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『F/T』ディレクター相馬千秋が問い続けるアートの可能性

『F/T』ディレクター相馬千秋が問い続けるアートの可能性

インタビュー・テキスト
藤原ちから
撮影:越間有紀子
2012/10/12

「震災以降、今まで受容できていたものが全く機能しなくなるという変化に、嘘をついちゃいけないとも感じました」

―『F/T12』は「ことばの彼方へ」をテーマとして掲げています。

相馬:去年の「なにもない空間からの朗読会」という企画を経て、「ことば」ってシンプルだけどこんなにも強いものなのかとあらためて感じました。被災地では震災直後、電気がない、食糧がない、インフラも機能しないという状況の中で、ラジオから流れてくる詩の朗読が人々の心を支えたという話をよく耳にしましたが、私自身もそういう感覚は東京にいながらも共感する部分が多くて、そこから「ことば」を軸に考えられないかなと思ったんですね。また、あの頃はどんな舞台を観ても、目の前の現実の方があまりに強烈すぎて、舞台上で起っていることが全部フェイクに見えてしまった。今まで受容できていたものが全く機能しなくなるという自分自身の変化に、嘘をついちゃいけないとも感じました。そんな時、シンプルな言葉そのものの強さに、私自身が支えられた気がします。

なにもない空間からの朗読会『CHITENの近現代語』地点(『F/T11』) ©須藤崇規
なにもない空間からの朗読会『CHITENの近現代語』地点(『F/T11』) ©須藤崇規

―今回はノーベル賞作家のエルフリーデ・イェリネクが特集されています。戯曲集『光のない。』も白水社から翻訳刊行され、複数の演出家たちが挑戦することになっていますね。

相馬:イェリネクの戯曲との出会いも非常に大きなものでした。今回、地点の三浦基さんとPort Bの高山明さんに取り組んでいただく『光のない。』と『光のないII』は、震災を受けて書き下ろされた戯曲です。オーストリア人のイェリネクは、自分が日本から離れたところからメディアを通して現実を見ていることにとても自覚的で、福島からの距離感が作品の構造や文体にも反映されていると思います。あのテクストにおける他者性や異物感を、ぜひ演出とあわせて体感してほしいです。

エルフリーデ・イェリネク『光のない。』表紙(白水社)
エルフリーデ・イェリネク『光のない。』表紙(白水社)

「無言の同調圧力がある今の日本社会で、意見の異なる彼らが発言し合う場が成立すること自体が重要」

―記者会見後のシンポジウムでは、地点の三浦基さんが「自分は被災地には行かないだろう。イェリネクの言葉の強度に賭けたい」と問題提起されていましたね。

相馬:地点の三浦基さんのように絶対に被災地に行かないというスタンスの人や、ポツドールの三浦大輔さんのように震災への言及そのものと距離をとる人もいる。一方で、Port Bの高山明さんや、マレビトの会の松田正隆さん、そして村川拓也さんは、実際に被災地を訪れた体験から作品を深めている。無言の同調圧力がある今の日本社会で、意見の異なる彼らが発言し合う場が成立すること自体が、私はとても重要だと思います。このことは、震災に対する距離感や当事者性の度合いの異なる人たちに関しても同じです。表現における当事者性の問題は、これまでも、例えば松田正隆さんの広島や長崎を巡る作品群などで深く掘り下げられてきた訳ですが、特に震災後、よりビビッドな問題として我々に迫ってきているのだと感じます。

マレビトの会『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』 ©山城大督
マレビトの会『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』 ©山城大督

―果たして誰が「当事者」なのかと。

相馬:あの時期、東京にいた人は、誰しもが地震でダメージを受けた訳ですから、皆が当事者と言える。でも東京にいたら、ここは福島じゃないから自分は当事者でないと思ってしまう。福島の人も、自分は避難区域ではないからと。でも避難区域の人も、自分は死なないで逃げて来ることができたんだからと……。では当事者とは死者だけなのか? 当事者ではない人間が何を語りうるのか? それは芸術表現の永遠の課題だと思います。今回の『F/T』では、こうした芸術表現における当事者性について、作品や言論の場を通じて徹底して考えていきたいと思っています。

『Referendum - 国民投票プロジェクト』PortB(『F/T11』) ©蓮沼昌宏
『Referendum - 国民投票プロジェクト』PortB(『F/T11』) ©蓮沼昌宏

「芸術というのはどこにも属さないもので、引き裂かれながら、現実に対峙していくものだと思うんです」

―海外勢の作品はどうですか?

相馬:例えばイェリネクの戯曲『レヒニッツ(皆殺しの天使)』はホロコーストを描いています。「アウシュビッツ以後、詩を書くことは野蛮である」というアドルノの有名な言葉がありますけど、あれだけの悲惨な虐殺を舞台でどうやって再現・表象できるのかという普遍的な問いに対して、演出家のヨッシ・ヴィーラーはひとつの可能性を示すことになるでしょう。それは私たちが、震災に関して、完全な当事者でもなく、完全な部外者でもなく、宙吊りの状態で震災後の現実を捉えていく上での参考になるのではないかと。立場がハッキリするのはすごくラクだけど、それはたぶん芸術がすることじゃなくて、むしろ政治がすること。芸術というのはどこにも属さないもので、白でも黒でもないグレーゾーンで揺さぶられ、引き裂かれながら、現実に対峙していくものだと思うんです。

『レヒニッツ(皆殺しの天使)』ヨッシ・ヴィーラー(『F/T12』)© Arno Declair
『レヒニッツ(皆殺しの天使)』ヨッシ・ヴィーラー(『F/T12』)© Arno Declair

―それは先ほどの「簡単には分からない」ということにも繋がってきますね。

相馬:ええ。今回『女司祭―危機三部作・第三部』で参加するハンガリーのアールパード・シリングは、国境地帯にあるトランシルバニア地方に赴き『危機三部作』という映画・オペラ・演劇の三部作品を作りました。その手法は、その地域の現実をジャーナリスティックに伝えるのではなく、そこにいる子供たちとの長期のワークショップを経て、フィクションと現実を横断しながらあぶり出していくやり方。ジャン・ミシェル・ブリュイエール / LFKsの『たった一人の中庭』や、アミール・レザ・コヘスタニの『1月8日、君はどこにいたのか?』にしても、複雑なものを単純化せずに伝えるための演劇を模索していると思います。

『女司祭―危機三部作・第三部』アールパード・シリング(『F/T12』)©Krétakör - Máté Tóth Ridovics
『女司祭―危機三部作・第三部』アールパード・シリング(『F/T12』)©Krétakör - Máté Tóth Ridovics

―ジャーナリズムをどのように捉えるかも『F/T』の軸にあるものだと思いますが、今回はフリーペーパー『TOKYO/SCENE』が創刊されたり、批評家たちがそれぞれに企画する「『F/T』ダイアローグ」など、作品以外のところでもいろんな試みが試されようとしていますね。

相馬:究極的には、お客さん自身が新しいアートジャーナリズムの担い手になってくれる日が来ればいいと思っています。今年のダイアローグはその通過地点として、まずはプロの批評家やジャーナリストたちに少し外縁から関わってもらうことを試みていますけども、だんだん、こちらが場をプロデュースしなくても自然発生的に議論が生まれるようにしていきたい。もちろん、他人に対する敬意やルールを守るのは大前提ですけどね。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー12(F/T12)』

2012年10月27日(土)〜11月25日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
東京都 目黒 The 8th Gallery(CLASKA 8F)
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール

相馬千秋

1975年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、フランスのリヨン第二大学院にてアートマネジメントおよび文化政策を専攻。2002年よりアートネットワーク・ジャパン(ANJ)勤務。『東京国際芸術祭』「中東シリーズ04-07」を企画・制作。06年には横浜に急な坂スタジオを設立、10年までディレクターを努める。『東京国際芸術祭2008』ディレクターを経て、『フェスティバル/トーキョー』のプログラム・ディレクターに就任。

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