプレイ。大阪人気質な2人の掛け合いが、とても面白い。そういう2人の醸し出す雰囲気が、キュートでエネルギッシュな木村ウニの歌声と包容力ある橋詰遼の歌声が融け合うという、蜜の音楽自体の魅力にも繋がっていると思う。インタビュー初登場となる今回は、その成り立ちを探った。

最初はソロのつもりでしたけど、結果オーライでした(木村)

―こないだ、上野公園の水上野外音楽堂でやっていたイベントに出演した時のライブを観たんです。非常に自由なパフォーマンスで驚いたんですけれど、普段からあんな感じなんでしょうか?

橋詰遼
橋詰遼

橋詰:そうですね。基本的にあんな感じでやってます(笑)。でも、あの時は楽しかったですねえ。「パンダが近くにおるでー!」ってお客さんとコール&レスポンスしたり(笑)。ヤバかったなあ。

―ライブになるとスイッチが切り替わるんでしょうか? それとも普段からああいう感じ?

木村:普段からですね。ステージは家の中みたいな感じです。

橋詰:素っ裸な感じですかね?

木村:…。

橋詰:それはちょっと違うみたいです(笑)。

―ははは! この2人の関係性がどうやって成り立ってきたのかをまず知りたいんですけれども。最初にお2人が会った時はどんな第一印象だったんでしょう?

橋詰:僕は一目観てファンになりました。2005年くらいに、同じコンテストに別の出演者として出ていたんですよ。それが、すごく格好よかった。

木村:私は、すごくいい声の、爽やかなお兄さんだなって思いました(笑)。当時、白いTシャツをタンクトップみたいにめくり上げて、素晴らしい笑顔で歌ってたんで。

木村ウニ
木村ウニ

―まずは歌っている姿を見て惹かれ合ったんですね。木村さんはその時はどんな感じでやっていたんですか?

木村:その時はアコースティックギターとジャズベースと私の3人で歌ってました。

橋詰:10代しか出られないコンテストだったんですよ。でも10代らしからぬブルージーな曲と大人びた歌詞の世界を、ソウルフルなボーカルで歌い上げていて。で、「格好いいですね」 って、僕から話しかけたんです。でも、ホンマに変わった人たちで、かなり大雑把なんですよ。抜けてる部分もあって。遅刻もしたり、忘れ物も一杯あって。僕、本番の当日にカポタスト貸しましたもん(笑)。

木村:前日にだけ練習したんですけど、それにすらカポを忘れてきた(笑)。

橋詰:全然練習になれへん、ていう。

―ははは!

木村:でも、すごく面白い人達で、いまだに大好きです。

―では、2人で一緒にやろうと思うようになったきっかけは?

木村:その大会で初めて出会った2年後くらいですね。私は他にバンドをやってたんですけれど、そのバンドが一段落した頃に、ソロでイベントに出てみない? って言われて。でも、曲もなかったし楽器も弾けなかったんで、橋詰くんの曲を歌おうと思って、連絡したんです。あの大会で橋詰くんが歌っていた曲がシンプルで、歌が伝わる曲だったから、歌わせてもらえないかなって。それがこの”初恋かぷせる”という曲なんですよ。

―そうなんだ。じゃあ、メジャーデビューとなるこの曲が最初にあった曲なんですね。

木村:そうなんですよ。2005年に歌ってた曲です。

橋詰:で、初めはそれっきりの予定だったんです。ただ、評判がよかったんで、続けるようになった。

木村:でも私からしたら、ソロのつもりだったんですよ。そのつもりで橋詰くんの曲を歌ってギターを弾いて欲しかったのに「2人でやるの? いいよ!」って言われちゃって(笑)。

橋詰:ソロだって聞かされてなかったんですよ(笑)。だから勝手にコーラスとかつけちゃったんですね。でも、後々聞いたらそういうつもりじゃなかったという。

木村:でも、結局橋詰くんとやるのが楽しくなってきたし、「よかった」って話しかけてくれる人も多くて。最初はソロのつもりでしたけど、結果オーライでした(笑)。

「静と動」みたいな感じが、すごくイヤやったんです。自分の気持ちに自然でいたかったから(木村)

―ライブを見てると、基本的に木村さんが自由に振る舞って、橋詰さんがそれに優しくツッコミを入れるような感じじゃないですか。その2人の関係性は最初から?

木村:いや、最初は無視だったんですよ。

橋詰:ええ、そうやった?

木村:「静と動」みたいな感じ。それがすごくイヤやったんです。橋詰くん、最初は座って弾いてたんです。だから2人並んで立って歌うようにして。私も起伏が激しいんで、私がガーッと行く時は、橋詰くんも―。

橋詰:一緒にアガってくれ、と。確かにそういう要望はありました。

木村:「俺は『静』のキャラなんや」っていう風にやってほしくなくて。私だって、いつも「動」でいたいわけじゃないし、気分じゃない時も「わっしょい!」ってやらなきゃいけないと思うのもイヤだったんですよね。自分の気持ちに自然でいたかったから。

橋詰:それで、徐々に今のスタイルにはなりました。

木村:だから、私、自分ではやり過ぎてるとか、自由だとか、思ってないんですよ。ツッコミをしてほしいとかも言ってない。自然にそうなっちゃってるという。

木村ウニと橋詰遼

―なるほどねえ。橋詰さんは山高帽がトレードマークになっていますけれど、そういうのも徐々に定着していったんでしょうか?

木村:そうそう、最初は衣装を着るのイヤや! って言ってたんですよ。「オレは普通でいいんや」って。

橋詰:普通の服を着てました。

木村:それが、何故か「FUNK」って大きく書かれたTシャツを着てたりするんですよ。

―はははは!

橋詰:そこから衣装のプロデュースは木村さんにお願いすることになりました(笑)。

木村:リサイクルショップで300円くらいの予算で似合いそうなものを買って、当日に「今日、これだから」って渡して着させるという。

この2人じゃないと、自分が面白いと思うこともできないと思います(橋詰)

―(笑)。木村さんから見て、橋詰さんはどう変わってきたと思いますか?

木村:前は頭が硬かったと思います。でも「オレは普通でいいんや」って言ってたのが、徐々にほぐれていったというのはありますね。2人の関係性も、なんでも言えるように徐々になってきたと。

木村ウニ

―これは僕の印象なんですが、蜜の曲って、すごくいい歌声だし、いいハーモニーなんです。で、勝手な思い込みなんですけれど、こんなにふんわりとして、いい歌を聴かせる2人は、きっと人柄も、お洒落なムードの人なんだろうなって思ってたんですよ。カフェっぽいというか。

木村橋詰:ああー、うんうん。

―でも、ライブを見たら全然違った。そこがいい! って思ったんですよね。隣でやってる感じがある。アコースティックな男女デュオって沢山いるけれど、他にないタイプだと思いました。この2人だから成立するムードだと思います。

橋詰:はい。

―そこで訊きたいんですけれど、どうでしょう、それぞれ今の相手以外とやっていたらどうなっていると思います?

橋詰:僕は考えられないですね。この2人じゃないと、自分が面白いと思うこともできないと思います。

木村:私は他の人ともやってたんですけど、ものすごくアングラって言われました。やっぱり、橋詰くんの作る曲には多くの人に届くセンスがあると思うので、橋詰くんの作った曲が歌いたい。そこは蜜だからこそだと思います。

―ちなみに、アングラだと言われていた頃というのは、蜜の音楽性とは違ってました?

木村:うーん、違うかもしれないですね。そういえば、ライブ中に腕立て伏せとかやってました(笑)。曲の間奏部分で。

橋詰:まあ、それは蜜でも全然あり得ますよ。

木村:あり得るかもしれない(笑)。

橋詰:曲に関してもステージに関しても、自分たちを縛るようなことはあんまりしたくなくて。やりたいことは全部やりたいんですよね。

男女ユニットのイメージの枠組みから外れた時から面白くなってきた(橋詰)

―「蜜はこういうユニットだから、こういうことをやるとイメージと違う」という発想は、あんまりないんですか?

木村:全然ないです!

橋詰:最初組んだ時には、そういう感じでやってたんですよ。「男女ユニットとは?」みたいな勉強をして、その中のイメージでやってたんです。でも、考えすぎると上手くいかなくて。そのイメージの枠組みから外れた時から面白くなってきたんですよね。なんでもやったらいいんやって。

―ちなみに、勉強をしてた男女ユニットのイメージってどういう感じのものでした?

橋詰:バービーボーイズさんとか、ハンバート ハンバートさんとか、Le Coupleさんとか。でも、あんまり参考にもできなかったんですよね。そういう意味でも、自分がやりたいことを全部やっとこうか、って。

橋詰遼

―木村さんは誰かを参考にする経験はありました?

木村:私は誰でも参考にする傾向があります。音楽的なことはそんなに詳しくないんですけど、男の人でも女の人でも、おじさんでもおばさんでもちっちゃい子でも、全部刺激になります。

―じゃあ、自分が「おっ!」と思うもの、「これはすごい」と思うものの特徴はあります?

木村:裏表の境目をなくして、全部出している感じの人が好きですね。音楽がどうこうというよりは、その人の本質を汲み取ろうとしている感じがあるという。歌ってる内容とその人自身が食い違っていると思ったら好きにはならない。そういう見方はしていますね。

―木村さん自身もそういうタイプの人なんじゃないですか?

木村:そうかもしれないです。

橋詰:うん。丸裸な感じがあるという。それは僕にはできないところでもあったりするので。なかなか、みんなができることじゃないなと思います。

木村:でも私、押し付ける感じにはしたくはないんですよ。あくまで自分が楽しいっていうことをやってるだけで。友達とかに「あなたの人間性を疑うわ」みたいなことを言われたりするし、橋詰くんも、私の機嫌が悪い時は怯えてる子羊みたいになってる時とかあるんですけど―。

橋詰:はい(笑)。

木村:自分でもそれは反省したりするんです。そういう意味でも、表裏は作れないかもしれないです。

―つまり、楽しいこととか面白いものを見つけたら真っ先に行くタイプですよね?

木村:真っ先にいきますね。楽しいことに、猛ダッシュで行くと思います(笑)。そのアンテナは常に張ってるかもしれないです。

橋詰:そういうタイプですね。好奇心の塊みたいな。

―他の人だったら「楽しそうだけど、どうしようかなあ」って考える0.1秒の間に動いてるようなタイプ。

橋詰:たしかに! ホンマ、そうです。

木村:なんでわかるんですか!?(笑)

橋詰:まあ、だからこそ間違いも全然あるんですけどね(笑)。

最近はお客さんがちょっと頑張らないとできないようなコール&レスポンスをするのが楽しくて(木村)

―“初恋かぷせる”は、最初に作った曲なんですよね。これはどんなきっかけで作った曲なんでしょう?

橋詰:これはソロでやってた時に作った曲で、曲名通り、初恋の気持ちを凝縮した曲ですね。それとタイムカプセルをかけて、初恋にタイムスリップできまっせ、という。

―蜜って、わりと恋の歌が多いですよね。ノスタルジックな思いを浮かび上がらせるような。

木村:多いですね。でも意図してないというか、橋詰くんの曲を聴いて浮かんだイメージがそうなんですよ。女の子がちょっとだけ切ない気持ちに包まれているようなイメージが浮かんで、それが恋の歌になる。曲のイメージから書いているので、特にこだわっているわけではないんです。

―カップリングの“HE”はいつぐらいの曲ですか?

橋詰:これも、かなり初期の曲ですね。いろいろ曲を作っていた中のひとつで、爽やかでキャッチーな曲があればなって思いながら書いた曲です。

木村:この曲の歌詞を書いた時は短大に通ってたんですけど、そこにいた女の子が男の子と食堂でしゃべっているのを見て、その子のイメージを膨らませて書きました。女の子の、見ていてほしい、かまってほしい、わかってほしいっていう欲求が、キラキラとにじみ出ていて。女子力っていうんですかね? 普段よりちょっと声が高くなる感じ。そういうのが可愛いなって思って。そういうワクワク感を歌で出せないかなって思って書きました。

―そして、森高千里さんの“私がオバさんになっても”のカバーも収録されていますね。この曲を選んだ理由は?

橋詰:まず、カバーをやるというのは僕らの武器やと思ってるんです。僕らの一番の魅力は声やと思っているので、それを活かすためにカバーをやり続けていて。で、森高さんの曲を選んだのは、まずすごく興味があったんです。可愛いし、足も綺麗やし、曲もいい。歌詞も自分で書く。アイドルというよりクリエイターだと思っていて。

―この曲を男女のハーモニーでやるのは新しい感覚だなって思ったんですけれども。

橋詰:でも最初のイメージとしては、わんぱくで元気なボーカルがいて、それがあの歌詞を歌ったら面白いやろうな、というところだったんです。ハーモニーは後付けですね。俺の居場所を探したという(笑)。

―歌ってみてどうでした?

木村:あの歌詞って、女子だったら「わかる!」って人は多いと思うんです。でも気持ちを込めて歌うのも粋じゃないと思ったんで。可愛らしく歌えたらいいなっていう。

―今までの振り幅も含めて、どんな曲でもカバーできますよね。

木村:そうですね。アリスの“チャンピオン”とかもやりたいです。あの「♪ライラ ライラ ライラ」ってところでコール&レスポンスしたい(笑)。

―ライブでもコール&レスポンス多いですもんね。

木村:昔は「コール&レスポンスなんて!」って思ってんですけど、最近はお客さんがちょっと頑張らないとできないようなコール&レスポンスをするのが楽しくて。

橋詰:めちゃめちゃ早口で詰め込んだのをいきなり「はい!」って渡すような、ね(笑)。そんなん急に言われても誰もできない、という。

木村:サディスティックですよね。でも、あのコール&レスポンスをいずれ全員が完璧に呼吸揃えてやれたら感動するんじゃないかって思ってるんです(笑)。

イベント情報
蜜プレゼンツ
『voice dinner』

2012年7月14日(土)
会場:東京都 渋谷7th FLOOR

リリース情報

『初恋かぷせる』

2012年6月6日発売
価格:1,000円(税込)
TOCT-45048

1. 初恋かぷせる
2.HE
3.私がオバさんになっても

プロフィール

唯一無二の声をもつ木村ウニ♀と橋詰遼♂、二人の出会いが生んだ、奇跡の唄合戦ユニット『蜜』。過ぎ去った甘くほろ苦い恋を、笑いあり涙ありで、ジェットコースターの如く感情を揺さぶる。ロック、ポップ、カフェミュージック、昭和アングラ歌謡…と、あらゆるジャンルにアクセスしながら生み出される、超個性的な2人の歌唱と不思議に溶けるハーモニーは、新たなジャンル『蜜』を織りなす。



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